ビジネスパーソンインタビュー

成功者のキャリアは8割が偶然。それを引き寄せられるのは、“試し上手”で“やめ上手”

山口周著『ニュータイプの時代』より

成功者のキャリアは8割が偶然。それを引き寄せられるのは、“試し上手”で“やめ上手”

新R25編集部

2019/09/17

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「これからの時代は、これまで『優秀な人材』と評価されていた人が時代遅れの存在になる」

電通、ボストンコンサルティンググループで組織開発などに従事してきた山口周さんの新著『ニュータイプの時代』の主張です。

働き方が変わっていくように、社会で必要とされる人材も変化している。これまで通りの成功体験では通用しない時代になってきた、と山口さんは警鐘を鳴らします。

そして、同書のなかでこれからの時代に活躍する「ニュータイプ」の存在を提示しました。

40年以上も働くであろう20代のビジネスパーソンにとって目指すべきその「ニュータイプ」とは?

同書から3記事を抜粋して、その答えに迫ります。

成功は確率論——成功者のキャリアは8割が偶然

結果的に成功した人は一体どのようにキャリア戦略を考え、どのようにそれを実行しているのか?

この論点について初めて本格的な研究を行ったスタンフォード大学の教育学・心理学の教授であるジョン・クランボルツは、米国のビジネスマン数百人を対象に調査を行い、結果的に成功した人たちのキャリア形成のきっかけは、80%が「偶然」であるということを明らかにしました。

彼らの80%がキャリアプランを持っていなかった、というわけではありません。

ただ、当初のキャリアプラン通りにはいかないさまざまな偶然が重なり、結果的には世間から「成功者」とみなされる位置にたどり着いたということです。

クランボルツは、この調査結果をもとに、キャリアは偶発的に生成される以上、中長期的なゴールを設定して頑張るのはむしろ危険であり、努力はむしろ「いい偶然」を招き寄せるための計画と習慣にこそ向けられるべきだと主張し、それらの論考を「計画された偶発性=プランド・ハップンスタンス・セオリー」という理論にまとめました。

クランボルツによれば、我々のキャリアは用意周到に計画できるものではなく、予期できない偶発的な出来事によって決定されます。

それでは、キャリア形成につながるような「いい偶然」を引き起こすためには、どのような要件が求められるのでしょうか?

まずハップンスタンス・セオリーの提唱者であるクランボルツ自身が指摘したポイントを挙げてみましょう。

好奇心…自分の専門分野だけでなく、いろいろな分野に視野を広げ、関心を持つことでキャリアの機会が増える。

粘り強さ…最初はうまくいかなくても粘り強く続けることで、偶然の出来事、出会いが起こり、新たな展開の可能性が増える。

柔軟性…状況は常に変化する。一度決めたことでも状況に応じて柔軟に対応することでチャンスをつかむことができる。

楽観性…意に沿わない異動や逆境なども、自分が成長する機会になるかもしれないとポジティブに捉えることでキャリアを広げられる。

リスクテイク…未知なことへのチャレンジには、失敗やうまくいかないことが起きるのは当たり前。積極的にリスクを取ることでチャンスを得られる。

このクランボルツの指摘を先ほどのスピノザの指摘に重ね合わせてみれば、どのような対象にも自分のコナトゥスを高める機会があるかもしれないと考え、オープンに機会を受容していくことなのだということがわかります。

これこそが、特に変化が激しく、職業リストそのものがどんどん書き換わっていくような時代にあって求められるニュータイプの思考様式です。

一方で、オールドタイプは計画にこだわります。

長期の計画を立て、その計画を頑なに実行しようとし、思いがけずやってきた機会に対して自らを閉ざし続けるのがオールドタイプの行動様式と言えます。

大量に試して、うまくいったものを残す

たくさん試すことで「勝てる場所」を見つける、というのは企業戦略にも適用できる考え方です。

つまり、クランボルツによる「成功者のキャリアは偶然のもたらす機会によって跳躍している」という指摘は、企業の成長においてもまた適用できるテーゼだということです。

現代の社会において、このテーゼの強力さを最もわかりやすく示しているのがアマゾンです。

最近ではGAFAと総称される「勝ち組企業グループ」の中核でもあり、「成功」というイメージの代名詞のようになっている感もあるアマゾンですが、同社の成長が「試す力」によっていると指摘すれば驚かれるでしょうか。

アマゾンは実は「試行と撤退」の達人でもあります。同社は上場以来、70を上回る数の新規事業に参入していますが、およそ3分の1は失敗して早期に撤退しています

新規事業を立案する際には、綿密な計画を立て、乾坤一擲の資源投入によって成功を目指すのが定石だと考えられていますが、アマゾンの成功はそのような予定調和の末に獲得されたものではなく、膨大な数の「試行錯誤」の結果なのです。

このような組織としての傾向は、伝統的な企業においても観察されます。

たとえば継続的にイノベーションを成し遂げている企業としてよく知られる3Mの社是には「試してみよう、なるべく早く」という項目がありますし、ジム・コリンズが、いわゆる「ビジョナリー・カンパニー」に共通して見られる特徴として指摘したのは「大量のものを試して、うまくいったものを残す」ということでした。

このアプローチは今後ますます強力かつ迅速になる可能性があります。

理由は実にシンプルで「試すコスト」がどんどん下がっているからです。

ジェレミー・リフキンは彼の著書『限界費用ゼロ社会』において、あらゆるモノやサービスの価格が低下しており、これまで一定程度以上の資本投下をしなければ「試す」ことすらできなかったチャレンジの敷居が著しく低下していると述べています。

限界費用が低下し、「試す」ためのコストがどんどん低下すれば、今後の世界ではますます「戦略的な計画」よりも「意図された偶発性」の方が、最終的により良い成果に結びつく可能性が高まることになります。

「綿密な計画」はむしろ成功確率が下がる

クランボルツの研究結果は「計画を立て、計画の達成にこだわる」という、一般的にはポジティブに評価される行動様式が、実は成功を遠ざける要因になっていることを示唆しています。

特に、現在のような予測の難しい時代にあって、これまでポジティブに評価されてきた「綿密に計画を立て、計画の達成にこだわる」というモードは、もはやオールドタイプのそれということになります。

一方で、ニュータイプは「とりあえず試してみて、結果をみて修正する」というダイナミックなアプローチを取ります。

1990年代の初頭、スタンフォード大学のキャスリーン・M・アイゼンハートとベナム・N・タブリージは、年間売上5000万ドルを超えるアメリカ、欧州、アジアのコンピューターメーカー36社が手がけた72の製品開発プロジェクトに関する調査を行い、最もイノベーティブな成果を達成したチームは、計画段階にかける時間が少なく、実施段階における時間が多いチームであることを明らかにしました。

つまり、計画を細部に至るまで綿密に作り上げる前に、まずは即興的にプロジェクトを始めるチームほど、大きな成果を生み出していたということです。

一方で、一般的なイメージとは裏腹に、事前の計画を綿密に作ろうとして時間をかけたチームほど、プロジェクトの進展は遅く、得られた成果も小さかったのです。

即興型のチームに「計画がなかった」わけではありません。言ってみれば即興型のチームは、計画を実行しながら計画を作っていたのです。

私たちは一般に「計画の策定」と「計画の実行」を2つの種類の異なるタスクと考え、これをレゴブロックのようにシーケンシャルにつなげるイメージで捉えます。

しかし、即興型のチームは「計画の策定」と「計画の実行」が渾然一体となっており、実行をしながら、その都度立ち現れてくる問題や見えてきた市場の好機に適応するようにして、計画を仕立て直していました。

言い換えれば、プロジェクトの進行過程そのものが、計画立案のプロセスになっていたということです。だからこそ、即興チームの方が市場での成功確率が高かったのです。

「試し上手」は「やめ上手」——「撤退の巧拙」が事業創出のカギ

ここで一点、注意を促しておきます。それは「試すためにはやめることもまた必要だ」という点です。

今日、多くの企業において新規事業へのトライアルは重大な経営課題となっていますが、実際のところはうまくいっていない企業が多い。

もちろん、さまざまな要因が考えられるわけですが、ここで指摘しておきたいのは、何かを試行するためには何かをやめなくてはならない、ということです。

人であれ企業組織であれ、何かをするための時間・資源には限りがあります。

当然ながら、何かを試すためには、試すために資源を振り向けなければならないわけですが、従来の取り組みに資源を振り向けたままであれば、試行はままならないということになります。

ここでもまた、アマゾンの例が一つの参考になります。先述した通り、アマゾンは短期間に数多くの新規事業に参入しているわけですが、このように多量の事業にトライアルできているのは、彼らの「撤退判断」が極めて迅速だからということも指摘できます。

典型例が2014年に100億円以上の資金を投入して参入したスマートフォン事業です。

CEOであるジェフ・ベゾスが旗を振ってスタートしたにもかかわらず、結局は後発参入のハンディを覆すことはできず、たったの1年で撤退しています。

利益の出なくなった事業をずるずると続けた挙句に「もうどうしようもない」という局面に至って仕方なく二束三文で売却する、ということを繰り返している日本企業と、アマゾンの撤退判断のすばやさを比較すれば、実は「撤退の巧拙」にこそ、新規事業創出の巧拙の差を生み出す真因があるのではないか、とすら思えてきます。

ベイン・アンド・カンパニーがまとめた「アマゾンの撤退事業リスト」を見れば、同社が「たくさん試し、うまくいかなければすぐに撤退する」を繰り返して、現在の強力な事業ポートフォリオを組み上げてきたことがわかります。

なぜ、多くの企業は「試す」ことができないのでしょうか。

よく聞かれるのは「リスクを取れないから」という理由ですが、では、さらに突っ込んで「なぜリスクが取れないのか」という論点を深く掘ると、そこに「撤退が下手」という要因が浮かび上がってきます。

一度始めた以上、なかなかやめられないということであれば、当然ながら「始まり」には大きなリスクが伴うことになります。

つまり「試行」のコストを押し上げる心理的な要因は、「やめられない」というバイアスによって形成されているということです。

これは個人のキャリアについても同様に指摘できることです。多くの人は「変化の時代においてはチャレンジが大事だ」と言われれば、それはその通りだ、と同意するはずです。

しかし、実際のところはなかなかチャレンジできず、ズルズルと従前の取り組みを続けたまま、無為に時間を過ごしてしまう人が多い。

理由はシンプルで、そのような人は「始められない」のではなくて「やめられない」のです。人の持っているリソースには限りがあります。

そのリソースを用いて、どんどん新しいことを試していくためには、すでにやっていてこれ以上伸びシロが望めないということをやめる必要があります。

時代に取り残されたくないのなら「ニュータイプ」を目指せ

PCやスマホのOSはどんどんアップデートしていくのに、私たち自身がアップデートしないまま生きていくわけにはいきません。

自分で課題点を見つけ出し、正解のない社会を生きていく

ニュータイプの時代』を読んで、その覚悟を決めないといけません。

〈撮影=疋田千里〉

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