中村圭著『説明は速さで決まる』より

説明が苦手な人には共通点がある。相手に最速で理解させる「説明ルート」のつくり方

仕事
会議で質問されても、とっさに説明できずしどろもどろになってしまった…そんな経験はありませんか?

このような失敗は、説明力不足が原因。相手に一瞬で伝わる説明術を身につけることで克服できると、コピーライター・中村圭さんは話します。

コピーライターといえば、商品の魅力を短くわかりやすく伝える「説明の専門家」。

そのノウハウが詰まった中村さんの著書『説明は速さで決まる』より、説明力を底上げする3記事をお届けします。

「説明が苦手」の正体、お教えします

まず、説明が苦手な理由にメスを入れていきます。

というのも、「説明が苦手」という意識を克服する方法が、速い説明をつくるコツでもあるからです。

実は、かつて僕は説明がとても苦手でした。

新人のころは会議でしゃべり始めると自分でも訳のわからない話をダラダラと続けてしまい、「もういいよ」と途中で話を強制終了させられていました。

あー、こいつダメだ」という目で見られる時間が、本当に嫌で嫌でたまりませんでした。

そんな僕から見て、説明が苦手な人には共通点があります。

それは「説明が苦手な人は、自分の説明の中身を把握できていない」という点です。

このことを伝えると、多くの人は「そんなバカな」という反応をします。

「落ち着けば説明できるけど、緊張して説明できないだけです」と言うのです。

そう考えるのもわかります。

僕もずっと説明できないのは「緊張」のせいだと思っていました。

でも、じつはそうではないのです

一度メンタルの問題を脇に置いてよくよく考えてみると、説明の苦手な人は、説明に必要な内容を把握できてないことが多いのです。

たとえば、新人Aくんが、上司にあるプロジェクトの進捗状況を報告しなければいけないとします。

上司の前に立ち、「例のプロジェクトの件ですが」と話し始めます。

しかし、思うように説明が出てきません。

言葉に詰まり、脂汗はタラタラ、怪訝そうな上司の顔。

「あぁ、どうしよう」と内心で思っても、もう手遅れです。

「プロジェクトの報告」とひと言で言っても、
  • そのプロジェクトに関する社内の状況
  • そのプロジェクトに関して、いまほかの部署から頼まれてること
  • その上司に把握しておいてほしいこと
  • 社外に頼んでいることの進捗状況
  • 上司がいない打ち合わせで合意されたこと
などなど、たくさんの説明の要素から1つの説明は成り立っています。

けれど、Aくんは「プロジェクトの報告をする」という大きな説明はわかっていても、そのなかに無限にある説明の要素を把握できていないのです。

①〜⑤の説明をどの順番ですればいいのか、そもそも①〜⑤のなかで、どれを説明してどれを省くべきなのかが整理できていないのです。

つまり、たくさんある説明の要素から、どの説明をつないでいけば相手の理解までたどり着けるのかがわかっていません。

道を移動しているところを想像してみてください。

目的地がわかっていても、そこまでのルートがわかっていなかったら目的地にたどり着けませんよね?

Aくんの場合は道筋がわからないままで歩き始め、いま、どこの道を歩いているのかすらわからなくなり、立ち往生してしまっている。

つまり、説明が止まってしまうという状態に陥っているのです。

「箇条書き」だけすればいい

説明の中身を分解して把握するために役立つのが、コピーライターの技術です。

僕が初めてこの法則に気づいたのも、「コピーライターとしてやっていることを説明の技術に使えばいいのでは?」と、ふと思ったことからでした。

それは、頭のなかのものを全部出して可視化するという習慣です。

僕が日頃やっていることはシンプルです。

説明に必要な要素を箇条書きで書き出していく

ただそれだけです。

僕もどうすればうまく説明できるかよく悩んだ人間なので、いろいろな方法を試してきました。

説明の本もたくさん読みました。

本で紹介されている複雑な説明方法は、読んでいるときはフンフンとうなずけます。

ただ、複雑なフレームを使っても、続きません

説明に必要な5つの型を頭文字で言われても、残念ながら忘れてしまいます。

考えてみれば、僕はキャッチコピーのアイデア出しもいろいろな方法を試しましたが、結局箇条書きにするというシンプルな方法に落ち着きました。

複雑な方法は習慣として定着しないのです。

そこで説明にも使うことにしたのが、シンプルな箇条書きです。

ノートでも、スマホでも、PCでもかまいません。

むしろ、箇条書きをどこにするかは、こだわらないほうがいいと思います。

書き方も、とくに決まりはありません。

というのも、説明が求められる場面はさまざまだからです。

パソコンを開ける状況のときもあれば、走り書きのメモで対応しなければいけないときもあるでしょう。

型はなるだけシンプルなほうがいいわけです。

箇条書きは「説明の地図を描く作業」のようなものです。

説明の理解に至るまでにどんな要素が必要か、思いつくものを書き出してみる。

すると、説明のルートが見えてきます。

いわば、「最速説明マップ」です。

選び方のコツは「ターゲット思考」

箇条書きで説明の要素を出すだけ出したら、次にするのが「選ぶ」ことです。

箇条書きで書き出しただけでは、まだルートをすべて挙げただけにすぎません。

東京から横浜に行くときだって、電車を使うのか、自動車を使うのか、いろいろあります。

電車を使うならどの路線を使い、どこで乗り換えるのか、行き方は何通りもあります。

一度説明に必要そうな要素を箇条書きで書き出し、すべて可視化することで説明の地図ができます。

そこから、必要なものだけ選べば、相手に最速で理解される説明のルートができあがります。
では、書き出した要素のなかからどれを選べばいいのか。

その際の基準として役立つのが、「ターゲット思考」です。

どれだけ短くわかりやすい言葉や文章でも「自分には関係ない」と思われてしまった瞬間、それはシャットアウトされます。

一方、「自分に関係ある情報だ」と思われれば、ちょっと読みづらい部分があっても、進んで読んでもらうことができます。

説明は伝える相手がハッキリしていることが多いです。

どれだけ相手のことを考えながら説明を組み立てられるかが、最速で説明を受け取ってもらう鍵になってきます。

たとえば上司に新しいプロジェクトを提案するときを考えてみます。

やる意義を優先する上司であれば「社会的意義」から説明したほうがいいでしょう。

でも、数字を優先する上司であれば、「どれくらいの市場規模があるか」から説明するほうがいいはずです。

相手によって、説明に選ぶべき要素は違います。

この「出して」「選ぶ」という手順を踏めば、説明は相手にとって最速ルートになります。

手を明かせばシンプルなことですが、上司の立場に立てば、部下の報告が短い上に的確というのは、とてもありがたいことです。

いまの時代、上に立てば立つほど、いくつも案件を同時進行で進めなければなりませんから、「こいつの説明は、短いのにわかりやすい」と思わせることができるのは、評価が上がる秘訣なのです。

自己紹介は要素の組み合わせで決まる

もう少し具体的にするために、実際に箇条書きにする場面を考えてみましょう。

たとえば、「5分後に自己紹介してください」と言われたとします。

この場合、まず3分くらいで自己紹介の要素を書き出してみてください。

ここでは、新人のAくんを例にして、自己紹介を仮に書き出してみます。
  • メーカーで働いている・入社して3年目である
  • 営業のセクションにいる
  • 最近社内の新人賞を取った
  • 趣味はダーツ
  • 大学は理系だった
  • 出身は熊本
  • 好きな食べ物は馬刺し
などを自己紹介の要素にできると考え箇条書きにしたとしましょう。

これが会社の研修での自己紹介なら、出した要素から同じ会社の人をターゲットに設定して、必要そうな説明を残りの時間で選べばいいでしょう。

たとえば、

「入社3年目で営業をしております、Aと申します。昨年、社内の新人賞をいただきました。じつは大学は理系なので、ロジカルな能力には自信があります。よろしくお願いします」

このような内容になります。

趣味のダーツや馬刺しが好きなことは、会社での自己紹介においては重要性が高くありません。

また、同じ会社で働いている人たちが相手ですから、当然ながら自分の勤務先を紹介する必要もありませんよね。

自己紹介で、不必要な要素をしゃべっていると相手に飽きられてしまいます。話の内容も散漫になります。

では、今度は飲み会で自己紹介をするケースを考えてみましょう。

今度はこんな風に組み合わせてみました。

「Aです。メーカーで営業をしています。熊本県出身で、そのせいもあってか馬刺しが大好きです。パソコンが得意なので、何かパソコンの設定などでわからないことがあったらいつでも頼ってください」

このように、会社のときとは、まったく違った自己紹介ができます。

仕事からプライベートまで、幅広く使える「説明スキル」を学ぼう

説明は速さで決まる 一瞬で理解される「伝え方」の技術

説明は速さで決まる 一瞬で理解される「伝え方」の技術

一瞬で伝える説明術を身につければ、上司や部下への質疑応答や、自己紹介に悩むことはなくなります。

会議はスムーズに進行できるようになり、企画のプレゼンでもチャンスをつかめるようになるでしょう。

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