ビジネスパーソンインタビュー

「同情されたいという気持ちは、中毒になる」アン ミカが語る“被害者意識”の抜け出し方

“持っているバッグの値段”をSNSで比べる必要はない

「同情されたいという気持ちは、中毒になる」アン ミカが語る“被害者意識”の抜け出し方

新R25編集部

2019/12/10

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最近、SNSで芸能人が何かハッピーな投稿をすると…

あなたの発言で、私はこんなに傷つきました!

その投稿、こういう人が傷つくのでやめたほうがいいと思います!

辛い思いをしてる人もいるのに、よくそんな投稿ができますね

こんな言葉をよく見かける気がします。「被害者を名乗る人々」が「幸せそうな人」を一斉射撃する光景…。

SNSで他人と自分を比べる機会が増えたことで、過度に「被害者意識」を抱きがちな時代になってしまっているのでは?

そんなことを考え、今回は、書籍やテレビで繰り返し「被害者意識は持たないほうがいい」と指摘されているアン ミカさんにお話を伺ってきました。

【アン ミカ】1972年生まれ。韓国出身、大阪府育ち。1993年にパリコレに参加以降、モデル業以外でも、テレビ・ラジオ出演、ジュエリー・ファッションデザイナー、化粧品プロデュース、エッセイ執筆や講演など、さまざまな方面で活躍

〈聞き手=サノトモキ〉

家は4畳半、差別、火事…アン ミカさんの「被害者意識」が形成されるまで

サノ

アン ミカさんはいろんなところで「被害者意識は捨てるべき」とおっしゃってますが…

なぜ「被害者意識」というテーマに関心があったのでしょう?

アン ミカさん

じつは、私自身がものすごく「被害者意識」にとらわれていたんです。

幼いころから「貧しさ」や「韓国人差別」を経験して、「被害者意識」ができあがっていった。

アン ミカさん

4歳のとき韓国から大阪のコリアンタウンに引っ越して、暮らしていたのは4畳半の長屋

7人家族だったので、家にいるときはいつも誰かの足が当たっているような環境でした。

サノ

よ、4畳半に7人も!?

パリコレでモデルをされたアン ミカさんのエピソードとは思えない…

アン ミカさん

小学校3年生のときにやっと引っ越せたと思ったら、今度は転校先で「韓国人差別」が始まって。

アン ミカさん

道徳の授業で「差別はいけません」と習った次の日から、急に無視されるようになったんです。

それからは、友達の家に行っても「ミカちゃんは韓国人だから遊んだらダメってお母さんに言われた」と断られるように…

サノ

辛すぎる…

アン ミカさん

それでも家族みんなで前を向いて、引っ越してラーメン屋さんをはじめたんですけど、お店が流行りかけた途端、家が火事で全焼してしまった

サノ

え…

アン ミカさん

そのあと、働きづめだった母は病気で、私が15歳のときに亡くなってしまって。

母の入院中は病院代をまかなうために父も出稼ぎにいってしまったので、私たち兄弟は教会や親せきに預かってもらい、新聞配達をして学費を稼いでました。

サノ

もう…聞いているだけで辛いです。

アン ミカさん

そうやって不幸が重なるうちに、明確な加害者がいないから「どうして自分ばっかり」って気持ちがどんどんふくらんでいったの。

だから、「被害者意識」を持ってしまう気持ちはすごくよくわかるんです。

アン ミカさん

でも、そのうえで私は、「被害者意識は捨ててしまったほうがいいよ」とはっきり言いたい。

被害者意識を持つことに慣れると、“同情されグセ”がつく

アン ミカさん

「被害者意識」って本当に怖くて…

同情されることでしか自己肯定感を満たせなくなってしまうんですよ。

サノ

…? どういうことですか?

アン ミカさん

たとえば、「この子は貧しくて、親も病気で大変」って、みんなが私に同情して特別扱いしてくれるようになっていったんです。

鬼ごっこで鬼にされなかったり、宿題が遅れても怒られなかったり。みんなが腫れ物を触るように優しくしてくれた。

サノ

ふむふむ。

アン ミカさん

でも、そうやって特別扱いしてもらってると、だんだん同情されグセがつくんです。

「あっ、被害者的に振舞うと優しくしてもらえるんだ…」と味を占める。

サノ

その気持ち、わからなくはないかも…

アン ミカさん

そのうち、人の優しさに「小さい」とか「大きい」とか思うようになって、「普通サイズの優しさ」じゃ満足できなくなってしまう。

“みんなに自分のことを思って泣いてほしい”とまで思ったこともあったもん。

…すごいやろ!?

勢いあまって、ここまでは出ていなかった関西弁が飛び出すアン ミカさん

サノ

中毒になってしまうんですね。

アン ミカさん

そう。いつでも自分が話題の中心でいたいし、相手が自分以外のことを心配しただけでヤキモチを妬いたりもする。

そのうち、「同情されることでしか、自分は人に見向きしてもらえないんじゃないか」という強迫観念を持つようになる。

サノ

完全に負のスパイラルだ…

「男運悪い」と言う人は、ずっと言いつづける。“時間泥棒”になってしまう恐怖

アン ミカさん

人に優しさを要求する気持ちがエスカレートしていくと、最終的に「時間泥棒」になって、人が離れていってしまうんです。

時間泥棒…?

アン ミカさん

ちょっと厳しい言い方をしますけど…被害者意識の強い人は、「被害者でいること」に居心地のよさを感じているので、変わろうという発想が生まれにくくなるんです。

だから、どれだけ親身に相談に乗ってもらっても、本人は自分を変える気がおきないので、同じ不幸を繰り返しつづける。

サノ

同じ不幸を繰り返しつづける?

アン ミカさん

たとえばホラ…よく「私ホント男運悪くて~」って相談してくる女子がいますけど、そういう子って永遠に同じこと言いつづけていませんか?

恋愛はお互い様。自分が選んだ相手と関係を続けるのは本人の自由。だから、男運を何もすべて本人の選択なので、被害者なんてないんです。

サノ

なんかそういう光景、居酒屋とかでよく見かけるかも…

アン ミカさん

優しい人も、何度アドバイスをしても変わらない姿を見たら、同情が欲しいだけの「時間泥棒」だと気づいて、愛想をつかしてしまう。

「与えられたい」ばかりで何も与えず、相手の心と時間を独り占めしてしまうと、行きつく先は、“独りぼっち”なんですよ。

負のループから抜けるには「“どれだけ価値のあるものを持っているのか”を正しく認識する」

サノ

アン ミカさんは、そんな被害者意識の負のループから、どうやって抜け出したんですか?

アン ミカさん

それは、教会の神父さんのおかげなんです。

アン ミカさん

神父さんだけは腫れ物扱いせず、私が高校生になったとき、「そろそろ、自分がもらった優しさを他の人たちにシェアしてあげる側になりなさい」と厳しく忠告してくれたんです。

ほんとうに、頬を打たれたような感覚だった。

サノ

唯一叱ってくれた大人だったんですね。神父さん、素敵だ。

アン ミカさん

“被害者”を抜け出す一番大切なポイントは、そうやって咎めてくれた人の言葉を、どれだけ素直に受け止められるかですよね。

自分ではなかなか気づけないので…

サノ

ちなみに、最近はSNSで「傷ついた!」と“被害者”になっている人も多いと思うんですが、それはどう思いますか?

アン ミカさん

今は、SNSのおかげで“1億人総表現者時代”になりましたよね。でも、その世界ばかりが目に入ってきて、大切なものを見失う人もいる。

たとえば…コツコツ貯めたお金で5万円のバッグを買ったとします

サノ

はい。

アン ミカさん

で、たまたま同じ日に友達が10万円のバッグを買って、SNSに写真を投稿してた

それを見たとたん、「自分のバッグが無価値に思えた」「自分の努力が否定された気分になった」…みたいなことってありますよね?

サノ

バッグじゃないですが、似たようなことはあります…。まわりの人のほうが“上”に見えて、自分の幸せがちっぽけに思えてしまった気分に…

アン ミカさん

それも「被害者意識」のひとつ。本当はそんなふうに思わなくていいんです。

“自分の手元にある幸せ”を、正しく認識できるといいですよね。「頑張って買った5万円のバッグ」は、自分にとってはすごく価値があるもののはず。そのよろこびをまっすぐ受けて止めてほしいんです。

SNSに感情が支配されて、安易に被害者意識を持ってしまうのは注意したほうがいいですね。

サノ

今日はありがとうございました。

正直、僕も危ないなと思いました…被害者意識、ついつい持っちゃいそう。

アン ミカさん

そんなの、私だって今もそう!(笑)

トークショーでこういう話をするとき、いっつも最初に言うの。「私もできてないから!!!」って。

できてないから、話したり、本に書いたりしてるの。人間ってなかなか根は変わらないから、心がけるしかないのよ

サノ

うわ…その言葉はめちゃくちゃ救われる…

アン ミカさん

被害者意識を抱いてしまうことは、誰でもある。

でも、その時間を一瞬にするの。そこからどれだけ早く切り替える術をもっているか。そう心に留めておくことが、すべてのような気がするのよね。

サノ

被害者意識を一瞬で切り替える。なるほど。

アン ミカさん

それこそ、私が神父さんからアドバイスしてもらった「人の相談に乗る」ことはとてもオススメです。

話を聞く側の気持ちもわかるようになって、自分を客観的に見られるようになるから、自分の悩みでいっぱいいっぱいになってるときほど効果的かも。

サノ

そんな実践的なアドバイスまで…

ものすごく勉強になりました!

アン ミカさんが語ってくれた、「被害者意識」が招く負の連鎖

壮絶な過去をあっけらかんと話すその姿からは「被害者意識」など微塵も感じませんでしたが、それでもなお「完璧に消し去ることなんてできない」と言い切るアン ミカさんに、ピシッと背筋を正された気がしました。

ついつい誰かや何かのせいにしてしまうことって、誰にでもあると思います。ポジティブに切り替えることが難しいときだってたくさんある。

それでも、「被害者意識」の危うさを認識しておけるだけでも、大きな分岐点になるのかもしれません。心がけるなら今日からでもできる気がするので、筆者もやってみようと思います!

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉

そんなアン ミカさんの書籍『アン ミカ流 ポジティブ脳の作り方 365日毎日幸せに過ごすために』が発売中!

アン ミカさんが自らのエピソードを振り返りつつ、ネガティブをポジティブに変換するための秘訣を記した書籍「アン ミカ流 ポジティブ脳の作り方 365日毎日幸せに過ごすために」が現在絶賛発売中!

こちらの本にも、被害者意識を取っ払うヒントが散りばめられているかも…!? 気になった方はぜひチェックしてみてください!

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