「好きなことを伝え続けるって大事です」

AKBのトップだった前田敦子が、「映画女優」の夢を叶えるために重ねた“3つの努力”

仕事・ビジネスby 新R25編集部

記事提供:Woman type

あっちゃん”が、お母さんになった。

大きなステージで泣いたり笑ったりしながら、日本中を魅了した一人の女の子は、やがて映画の世界に恋をして、スクリーンに愛される女優となり、そして一児の母となった。

前田敦子、28歳。

2019年には、主演映画『旅のおわり世界のはじまり』を含む4本の出演映画が公開された。さらに、9月20日(金)には主演映画『葬式の名人』が公開される。

“あっちゃん”なんて呼ぶのをためらってしまうぐらい、前田敦子さんは独特な存在感を放つ映画女優へと成長した。

ずっと女優になりたかったんです」と微笑みかけてくれた彼女は、なぜ自分の夢を叶えられたんだろう。苦悩と努力を重ねた道のりを聞いた。

【前田敦子(まえだ・あつこ)】1991年7月10日生まれ。千葉県出身。05年にAKB48の1期生として芸能界デビュー。12年8月に同グループを卒業する。グループ在籍中の07年、映画『あしたの私のつくり方』で女優デビュー。以降、数々の作品に出演。近作に、『素敵なダイナマイトスキャンダル』、『のみとり侍』、『食べる女』、『マスカレード・ホテル』、『町田くんの世界』、『旅のおわり世界のはじまり』などがある

「普通に学生をやっていた方が幸せだったのかな」

主演映画『葬式の名人』で前田さんが演じるのは、シングルマザーの渡辺雪子。大阪府茨木市の木造アパートで1人息子と暮らす雪子のもとに、ある日、訃報が届く。

それは、共に青春時代を過ごした同級生・吉田(白洲迅)の死だった。仲間の死をきっかけに久しぶりに再会したクラスメイトたち。10年という時を振り返りながら、雪子たちは自分の人生を見つめ直していく。

前田さんの10年前といえば、2009年。第1回AKB48選抜総選挙が開催され、彼女が堂々の1位を獲得した年だ。そう話題を振ると、懐かしそうな笑みを浮かべて言った。

「まだあの頃はAKB48も駆け出しの時期ですよね。私自身、人生を模索していた時期だったと思います。もともと『女優になりたい』という気持ちはあったけど、ほとんど演技のお仕事もできていなかったですし、半分諦めているところもありました」

言葉にまるで飾りがない。前田さんは、すごく正直に自分の気持ちを話す人だ。

「みんな年頃でしたからね、当時はAKB48を辞めていく子たちもいて。私も『普通に学生をやっていた方が幸せだったのかな』なんてふと思うこともありました」

恋い焦がれて選んだはずの場所が、いざ立ってみると夢見たものとは違っていた。それは、芸能界だけじゃなくて、どんな世界で生きていても感じることかもしれない。

けれど、そんな中で18歳の前田さんが出した答えは、まだ訪れてもいない未来に振り回されるのではなく、まずは今自分のいる場所でベストを尽くすことだった。

「AKB48をやっていることで、いずれ女優への道が開ければいいなと思っていました。でも、そのためにもまずはここで頑張ることが先決だって。

とにかくAKB48をどうするか考えることが最優先。だから、いずれ女優になりたいという夢はしばらく考える余裕もなかったです」

それが、前田敦子さんの18歳。遠い未来に思いを馳せるより、今を全力で生きる。小さな女の子の密かな決意が、やがて日本中を巻き込む一大ブームへと発展していった。

「映画が好き」、好きなものを好きだと言い続けた

そして、21歳でAKB48を卒業した前田さんは、本格的に女優業へと軸足を移し、黒沢 清、山下敦弘ら、名だたる監督の作品に出演するようになった。

「AKBを卒業したばっかりの頃は、どうしたらいいか全然分からなかった。どうやったら映画に出られるようになるんだろうって、一人で悩んでいましたね」

そんな言葉が冗談としか思えないぐらい、今や彼女は立派な映画女優だ。アイドルという経歴が、必ずしも女優業へのパスポートになるわけではない、というのは多くの人の知るところ。むしろアイドルのイメージが強いほど、うがった目で見られることだってある。

そんな中で、前田さんは着実にチャンスを自分のものにしていった。一体何が、前田さんの20代を変えたのだろうか。

「一番大きかったのは、とにかく好きなものを“好き”って言い続けたことです。AKBにいた頃は、『映画が好き』って、あまり言ってこなかったんですよ。はっきり周りに言えるようになったのは、20歳を過ぎてから。

映画の世界で働いている人とか、映画に出ている人を見つけたら、『私、映画が好きなんですけど、オススメの作品は何ですか?』って勇気を出して声を掛けたりして。

そうやって、好きなものを通じていろいろな方とコミュニケーションを取るようにしていったら、いつの間にか『あっちゃんは映画が好きなんだってね』って、皆さんから声を掛けてもらえるようになりました」

発信こそが、チャンスを呼び込む一番の法則。自分の気持ちをオープンにすることで、自然と周りに応援してくれる人が増えてきた。

「例えば、犬童(一心)監督が誕生日プレゼントにオススメの恋愛映画を選んでくださいました。

今思えばすごく贅沢な話なんですけど、そんなふうに『映画が好き』って言い続けているうちに、いろいろな映画監督が『この映画を観てごらん』って教えてくれるようになって。気持ちは伝えるものだなって、つくづく思いましたね」

名監督と現場を共にすることで、少しずつ前田さんは女優としての佇まいを身に付けてきた。監督からの教えの一つ一つが、女優・前田敦子をつくっている。

「『旅のおわり世界のはじまり』のときに黒沢監督から言われたのが、『頭の動いている俳優さんがすごく気になる』という言葉でした。それは確かにそうだなって。実際に私も頭が動いていたんですよ。そういう本当に基本的な立ち方から、黒沢監督には叩き直してもらいました」

そう言われて、はっとした。この『葬式の名人』で演じた雪子は、決して口数の多くないキャラクターだ。

だけど、何も言わずに何かを見つめている表情だけで、彼女の内に秘めた感情を観客が想像してしまうような深みがあった。それは、前田さんの堂々たる佇まいによるものだったのかもしれない。

「あと、カメラマンさんの目の前に、まっすぐ立てるかが映画では重要だと思っていて。私は決していろんな技を持ってはいないんですけど、だからこそ、撮影してくれるカメラマンさんとのコミュニケーションはすごく大事にしています」

そう控えめながらクリアな言葉で持論を述べる前田さんは、やっぱり映画女優そのものだった。

自分の“好き”をオープンにしたこと。

たくさんの先輩たちの教えを吸収したこと。

そして、自分のお芝居に対して常に探究を忘れないこと


この3つが、前田さんを“スクリーンに欠かせない女優”へと導いていった。

28歳、母になった今も悩みは尽きない

そして今年、前田さんは母となった。子どもを持った今、完成した『葬式の名人』を観ると、また新しい感慨が込み上げてきたと話す。

「自分が出ている作品なのに、感動してしまいました。たぶんそれは私が母親になったことで、母親目線で雪子や息子のことを見られるようになったからだと思います」

母になった前田さんは、今、新しいキャリアの悩みにぶつかっている。

「やっぱり、子どもの側にいたいっていう気持ちは強いです。こうして働いているときも、ずっと子どものことは気になりますし。

ただ、実際うちの子は、私が出掛けるときも全然ぐずったりしないし、すごくさばさばしているのでそこに助けられているところはあるんですけどね(笑)。

仕事と子育てのバランスってどうやってとるんだろうって、普通に悩んでますね」

まるで気の知れた友達とお茶をするように、前田さんは自身の子育てについて話してくれた。映画の撮影となれば、ロケもあるし、長く家を空けないといけないことだってある。

じゃあ、子育ては? どう自分は折り合いをつける? 「自分らしい両立生活が何か」という答えは、まだ出ない。

だから、無理してカッコいいことを言おうともしない。前田敦子さんは、やっぱりすごく正直な人だ。

「それこそ、じゃああと10年経って38歳になったとき、自分がどうなっているかなんて全然分かりません。でも、ちゃんとカッコよく働くお母さんでいたいな。それだけははっきりしています。自分の子どもに誇れる生き方はしていきたい」

どうなるか分からない未来のことを、いくら考えても仕方ない。それならば、今やるべきことに全力で挑んだ方がずっといい。

18歳、まだ国民的アイドルになる前から“あっちゃん”はそうやって自分の道を切り開いてきた。それは28歳になった今も同じ。

今、一番大事なのは、とにかく愛しい我が子にたくさんの愛情を注ぐこと。

アイドルとして駆け抜けた10代も、映画女優として歩み出した20代も、前田敦子のキャリアをつくり方は、“今を全力で生きる”ことだ。

〈取材・文=横川良明/撮影=赤松洋太〉

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