ビジネスパーソンインタビュー
鈴木祐著『科学的な適職』より
人間の脳には、自分に向いている仕事を決める能力がない。判断を邪魔するバイアスを把握せよ
新R25編集部
将来、キャリアへの不安を感じている新R25世代は少なくないでしょう。
まわりに相談しても返ってくるのは「好きなことを仕事にしよう」「安定した業種を選ぼう」「フリーランスこそ至高の働き方だ」「スキルアップできる会社に入ろう」「自分だけの強みを生かそう」など多種多様なキャリアアドバイス。
どの考え方にも一定の説得力があるので、相談したことで「何が正解なんだろう…?」とよけいに混乱することもあります。
そんな悩める我々にとって特効薬になりそうな書籍『科学的な適職 4021の研究データが導き出す、最高の職業の選び方』が発売されました。
著者は、1年間に5000本もの科学論文を読みこむことから「日本一の文献オタク」と呼ばれる鈴木祐さん。メンタリストDaiGoさんが尊敬する人物としても知られています。
今回は、ビジネス書の中でもかなりの注目を集めている同書のなかから3記事を抜粋してご紹介。
今後のキャリア選択に不安を感じている方、必見の内容です!
人間の脳は職業選択に向いていない
私たちがキャリア選びを間違える理由は大きく2つに分かれます。
①人類の脳には、 職業を選ぶための 「プログラム」 が備わっていない
②人類の脳には、適職選びを間違った方向に導く「バグ」が存在している
第一に、私たち人類には、そもそも自分に適した仕事を選ぶための能力が備わっていません。
なぜなら 「職業選び」 とは、現代になってから初めて浮かび上がってきた問題だからです。
それもそのはずで、人類史の大半において、人間は職業選択の自由とは無縁の暮らしをしてきました。
たとえば、あなたが原始時代に生まれていたら部族の一員として狩りに精を出すしか生きる道はありませんし、江戸時代に生まれれば世襲制のしくみに従って親の仕事を継いでいたでしょうし、中世ヨーロッパに生を受けたらかなりの確率で農奴として一生を終えたはずです。
人が職業を選べるようになったのはヨーロッパで能力主義の考え方が進んだ19世紀に入ってからのことですから、人類は歴史の9割以上を 「仕事選び」 に悩まずに暮らしてきたことになります。
そのせいで人類の脳には、 「複数に分岐した未来の可能性」 をうまく処理するための能力が進化しませんでした。
大学に残って勉強を続けるべきだろうか?
子供のころに憧れた弁護士になるために精進するか?
地元のコミュニティで堅実な職を探した方がいいのだろうか?
それとも、好きなことを仕事にするべく起業の資金を貯めるべきか?
このような現代的な悩みに私たちの脳は適応していないため、大量の選択肢を前にした人の多くは不安や混乱の感情に襲われます。
特に最近は終身雇用が崩壊したうえに、 「人生100年時代」 や 「ロールモデルがない時代」 などの言葉がささやかれ、これからは年齢に応じて複数の仕事を経験するのが当たり前になるとまで言われます。
せっかく適職を見つけたと思ってもそのまま働き続けられるとは限らず、人生のステージに合わせたキャリアを一生考えつづけねばならないといった風潮が強くなれば、いよいよ迷いは深まるばかりでしょう。
人類にとっていまの状況は、 見知らぬ土地にひとりで放り出された幼子さながらです。
そしてもうひとつの問題が、 人類の脳に備わった 「バグ」 の存在です。
誰の頭のなかにも大量の 「バグ」 が生まれつき住みついており、そのせいで私たちは、人生の重要な選択を高い確率で間違えてしまうことがわかっています。
偏見、思い込み、思考の歪み、不合理性。
バグの呼び名は様々ですが、 いずれにおいても人間の脳には生得的なエラーが存在し、大事な場面でいつも同じような過ちを犯すようにできているのです。
どれほど知性が高くても約8割が間違えるクイズとは?
私たちに生まれつき備わったこのバグは、 行動経済学では 「バイアス」 と呼ばれます。
直訳すれば 「偏ったものの見方」 のことで、 「人間はつねに一定の決まったパターンでミスを犯す」 という現象を表した言葉です。
バイアスの例として、たとえば次のクイズについて考えてみましょう。
『科学的な適職』ある父子が自動車事故にあってしまい、父は近所の病院に送られ、息子は別の病院に送られました。
幸いにも、その病院には天才と名高い院長がおり、その院長がじきじきに息子を処置してくれることになりました。
しかし、病室に運ばれてきた息子を見て、院長は即座に言いました。 『私には彼を手術することができません。 彼は私の息子なので失敗が怖いのです』 。
どういうことでしょうか
果たして、事故にあった父親が母親の再婚相手だったのか?
それともまた別の事情があるのか?
なんとも不可解な話ですが答えはとてもシンプルで、問題の担当医がその息子の母親だったのです。
このクイズは心理学の研究で実際に使われるもので、どんなに知性が高いグループでも、即座に正解できる人は2割もいません。
たいていの人は、問題を聞くとすぐに 「院長は男性に違いない」 と思い込み、 それ以外の可能性を探そうとしなくなってしまうからです。
これがバイアスの基本的な考え方になります。
あなたを適職から遠ざけるバイアスたち
バイアスにはさまざまな種類が存在しており、現時点で研究で確認されたものだけでもおよそ170件以上。
それぞれのバイアスには、意思決定を誤らせるもの、記憶を歪めるもの、人間関係を乱すものなどがあり、あらゆる方向から私たちを間違った道に誘い込みます。
適職探しにおいてもその悪影響は変わらず、 たとえば 「確証バイアス」 が代表的です。
これは、自分がいったん信じたことを裏づけてくれそうな情報ばかりを集めてしまう心理で、「いまの時代はフリーな働き方が最高だ」 と思い込んだ人が、 独立して成功を収めた人の情報ばかりを集め、同じような考え方をする仲間とだけ付き合うようになるのが典型例です。
いったんこの状態にハマった人は、大企業の良いニュースや独立に失敗した人の情報には目もくれず、最後は自分と違う生き方を好む人たちを批判し始めるケースも珍しくありません。
カルト宗教の発生と同じようなメカニズムです。
私たちが克服すべきバイアスは山ほど存在しますが、 ここでは 「確証バイアス」 の他に仕事選びのジャマになりがちなものを簡単に見てみましょう。
アンカリング効果
選択肢の提示のされかたによって、 まったく異なる決定をしてしまう心理現象です。
たとえば、 あなたが転職先を選ぶ最初の段階で 「年収500万」 の企業にひかれたとしましょう。
すると、 この 「年収500万」 という数字が基準値になってしまい、 「お金は重要ではない」 と頭ではわかっていても、 どうしてもそれ以下の年収では物足りなくなってしまいます。
真実性の錯覚
くり返し目にしただけの理由で、 その情報を 「真実に違いない」 と感じる心理のことです。
ニュースサイトなどで 「これからの働き方は従来のルールが通じない」 や 「今後は個人の能力が問われる時代だ」 といった文言に何度も触れたせいで、 そこに数字やデータの裏づけがなくとも事実だと思い込んでしまいます。
フォーカシング効果
職探しにおいてあなたが重要視するポイントが、 実際よりも影響力が大きいように感られてしまう状態です。
「Googleのように社食が充実していたら最高だろう」 と思っていれば社食がもたらす喜びが必要以上に大きく見えますし、 「福利厚生だけは譲れない」と考えていれば福利厚生を重んじる会社が実態よりも良く感じられてしまいます。
サンクコスト
いままでたくさんの時間とお金を使ってきたからという理由で、 メリットがない選択にこだわり続けてしまう状態です。
何年もがんばって働いてきた職場であれば、 いかに業績が傾いてきたとしても、 すぐに転職を決意するのは難しいでしょう。
過去と自分を切り離すのは容易な作業ではなく、 これまたあなたの幸福を下げる要因となります。
感情バイアス
自分の考えが間違っているという確かな証拠があっても、ポジティブな感情を引き出してくれる情報に飛びついてしまう心理傾向です。
厳しい事実を受け入れるのは誰でも嫌なものですが、ネガティブな感情を避けたいあまりに 「好きを仕事にしよう!」 や「10年後の有望な企業はこれだ!」といった手軽な情報にばかり意識が向かってしまう現象は誰にでも覚えがあるでしょう。
この問題において何よりもやっかいなのは、たいていの人が「そういう人ってよくいるよね!」とだけ思って、自分自身の問題だとはとらえないところにあるからです。
愚かなのは他人ばかりで「バイアスなど自分には関係がない」と思い込んでしまうケースが非常に多く見られるのです。
友人はバイアスを説いてくれる欠かせない存在
人は誰しも 「自分のことは自分が一番よくわかっている」 と思いたがりますが、実際には自己評価ほど当てにならないものもありません。
視点を変える上でもうひとつ欠かせないのが、「友人」 の存在です。あなたのバイアスを解くために、親身な第三者ほど役に立つ存在はいません。
心理学者のジョシュア・ジャクソンは、600人の男女が1930年代に受けた性格テストのデータを再分析し、この事実を明らかにしました。
このデータには被験者の親友5人ずつに行われたインタビューの記録がふくまれ、 「被験者の自己申告による性格」 と「友人から見た被験者の性格」 の2つを比べることができたからです。
分析の結果わかったのは、次の事実でした。
◉本人の自己申告よりも、 友人に尋ねた性格判断のほうが格段に正しかった
◉被験者の 《寿命》 についても、 友人の判断のほうが正確だった
本人のパーソナリティはおろか 「何歳ぐらいで死にそうか?」 という予想に関しても、 友人の判断のほうが精度が高かったわけです。
組織行動論の研究でも似たような結果が出ており、150人の軍人に上官の有能さを評価させたところ、やはり本人よりも部下の方が上司のリーダーシップを正確に予想することができていました。
自分の友人、上司、パートナー、親、コミュニティの仲間など、あらゆる相手からフィードバックをもらえばもらうほど、あなたの仕事選びは精度を増します。
さらに米国ロミンガー社の研究によれば、フィードバックをもらう相手との「付き合いの長さ」によって精度が変わることもわかっています。
◉「知り合ってから1〜3年の相手」に相談するのがもっとも正確さが高い
◉「知り合ってから1年以内の相手」に相談するのは正確さでは2番手になる
◉「知り合ってから3〜 5年の相手」に相談するのがもっとも正確さが低い
あくまで大ざっぱな指標ではありますが、フィードバックをもらう際の参考にしてください。
さらにおもしろいのは、あなたのことをまったく知らない他人でも、かなりの確率で正しい評価ができてしまうところです。
弁護士の顔写真を見ただけの被験者が 「その人物が出世するかどうか?」 を正しく見抜いたケースや、平凡な男女のスナップショットからIQテストの成績をある程度まで言い当てた事例が報告されています。
無関係な人でも個人の能力を判断できる理由ははっきりしませんが、とにかく第三者のほうがバイアスに囚われにくいのは間違いないでしょう。
意思決定を行う際は、他人の視点を導入してください。
働き方が多様化しているからこそ知りたい、自分に適した仕事の見つけ方
同書の中で語られているのは、「就職と転職の失敗は、およそ7割が『視野狭窄』によって引き起こされる」という事実。
視野狭窄は、ものごとの一面にしか注目できなくなり、その他の可能性をまったく考えられない状態のことを示します。
だからこそ、自分の価値観やライフスタイルを組み込んだ“自分だけの適職”を選ぶには、自分の思う当たり前を一度壊して、さまざまな考えや価値観、選択に出会うことが必要なようです。
そんな当たり前を壊す一歩として、まずは同書で語られている「そんなはずがない!」と思うようなデータを、「そうなのかもしれない…」と受け止めるところから始めてみてはいかがでしょうか。
偉大な先人たちが磨き上げた4021の研究データを、今に生かさない手はないはずです!
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