ジェイソン・R・カープ著『The inner runner』より

憂うつな気分を解消する実験結果も。忙しいビジネスマンこそランニングが必要な3つの理由

カラダ
健康のためにはランニングがいい」と言いますが、実際に走っているR25世代はどのくらいいるでしょうか?

どちらかと言うと、「日々働いていて、運動する時間がない」「やろうと思うけど、なんとなく腰が重い」という方のほうが多い気がします。

では、「ランニングがビジネスマンとしてのスキルをあげる」と聞いたら、実際にやってみようと思いませんか?

実はランニングには、クリエイティブ力を鍛えたり、抗うつ薬と同等の効果があると言われたりするなど、心身へ大きな効果があるんです。

アメリカ有数のランニング・エキスパートであり、運動生理学の博士号をもつジェイソン・R・カープ氏は著書『The inner runner』のなかで、「定期的なランニング習慣が持つ影響」について深く言及しています。

走ることで一体どんな変化が起きるのか?

ビジネスに活かせるランニングの力を、本書から2記事抜粋してお届けします!

座りがちなビジネスマンは病気のリスクが上がる!?

走ることが健康に良い影響を与えるように、走らないことは健康に悪影響を及ぼしている。

座りがちなライフスタイルはとても健康に悪く、心臓疾患の七つの危険因子の一つとされている。また、運動不足は、ある種のがんのリスクを上げる。

運動しないと、単純に死ぬリスクが増すのだ。考えてみると恐ろしい。

普段私たちは、病気になるのは何かをしたせいだ、と考えがちだ。喫煙、高コレステロール食品や高脂肪食品の摂りすぎ、砂糖や加工食品の食べすぎ、飲酒、麻薬の使用、等々。

「タバコを吸うとがんになる」とこれまで何度聞かされてきたことだろう?それは誰もが知っているけれど、「運動しないとがんになる」とは一度言われたことがない。

何かを「しない」とどうなるか?なんてあまり考えないものだが、運動不足も運動と同じように、細胞シグナルや生理反応をもたらすのだ。

たとえば、じっとしていると、間もなくリポタンパク質リパーゼという酵素を抑制するシグナルが出て、脂肪の代謝が悪くなるので、体重が増え、肥満になりやすい。

逆に、ランニングはリポタンパク質リパーゼを活性化するので、脂肪の代謝がよくなる。運動しないことで、心臓疾患、ある種のがん、糖尿病や脳萎縮に至るまで、多くの病気を発症しやすくなる。

ほんの一瞬でいいから、この事実に思いを馳せてほしい。有酸素運動をしないと、病気を引き寄せる、ということを。

走ったあとに回復する過程で、私たちは健康になれる 

ランニングは身体の存続にとって、負荷をかける小さな脅威である。

だから、走ったあとに回復する過程で、身体は脅威を和らげるべく特別な調整を行う。

繰り返し走り、繰り返し脅威がもたらされると、大きな変化が起こり、そのうちに身体の中に構造タンパク質(訳注:生物の身体の細胞や組織・器官の構造を作っているタンパク質)と機能タンパク質(訳注:酵素や物質の輸送などさまざまな化学反応に関わるタンパク質)がバランスよく蓄積されるようになるため、人はさらに健康になり、見た目もよくなり、よく走れるようになる。

この事象を細かく説明すると、最初に起こる変化は、体内の血液の量が増えることだ。体内を流れる血液が増えれば、酸素を運ぶ血管の能力も高まる。

ランニングによって筋繊維(訳注:筋肉を構成する繊維状の細胞)の周りに小さな毛細血管が大きなクモの巣のように発達してくると、筋肉に届く酸素の量も増える。

このクモの巣が密に発達すればするほど、酸素が筋繊維に効率よく届くようになるというわけだ。

そして、酸素は赤血球の中のヘモグロビンと結合して、血管を通して運ばれるのだが、毛細血管を流れる血液が筋肉に近くなるとヘモグロビンタンパクとの固い結び付きを手放すので、貴重な多くの酸素が筋肉に届く身体になる。

走ることで健康になり、より走れるようになる理由だ

ランニングは「憂うつ」な気分を解消する薬 

ランニングは、精神状態と深くつながっている。ほとんどのランナーがうなずくだろうが、ランニングは気分を奮い立たせてくれる。

多くのランナーは、悲しいときや落ち込んでいるときに走り、元気になって戻ってくる。嫌な気分を良い気分に変える最高の方法を探しているなら、外へ出て走ろう。それが心に効く、と語っているのはランナーたちだけではない。

有酸素運動――中でもランニングはとくによく研究されている――が、うつや気分の改善に処方薬と同じくらいの効果があることは、研究で証明されている。

たとえば、1999年にデューク大学、コロラド大学ボルダー校、カリフォルニア大学サンディエゴ校の科学者たちが行った共同研究を見てみよう。

研究結果は、内科専門誌『ArchivesInternalMedicine(内科医学のアーカイブ)』に掲載された。

この研究ではまず、大うつ病性障害と診断された50歳以上の156人の男女を、無作為に3グループに分けた。

一つめのグループは有酸素運動を行い、二つめのグループは抗うつ薬を服用し、三つめのグループは運動と抗うつ薬を併用することにした。

被験者には、治療の前と後に標準的な検査と基準を用いて、うつ病の評価が行われた。運動は、16週間にわたって毎週管理下で行われる3セッションから成る。

各セッションでは、10分間の準備運動、予備心拍数(訳注:最大心拍数から安静時心拍数を引いた数値)の70〜85パーセントの強度で行う30分間のウォーキングかランニング、5分間の整理運動が行われた。

16週間後、3グループすべてにおいてうつ病の臨床症状が大幅に、同じ程度改善されていた。うつ病検査の得点では、抗うつ薬グループ、運動グループ、抗うつ薬と運動の併用グループに差異はなかった。

ほかの調査でも、同様の結果が出ている。ランニングがうつの症状を軽減させる理由の一つは――抗うつ薬や中毒性の薬物も同じだが――セロトニンが増えることだ。

セロトニンとは、脳のあるエリアから別のエリアへとシグナルを送る化学物質で、満足感や幸福感を生み出す神経伝達物質だ。その働きはとてもパワフルで、約4000万もの神経細胞の大半に、直接的にも間接的にも影響を及ぼしている。

運動のあとには、セロトニン濃度が上がったり、その原料であるトリプトファンが増加したりすることが、多くの調査で裏づけられている。

週間走行距離が長いほど、生活習慣病を防ぐ

ある調査では、4万1582人の女性ランナーを、年齢と週間走行距離をもとにいくつかのグループに分けた。

週に平均40マイル(約64キロ)以上走る人たちは、10マイル(約16キロ)未満しか走らない人たちに比べて、BMI(体重÷身長の2乗。肥満度指数とも呼ばれる)が10パーセントも低く、胴囲は8パーセント、ヒップ周りは7パーセント、胸囲も4パーセント低かった。

すべての年齢グループで、週間走行距離が長ければ長いほど、BMIも胸囲も胴囲もヒップ周りも数値が低いという結果が出た。

もちろん、このような横断的調査(訳注:ある一時点において相関関係や因果関係を調査する方法)では、因果関係ははっきりしない。BMIが低い人たちは、そうでない人たちより身体がランニングに適しているからたくさん走る――とも考えられるからだ。

とはいえ、このようにサンプルサイズが大きい場合は、調査の統計的検出力も高いため、数値の差は週間走行距離によるものである可能性が高い。

横断的調査の欠点を回避するために、別の調査では、2万9139人の男性と1万1985人の女性を7年半にわたって観察し、(10キロメートル走の成績で測定した)心肺持久力、週間走行距離と、高血圧・高コレステロール・糖尿病の発症率との関係を調べた。

興味深いのは、週間走行距離が長いほど男女ともに高血圧、高コレステロール、糖尿病の発症率が低かったこと

とくに高コレステロールについては、男性なら週間走行距離が40マイル(約64キロメートル)までなら、走行距離が10マイル(約16キロ)増えるたびに、発症率が大きく減少し、女性の場合も、週間走行距離が30マイル(約48キロ)までなら、走行距離が10マイル増えるたびに、発症率はやはり大きく減少していた。

ランニングの健康効果は、少なくともある週間走行距離までなら、走れば走るほど上がるのだ。

ランニングのメリットを学んで、今すぐ走り出そう

The inner runner 博士が教える運動と成功の切れない関係

The inner runner 博士が教える運動と成功の切れない関係

走ることは単調に思いがちですが、実は人間にとって一番手軽で心身にいい影響を与えてくれる運動なんですよね。

仕事でいいアイデアが出ない」「気持ちが落ち込んでしまう」という人は、思いきってランニングを始めてみませんか?

同書には「運動習慣で収入が上がる」という内容にも触れています。自分の能力を上げたい、もっと活躍したいと思うビジネスマンは、ぜひご一読ください!

〈撮影画像=(C)Jody Lynn Photography〉