ビジネスパーソンインタビュー

舐められたと感じたら、感情的な措置をとる。私が貫いてきたビジネスというゲームの戦い方

藤田晋著『仕事が麻雀で麻雀が仕事』より

舐められたと感じたら、感情的な措置をとる。私が貫いてきたビジネスというゲームの戦い方

新R25編集部

2019/07/28

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ここぞというところで、大胆な勝負に打って出られる「勝負強さ」。

ビジネスマンならぜひとも身につけたいスキルですが、そもそも「勝負強さ」を磨くことは可能なのでしょうか?

その質問に対し、最高の教材になるのは「麻雀」だと断言するのは、サイバーエージェントの藤田晋社長

藤田社長は、2014年にはプロも参加する「麻雀最強戦」で優勝するほどの雀士としても知られています。

2015年に『近代麻雀』で開始した連載コラム『仕事が麻雀で麻雀が仕事』では、麻雀で培った自身のビジネス観を伝えています。

今回はそのなかから、「勝負」「ビジネス」「成長」「人生」というテーマで抜粋した4記事を特別公開。麻雀に興味がない方もぜひご一読ください。

3つの視点

2016年のRTDリーグが終わった後のインタビューで、優勝した多井隆晴プロが私の麻雀を評して「局面を俯瞰で捉えることが出来る数少ないプレイヤー」と褒めてくれていました。

自分の視点」「相手の視点」「俯瞰した視点」この3つの視点を持っているのが麻雀が強い人だそうです。

麻雀を褒められたのはとても嬉しいですが、この3つの視点はそっくりそのまま仕事が出来る人に当てはまります。

そして、仕事が出来る人の中でも、3つ目の「俯瞰した視点」を持っている人は実はとても少ないです

例えば、あなたが何かの仕事で挑戦し、努力して結果を出し、周囲から評価され始めたところ、全然関係ない同僚が嫉妬して、あなたの過去の言動や行動などを取り上げ悪口を言いふらし始めたとします。

まず「自分の視点」に立ってみれば、頑張って結果を出したのに、どうして全く関係のないやつから足を引っ張られるんだと腹が立ちます。

次に「相手の視点」に立ってみると、結果が出たのはたまたま運が良かっただけ。昔はあんなこと言ってたのに調子に乗りやがってとなります。本人は自分が嫉妬している自覚すらないでしょう。

最後に「俯瞰した視点」で捉えてみると、せっかく仕事が乗ってきたのに足を引っ張る人を相手にするのは時間の無駄です。

いくら自分が正しくとも無視した方が得策でしょう。それどころか悪口が広まって痛手を負うくらいなら、こちらから嫉妬してる相手に多少の代償を払ってやっても良いくらいです。

これは文章で書くと簡単なことのようですが、実践するのはそう簡単ではありません。自分に正義があると考えるからです。

麻雀においても、「自分の視点」で早いテンパイの3面待ちだから先制リーチ、「相手の視点」でここでリーチがきたら怖いだろうとしても、「俯瞰した視点」で絶対に放銃してはいけない局面ならば、いざという時にオリれる構えにしておかなければなりません。

思わぬところから押し返されて、結果として放銃したらあなたのミスです。これを聞いて(?)と思った人は、仕事で自分は正しいことをしているのに嫉妬されて怒ってるのと同じことです。

俯瞰した視点は、大局を見据えた押し引きの大きな判断軸となります。難しい局面も視点をあげてみれば実は簡単な話なのです。

自己管理と自己否定

現役最強との呼び声も高い多井隆晴プロが麻雀が強くなるコツについて聞かれたところ、「自己管理と自己否定」と答えていました。

この発言の意図について本人から詳しく聞いた訳ではないですが、「管理」と「否定」という単語からは、楽しいゲームとは裏腹の、なんとも禁欲的な雰囲気が漂ってきます。

私もよく仕事のインタビューで「淘汰の激しい業界で藤田さんが活躍し続けている理由は?」といった趣旨の質問を受けますが、真っ先に頭に浮かんでくるのは「調子に乗らないこと」です。

仕事も麻雀同様、運にも環境にも左右されます。

たまたま運が良くてうまくいったのにそれを自分の能力と勘違いしたり、ブームに乗っただけなのに自分の実力と勘違いしてしまった会社の経営者は、遅かれ早かれみんな消えていってしまいます。

私は若い頃から幽体離脱したように客観的に自分を見るところがあって、みんながチヤホヤしてくれても「そこまでの実力はまだない」と考えたり、世の中から叩かれている時も「みんなが思っているより悪くない」と第三者的に自分の姿を捉えることができました。

また、変化の激しいネット業界でサイバーエージェントが生き残れたのは変化に合わせてビジネスモデルや制度を常に変えてきたからです。

それには過去の成功を否定することが必要でした。多井さんのいうところの「自己管理」と「自己否定」と同じですね。

麻雀はとてもメンタルバランスを崩しやすいゲームです。大勝ちした時に「コツをつかんだ!」と思ったらそれはバランスを崩し始めた合図だと思って良いかも知れません。

門前リーチを多用して連勝すれば、鳴き仕掛けができなくなります。鳴き仕掛けが成功して凌げば、苦しい時は鳴き仕掛けが頭をよぎるようになります。大事な場面で守備的にいって勝てば、次の大事なところでは勝負できなくなります。

バランスを崩すのは人間なので仕方ありません。

仕事も麻雀も、バランスを崩しては回復し、バランスを崩しては回復しを繰り返して前進するものだと思います。その繰り返しこそが仕事ができるようになる、麻雀が強くなるということではないでしょうか。

それにしても麻雀は自己管理に自己否定、それに辛抱、我慢、忍耐と辛いことばかりです。余暇を楽しむというよりも、修行の場だと思った方が良いかも知れませんね。

キレたらそこでゲームオーバー

会社を創業して私がまだ20代の頃、インターネットバブルが崩壊し、株価が大暴落して株主は怒り、業績も悪化、マスコミからは叩かれ、社員からは信頼を失っていた時期がありました。

大きな志を持って頑張っているのに、なぜ自分ばかりこんな目に遭うんだと、今にも心が折れそうになっていました。

同じ頃に、私と史上最年少上場記録を競い合ったライバルの社長が、大株主に対して我慢しきれず、「もう出入り禁止だ」と反旗を翻したところ、逆にそれを理由に会社を追い出されるという出来事がありました。

その大株主は、最初から会社を乗っ取る口実を探していたのです。

厳しい局面で揺さぶりをかけられた若い社長がキレて、相手に大義名分を与えてしまったというのが実情でした。

私はそれを知った時、何があろうと「キレたらそこでゲームオーバー」なんだと気づかされました。そしてその言葉を今に至るまで、ずっと胸に刻んでいます。

まだ若い経営者だった自分が、仕事もまた我慢比べのようなものだと考えられたのは、学生の頃に通っていた雀鬼会で「麻雀は、洗面器に顔を突っ込んで最後まで顔をあげなかった者が勝つ」と教えてもらったからかも知れません。

自分は何も悪いことをしていなくても、ツモられまくって点棒を失ったり、何度も連続でリーチ負けしたり、早いテンパイで多面待ちなのにアガれなかったり、麻雀というゲームは不条理な要素が満ちています。

理不尽に劣勢に追い込まれた時、そこで「開き直ってやるしかない」と言うと言葉は良いですが、実際は早く楽になりたいという欲望に負けてしまっているのです

また、キレるにしても、熱くなって暴牌のように勝負に行く人と、怖くなって極端に降りを選択する人と両方いますが、どちらにしても我を失っています。我を失った人は、相手から見れば格好の餌食です。結局はキレたらそこでゲームオーバーなのです。

仕事においても、上司に取引先に同僚に、途中でキレそうなことならいくらでもあると思います。

しかし、最後にゲームを制している人はいつも、忍耐強く、我慢強く、最後までゲームを投げ出さなかった人だけです。

麻雀を通じて精神力を鍛え、より強靭な「忍耐力」を身につけましょう。それは人生における大きな武器になると思います。

舐められてはいけない

麻雀において礼儀正しさやマナーはとても大事です。

ただ腰が低くお行儀が良い人ほど意識しなければならないのは「舐められてはいけない」ということです。麻雀は相手におとなしいと思われるとそれだけで不利なゲームです。

言うまでもなくビジネスも舐められると大変不利ですが、人が良い会社は舐められやすいものです。

サイバーエージェントも業界他社と折り合いをつけ、社員を大事にし、社長の私も温厚な性格なので、おとなしい会社に映るかも知れません。

しかし、私は昔から「舐められてはいけない」を強く意識してきました。

ライバル企業からの人材の引き抜き、風評被害を撒き散らす人、平気で不義理な辞め方をする社員…それらにいちいち目くじらを立てる訳ではありません。

ただ会社が舐められてるなと感じた時、早い段階で怒り、出入り禁止や取引停止などの感情的な措置を取ります。それもできるだけ社内外に伝わるよう表立ってやります。

普段温厚な会社である分、効果はてきめんで、そのあとは勝手に噂が広がり、恐れてくれるのです。

麻雀の対局中、序盤の安手愚形の先制リーチや苦しい仕掛けなどは相手に弱いと思われます。もちろん舐めさせておいて、向かってきたところに本物手をぶつけるという戦術もあるのですが、それは応用編でしょう。

舐められると、反撃されたり無視されたりするので基本的には不利です。序盤に先制リーチを打つなら相手に一目置かせたいところです。リーチに歯向かってくる人がいたら、それがどういうことなのかを教え込むために、好形、高打点をぶつけたいものです。

また、序盤の鳴き仕掛けに対し押してくる相手には、流局してもいいから大物手に仕上げてヒヤリとさせたいところです。私なんかは、苦しい手の内を見せるくらいなら聴牌でも伏せた方がいいとすら考えます。

一旦相手にこの人は怖いなと思わせたら、その後のゲーム運びはずいぶん楽になります。相手が勝手に畏れて敬意を払ってくれるからです。自分に対して幻想を抱き、焦って自滅してくれたりすれば、それだけで麻雀は有利なのです。

会社も全く同じですね。みんなが一目置く会社になれば、周囲が勝手に忖度してくれます。最初にガツンと示しをつけておけば、あとはいつも通り礼儀正しく、マナー良くしていれば良いのです

麻雀には、ビジネスの世界で活かせる気づきがある

麻雀はビジネスに似ている」と言いますが、実際、不平等な配牌から早く大きくアガりを目指す麻雀は、「ビジネスの世界の縮図」のようだという藤田社長。

仕事が麻雀で麻雀が仕事』には、全82回のコラムが一冊に収められています。

藤田社長が麻雀から学んだビジネスの本質。

麻雀を知らない方もぜひ、手に取って見てください!

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