「マネジメント」の意味、説明できますか?
専門家に学ぶ「マネジメント」の本当の定義。優秀な人ほど部下に嫌われる理由とは?
新R25編集部
「来期からマネージャーを任せる!」と上司に突然言われたら、あなたはどうしますか?
昇進に心おどる一方で、自分にマネジメントができるのかな…と不安を抱く人も多いのではないでしょうか。
また、すでにマネジメントに携わってはいるものの、このやり方でいいのかな?とモヤモヤを抱えている人も多いはず。
そこで今回は、「マネジメントの父」として知られる経営学者のピーター・ドラッカーの教えをもとにコンサルティングをおこなっている山下淳一郎さんを直撃。
山下さん、迷えるマネジメント初心者を救ってください!
〈聞き手=篠原舞〉
【山下淳一郎(やました・じゅんいちろう)】外資系コンサルティング会社にてドラッカーの教えを実践する支援をおこなったあと、上場企業の役員を経て、コンサルティング会社「トップマネジメント」を設立。東証一部上場企業をはじめとした多くの企業の役員や経営チームのコンサルティングをおこなっている“マネジメントの専門家”
「マネジメント=管理」は誤解。本当の意味って…?
篠原
今日は「どうやってチームメンバーをマネジメントしたらいいかわからない」と悩んでいるR25世代にアドバイスをいただきたいのですが…
山下さん
そもそも人「を」マネジメントする、というのが間違っていますね。マネジメントは人「と」おこなうもの。一方的に指示したり、管理したりするものではありません。
篠原
そうなんですか? よくマネージャーのことを「中間管理職」と言うので、てっきり管理するのが仕事かと…
山下さん
まさに「管理職とは管理することが仕事だ」という誤解が「うまくマネジメントできない」という悩みにつながっているんですよ。
でもそれは、マネジメントの本質に気づいていないという証拠でもあります。
篠原
本質…というと?
山下さん
ドラッカーは「マネジメントとは、組織に成果をあげさせるための道具、機能、機関である」と定義しています。
かみくだいて言うと、「人と力を合わせて成果をあげること」。信頼関係を築いてメンバーの強みを引き出し、存分に力を発揮させることがマネジメントの本質です。
部下を一方的に「管理」するマネジメントでは、不平不満がたまり、力を発揮するどころではなくなります。ドラッカーのいうマネジメントは、それとは真逆なんです。
マネージャーの役割と基本業務
篠原
では、マネジメントを実践する「マネージャー」は、どんな人を指すのでしょうか?
山下さん
ドラッカーの定義にならえば、マネージャーとは「組織の成果に責任を持つ人」。そしてマネージャーがやるべき業務として、5つの要素を挙げています。
マネージャーの基本業務5つ
1. 目標を設定する
組織が何を目指し、何を達成するのかを明らかにする
2. 組織をつくり、仕事を割り振る
成果をあげられるような体制・状態をつくりあげる
3.コミュニケーションを図り、動機付けをおこなう
「この人のためにがんばろう」と部下に思ってもらえる存在を目指す
4. 評価・測定する
部下の仕事ぶりと成果を理解し、改善していく
5. 人材を育成する
まず自分が成長し、そのうえで部下を育成する
篠原
目標設計から人材育成まで…。考えることが多くて、いっぱいいっぱいになってしまいそうです。
山下さん
そうですよね。もちろん、これらの業務をそつなくこなせるのがベストですが、それよりも大事なのは「目的」を見失わないことです。
篠原
目的…成果をあげること、でしょうか?
山下さん
そのとおり。常に「成果を出すにはどうしたらいいか」という視点を忘れないことが一番大切です。
あれもこれも完璧にやろうとすると、いつしかマネジメント業務をこなすこと自体が目的になってしまう。
実はそれが、一番危険な状態です。
篠原
危険な状態…?
山下さん
ええ。マネージャーが目先の業務だけにとらわれると、部下も目的を見失って、仕事を片付けることしか考えなくなりますよね。
そうなると、チームで成果をあげることは不可能です。
仕事の本当の価値は「目的」にあるんですよ。
たとえば、ディズニーランドはあんなに混んでいるのに、場内はいつもピカピカですよね。
それは、清掃員を含めたキャスト全員が「夢の世界をつくる」「お客さまに楽しんでもらう」という目的意識を持って働いているから。
ただ「ゴミを拾いましょう」と言われただけでは、あそこまで完璧な掃除はできないはずです。
山下さん
マネジメントも同じ。上司が「なんのための仕事なのか」を伝えないと、部下も仕事に価値を感じられくなり、力を発揮できなくなってしまいます。
どんなに忙しくても、常に「目的」を見失わないように心がけましょう。
成果をあげるマネージャーの8つの特徴
篠原
目的を持って取り組んだとしても、成果を出せる人と出せない人に分かれますよね。その違いはなんでしょう?
山下さん
実はドラッカーも同じ疑問を抱き、成果が出ている人の観察レポートを残しています。それが以下の「成果をあげる人の8つの特徴」です。
成果をあげる人の8つの特徴
1. なされるべきことを考える
「やりたい仕事」ではなく「もっともやるべき仕事」は何かを考える
2. 組織のことを考える
私利私欲で物事を考えない
3. アクションプランをつくる
行動するための計画をたてる
4. 意思決定をおこなう
組織としての考えをはっきりさせる
5. コミュニケーションをおこなう
部下の考えを理解し、自分の考えを理解してもらう
6. 機会に焦点を合わせる
問題の処理にばかり時間を割かず、新たな機会を生み出すことに注力する
7. 会議の生産性を上げる
何も決まらない会議はおこなわない
8.「私は」ではなく「われわれは」を考える。
主語を「私は」ではなく「我が社は」にして考える
山下さん
特に大切な項目が3つあります。まずは①の「なされるべきことを考える」。
マネージャーは自分がやりたいことを押し通さず、組織で成果を出すためにやるべきことを見極める必要があります。
篠原
ついつい自分本位になってしまいますが、あくまで「組織のため」を一番に考えないといけないんですね。
山下さん
そうなんです。また、⑧の「『われわれは』を考える」は、会社内で対立が起こったときに意識したい項目です。
内部で対立が起きる場合、ただ立場の違いで意見が割れているだけで、悪意を持っている人はほとんどいません。
こういうときは、主語を「私たちのチーム」から「私たちの会社」に広げて話し合ってみましょう。おのずと優先するべきことが見えてくるはずですよ。
篠原
内輪モメしてる時間がもったいない!と思えそうですね。
山下さん
そして、多くの人が陥る“ワナ”が潜むのは⑥の「機会に焦点を合わせる」。
問題解決さえすれば、組織が自動的にいい方向に向かうと思っていませんか?
篠原
えっ? 違うんですか?
山下さん
実は違います。問題の解決はもちろん大切ですが、あくまで「成果の妨げがなくなった」というだけのことで、「成果をあげる行動」ではありません。
たとえば、今あまりうまくいっていないクライアントとの関係をよくすることばかり考えていると、新たなクライアントを開拓する「機会」を逃してしまう可能性もありますよね。
マネージャーが軸足を置くべきは「問題」よりも「機会」。目先の問題にとらわれすぎず、成果をあげる「機会」をつくることに注力しましょう。
篠原
なるほど。トラブルを処理しているだけでは成果につながらないんですね。
山下さん
この“ワナ”にハマると、毎日忙しく駆けずりまわっているのに前に進まないという悲しい結果に…
篠原
耳が痛い…!
山下さん
ドラッカーは「成果をあげることは、ひとつの習慣である」と言っています。つまり、先ほど挙げた8つの特徴は、特別なスキルがなくても、習慣の積みかさねで身につけられると言うことです。
すぐに結果が出なくても、頭の片隅において仕事に取り組めば、少しずつ成果が出せるようになるはずですよ。
新人マネージャーが陥る「4つの落とし穴」
山下さん
成果について、みなさんが誤解しがちなことがもうひとつ。
それは「自分が成果をあげること」と「部下に成果をあげてもらうこと」が同じだということです。
実は、これらはアプローチ方法がまったく違います。だから優秀なプレイヤーほど、マネージャーになるとうまくいかないことが多いんです。
篠原
仕事ができる人は、どんな場面でも活躍するイメージありますが…
山下さん
いや、優秀だからこそ、部下が“なぜできないか”を想像できないんです。「俺ができたんだから、お前もできるだろ」と、横暴な指示を出してしまいます。
篠原
たしかに、マネージャーになったとたんに厳しくなる人っていますよね。そうならないためにはどうしたらいいのでしょう?
山下さん
マネージャーになったばかりの人がハマりがちな“落とし穴”が4つあります。自分が当てはまっていないか考えてみてください。
マネージャーの落とし穴1:「苦手なこと」ばかりをやらせ、「得意なこと」をやらせない
山下さん
「得意なこと」とは、その人が「何の気なしにこなしていること」。本人は「ほかの人も同じようにできるだろう」と思い込んでいるから、意外と自分の強みに気づいていないものです。
そこを見抜いて、得意な仕事を振ってあげるのがマネージャーの役割です。
篠原
でも、よかれと思って部下に苦手なことをやらせる組織も多いですよね。「○○くんの将来のためにがんばれ!」みたいな。
山下さん
成果を出したいなら逆効果ですね。どんな人も、苦手なことで成果はあげられません。
その典型的な例がスティーブ・ジョブズです。彼はApple社の創業者にもかかわらず、一度は解雇されています。理由は「あまりにもマネジメントが下手だから」(笑)。
ジョブズは「パワハラ王」だったらしい
山下さん
数年後にふたたびApple社に戻ったときの条件は「マネジメントには一切関わらないこと」。
そのかわり、彼が得意とする「新製品開発」と「発表」に注力することで、誰もが認める才能を発揮したんです。
篠原
へえ! たしかに、ジョブズといえば製品発表のイメージですね。
山下さん
でしょう? 彼が苦手なマネジメントをさせないと決断をしたことで、Apple社は大きく成長を遂げました。これが本当の意味での「マネジメント」です。
マネージャーの落とし穴2:話してばかりで、部下の話を聞かない
山下さん
ドラッカーは、リーダーに必要な素養として「人の言うことを聞く意欲、能力、姿勢」を一番に挙げています。それほど、話を聞くことが大切なんです。
でもほとんどの人は、部下の話を聞いているとガマンならなくなって、アドバイスという名のお説教をはじめてしまいます(笑)。
篠原
わかります。「上司のお説教が長くてウザい」って話は、いつの時代でもありますよね…
山下さん
優秀な人ほど部下にあれこれアドバイスしたくなりますが、そこはぐっとこらえて、聞き役に徹しましょう。
部下の話を聞くことで、気づくこともあるはずです。視野が広がり、部下からの信頼も得られて一石二鳥ですよ。
マネージャーの落とし穴3:部下だったころの気持ちを忘れてしまう
山下さん
極論ですが、いいマネージャーになりたいなら、「自分が上司にされてうれしかったこと」をやるだけでいいはずなんですよ。
篠原
それって意外と難しいですね。若いころの自分の気持ちなんて、どんどん忘れちゃいますし…
山下さん
何もしないと忘れてしまうのが人間ですので、自分が上司にされてうれしかったことや、逆に嫌だったことをこまめに書きとめておくのがおすすめです。
そうすれば、自分が上の立場になったときに「部下の立場ならどう思うのか」を想像できますよね。
部下の気持ちに寄り添うだけで、見違えるように成果があがるはずですよ。
マネージャーの落とし穴4:「完璧人間」を目指してしまう
山下さん
“個の時代”と言われる今、マネージャーは「映画監督」をイメージするといいかもしれません。
篠原
映画監督…ですか?
山下さん
ええ。映画監督は、「こういう映画にしたい」「こういうメッセージを伝えたい」という意図を誰よりも把握していますが、自分で演技はできません。
でも、演技ができないからといって責められはしませんよね。イメージを適切に伝えることで、役者の力を借りて具体化するのが監督の仕事だからです。
監督がいないと映画ができない一方で、監督ひとりの力だけでも映画はできないわけです。
これはまさに、「マネジメント=人と力を合わせて成果をあげること」と同じ。個人のスキルが上がっている時代だからこそ、他者との協力が重要になってきます。
篠原
なるほど!たしかにイメージしやすいです。
山下さん
しかし、これが組織や会社になると、なぜか「監督が演技の練習をしている」状況が多発します。
つまり、専門外のことや苦手な仕事にまで出したり、プレイヤー時代の業務をいまだにこなしていたり…という状況ですね。
篠原
責任感のあるマネージャーこそ、すべて自分の力でどうにかしなければと思ってしまいそうですが、それが一番ダメなんですね。
山下さん
部下に得意・不得意があるんですから、マネージャーにもできることとできないことがあるのは当然です。大切なのは、自分は完璧ではないと認めること。
篠原
そうか、「完璧人間」じゃなくてもいいんだ…! なんだか救われた気がします。
山下さん
私がはじめてマネジメントに携わったときの上司は、「マネージャーは仕事をしないのが仕事だ!」と口癖のように言っていて、当時はかなり叱られましたね。
今だからわかりますが、体を動かして汗をかくことだけが仕事ではありません。目的を共有し、みんなを導くことだって立派な仕事です。
いろんな人の助けを借りながら、高い壁をみんなで乗り越えていく。それが「マネジメント」なんです。
完璧な人間なんてこの世にいません。上に立つからと言ってあまり気負わず、心に余裕を持って取り組んでみてくださいね。
ドラッカーの考えをもとに、マネジメントの本質を教えてくださった山下さん。
今までなんとなく使っていた「マネジメント」という言葉の奥深さに触れることができた気がします。
マネジメントは人「と」するもの。そして、マネージャーは完璧じゃなくていい。
この言葉を胸に刻めば、ちょっと心がラクになるはず。マネジメントという名のチーム戦を、思いっきり楽しんじゃいましょう! くれぐれも、部下へのお説教はほどほどに…。
〈取材・文=篠原舞(@maichi6s)/編集=石川みく(@newfang298)〉
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