ビジネスパーソンインタビュー
中野信子著『キレる!』より
“キレ”なければ搾取される。脳科学者・中野信子が語る「キレることの重要性」
新R25編集部
東日本国際大学教授として研究をおこなうかたわら、書籍・テレビ等で情報を発信しつづけている脳科学者・中野信子さん。
そんな中野さんが今注目しているのは「キレるスキル」。
怒りの感情を出すことに抵抗があり、身勝手な人に振り回されたり、ストレスを抱え込んでしまったりする人が多いですが、自分を守るためには、上手にキレることもまた必要だそう。
相手と良好な関係を保ちながら、自分を大事にできる「上手いキレ方」とは、一体どんなものなのでしょうか?
中野さんの著書『キレる!』より、その方法を2記事ご紹介します!
“キレ”なければ搾取される
そもそも、怒りをそれほど感じないからキレないという人もいれば、怒りはあるのだけれどキレることができないという人もいるでしょう。
いずれにせよ、現代社会の中でキレない人はどうなるのでしょうか。
いいように利用されて、詐欺まがいのことをされても怒らない、あるいは怒ってもキレずに我慢している人はどうなるでしょうか。
心の広い素晴らしい人?
いいえ、この人たちは単に“いいカモ”でしかありません。
お金や時間をひたすら搾取されてしまうでしょう。
周囲の人も心配して、その人の代わりに怒ってくれるかもしれませんが、当人が怒って立ち向かっていかなければ、代理人の怒りでは、相手を変えることには限界があります。
ましてや、相手が怖い人や手強い相手、あるいはとても手間がかかりそうな相手だったら、自分の代わりになって、誰かが本気で解決してくれることを期待するのは難しいことです。
自分のこと、人生を真剣に考えられる人は自分だけです。
自分が不利益を被っているとき、搾取されているとき、相手が圧力を加えてきたとき、それに対して怒りを感じるのであれば、どんなにキレることが嫌でも、また、慣れていなくても、自分の怒りをキレるという形で、はっきりと相手に示す必要があります。
相手に悪意を持って不利益を与える人は、反撃してこない人を探し、その人を狙って攻撃し続けるからです。
キレるのに慣れている人というと、やっかいな人と感じるかもしれませんが、キレなければならないときに、慣れている人と慣れていない人では、慣れている人のほうが圧倒的に強いのです。
生きていれば、いろいろな場面で、私たちは自分の持っているリソースを搾取されてしまうことがあります。
日本は比較的そういう場面が少ない国だとは思いますが、やはり搾取されることがあります。
例えば、新幹線のグリーン車の席を「譲ってくれ」と言う人がいるというのです。
「混んでいるからいいでしょ。疲れているんだから譲りなさいよ」と平然と言ってくるのだそうです。
厚顔無恥も甚だしい、思いも寄らないことですが、相手がちょっと強面の人だったり、そうでなくても、それこそキレて声高にまくし立てているような人だったりすると、気の弱い人などは、譲ってしまうこともあるかもしれません。
もちろん身体の具合が悪かったり、お年寄りだったり、こちらで譲ってもよいと思えれば構いませんが、そうではなく、なんとなく言い返せないから席を譲ってしまうのは、それは搾取されているのです。
そのときに「ここは私が買った席です。私は正当な価格を払って購入した席ですから、ここに座る正当な権利を持っています。あなたがそういうことをするのは窃盗もしくは恐喝ですよ」と言えるかどうか、です。
正当な怒りを持ち、そこで自分を守れるかどうかは、とても重要なことです。
「自分に対して不当なことを言ってくるのはおかしい」と、キレる気持ちを持てるかどうか。
“よいキレ方”と“悪いキレ方”があるとすれば、“よいキレ方”は正当な怒り、相手に強くこちらの気持ちや意思を伝えるためのものであり、“悪いキレ方”は、自分本位の身勝手な怒りを相手にぶつけ散らすことです。
“よいキレる”は自分を大事にするということの第一歩なので、その練習をまずしなくてはなりません。搾取されるのは、お金だけではありません。
前述した新幹線の座席を取ろうとするのも搾取ですし、立場であったり、時間であったり、やる気だったり、さまざまです。
“よいキレる”、つまり正当な自分の怒りを表現できないために、大事なものを失ってしまうこともあるのです。
マインドコントロールされる危険性もある
言い返さないでいると、それが洗脳やマインドコントロールの入り口になってしまうこともあります。
DVの人間関係もまさにそれです。
支配的に振る舞う人は、相手が「あなたの言う通りです」と言ってしまう人なのかどうかを見ています。
洗脳しようとする人は、「あなたの言う通りです」と言う人に初めのうちは優しくするのが特徴です。
そうやって信じさせるようにして徐々に取り込んでいくのです。
その後しばらくして、ちょっと抵抗したり、自分の主張をしたりすると、豹変してその主張をつぶそうとします。
アメとムチを繰り返して、徐々に支配関係をつくっていきます。
洗脳されて、服従の脳になってしまうと、考えないことが楽になってしまうのです。
人の思考を奪うことで従属させて搾取するわけです。
DVのような個人レベルだけではなく、社会や組織と個人の関係においても、悲しいことですが、人間はヒエラルキーを重視する社会性を持った生物ですから、強いもの、大きいものに従うことを心地よく感じてしまう仕組みを持っているのです。
“長いものには巻かれろ”ではありませんが、そうすることで、自分の裁量権を失っていきます。
自分が属した社会や組織から叩かれることはなくなります。
そしてDVの人間関係のように、社会や組織に存在している問題を考えないことが楽になってしまうのです。
なんでも社会や組織の“常識”、“慣習”、“あるがまま”に従っていれば、脳を使わず、考えなくて済むからです。
そうした社会や組織に身も脳も従属した人は、その中で異質な人に対しては和を乱すものとして攻撃を始めます。
ですからそこから逃れるのはとても困難になるのです。
だからこそ洗脳されそうになったら、最初のうちにキレることで、周囲に容易ならざる相手であることを知らしめる必要があります。
対人関係においては、最初から「洗脳もマインドコントロールも利かない」「理不尽なことには黙っていない」というところを見せなくてはなりません。
社会や組織においても、闘うときには闘い、言うべきときには言う人であることを見せる必要があります。
成功している人は、賢く“キレる”
テレビ番組を見ていると、いま売れっ子と言われているタレントさんの中には、“怒って”“キレて”みんなを盛り上げていることが意外に多いことに気がつきます。
例えばマツコ・デラックスさんや有吉弘行さん、坂上忍さんなど、冠番組を持っている方はみなさん、温厚なキャラクターというよりは、辛口で鋭くツッコミを入れ、ときには怒りをあらわにして大声を出すなど、いわゆる“キレ”キャラです。
昔からテレビの世界では、キレることで人気を集める芸人さんや、テレビ討論会などで、ここぞというときに怒ってみせる作家や評論家、コメンテーターの方はたくさんいらっしゃいました。
もちろん、ただ単にキレているのではありません。
状況を素早く判断し、絶妙なタイミングで、上手に言葉を選び、賢くキレています。
だからキツイ言葉を発しているように見えても、決して相手を傷つけたり、打ちのめしたりするようなことがないのです。
感情の赴くままにキレているように見せながらキレることで、その場の緊張感を高め、場を盛り上げているのです。
そして、みんなが言いたくても言えないことをズバッと言ってくれるため、共感を集めます。
さらにキレることにより、“怒るほど本当なんだ”という勢いで周囲を巻き込み、同調を得ることもできます。
キレることで周りを萎縮させるどころか、一つにして調和し和ませることになります。
キレて言うセリフもポイントを外さないので、相手には嫌われません。
むしろ「よく言ってくれた」と言われるような、好感を持たれる切り返し方なのです。
私も番組で有吉さんから突っ込まれると、怒るどころか、「私のことをちゃんと見てくれているんだ」と思ってついうれしくなりますし、同時に「どうすれば、そのような切り返し方ができるのだろう」と感心してしまいます。
“予定調和”になりがちなテレビ番組で“キレる”ことは、なくてはならないものです。
芸能界だけではありません。
前述した“テレビ文化人”にとどまらず、政治やビジネスの世界でも、自分のポジションを築き、成功している人は、怒らない人、キレない人ではなく、怒るべきときにきちんとキレることができる人です。
怒るべきときに怒らず、つまりキレないで、その怒りをため込むのではなく、上手にキレることで、多くの人の心をつかみ、自分の立場を手に入れています。
キレることは、激しい感情の発露ですから、それだけ人の心も揺さぶることになるわけです。
つまり、キレるという行為は、上手に使うことで、人間関係において自分の居場所をつくり、成功するためには欠かせないコミュニケーションのスキルであると言えます。
「キレるテクニック」を学んで怒りの感情を上手く“利用”しよう
「キレることは、人間の脳に組み込まれた“必要なメカニズム”だ」というのが、中野さんの見解。
『キレる』には、怒りの感情を抑えるのではなく“利用する”ことで、コミュニケーションを円滑にする方法が書かれています。
「損するキレ方、得するキレ方」「キレる自分との付き合い方」など「キレるテクニック」を学んでみましょう!
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