ビジネスパーソンインタビュー

「前作への批判を潰せばヒットするわけじゃない」新海誠が語る“期待”との向き合い方

「今の世の中、誰かに期待を押し付けすぎていますよね」

「前作への批判を潰せばヒットするわけじゃない」新海誠が語る“期待”との向き合い方

新R25編集部

2019/08/25

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アニメーション監督・新海誠

2016年、『君の名は。』で世界中を虜にしたアニメーション映画界のトップランナーが、ついに新R25に登場です。

今回お聞きしたのは、新海誠の“期待への向き合い方”。

前作『君の名は。』で国内邦画興行収入ランキング2位という結果を叩き出した新海さん。7月19日に公開した新作『天気の子』の制作は、常人には想像もできないような“期待”との戦いだったはず

R25世代のビジネスパーソンも、何かと期待に応えなければならない場面も多いですが、期待って意識すればするほど、プレッシャーを感じてベストを尽くせなかったりしますよね

そこで、『天気の子』の制作過程で大きすぎる“期待”とどのように向き合い、乗り越えたのか聞いてみました。今回はせっかくなので『天気の子』の画像を使いながら記事をお届けさせていただきます!(贅沢!) ぜひお楽しみください!

〈聞き手=阿部裕華〉

【新海誠(しんかい・まこと)】1973年生まれ、長野県出身。2002年、個人で制作した短編作品『ほしのこえ』でデビュー。同作品は、新世紀東京国際アニメフェア21「公募部門優秀賞」をはじめ多数の賞を受賞。2004年公開の初の長編映画『雲のむこう、約束の場所』では、第59回毎日映画コンクール「アニメーション映画賞」を受賞。2007年公開の『秒速5センチメートル』で、アジアパシフィック映画祭「最優秀アニメ賞」、イタリアのフューチャーフィルム映画祭で「ランチア・プラチナグランプリ」を受賞。2011年に全国公開された『星を追う子ども』では、第八回中国国際動漫節「金猴賞」優秀賞受賞。2013年に公開された『言の葉の庭』では、ドイツのシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭にて長編アニメーション部門のグランプリを受賞した。2016年に公開された『君の名は。』は記録的な大ヒットとなり、『千と千尋の神隠し』(01年)に次ぐ歴代2位の興行収入を記録。第40回日本アカデミー賞ではアニメーション作品では初となる優秀監督賞、最優秀脚本賞を受賞。海外においても第49回シッチェス・カタロニア国際映画祭アニメーション部門最優秀長編作品賞、第42回ロサンゼルス映画批評家協会賞アニメ映画賞に輝くなど、国内外で数々の映画賞を受賞した

阿部

今日は「期待との向き合い方」というテーマでお話をお伺いさせてください!

新海監督

なるほど、わかりました。

なんでも聞いてください

出だしからめちゃくちゃ頼もしい新海監督

期待に応えるより大切なこと

阿部

『天気の子』を作るにあたって、やっぱり世間からの期待は感じていたのでしょうか?

新海監督

「勝てる映画」を期待されていることは、ヒシヒシと感じていました。

阿部

ということはやっぱり、相当なプレッシャーがあったんですか…?

新海監督

あっいや、プレッシャーは感じてなかったです

阿部

えっ、さすがにメンタル強すぎませんか…?

もともとそういう性格だったんでしょうか?

新海監督

20代のころ、会社員時代は期待に応えようとプレッシャーにつぶされそうな時期もありました。

※実は新海さん、
アニメーション監督になる前は会社員として働いていた異色の経歴の持ち主

新海監督

でも、次第に自分のやりたいことが見えてくる。

つまり、仕事をするうえでの「個」が確立してくると、それをどう実現するかというふうに変わりました

阿部

まわりの「期待」が気にならなくなってくるんですか…?

新海監督

「個」が確立してくると、まわりの期待に応えることより大切なことが、自分の内側に生まれるようになるんです。

たとえば今回『天気の子』を作るにあたっても、『君の名は。』でいただいた「災害をなかったことにする映画だ」というお叱りの声にどう向き合うか、悩んだんです。

みんなの期待に応えて、誰も傷つけない、ひとつの批判も受けない作品を作るべきなのかと

©2019「天気の子」制作委員会

新海監督

でも、批判をひとつひとつ潰していけばヒットする打率が上がるかというと、全然そんなことはないんです。

批判を受けないようにすればするほど、アイデアはどんどん平均化されてつまらなくなるので。

阿部

たしかに、毒にも薬にもならないものでは心って動かないですよね。

新海監督

僕はむしろ、人によってこれほどまでに価値観が強く対立してしまうようなテーマに取り組むことに価値があると思ったんです。

『君の名は。』でみなさんの心が動いた部分に焦点を当てて、そこをもっと揺さぶってみたかった。それが今回僕にとって、期待に応えるより大切な「個」の部分だったんだと思います。

©2019「天気の子」制作委員会

新海監督

だから20代のみなさんも、自分に向けられている期待が自分のありたい姿と違う方向を向いているなら、まわりの期待は無視して、別の世界に飛び出してしまえばいいと思います。

あんまりよくないメッセージかもしれないですけど、僕はそんな気持ちです(笑)。

期待は“見積もり”。「期待すること」の不毛さとは

新海監督

ちなみに僕は、仕事をするうえでは他者に「期待」しないようにしているんですよ。

阿部

どうしてですか?

©2019「天気の子」制作委員会

新海監督

「期待する」って、一方的な“見積もり”を押しつけて相手に寄り掛かっている危険な状態だと思うんですよね。「これくらい結果出してくれるんでしょ?」って。それは、相手に「頼る」ということとは違うことだと思うんです。

見積もり通りの結果が出てこないこともたくさんあるわけで、他者に期待を寄せすぎてしまうと、見積もり通りにいかなかったとき自分もろとも倒れてしまう。

だから、冷たいようだけど、まわりに期待をしすぎないようにしています。

阿部

おっしゃる通りだと思います。

新海監督

極端な話、僕は最悪自分だけになったときに何ができるんだろう?というところまで考えて映画を作っているんです。長い製作期間では、やめていく人もいますから。

「こうなったらいいな」という、自分に都合のいい「期待」は徹底的に省いて、できる限り「絶対にこうなる」と思えるまで考え尽くして映画を作りたい。『天気の子』もそれだけの準備をして臨んだつもりです。

©2019「天気の子」制作委員会

新海監督

ただ、『天気の子』のセリフに「世界なんて最初から狂ってるんだから」という言葉がありますが、世の中は残酷だし、どんなに準備したうえでも、思い通りにいかないこともたくさんありますけどね(笑)。

「正しいこと」しか叫べない世界で、「ほんとうのこと」を叫ばせたかった

©2019「天気の子」制作委員会

新海監督

今って、SNSによって人が心のうちに秘めていたことがテクノロジーによってテレパシーでつながったような、夢のような時代だと思うんです。

でも、同時にSNSは、「人が考えているむきだしの思いって、伝わらないほうがいいんだな」ということを気づかせてしまった。

阿部

どういうことでしょうか?

新海監督

人が心に秘めたほんとうの願いなんて、正しくないことが多いと思うんですよ。一番大事な望みは、必ず他の誰かとぶつかってしまう。

だからSNSは誰かの願いを他の誰かが叩く光景が日常になってしまっている。「人は正しくあるべき」という期待を押しつけ合うからこそですよね。

その結果、今の、少数の誰かに「期待」を背負わせることで大衆が心のバランスを保つ時代になったと思うんです。

阿部

芸能人とか政治家とか…一部の有名な人たちが過剰に「正しくあること」を背負わされていると。

新海監督

大衆の欲望を押しつけられて、どんどんすり減っていく存在に気づいていながら…いろいろな人が犠牲になっているのに、自分は関係ないような顔をして見て見ぬフリをしている。

僕はそれが大変不愉快で、窮屈で、嫌で

だからこそ僕は、「ほんとうのこと」を全力で叫ぶ、正しくない人間を見てみたかった。主人公・帆高の叫びは、そういうことだと思います。彼の叫びが今の社会の中でどんな風にお客さんに届くのか、挑戦してみたかったんです。

©2019「天気の子」制作委員会

若者には、大人たちの期待や心配を飛び越えてほしい

阿部

『天気の子』に、そんな新海さんの心の叫びが込められていたとは…

新海監督

その一方で、「世界はもうそうなってしまったんだから、その中でどうするか考えるしかない」という想いも込めたかったんですよね。

©2019「天気の子」制作委員会

新海監督

天気もまさにそうで、異常気象や温暖化はここ数年でいよいよ現実のものになってきた。

どうにかしなければいけないけど、変わってしまった現実を一旦受け入れて、その中でどう生きていくか考えることも必要ですよね。

阿部

変わってしまったものを元に戻すことはできないですしね。

新海監督

それに、大人たちが“異常”と叫ぶことも、変わる前の時代を知らない若者にとっては、それが当たり前の景色だったりもするじゃないですか。

大人たちの勝手な期待や心配事を飛び越えてしまえるのも、若者だけが持つ強さだと思うんです

©2019「天気の子」制作委員会

新海監督

そんな想いも『天気の子』には込めているので、ぜひ読者のみなさんにも劇場に足を運んでいただきたいです!

阿部

今日のお話、映画の内容を思い出して、思わず泣きそうになりました…ありがとうございました!

新海監督の「まわりに期待しない」という言葉は、一見ドライに感じてしまうかもしれません。

しかし、それは人を信じていないというわけでありません。実際に、インタビュー中もこんなことを仰っています。

「期待は押しつけないようにしながら、まわりの仲間に頼ることもたくさんあるんです」

人に寄りかからず、しっかり自分の足で立って、仲間と並んで歩く。そんな姿勢こそ、「期待」を気にせず自分らしく生きていくヒントなのかもしれませんね。

〈取材・文=阿部裕華(@zukizucchini)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=森カズシゲ〉

新海誠監督、新作アニメーション映画『天気の子』絶賛公開中!!

©2019「天気の子」制作委員会

新海監督が今一番伝えたいことをエンターテインメントとして描いたという本作品。

前作『君の名は。』以上の映像表現。特に、テーマである天気にまつわる描写は、思わずため息が出てしまうほどの美しさ。

主人公・帆高に託したという「叫び」とは…?

気になる方は、ぜひ劇場へ!

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