ビジネスパーソンインタビュー
ときど著『努力2.0』より
世界一のプロゲーマー・ときど「負けや失敗に慣れろ。努力とは“負け”を積み重ねることだ」
新R25編集部
東大卒のプロゲーマーであり、国内のみならず海外で圧倒的な知名度を誇るときどさん。
2019年には2つの世界大会で優勝しましたが、一時期まったくと言っていいほど勝てない時代があったそうです
eスポーツの市場がどんどん大きくなり、つねに新しい勝ち方が確立されていく環境に、対応しきれなかったと言います。
しかし、そこでは今までのやり方を見直し、復活を遂げたノウハウを、著書『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』にまとめました。
同書より、ときどさんが導き出した新しい「努力」の形を、3記事にわたって抜粋して紹介します。
「とりあえず」やってみる。これが僕の努力
僕の座右の銘は「やってみる」です。
これが僕の行動規範であり、努力2.0で一番大切にしている考え方です。
「コツコツ積み上げて成し遂げる」とか「はいつくばってでもやる」ではありません。
軽い感じで、「とりあえずやってみる」のが、僕のスタンスです。
ちょっといい加減な感じがするかもしれませんが、今の僕にとって、このやり方が最も効率よく成果に近づく方法だと思っています。
格闘ゲームでも勉強でも、仕事でも、本番で何らかの成果を出すには、日々の学びの積み重ね=反復が必要です。
プロゲーマーであれば練習、受験生なら受験対策がそれにあたります。ビジネスパーソンのように日々の仕事が、本番かつ学びの場の場合もあると思います。
格闘ゲームの場合、ざっくり次のような「学びのサイクル」を反復することになります。
①インプット:必要な技術を学ぶ
②アウトプット:学んだ技術を試す
③フィードバック:試した結果から、不足や新たな発見を学びに生かす
重要なのは、このサイクルを回す「スピード」を、できる限り速くすること。格闘ゲームでいえば、どんどん対戦して、どんどん結果を検証することです。
理由は2つあります。
ひとつは、eスポーツの世界では正解が常に変化しているからです。
例えば「昨日の試合でAの戦い方で勝った。今日、同じ相手に同じ戦法を使ったら負けた」。こういうことが、当たり前に起こります。
ずっと同じことをやっていたら勝てません。
プレイヤー人口が増えたこと、情報が共有されるようになったこと。大きくこの2つの理由で、攻略の速度は飛躍的に高まりました。
常に新しい一手が研究され、それが披露されることが、また新たな一手を生むきっかけになるのです。
日々状況が更新されているので、時間をかけていると更新された情報に対応していないやり方になってしまいます。
同じ「反復」でも、昔はコツコツ時間をかけて準備をし、本番に臨めばよかったけれど、今は、いわば「小さな本番」を繰り返して学び続けないと、努力が全部ムダになってしまうのです。
2つ目の理由は、試行回数を増やしてなるべく多く失敗するためです。
「えっ、失敗はなるべくしない方がいいでしょ」…そう思った人が多いかもしれません。
誰よりも勝ちにこだわっていた、過去の僕もそうでした。
でも、正解がない、あるいは常に変化している状況においては「負け」や「失敗」は僕らの味方になってくれるものなのです。
実際、「勝ち筋」よりも「負け筋」の方が、圧倒的に分析・検証がしやすい。
失敗することで、自分がやろうとしていることが正しいのか、間違っているのかが明確にわかります。
「負けや失敗に慣れる」ことによるいい影響もあります。ここぞという本番に強くなれるのです。
僕も大事な試合では緊張もするし、結果どうなるのかの不安を持つこともあります。
それでもいざ試合が始まれば、それを忘れて思い切りやる。
「返し技をもらったらどうしよう」
「思い切った行動をされたらどうしよう」
と考えれば積極的な手は打てませんし、勝負のタイミングも逃してしまいます。
積極的に行動して失敗しても「当然のこと」として受け入れ、だったら次はこうだと二の
矢三の矢を放っていく。
力を出し切りたいのなら、どうなるかわからない結果からは距離を置く。だからこそ、プレッシャーがかかる場面でも踏ん張れるのです。
「1%の気づき」が勝負を分ける
もともと、僕は殴られないとわからないタイプで、先見の明があるとはいえません。
だからこそ何でもすぐにやってみることで、現実の風に当てる。
頭で考えてもわからないことを、現実に教えてもらう。そのようなやり方で物事を進めてきました。
「頭で考えるより、まずはやってみる。現実から教えてもらう」。
このやり方を機能させる上で大切になるのが、現実を感じ取る「センサーの感度」です。
勝ち負けだけが基準となると、負けない限り修正はしない。結果、いわゆる対症療法にならざるを得ません。
症状が出ないからと病院にかからずに、いざ痛みを感じて検査をしたら深刻な事態になっていた…これでは手遅れです。
特にレベルの高い環境になると対症療法では間に合いません。受け身になると対処は後手後手になります。
それではeスポーツにおける速い変化についていくことは困難です。だから問題意識を持って、積極的に先手を打つ必要があるのです。
今の僕は自分のプレイを検証するとき、表面的なミスの場面「以外」にも注意を向けるようにしています。
一見正しい対処をしている場面でも「本当はもっといい方法があるのではないか」「全体を通して考えたら別のやり方があるのではないか」と積極的な視点で考える。
ときには効率が悪いとされ、捨てられた選択肢を拾い直したりもします。
対戦のポイントとは別の視点で、個別の場面を見直すこともあります。
こちらが攻め込むとされる組み合わせでも、あえて受け気味(防御する側)の戦いで勝つ方法を真面目に考えてみたりします。
戦い方の方向性が変われば、場面の正解も異なってくる。普段とまったく違う頭の使い方をするため、意外な発見のきっかけになるのです。
とはいえ、正直いって即効性のある解答が出ることはほぼありません。試みのほとんどは失敗に終わります。
しかし、失敗に終わるからといって、意味がないことにはなりません。
いろんな視点で考えたことがヒントになって、あるときにまったく別の形で開花することがあるからです。
1割打者でいい。とにかく打席に多く立て
成果の数はチャレンジの数に比例します。単純に機会が増えれば自然に成果の数も増えます。
もちろん「実力」が高いほうが、成果を上げる確率は高いでしょう。しかし、その差は試した数で埋めることができます。
10回打席に立つ3割打者と、20回打席に立つ2割5分の打者。
どちらがヒットの数が多いかは自明のことです。この5分の差を実力で埋めることは、簡単ではありません。
それに比べて機会を増やすことは、遥かに簡単です。ただ増やせばいいのです。
もし1割打者だったとしても、まったくかまいません。
これは、実力を上げることを怠っていいということではありません。せっかくの実力を示すためにも、積極的に実戦投入していくのです。
格闘ゲームの世界でも、力はあるのに、大会にあまり参加しないプレイヤーがいます。
ただ遊んでいることが楽しいのなら問題ないのですが、実績をあげたいのであれば、あまり望ましい態度ではないと僕は思っています。
彼らの言い分は、「もっと練習してうまくなってからじゃないと」「人前で見せられるレベルじゃないから」というものです。
ですが、自分の理想とする状態に仕上がるまで待っていたら、いつまで経っても参加できないことになってしまいます。
またeスポーツの宿命で、いつまでも同じタイトルに人が集まっているとも限りません。旬のタイトルで行う大会だからこその熱量があり、そこでしか伸ばせない実力もあるのです。
みすみす機会を逃すのは、実にもったいないことです。
僕は、誰よりもたくさんの大会に出ている自負があります。毎年20試合以上。これは、月に1〜2回ペースで海外に遠征していることを指します。
他のトッププレイヤーでも、僕ほど全世界を飛び回っている人はなかなかいません。
年間を通じて行われる「カプコンプロツアー(※)」のポイントランキングで、2016年は2位、2017年は2位、2018年は1位でした。
※
カプコンプロツアー
:「ストリートファイターシリーズ」を販売するカプコン社が主催する一連の大会。
毎年3月〜12月の期間中に行われ、世界最大の格闘ゲームの大会EVOも、このツアーに含まれる。ツアーの終盤、12月には、プロツアー上位32人による「カプコンカップ」が行われる
これは僕の「実力」というよりは「たくさんの大会に出ているから」なのです。
カプコンプロツアーのポイントランキングの仕組みはシンプルです。
年間を通じて行われる国際大会にそれぞれポイントがついており、プレイヤーは優勝、ベスト4、ベスト8と順位に応じて点数を獲得していきます。
仮にベスト8以下であっても、点数は獲得できますが、出場しなければ0点です。
ゴールだけを見れば、年末のカプコンカップの参加権を得るためのレースなわけですから、1位をとりにいく必要はまったくありません(上位32人に参加権が与えられます)。
でも、出る大会を絞って備えているときよりも、多少疲れても世界中の大会にエントリーして戦うようになってからのほうが、結果的にひとつひとつの大会の結果もよくなっていることに気づいたのです。
どんなに時間をかけて完璧に準備したとしても「勝率100%」は、現実的には不可能です。
「最低限の試合にしか出場しない。その代わり全部勝たなくては!」という戦い方と「ちょっと多めに出場しておいて、ベストを尽くそう」という戦い方。
後者の方が結果が出やすいのです。
東大卒で世界一のプロゲーマーのときどさんの努力法を学ぼう
ときどさんの努力は、地道な一面を持ちつつも、今までの「根性で歯をくいしばってやり抜く」的な努力とはまるで違います。
努力って、もっと柔軟で理性的で、かっこいいもの。同書には、これからの時代で磨くべき努力の方向性を、ひしひしと感じられました。
〈撮影=飯本貴子(@tako_i)〉
ビジネスパーソンインタビュー
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