ビジネスパーソンインタビュー
現代は悪意を自覚できるステップがなくなった
山崎まさよし「僕も他人の成功は面白くない。でも、“醜い自分”への葛藤が人間には必要だ」
新R25編集部
最近、「自己肯定感を高めよう」「自分のことを好きになろう」みたいな話をよく聞きます。
でも、自分を好きになるって難しい。きっと誰もが心のなかに「好きになれない醜い自分」を飼っていて、そいつとの付き合い方に苦労しているはず。
そんなことを思い、「醜い自分との付き合い方」をテーマに、シンガーソングライター・山崎まさよしさんにインタビューしてみました。
デビュー以来、どんな曲でも飾らずかっこつけず、「醜い主人公」も見事につづってきた山崎さんは、現在公開中の映画『影踏み』にて、主演として“泥棒”役を熱演。
「警察や政治家じゃなく、底辺の人間の気持ちなら演じられると思った」とお話しされていた山崎さん、「醜い自分」についてめちゃくちゃ本音をぶっちゃけてくれました。
〈聞き手=サノトモキ〉
【山崎まさよし(やまさき・まさよし)】1971年、滋賀県生まれのシンガーソングライター。「One more time, One more chance」「セロリ」など数多くの名曲をヒットさせる一方、俳優としてもコンスタントに活動している。俳優デビュー作の映画『月とキャベツ』(1996年)の制作陣が再度集結した映画『影踏み』で主演をつとめる
「他人がうまくいってるのを見るのは面白くない」山崎さんにもある、“醜い部分”
サノ
ということで今回は「醜い自分との付き合い方」がテーマなんですけど…
なんか暗い話ですみません…
山崎さん
いやいや全然、大丈夫ですけど。
いや、困惑してませんか? 大丈夫?
山崎さん
結局、人間ってみんなそうじゃないですか?
隠してるだけで、みんな醜いし、人には見せられないようなみっともない自分を抱えてますよね。
サノ
穏やかなイメージがある山崎さんにも、そういう自分がいるんですか?
山崎さん
そりゃいます。若いころは、「自分さえよけりゃいい」と本気で思ってましたよ。
「歌と音楽さえよければ、人間性は最低でもいいだろ」とすら思ってた(笑)。
サノ
(それはなかなかだな)
山崎さん
いろんな人に嫉妬もしてましたね。
とあるアーティストが世界でCD売上No.1を叩き出したって雑誌で読んだとき、「なんでこんなもんが世界でNo.1やねん!」って思っちゃったこともありましたもん。
「なんでこれがウケてんねん!」って。
山崎さん
もちろん今では、「順風満帆に見える人も陰で努力と苦労を重ねている」とわかるんですけど…
それを理解したうえでもやっぱり、他人がうまくいってるのを見るのは面白くないんですよ。
とくに自分と同年代の相手に対しては、「あんなやつ、俺とほとんど変わらない、大したことないのに」って言いたくなる。
サノ
わかりすぎてつらい…
そういう嫉妬をしてると、「ただ相手を批判したいだけの自分」に気付いて、「ああ、自分ダメだなあ」って落ち込んじゃったりします。
山崎さん
いや、それでいいんじゃないですか?
「ダメだなあ」と落ち込む。それが「醜い自分」との向き合い方の答えだと思いますよ。
サノ
えっ?
どういうこと…?
「海外の犯罪者って…」自分の醜さを認識することが大事
サノ
落ち込むことが、正解…?
なんかもっと、「醜い自分」を消し去る方法を聞けるかと思ったんですけど…
山崎さん
いや、消そうだとか、コントロールしようだなんて無理ですよ。感情なんて反射的に生まれるんだから、干渉のしようがない。
そういう醜さや悪意も含めて自分なんだと、認めるしかないでしょう。
サノ
でも、それじゃあずっと苦しいままじゃないですか!
山崎さん
その、「醜い自分」に葛藤する苦しさが、人間には必要なんですよ。
山崎さん
たとえば…海外の犯罪者って、名前とかを書いた板を持たされて写真撮るじゃないですか。
サノ
えっ…逮捕後に撮影される、よくドラマとかで見るアレのことですね。
急に何の話…?
山崎さん
あの写真をたくさん調べるとよくわかるらしいんですけど…
サイコパスな事件を犯した犯罪者って、顔がシンメトリー(左右対称)なケースが多いと報告されてるんですって。
真ん中に鏡を置いたように、きれいに左右対象になってるらしい。
サノ
へ、へええー!
山崎さん
それは、二面性がないからだそうです。
自分のなかに善と悪がない。だから、感情の起伏も圧倒的に少ない。そのぶん表情も変化しないので、歳を重ねても顔がズレていかない。
…という話を聞いて、僕ゾッとしちゃいましてね。
サノ
こっわ…
もはや怪談師のたたずまい
山崎さん
まあこれは極端な例ですけど、自分のなかの醜さをきちんと「醜さ」として認識できているかどうかって、人が生きていくうえでめちゃくちゃ大事な話だと思うんですよね。
サノ
たしかに…
自分の「醜さ」を自覚できない人は、それを平気で人に向けてしまえるってことですもんね。
山崎さん
そう。自分のなかの醜さや悪意は、「必要悪」として認識しておくべきなんです。人を攻撃したくなったとき、その自覚が何よりもセーブになる。
だから、「とても人様にはお見せできない自分」がいるという感覚があるのは、決して悪い状態じゃない。
むしろ、すごく大切なことだと思います。
「スマホが登場して、醜い部分を簡単に人前に出せるようになった」
サノ
でも、最近はSNSによって、今までは隠してた醜い部分を人前に出せちゃう時代になったと思うんです。
職場や学校、家庭での不満、仕事仲間、友達、芸能人の悪口…過激な投稿が多いなと。
山崎さん
まあ、便所の落書きみたいな感じだよね。
匿名だから、普段押し殺してる感情を堂々とぶつけられる。今は家にいながら、便所の落書きができるようになった。
めっちゃ言い得て妙。さすがすぎる
山崎さん
僕は、スマホの出現によって一番変わったのって、「これはやっていいことなのか」を考えるワンステップがなくなってしまったことだと思うんですよね。
サノ
うわ、それわかるかも…!
山崎さん
スマホの価値って、「手元で何でもできること」じゃないですか。
その便利さが、「行動すること」のハードルを下げすぎてると思うんです。
山崎さん
たとえば、「撮影」もそう。
街を歩いてると何の断りもなく写真撮られることがあるけど、昔は、誰もがカメラを持ち歩いてるわけじゃなかったから、「撮影」自体が当たり前じゃなくて、撮りたい人はきちんと声をかけてお願いしてた。
サノ
想像できる気がします。
山崎さん
でも今ってみんな、ほとんど反射的に撮影してるんです。
いまや人間は、「手の平をかざせば撮影できる生き物」なんですよ。もう、ほぼアイアンマンなんです。
「キュィィイン言うて」
山崎さん
スマホはもはや、肉体の一部なんです。スマホの機能は、イコール自分の身体機能みたいなもんなんですよ。
それくらい、スマホはいろんな「行為」のハードルを下げて、その行為の善し悪しを考えるステップをなくしてしまった。
サノ
納得感がハンパない…
山崎さん
SNSの投稿も同じ。
人気のない真夜中の便所じゃなきゃ吐き出せなかったような感情を、家のなかで発散できてしまう。
「自己表現」が簡単になりすぎた結果、今アウトプットしようとしている感情が「醜さ」や「悪意」だと自覚するステップがなくなってしまったのだと思います。
どうしても「悪意」を外に出したいなら、作品としてアウトプットせよ
サノ
そこで「必要悪」だと認識できていればストッパーになると思うんですけど…とはいえ、自分の負の感情をどこにも発散できないのも苦しいと思うんです。
僕もSNSの“下書き”にはめちゃくちゃ悪意ある投稿がたまってますし…
山崎さん
でも、そうやって下書きに書くのもいいと思いますよ。一度、人に見せない前提で書ききってみたらいいと思います。
自分の汚いものを再確認するのは嫌だけど、外側に吐き出すだけで案外スッキリするもんです。
山崎さん
それでも昇華されないなら、自分の内側に共感されたいか、人を傷つけたいかのどちらかがありますよね。
サノ
ああ…間違いないです…
山崎さん
どうしても投稿するなら、「人様にお見せする以上、作品として発信する」と決めてしまってもいいかもしれないですね。
今は良くも悪くも誰もが発信できる時代だし、作品ならば、便所の落書きよりは言葉に責任感がともなうはず。
サノ
なるほど…!
いずれにせよ、まずは自分のなかの「必要悪」をきちんと認識することが大切なのか…
今日は貴重なお話、ありがとうございました!
面白いし、奥深いし…とっても楽しい時間でした!
「誰もが、人には見せられないような醜い自分を持っている。でもその葛藤は、人間がまっとうに生きていくうえで欠かせない“必要悪”」
今の自分を否定することなく、けれど甘やかすでもなく、そのままで前を向かせてくれる山崎さんの言葉。まさに「シンガーソングライター・山崎まさよし」の真骨頂を見た気がしました。
人に嫉妬したり、傷つけたくなったり…そんな自分を打ち消すことはできないかもしれないけれど、山崎さんが教えてくれた言葉をつぶやけば、少し気持ちを落ち着けることができるかも。
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉
そんな山崎まさよしさんが主演を務める映画『影踏み』が絶賛公開中!
原作は日本ミステリー界の巨匠、横山秀夫。
山崎まさよしさんは、深夜に人のいる住宅に忍び込み、現金を持ち去る凄腕の「ノビ師」真壁修一を熱演しています。
偶然侵入した寝室で、就寝中の夫に火を放とうとする妻の姿を目にした真壁は奇妙な事件に巻き込まれていき…。
篠原哲雄監督が描く、一級のヒューマン・サスペンスをぜひ劇場でご覧ください!
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