高木三四郎著『年商500万円の弱小プロレス団体が上場企業のグループ入りするまで』より

いいレスラーとグラドルには3つの共通点がある。倉持由香と「DDT」社長が語る“自分だけの戦い方”

仕事
全日本プロレス」「新日本プロレス」といった超巨大団体があるなか、インディーズのプロレス団体としてはじまった「DDT」。

「王道の戦い方をしては生き残れない」と、「路上プロレス」「人形レスラー・ヨシヒコ」など斬新な演出で頭角を表し、プロレス業界に新しい戦い方を生み出しました。

2017年にはサイバーエージェントグループ入りを果たし、さらなる飛躍を遂げようとしているDDTの高木三四郎大社長がこのたび、書籍『年商500万円の弱小プロレス団体が上場企業のグループ入りするまで』を上梓。

団体のこれまでの道のりのほか、サイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋氏との対談も掲載されている同書より、グラビアアイドル・倉持由香さんとの対談「パイオニアになる方法」というテーマを抜粋してお届けします。
年商500万円の弱小プロレス団体が上場企業のグループ入りするまで

年商500万円の弱小プロレス団体が上場企業のグループ入りするまで

尻職人と電流爆破はパイオニアだ!

高木:倉持さんは毎日、何かしらツイートしていて、それこそ、お尻を強調したポージングで「尻職人が〇時をお知らせします」、あれも素晴らしかったです。

イベントや出演番組に関しての告知の仕方も絶妙で、個人的に楽しんでたのもありますけど、プロモーションの観点からしてもすごく興味深かったです。

倉持:いえいえ、そんな。自画撮り部の活動は5年前からやっていて、売れっ子から新人ちゃんたちまで幅広いグラドルたちにハッシュタグを使ってもらってます。

高木:倉持さんの本『グラビアアイドルの仕事論 打算と反骨のSNSプロデュース術』(星海社新書)も、ツイッターの告知に乗っかって早速、Amazonで買わせていただきました。すごく勉強になりましたよ。

知名度のピラミッド理論」とか、まさしく、僕らが心がけなくちゃならないところだなって思って。

倉持:有難うございます! うれしい!

高木:これは昔、天龍(源一郎)さんが言っていたことなんですが、「ナマで試合を見に来る人たち、ライブ観戦する人たちのためだけに試合をするんじゃなくて、週プロや東スポなどを通じて試合を知る人に向けても、試合を見せなくちゃいけないんだ」と。

倉持さんの理論って、このことに通じるんですよ。僕らを見ているのは、ナマで試合を見ている人ばかりじゃない。

とくにプロレスって活字のジャンルで楽しむ要素もあるし、実は結構、妄想を搔き立てられるスポーツでもあったりするんです。

倉持:プロレスラーも妄想する部分が?

高木:見せる見せないという部分はあるかもしれないですけど、プロレスって、「この試合ってどうなの?」っていうか、「ガチなの? これマジだよね?」とかよく言われるじゃないですか。

僕らは全部マジでやってるのに。そういったところも含めての妄想。「プロレスラーだな、これは」って著書を見て改めて思った次第です。

倉持:なるほど~。本のなかにも書いたことですが、グラドルって一番妄想を搔き立てる存在だと思うんです。

エロや露出だけを突き詰めていったら、やっぱりアダルトの女優さんには勝てないので、私たちは「三点隠し」(バストと下半身を隠す)しながら、見えそうで絶対に見えないギリギリのラインを攻めて、「その下はどうなってるんだ?」って妄想させる余地をあえて残す。それがグラビアの良さであるなと。

グラドルは、己の肉体一つで戦い、そしてその世界で生き延びて、どんどん上に昇っていく。こういうところも、レスラーの方たちと通じるところがありそうですね。
【倉持由香(くらもち・ゆか)】1991年11月6日生まれ。千葉県出身。G-STAR.PRO所属のグラビアアイドル。コンプレックスであったボリューム感あるお尻を「100センチのもっちりヒップ」のキャッチコピーのもとに推しはじめ、美尻を強調した自画撮りをツイッターへ投稿する「尻職人」として注目を集める。さらに「#グラドル自画撮り部」を立ち上げ、グラビアアイドルたちが同ハッシュタグ(#)をつけて自画撮りをSNSに投稿するムーブメントを生みだした。理論的に自己プロデュースを行う姿勢と情熱はグラドルファンにとどまらず広く知れ渡り、グラビアアイドルとして活躍する傍ら『ミスiD2018』の審査員を務めるなど、プロデュース活動にも携わる。写真集に『#東京尻百景』『台湾驚異的美尻集』など。SNSを活用した独自の仕事術をまとめたビジネス書『グラビアアイドルの仕事論 打算と反骨のSNSプロデュース術』も上梓。
高木:己の肉体一つ! まさにそのとおりですね。僕も2000年代とかにイエローキャブさんのグラドルの方たちをよく見てきた世代ですが、大半が胸を強調される感じで、今もやっぱりそういう路線の方が多いですよね。

そうしたなかで、倉持さんが「」で勝負をかけたというのが単純にすげえなって。

倉持:でもやっぱり今も、主流は「童顔で巨乳」なんですよ。篠崎愛ちゃんとかですね。ただ、グラビアの世界におけるその枠は、もう富士山みたいなものなんですよ。頂上にはそういう方たち大勢が君臨していて、登れる場所がない。

私も最初は、その富士山を登ってたんですが、全然上まで行けなくて、ふもとの樹海をさまようばかりで。かれこれ9年くらいさまよっちゃったんですが(苦笑)、これではいつまでたっても五合目にもつけないなって思って、富士山に登るのはあきらめたんです。

それなら、新たに別の山を自分でつくって、そこの頂上に登ればいいんだと。富士山の隣あたりに、「尻職人の砂山」を立てたって感じですね。

富士山の中腹にいても上空にいるメディアの皆さんから見つけてもらえないけど、砂山の頂上だったら見つけてもらえる可能性があるなと。

高木:すごい発想です! パイオニアの人だからこそ新たな世界を確立できるんですよね。プロレスに置き換えれば、大仁田厚さんと電流爆破ですよ。日本になかったデスマッチプロレスという砂山を築いたパイオニアなんです。

倉持:尻職人と電流爆破は、ともにパイオニア!(笑)

高木:ええ。路上プロレスや自宅プロレスもそうなんですよ。新日本さんも全日本さんも絶対にこんなことやりません。

これまでにないジャンルで勝負するのは、DDTの目指すところですから。プロレスにはこういう見方があったんだと気づかせることが僕たちの狙いでもあったんです。

そもそも倉持さんは、なぜ尻で勝負に出たんですか?

倉持:もともとお尻が大きいのがコンプレックスだったんです。100センチを「89センチです」って逆サバ読んだりするくらい嫌だったんですけど、あるとき、カメラマンさんから、「もっちーはそのお尻を武器にしたほうがいいよ」って言われたんです。

それを武器にしなければ、ただの『無駄尻』だよ」って言われて。

高木:無駄尻!

倉持:自分なりに考えながら9年間、こういうふうにやったら売れるんじゃないかなってやってきたんですが、なかなか芽が出なかったんで、だったら一番タレントを客観的に見ているカメラマンさんの意見は正しいんじゃないかと。

そうと決めたら、あとは早かったですよ。お尻の写真を5分に1回くらいの頻度でツイッターに載せはじめたんです。

タイムラインを私の尻で埋め尽くしてやる!」って。とにかくもう、尻の子だと思わせたら勝ちだと思ってやってました。

「尻職人」っていうのは、タイムラインに毎日尻を届ける自分はまるで職人みたいだなって思って、言いだしたことなんですけどね。

載せ続けたら、当時のフォロワーさんは3000人くらいだったのが1カ月で1万人に、その年のうちに3万人、今は41万人くらいにまでなりました。

いいレスラーは、決めポーズ、決めゼリフ、そして決め入場曲の3本で決まる

高木:倉持さんがSNSで発信している尻職人ショットですけど、インパクトありますよね。男性目線で何が好まれるかがちゃんとわかってらっしゃる。

倉持:有難うございます。自画撮りのときは、全身鏡に映して撮っています。撮られることにもテクニック、ノウハウがあって、撮影のときは指先、足先まで神経とがらせて、360度どこから撮られても、どの瞬間にも美しくエロく、自分が一番魅力的に映るポージングや表情になることを常に研究していますね。

高木:倉持さん、絶妙なんですよね。見えそうで見えないのもそうなんですけど、自分の武器の見せ方が見事というか。

僕らの場合も、四方のお客さんから体つきや筋肉はどう見えているか、そしてそれが写真映えするか、それがどうSNSに発信されて拡散されるかというところまで考えてます。

グラドルと同じ「見られる職業」なんですよね。

これは僕の持論なんですけど、「プロレスは入場8割、試合2割」。入場ってすごく大事で、お客さんの高揚心を最初に煽るところなんですよ。

オリジナリティあるポージングで、筋肉のカットもよく見えているかとか計算しながら、お客さんを煽る。そんなポージングの最中に手がダラ~ッとしてるヤツなんか、まったくダメです。

倉持:もったいないですね。

高木:手だけじゃなくて、顔なんかもっとそう。隙は見せちゃダメなんです。試合中に顔が崩れたりするのは仕方ないけど、入場のときから顔が崩れているのはありえない。

笑うなよって選手には厳命してます。倉持さんは、いつも全身鏡に映しながらチェックしているそうですが、それ、すごくよくわかります。

倉持:お風呂に入る前に、全身鏡の前で全裸になって見ています。あ、ここに肉がついてきたなとか、このポージングを今度の撮影でやってみようかなとか、常に細かく見て研究するようにしてますね。高木さんも全身鏡とか見るんですか?

高木:全然見ます。人に見られるのは若干恥ずかしいんですけど、自宅の姿見でこのへんの筋肉が足りないなとか見てますね。でも最近は、ちょっとあきらめてます(笑)。

倉持:グラドルみたいですね。

高木:いいレスラーは、自分の体の見せるべきところを知っているんです。

さらに、決めポーズ、決めゼリフ、そして決め入場曲の3本が揃えば間違いないんです。アントニオ猪木さんで言えば、「1、2、3、ダーッ」とか「炎のファイター」、決めゼリフなんか山ほどある。

プロレスラーはキャラクタービジネスなんで、この3つが認知されればやっていけるんです。

倉持:グラドルもまさしくキャラクタービジネスです。ものすごく大勢いるなかで、誰もが名前を挙げられる子って10人もいないかもしれません。

おかげさまで「尻職人」といえば私だってわかっていただける方はだいぶ増えましたし、「くびれスト」というと川崎あやちゃんがいる。頭に浮かぶ子には何かしらキャッチフレーズがあるんです。

高木:プロレスにメッチャ近いですね。キャッチフレーズのないヤツは売れません。

飯伏幸太は「ゴールデンスター」、竹下幸之介は「ザ・フューチャー」。僕なんかは「大社長」なんで、とりあえずこのTシャツ着て出てます。

倉持:レスラーの方って、煽りのV(映像)もあるし、ポスターとかにもキャッチフレーズや煽り文句がつきますよね。DDTでは誰がそれを考えるんですか?

高木:僕が考えてた時代もあったけど、基本的にはうちのスタッフたちと一緒に考えてます。ちなみに、「ゴールデンスター」は僕とマッスル坂井で考えました。

倉持:グラドルのキャッチフレーズって、それまでかわいい感じのものが多かったんですよ、「〇〇姫」とか。

「尻職人」はそんなグラビアの柔らかさとは真逆に行ったんです。「なんだそれ!?」ってなるかなって。
高木:最近は、見た目のインパクトやキャッチフレーズに加えて、SNSなどでの発信力も人気の裏付けになってますよね。

倉持さんのテクニックには本当に恐れ入りました。#(ハッシュタグ)の使い方、リプライのマメさ、リツイートの技なども。

倉持:高木さんもツイートの頻度がマメですよね。うまいなあと思うのは、告知の仕方の丁寧さ。

グラドルでも告知一つができない子は結構いるんです。例えば「今週イベントで~す、来てね」だけでは、読んで特別なところがないから見ている人に響かないんです。

高木:倉持さん、そのあたりがうまいですよね。書かれてることも絶妙です。

あ、そういえば、ウチの男色ディーノも結構うまいんですよ。アイツ、文章能力が結構高くて、それに助けられることがあるんですよ。

SNSで炎上したときに鎮静させるのはディーノ、火をつけるのはだいたいササダンゴ・マシンなんですが(笑)。
男色ディーノ (@dandieno) | Twitter

男色ディーノ (@dandieno) | Twitter

男色ディーノさんのTwitterはこちら
スーパー・ササダンゴ・マシン (@abulasumasi) | Twitter

スーパー・ササダンゴ・マシン (@abulasumasi) | Twitter

スーパー・ササダンゴ・マシンさんのTwitterはこちら
倉持:ササダンゴさん!(笑)。ディーノさんも自己プロデュースの塊かたまりですよね。男色を売りにする、男色殺法なんて唯一無二。

高木:ディーノはすごいですよ。相手がやられたら絶対に嫌がることを、本当によくわかってる。倉持さんもディーノの尻技を食らったんですよね?(2019年3月『路上プロレスin Abema Towers』)

倉持:食らったんですよ! 

でもディーノさん、お尻をすごくケアしてますよね。とってもきれいなお尻でした。ブツブツとかがなくて、ツルンとしてて。ディーノさんも尻職人ですね!(笑)。

高木:ぜひまた倉持さんには、尻職人として参戦してほしいですね。

倉持:有難うございます! Abema Towersでの『路上プロレス』では、越中詩郎さんとW尻職人ということで、一緒にヒップアタックをやらせていただいたことも、すごく楽しかったです。

DDTならではの壮大なエンターテインメントの世界というか、ひとつのミュージカルみたいな流れのなかに私も入れていただいたのが、すごくうれしくて、皆さんの仲間に少し入れた気がしました。また何かあったら参加させていただけたらうれしいです。

高木:ウチの尻職人連れて、倉持さんのタワマン行きますよ!

倉持:あ、それはまた何か別の機会ということで…。

弱小団体がいかに戦っていくか、その戦いぶりに背中を押される一冊

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大衆文化として成熟していたプロレス業界に、新しい風を吹かせたDDT

決して一筋縄ではいかなかった弱小団体の戦い方には、セルフプロデュースやSNS戦略、話題化など、現代のビジネスパーソンにも学びになるものばかり。

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