菅原洋平著『超すぐやる!』より

「やることが山ほどある」は脳が生んだ“まやかし”。偽りの忙しさから脱却する方法

仕事
急ぎで資料をつくらないといけないのに、全然作業が進まない。

1週間前から依頼されていたことに、上司から指摘されて思い出した。

このようなミスの原因はなんだと思いますか?

脳のリハビリを専門にしている作業療法士・菅原洋平さんは、脳のワーキングメモリ不足だと言います。

ワーキングメモリをトレーニングすれば、注意不足によるミスを減らしたり、仕事の効率をあげたりすることが可能。

普段の生活のなかでワーキングメモリを活性化させる方法が書かれた菅原さんの著書『超すぐやる!』から、「ダメなビジネスパーソン」から卒業するための3記事をお届けします。

なぜいつも「やるべきこと」が山積みなのか

「やることが山のようにある」

「いつも忙しいばかりで、休むヒマもない」

もしあなたがこのように感じているならば、それは、あなたの脳が勝手に、「やるべきこと」を増やしてしまっている可能性があります。

脳が勝手に、やらなくてもいいことに首を突っ込んで、あなたを苦しめているのです。

本章では、脳のムダなタスクを減らして、このような状況を解決していきます。

脳が勝手に「やるべきこと」を増やしてしまう引き金は、「マルチタスク」です。

マルチタスクとは、複数の作業を同時、あるいは短期間に並行して切り替えながら実行することで、作業効率を上げる方法として知られています。

あるいは、忙しくなるとどうしても、いくつもの案件を同時に走らせることになり、必然的にマルチタスク状態になってしまうものでしょう。

しかし皮肉なことにこのマルチタスクによって、脳は自ら次の新しいタスクを生み出すようにできているのです。

「あなたの今の忙しさは、あなたの脳によってつくられているのかもしれない」

「今あなたが忙しいのは周囲の状況が原因なのではなく、あなたの脳がそういう状態になっているからかもしれない」

ということです。

今の脳の状態は、自分の口癖や考え方の傾向、仕事への取り組み方を通して知ることができます。

あなたの忙しさのもとを見つけるために、脳の状態をレベル分けしてみましょう。

レベル1:「休みでリフレッシュできた!」理想的な状態

仕事の繁忙期など一時的なマルチタスクを順化(脳が情報にかけるエネルギーを削減している状態)で乗り切っている状態

レベル2:「なんか面白いこと、ないかなぁ」と探し続ける状態

マルチタスク状態を抜けたところで、順化によって脳が刺激に反応しなくなった状態

レベル1よりマルチタスクによる消費が大きいので、順化によって抑制されることに抵抗がある。

順化して落ち着いてしまうと、元のような忙しさに耐えられるエネルギーがつくられなくなるので、エネルギーの流れを保とうと新しい刺激を探す。

繁忙期を過ぎて休めるはずなのに、なんだかそわそわしてネットで情報を漁ったり、目についたものを片付け始めたりする。

レベル3:「忙しい。やることが山ほどある」と焦りを感じる状態

順化によってエネルギーが減ってしまうことを避けようと、新しい情報を漁って、すぐに脱順化(脳が新たな情報を取り入れ、やる気を保とうとすること)を引き起こし、何にでも首をつっこんでいる状態

レベル4:「えっ知らないの?今これが流行ってるんだよ」と他人にアピールする状態

落ち着かない、イライラする、知らないことを見聞きすると焦る。

知らないことが会話に出てくると「知っている」と取り繕う。

何かを知るとすぐにSNSに投稿して知らない人に無意識にプレッシャーをかけようとする。

このように、順化によるエネルギーのセーブが起こらないように、より大きな脱順化を引き起こすことが慢性化した状態

レベル5:「やる気が起こらない」という脱力状態

何にも興味が湧かない、何をしても面白くない、何を買っても満足しない、満たされないなど、慢性化した脱順化で脳のエネルギー消費が高まり過ぎたので、極端に順化が起こってエネルギー消費を強制的にストップさせている状態

レベル別・すぐやる力の取り戻し方

あなたのマルチタスクは、どのレベルでしたか?

さっそくレベル別に、対応方法を見てみることにしましょう。

レベル1の対処法

レベル1は、休日があればそれでエネルギーのバランスは回復します

一時的な忙しさで脳に負荷はかかっているものの、その後順化してエネルギー消費が抑えられ、脱順化によってまた新たなエネルギー消費が行なわれる、理想のマルチタスクといえます。

レベル2の対処法

レベル2では、マルチタスクの後遺症として、休むことに物足りなさを感じています。

しかし、ここで新しいことに手を出せば、脳にはさらなる負荷をかけることになります。

あえて、ここではデジタルデトックス(パソコンやスマホなどの電子機器を身につけず、見ないで半日から1日を過ごしてみる)をしてみましょう

情報から離れる時間をつくれば、自然に順化が解けて(脱順化)、今より忙しくしないままで、また新鮮な気持ちで情報を受け取ることができます。

すると、変わらない毎日の中にも、また面白さを見つけられるでしょう。

レベル3の対処法

レベル3ならば、その忙しさはまやかしです。

どうしても自分がやらなければならない仕事以外は手を出さないようにしましょう

最初はもどかしい感じがしますが、それは、エネルギーバランスを回復するための離脱症状のようなものだととらえてやり過ごすことです。

レベル4の対処法

レベル4の場合は、すでに脳によって、行動が支配されてしまっています。

ただ、この状態の難しさは、焦ったり落ち着きがなくなっていることを、自覚しにくいということ。

「もしかして、レベル4かも」と思ったときには、家事や趣味などなんでもよいので、丁寧に行なわないと上手にできない手作業を1つ確保しましょう

たとえば、アイロンがけや皿洗い、靴磨きなど、1つのことだけを行ない、その間はテレビや音楽、スマホを排除して、脳を情報過多から保護するのがポイントです。

作業に集中できない、または「○○をしている」とSNSに投稿したいと感じたら、あなたはこのレベル4の段階にどっぷり浸かっているといえるでしょう。

作業の出来が悪いことに気づき、丁寧に行なって上手にできたら、レベル4からの脱却にもつながります。

レベル5の対処法

レベル5まで進んでしまった方は、自分の力だけではなかなか元には戻れません。

一時的に、環境を変えることをオススメします

レベル5の状態で、環境を変えてみた患者さんたちは、次のようなことを言います。

「連休で実家に帰ったら、夜は暗くなってやることもないし、朝は明るくなって家族も起きるので自分も起きざるを得ない。畑仕事など手伝わないといけないことがある、という環境で3日ほど過ごしたら、徐々にやる気が出てきた」

夜になると眠くなる、そして眠くなって眠るなんて当たり前だと思うかもしれません。

しかし、このレベルにまで来てしまっている人は、その感覚もわからなくなっていることが多いのです。

またやる気が出てきたら、それで終わりにせず、何が自分に必要だったかを振り返ってみましょう。

それは朝の光ですか?

それとも体を動かす作業ですか?

情報から離れる時間でしょうか?

夜暗くなることでしょうか?

どうすればやる気が出てきたのか、その要素が1つわかったら、元の環境でもその1つだけは再現できるように、部屋のレイアウトや生活スケジュールを工夫してみましょう

それが、過度のマルチタスクから脳を解放する第一歩です。

「させられマルチタスク」から脱却する方法

自然に発生するマルチタスクに対して、私たちはどうすればいいのでしょうか?

そのために役立つのが、「ワーキングメモリ」です。

情報は、それ自体に意味はありません。

意味をつけているのは、私たちの脳です。

そして、その脳に入ってくる情報を意図して意味づけするのに役立つ能力が、ワーキングメモリなのです。

日々押し寄せてくる情報を全体の一部として扱い、それを自分の目的に使う力とする。

この、ワーキングメモリの働きをうまく活用して、情報に対する意味づけを意図的に行なえるようにすれば、「させられマルチタスク」で偽りの忙しさに翻弄されることがなくなります。

このときにカギを握るのが、脳の「上頭頂小葉」という部分です。

その機能を高めることでマルチタスクレベルを下げることにつながる上頭頂小葉ですが、その本来の役割は目で見て身体を動かした情報を扱うこと。

情報を「身体に起こったリアルな変化」として受け取り、その価値を、「現在行なっている作業に今の身体の動きが最適なのか」という点で判断するのです。

つまり、上頭頂小葉の中では、作業の効率が上がる情報ほど価値が高く、効率が下がる情報は価値が低いと判断されます。

この基準はとてもシンプルですね。

ですから、目的を持って作業を行なうこと、そしてその作業を行なうための姿勢を整えることは、上頭頂小葉を働かせ、マルチタスクレベルを下げるための効果的手段といえます。

反対に考えると、とくに目的を意識せず、だらだらした姿勢で作業をすれば、上頭頂小葉が働かないので、情報の波に呑まれやすく、マルチタスクになりやすく、「やらなきゃいけないのについ別のことをしてしまって…」という事態になりがちだということ。

姿勢を整えることで、これだけのことを予防できるのです。

パソコンやタブレットを使用した作業はどんな姿勢でもできるため、つい姿勢が悪くなりがちです。

そこでここでは意識して、情報をうまく扱うための基本姿勢をつくってみましょう。

ワーキングメモリを起動させる姿勢は、

①いすに座って、両足の裏を地面につける。

②肛門を締めて骨盤内の筋肉を安定させる。こうすると、自然に背筋が伸びる。

③両肩を耳につけるように首をすくめて、その肩を後ろに引き、ストンッと下ろす(そのときの肩の場所が本来の肩の位置です)。

という3つの条件を満たした姿勢です。

この姿勢でパソコンやスマホ操作をすれば、余計な情報に手を出していない自分に気づくはずです。

ワーキングメモリを鍛えて仕事の効率をあげよう

記憶力、情報処理力、時間管理力…。

一般的に「地頭のよさ」とされているこれらの能力は、ワーキングメモリを鍛えることですべて底上げできます

仕事でミスをしてしまい、「自分には才能がない」「この業務に向いてない」と悩んでいる方がいたら、まずはこちらの本を読んでみてはいかがでしょうか。

生活のなかでワーキングメモリを訓練して、「ダメなビジネスパーソン」を卒業しましょう!