ビジネスパーソンインタビュー

“やりたいこと”を考えすぎるな。4年で新喜劇座長になった小籔千豊の「伸びる若手論」

最初は「ありがとう」しかセリフがなかった

“やりたいこと”を考えすぎるな。4年で新喜劇座長になった小籔千豊の「伸びる若手論」

新R25編集部

2019/07/30

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20代。今より少しでも“デキる若手”になりたいと願いつつ、なかなか自分の成長を実感できずにモヤモヤしている若手ビジネスパーソンも少なくないはず。

そこで今回は、吉本新喜劇入団から4年という異例の早さで最年少座長に昇格した小籔千豊さんに、「デキる若手の特徴」を聞いてきました。

くすぶっていた若手時代の葛藤、若手を育成する立場になった今の考えなどを伺ううちに、話は「好きなことで生きていく」に異を唱える展開にまで広がり…?

〈聞き手=サノトモキ〉

【小籔千豊(こやぶ・かずとよ)】 1973年、大阪府生まれ。吉本新喜劇座長。吉本新喜劇入団後、レイザーラモンと3人でお笑いユニット「ビッグポルノ」結成。2008年よりお笑いと音楽を融合させた野外フェス「コヤブソニック」を開催。吉本新喜劇の広告塔として東京でタレントとしても活動。2015年から女性ファッション誌史上初めて、芸人として3誌同時の専属モデルを約3年半にわたり務めた

サノ

今日は小籔さんに「伸びる若手の条件」をお聞きしたいのですが…

小籔さん

最初に断っておきますけど、僕に「ノウハウ」みたいなお話はなーんもないですからね

「そんなものは、ない!(ドンッ)」

小籔さん

僕、キングコングの西野くんみたいに「こうすればうまくいく」って頭で考えて進んでいくのは下手くそなんですよ。

だから、僕に話せるのって全部「気づいたらこうなってました」って話なんですけど、大丈夫ですか?

サノ

それはそれで面白そう…!

大丈夫です! いろいろと聞かせてください!

伸びるのは、“切羽詰まってるやつ”。「セリフはありがとうだけでした」

サノ

ノウハウはないとのことですが、「入ってわずか4年で最年少座長の座を射止められた」のには何かしら理由があるはず…

ご自身ではどうして異例のスピード出世ができたと思いますか?

小籔さん

しいて言えば、ほかの子らとは“切羽詰まり方”が違ったんだと思います。

小籔さん

新喜劇に入る前、僕は漫才師として大阪でそれなりの位置にいて、お金もそこそこもらえるようになっていたんですよ。

で、いよいよ当時付き合ってた彼女と結婚しようと考えていたタイミングで、コンビを組んでいた相方から「解散したい」と告げられまして。

サノ

そ、それはつらすぎる…

小籔さん

僕は「お笑いの世界で成功すること」と同じくらい「幸せな家庭をもつこと」が夢だったので、そのときはもうお笑いを辞めて普通の仕事に就こうとすら思ってました。

でも、芸人仲間に「もったいない」と引き留めてもらって、「60歳越えたベテランでも現役で活躍してる“吉本新喜劇”なら安定できるんじゃないか?」と考えなおして、結婚と同時に飛び込んだんです

サノ

そんな経緯が…

実際、新喜劇に入って生活は安定したんですか?

「いや、それがですね…」

小籔さん

逆に、経済的にも気持ち的にも最下層の時期に突入しました。新人時代は月収2万円くらいだったので。

サノ

ええー!!

結婚直後にその状況、めちゃくちゃ焦りますよね…

小籔さん

何より辛かったのは、台本に書いてあるセリフしか言うたらあかんかったこと。「この生活から抜け出したい、1日でも早く上に行きたい」と思っても、その時期は1日2回「ありがとう」ってセリフを言うだけで出番は終わりだったんです。

あと何回“ありがとう”言うたらおもろいって思われんの?」と…入って2年半くらいはほんまに地獄でした。

「ありがとう地獄」が2年半…想像するだけで苦しい

小籔さん

だから、まわりの若手がみんな「新喜劇に入れた!」と満足してるなか、漫才でそこそこうまくいってたところから月収2万円になった僕だけが、「どうにかしなあかん」とむちゃくちゃ切羽詰まっている状況だったんです。

でもやっぱり、切羽詰まってるやつって伸びるんですよ。今の若手を見てても、そう思います。

努力するのって結局現状に危機感もってるやつなんで、自分を「切羽詰まる環境」に置くことは大事でしょうね。

「謙虚なフリして自己評価が高いやつ」は伸びない

小籔さん

結局、将来野球でいう「チームの四番になる」と感じさせるような子は、ほんまに誰もおらんとこでも謙虚になれるやつなんです。

サノ

誰もおらんとこでも?

小籔さん

人に対してじゃなく、自分の能力に対して本気で謙虚に向き合えてるかという話ですね。

自分の能力が全然足りないことを心の底からわかってるやつほど、めっちゃ切羽詰まるし、めっちゃ勉強するし、何個も何個もネタを作り直して努力する。

逆に…

もともと険しい表情がさらにめちゃくちゃ険しくなる小籔さん

小籔さん

いつまでもおもんないやつに限って、先輩の前で謙虚なフリをしてるだけで、じつは自己評価がめちゃくちゃ高いんです。

心では自分のことおもろいと思ってるから、ネタもひとつしか作らんし、練習もしない。

自分の能力に対して謙虚じゃないやつは、伸びません

サノ

でも、お笑いって才能やセンスがものをいう世界のような気もするんですけど、そういうところより謙虚さのほうが大事なんでしょうか…?

小籔さん

僕はそうやと思ってますよ。第一線で活躍するビッグネームの方々見てると、売れてない若手よりよっぽど謙虚だし、反省してますから。

…そんな仙人みたいな人、ほんとにいるのだろうか?

サノ

ビッグなのに謙虚な先輩、たとえば誰がいるんでしょう?

小籔さん

ダウンタウンの松本さん。あの人なんかは、あれだけの能力があったうえで、自分を疑うし、反省もするし、ちゃんと準備をしてます。

若手からしたら「もうええやん、これ以上何を頑張ることがあんの?」って感じなんですけど、ビッグネームの人ほど現在進行形で反省と努力をしてるんです。

それをずっとM-1の2回戦しか行けてないようなやつが自信満々で不満ばっか言ってて、追いつけるわけがない。「足りない」ということに気づけるかどうか、伸びる伸びないの差だと思いますね。

「仕事において、『やりたいこと』って何や?」“好きなことで生きていく”に振り回されるな

サノ

そういう姿勢も評価されて、わずか4年で座長になったと。

座長就任時に「伝統8割、革新2割でやっていく」と言ってたのが印象に残ってるんですが、これってどういう意味なんでしょうか?

小籔さん

マンネリはサボり。これは間違いありません。

会社とかでも同じだと思うんですけど、せっかく立場を任されたのに何も変化を起こさないなら、引き継いだ意味がない。新しい試みにチャレンジしていくことは、当然なくてはならないことです。

サノ

あっ僕が気になってたのはむしろ、「伝統8割」ってわりと保守的じゃないかなと思って…

その速さと若さで座長に就任したら、まったく新しいことにチャレンジしたいと思わなかったんですか?

自分なりのやりたいことというか…

小籔さん

…これ僕一番言いたいことなんですけど。

仕事において、「やりたいこと」って何や?って話なんですよ。

ビシッ

小籔さん

健全な野心があって、「やりたい笑い」を追い求めるのはいいですよ。

でも、「やりたいこと」ばっかに必死になって、自分が何を求められてるのかわからなくなるやつが多い

サノ

ぐっ…

たしかに、とくに新しい立場に就いたときとかって、何か斬新なことをしようとして空回りしがちかも…

小籔さん

新喜劇も、そりゃ「革新10」にして目新しいことをやったら、「小籔がなんかすごいことやってるぞ」ともてはやされるかもしれない。

でも、お客さんはあくまでも、先輩らが築きあげた「新喜劇」を慕って観にきてくれてるいうことを忘れたらあかんのです。

もし僕が始めた劇団なら好きにしますよ。でもそうじゃない。

サノ

あくまでも「求められてるもの」を下地にして提供する必要があると。その割合が「8割」なんですね。

小籔さん

さっき言うた「自分自身に謙虚じゃないやつ」が陥りがちなワナが、「やりたいこと」しか見えなくなってしまうこと。

だから僕、“夢持たなければいけないハラスメント”はやめたほうがいいと思うんです。「好きなことで生きていく」だけが幸せちゃうやろと。

サノ

たしかに最近、そういう空気感ありますよね。

小籔さん

好きなことで成功を収めた人がいるのはいいですよ。素晴らしいことです。

でも、皆のやりたいことがすべての仕事でキレイに用意されてるわけじゃないですよね?「やりたくないけどやったほうがいいこと」が仕事として求められることも、世の中にはたくさんあります。

そこで、目の前の仕事を、切羽詰まりながら謙虚にやれるか。「伸びる人間」っていう質問に答えがあるとするなら、こういうことちゃいますか。

サノ

かつて「ありがとう」しか言えなかった小籔さんが言うと、すごく説得力がある気がします。

小籔さん

若い方には、「色んな生き方あんねんぞ」と言いたいんですよ。

目の前の仕事をやる、やりたくないことでも誰かのために頑張る、それもかっこええと僕は思う。「追ってた夢を諦める」ことだって、ときにはとても大切なことやと思うんです。

コヤブソニックは「誰にも求められてないのにやりたいこと」

サノ

お話を聞いていると、吉本新喜劇も登場する音楽フェス「コヤブソニック」(通称:コヤソニ)は、伝統を重んじる小籔さんにしては相当斬新な取り組みですよね。

コヤソニはどんな経緯で始まったんですか?

小籔さん

コヤブソニックは、そんな僕が唯一「誰にも求められてないのに始めたこと」かもしれません(笑)。

新喜劇に入りたてで全然出番がなかったころ、自由なお笑いをできる場がないのに腹立って、レイザーラモンと3人で「ビッグポルノ」っていう“下ネタラップバンド”を結成したのが始まりでして。

「どうせなら新喜劇と真逆の、年寄りから子どもまで嫌がりそうなことをやろう」と“下ネタラップ”をチョイスしたそう

サノ

たった3人のユニットが、どうやって豪華アーティストが多数出演する「コヤソニ」につながっていくんでしょう?

小籔さん

最初はイベント開いても100人くらいしか来なかったんですけど、ありがたいことにだんだんお客さんも集まるようになってきたんで、「サマソニ出たい」って会社に言ってみたら却下されて。

なら隣で『コヤソニ』やったるわ」言うて清水の舞台から飛び降りる気持ちで、スチャダラパーさんとか、知り合いのミュージシャンの方々にメールしたんです。

そしたらみんな、「俺たちが出なきゃ始まらないっしょ」みたいな返事をくれて。

「ホンマありがたいことです…」

サノ

ミュージシャンたち、カッコよすぎる…

小籔さん

初めてのコヤソニでは3000人を前にやらせてもらったんですけど、もう感無量。口ではド下ネタ言うてんのに、目は涙でウルウルになってました

出演してくれたアーティストさんたちが「来年もやりーや」って言ってくれはって、気づいたらこんだけの規模になっていったんです。

サノ

じゃあ、規模を大きくしてもっと豪華にしようとか、戦略的にやってきたわけではないってことですか?

小籔さん

全然考えてません。出演してくださる人が増えていって、3日間になっただけ。

自分は結局、目の前の仕事や人とのつながりを大切にしてたら知らん間にここまで来てたタイプなんです。

若い方も、今はやりたくない仕事でも、切羽詰まりながら目の前の小さいこと一生懸命積み重ねてみたら、その先に何か楽しいこと、待ってると思いますよ。

目の前の小さな仕事を、切羽詰まりながら謙虚にやる」。

お話を聞いて「今の自分、切羽詰まってなくて大丈夫なの?」と自分に問いかけたくなりました。

「僕みたいな芸人がこういう真面目な話しよう思たらボケを入れて冗談っぽく言うしかないんで、じつはちょっともどかしさがあるんです(笑)」

取材後は、笑いながらそう仰っていましたが、ぜひ今後も新R25で真面目な話をしてほしいと思ってしまうくらい、素敵なお話でした。ありがとうございました!

〈取材・文=楳田佳香(@Tominokoji)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉

そんな小籔さんが愛情をいっぱい詰めこんだ「コヤブソニック」「吉本新喜劇ワールドツアー」も要チェック!

9.14(土)、9.15(日)、9.16(月・祝)にインテックス大阪にて3日開催予定の「コヤブソニック」は、今年もアーティスト・お笑い芸人ともに超豪華なメンバーが集結! 詳細は下記リンクをチェック!

また、今年60周年を迎える吉本新喜劇は、過去最大規模となる全国ツアーを敢行中! 全47都道府県をまわる大型イベントに、ぜひみなさんもご参加ください!

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