ビジネスパーソンインタビュー
山田理著『最軽量のマネジメント』より
超ブラック企業だったサイボウズが、全社員と「ザツダン」してわかった“見えない不満”の本質
新R25編集部
グループウェア「Garoon」や、クラウドサービス「kintone」といった業務改善ツールを提供するサイボウズ。
「100人100通りの働き方」を提唱し、社員のライフスタイルに合わせた「週4勤務」「リモートワーク」など、新しい勤務体系を確立しています。
しかし、今より14年前のサイボウズの離職率は28%。2週間に1度は送別会がおこなわれるような「超ブラック企業」だったといいます。
そんな状態から脱却すべく始まった、社内の「100人100通りの働き方」改革。
その道のりとサイボウズがたどり着いたマネジメント手法をまとめたのが、同社副社長である山田理さんの『最軽量のマネジメント』です。
今回は本書から、サイボウズがたどり着いた、マネジャーに過度な責任を押し付けない組織づくりの方法を、2記事にわたってご紹介します。
「ザツダン(雑談)」でマネジャーの「視力」を上げる
紛れもなくむちゃくちゃなブラック企業だった会社をもう一度、立て直そう。
そう決めて、わたしが最初に取り組んだことは「全従業員と話す」ことでした。
「ザツダン」とはいったい何かを、簡単にお伝えします。
そもそも、たいていの会社のレポートラインは、ピラミッド型の階層のとおり、裾野に位置するメンバーから課長へ、複数の課長から部長へ、複数の部長から本部長へ…と、下から上に集約されていきますよね。
もちろん、その逆も然り。上層部の意向や指示は、本部長から複数の部長へ、部長から複数の課長へ…と、上から下へ広がっていきます。
しかし、果たして、この「伝言ゲーム」で、もともとその人が伝えたかった意図やニュアンスは正しく伝わるのでしょうか。
多かれ少なかれ、このプロセスで抜け落ちてしまう情報はかならずあります。
そのこぼれ落ちてしまった情報を拾い集める仕組みが「ザツダン」なのです。
似た仕組みに、グーグルやフェイスブックなどシリコンバレーの会社がこぞって行う「1on1」というものがあります。それに近いイメージを持つ人も多いかもしれません。
「1on1」といえば、メンバーが直面する業務上…場合によってはプライベートのこともありますが、課題や悩み、目標などを聞き出し、それに対して上司がコーチングやフィードバックを行い、より適切な方向へ導くためのコミュニケーション技法です。
一方、「ザツダン」は、言葉通りもっともっと「雑談」に近いもの。
アジェンダ(会議事項)は必要ありません。月に1回(役職者は週に1回)、30分という時間の枠だけがあります。
話すことは、業務報告やプロジェクトの進捗ではありません。その人が抱えるモヤモヤを把握してあげることであり、やりたいことやできることを確認すること、メンバーの個性やモチベーションを知ること。
やってしまいがちなのが「説教」です。しかし、これはもっともダメです。
わたしもついメンバーを詰めてしまいがちです。サイボウズにもこんなギャグが定着しています。
「理さんに詰められて、雑談が“ 殺談” になった」
…お恥ずかしい限りです。ですから、繰り返し繰り返し、自分に言い聞かせています。「人の考えを変えようとするなんて、おこがましい」と。
「要望や不満を聞いてしまったなら、具体的になんとかしてあげなきゃ」と、つい準備不足のままアドバイスを言ってしまう人もいるでしょう。責任感のある、やさしい先輩なら、なおさらです。
しかし、「ザツダン」はあくまで、「メンバーが話すための時間」です。
重要なのは、その30分が「マネジャーのため」ではなく「メンバーのためにある時間」である、ということです。
本当の「事実」と「解釈」を浮かび上がらせる100人との対話
とはいえ、「なんでもいいから率直に話そう」と上司に呼びかけられて、みなさんすぐに話せますか?…無理ですよね。わたしもイヤです。
特にわたしが「ザツダン」を始めた頃は、ギスギスしていて、業績も伸び悩み、組織全体に停滞感がありました。
「1対1の時間なんて何か直接、叱咤されるのだろうか」とビクビクする人、「やらなきゃいけないことはたくさんあるのに、なんで今山田さんと雑談しなきゃいけないの?」と反抗的な態度をとる人もいました。
そもそも、わたしに対して好感を持っていません。
するとやっぱり、「いや、問題ないですよ」「うーん、特にないですね」と、なんだか奥歯にものが挟まったみたいな答えが返ってきました。
そりゃそうですよね。わたしと直接利害関係があってもなくても、「今これを言ったところで何も変わらないよな」とか「もしだれかを悪く言ったら悪影響があるかも」とか、なかなか本音で話すことはできません。
しかし、わたしはこう考えます。
「本音をしゃべれないのは当たり前、しゃあない」と。
だからこそ、マネジャー自身が「全員」と1対1で話すことに意味があるのです。
根気よく、「最近どう?」「どんなことやってんの?」「何か困ってることない?」と続けていると、あるとき、Aさんがポロッとこんな話をこぼしました。
「なんか最近、BさんとCさんがギクシャクしてるっぽいんですよね」次に、わたしはBさんとも話をします。「最近、どう?」Bさんはこう答えます。「いや、別に問題ないです。順調にいってますよ」なるほど、そうか。
次にわたしはCさんに話を聞きます。「最近、困ってることはない?」するとCさんは「大丈夫です」と答えます。
けれども、わたしはAさんに「なんか最近、BさんとCさんがギクシャクしてるっぽいんですよね」という意見を聞いています。
ですから、もうひと押ししてみます。「そうなんや。いや、このプロジェクトで今Bさんと仕事してるみたいやけど、何か気になってることはない?」
するとCさんはハッとした顔で答えます。
「えっ、ご存知なんですか」Cさんは続けます。「実は…わたしはこう進めようと思っていたんですけど、Bさんはそれが気にいらないみたいで。なかなか理解してもらえないんですよね」
ようやく、新たな情報が出てきました。
そこでわたしは、次の「ザツダン」でBさんにこう訊ねてみます。「このプロジェクト、本当はこんな意見が出ていたみたいだけど、なんで却下したの?」Bさんはこう答えます。
「D部長からの指示で、そう決めました」
それから、わたしはD部長に話を聞きます。
「BさんはD部長の指示だって言ってるけど、それって本当?」するとD部長はこんなことを言い出しました。
「えっ、そんなこと言ったつもりはないんですけど…もしかしたらわたしが仮定で言ったことを、そのまま受け止めてしまっていたかもしれません。そうか、だから最近、意見が噛み合わなかったのか…」
どうでしょうか。
聞いたことをぐるぐるぐるぐる回していくと、辻褄の合わないことがたくさん出てきます。
本音であろうとなかろうと、どんな意見にも何らかの意図がある。俯瞰してみると、その見え方はまったく異なっていることがわかります。
このように、事実はひとつでも解釈は100通りになっている、ということがかならずあるのです。
部下の不満は見えないから怖い。見えるようにすれば怖くなくなる
全従業員と「ザツダン」をしつづけて、わかったことがあります。
マネジャーにとっていちばん怖いのは、「わからない」ことです。つまり、メンバーの持つ「見えない」不安や不満です。
わからないから、いたずらに考えてしまう。わからないから、見当違いな施策を打ってしまう。わからないから、会議や打ち合わせを増やしてしまう。
こうして、マネジャーがメンバーにかける時間は知らぬ間に増えていきます。
あるいは、わからないから、すべて自分でやってしまう。そして、自らを追い込んでしまう。
しかし、メンバー全員と話すことを繰り返していると、事業部の中で起きていることがはっきりと「見える」ようになってきます。
それはもう、驚くほど自分の視力が上がっていくのがわかるのです。
「うちの部署」「みんなの意見」といった、ぼんやりとした集合体を見る解像度が上がり、Aさん、Bさん、Cさん…、それぞれの異なる意見が浮かび上がってくる。
そして、それを無理にひとつにまとめようとするのではなく、「100人100通り」として認識すれば、物事に対する理解度はさらに深まっていく。
すると、もうマネジャーにとって怖いものなんてなくなります。
わたしは、マネジメントというものは「みんなを統率する」、みんなを会社の事業成長という目的に向かって「同じように動かす」ことだと考えていました。
大間違いでした。
100人100通りの思いがあるのですから、それをひとつにすることなんて、ハナから無理な話なのです。
けれども、100人100通りの思いがわかれば、組織の課題を見事ゴールにたどり着かせる可能性も見えてくるー。
チームが「おかしいとき」は情報が「共有されていないとき」
一方で、マネジャーの立場からすればこんな戸惑いもあるでしょう。
「メンバーのモヤモヤを聞いた瞬間にそれを何とかしなきゃいけない」
「ただでさえ忙しいのにまた仕事が増える」
「聞けば聞くほど不満なんて溜まっていく一方なんじゃないか」
そういった不安があるから、会社は「ザツダン」的な制度をつくりたがらないのです。
しかし、わたしは逆だと思っています。話を聞くからこそ、余計な仕事は減るし、何かが大事に至るまでに対処できる、と。
モヤモヤの原因の多くは、「よくわからない」という情報不足にあります。
というのも、メンバーの不平不満をより突き詰めて見てみると、具体的な問題より、それ以外の「知らなかった」「聞いてもらえてない」「意見が届いていない」といった部分が大きな面積を占めている、ことが往々にしてあったのです。
モチベーションを失っているメンバーに対して、「どうしたん? 何か、不満があるんじゃないん?」と訊ねてみると、多くの場合、こんな返答があります。
「来期の戦略がわからない」
「予算未達だけど大丈夫なんだろうか?」
「Aさんがあんな発言をした理由がわからない」
「あの人が辞める理由がわからない」…。
あるいは、
「方針がこう決まったらしいですけど納得いかないんです」
「どうしてこうなってしまったんですか? なんか、わたしたちのことをないがしろにされた気がするんです」…。
つまり、どこかで「情報」が不足し、わからない・理解できないという状況が発生している。
「情報の徹底公開」こそがマネジャーの仕事を激減させる
しかし、このようなモヤモヤは「知る」だけで、ほとんど解消されます。
「先月の経営会議で話して、詳しくは議事録のここに書いてあるよ」と情報の在り処を示してあげる。
あるいは「あれ、部長から何も来てない? 実は、こんなことがあってこうすることにしたんだ」と説明すると、「あ、そうなんですね。たしかに。わかりました」と、拍子抜けするくらいスッキリした顔を見せてくれることがあります。
「聞いてもらえた」という事実だけで、モヤモヤは軽減されるし、「隠されていない」という納得感を得られるのです。
つまり、マネジメントにおいてもっとも大事なことは、情報を徹底的に公開することだったのです。
会社側あるいは上司側が、先にどれだけ情報を公開できるか、社員全員が見られる場所におけるか、そして、どのようにアクセスしやすくするか。
これこそが、マネジャーの仕事をいたずらに増やさない「肝」だったのです。
マネジャーの視野をひろげ、メンバーの働きやすさを実現する
『最軽量のマネジメント』には、サイボウズが陥った失敗という実例から、組織やチームにあるべき理想のマネジメントを学べます。
これからリーダーを目指す人も、チームの一員としてリーダーを支えたい人も、多くの気づきを得られる一冊です。
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