ビジネスパーソンインタビュー
ガンを発症したことを公表して以来、たくさんの人生相談に答える
「他人に判断をゆだねてきた人は、死の間際で後悔する」幡野広志に聞く“悩みに答えを出す方法”
新R25編集部
写真家・幡野広志さん。
2017年にガン(多発性骨髄腫)を発症した後、自身がガン患者であることを公表した幡野さんのもとには、応援のメッセージだけでなく…
「家庭のある人の子どもを産みたい」「自殺したい」「子どもを虐待してしまう」
など、たくさんの人生相談が届いたそうです。
それらに答える連載「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。」(cakes)は、幡野さんの歯に衣着せぬ言葉が反響を呼び、2月には書籍化。
でも…できれば人に頼ることなく、自分自身で悩みを解決したいもの。どうすれば幡野さんのように、ズバッと「自分なりの答え」を出すことができるんだろう…?
そこで今回は、「自身は悩むということがあまりない」と話す幡野さんに、“セルフ人生相談”の仕方をお聞きしました。
〈聞き手=サノトモキ〉
ⓒYukari Hatano(TOP/サムネイル画像も同様)
【幡野広志(はたの・ひろし)】写真家。1983年、東京生まれ。2004年、日本写真芸術専門学校中退。2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事。同年「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。2011年、独立し結婚する。2012年、エプソンフォトグランプリ入賞。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発症し、現在に至る。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために』(ポプラ社)がある
「自分で答えを出せない人」は、責任を負いたくないだけ
サノ
今日は、「自分の悩みに自分で答えを出す方法」をお聞きしたくて。
普段悩み相談に答えてる幡野さんに聞くのも、ちょっとおかしな話かもしれないですけど…
幡野さん
いやいや、僕も悩みは自分で解決できるのが一番いいと思ってますよ。
自分で答えを出す力がない人って、他人の言うことをホイホイ聞くようになっちゃうんです。そういう人って、誰かに都合よくだまされつづける人生になっちゃうと思うので。
ⓒHiroshi Hatano
出だしから本音炸裂ですが、「本当のことをまっすぐ言ってくれる」のが幡野さんです
幡野さん
でも、「自分で答えを出せない人」が答えを出せるようになるのって、すごく難しいことだと思いますよ。
そもそも彼らは、「自分で答えを出したくない」んだもん。
サノ
!? どういうことですか…?
幡野さん
悩んじゃう人っていうのは、とにかく「正解がわからない状態で行動したくない」んです。
でも、本当はみんな、「自分がどうしたいか」なんてとっくに決まってるんですよ。
僕に相談をくれる人も、ほとんどの場合は答えがわからなくて悩んでるんじゃなくて、自分の答えに自信が持てなくて不安になってるだけ。
サノ
うわ、それ僕もやっちゃってるかも…
自分で決断するのが不安だから、誰かに相談して責任を肩代わりしてほしいというか。
幡野さん
人のせいにするのってすごく楽だし、若くて健康なうちはそういう生き方もいいと思う。
でもねえ…末期がんの患者さんとかと話してても、他人に判断をゆだねて生きてきた人は、みんな死の間際で後悔してますよ。
瞬間瞬間は誰かのせいにできても、その結果を…つまり「誰かのせいにしてきた人生」を受け止めるのは、結局全部自分ですから。
ⓒHiroshi Hatano
幡野さん
だから、「自分の頭で決める力」は絶対身につけたほうがいいと思います。
自分で答えを出す方法、一緒に考えてみましょうか。
コロコロ変わる“人の目”を判断基準にしても、意味はない
サノ
「自分の答えに自信を持つ」ってすごく難しいと思うんですけど…いったいどうすればいいんでしょう?
幡野さん
答えに自信を持てないときって、結局は人の目を気にしすぎてるだけなんだと思いますよ。
ⓒHiroshi Hatano
幡野さん
「こうしたい」という自分の答えが、第三者からどう評価されるのかが怖いだけ。
「よく見られたい」とか「嫌われたくない」とか…「自分の目」より「人の目」を優先しちゃってるんでしょうね。
僕はそれがムダだと思っちゃう。自分の答えなんだから、「自分の目」だけ気にしてればいいんですよ。
サノ
そうなんでしょうか…?
自分が間違ってる可能性だってあるし、人の評価も参考にしたほうがいいと思っちゃうんですけど…
幡野さん
あのね、「他者からの評価」って簡単にひっくり返っちゃうんですよ。あんなの、ほとんど“気分”なんです。
それこそ、病気が発覚したときなんかはとくにそう感じました。
ⓒHiroshi Hatano
幡野さん
僕は病気になったとき、親族や家族から「ダメな人」みたいな扱いをされていたんですよ。「お荷物」みたいな感じでね。
なんなら、そうあることを求められてたとも思う。僕自身はわりと「なっちゃったもんは仕方ない」的な感覚だったけど、元看護師の母は、僕がガン患者らしく悲しそうな振舞いをしていないと納得がいってない感じもあったし。
サノ
そんなことが…。
幡野さん
でも病気を公表して以降、文章を書く機会が増えて、それが取り上げられるようになり、社会的に知名度が上がってくると、今度は親族たちから「大したもんだな」と言われるようになったんです。急に手の平をひっくり返すの。
サノ
でもたしかに、幡野さんに限らず、ネットニュースとかSNSを見てても、世の中そんなことばっかりですよね。
幡野さん
だから、コロコロ変わっちゃう「人の目」を基準に物事を考えても、意味なんてないんですよ。
だから僕は、人から嫌われても全然気にならないし、逆に褒めてもらったり賞賛してもらったりしても、そんなに気にしない。
自分の答えを評価をするのは、「自分の目」でいいんです。
サノ
なるほど…
自分のことは自分が一番考えてるんだし、もうちょっと自分の答えを信じてあげてもいいのかもな。
悩んだときは、「秤にかける」のではなく、「優先順位」で考えるべき
サノ
でも、とはいえ「自分の答え」が本当にわからないこともありませんか?
たとえば僕、新卒入社した大企業で、「このまま安定した暮らしを送る」か「会社を辞めてやりたい仕事に挑戦する」か、どっちを選びたいのかわからなくなって、半年以上決断できなかったことがあるんですけど…
幡野さん
ええっ、そんなに!?
な、なんでですか?(笑)
ⓒHiroshi Hatano
心底わからなさそうなお顔をされてる幡野さんをご想像ください
サノ
だって…「今手に入れてる幸せ」と「まだ手にしてない幸せ」を天秤にかけようとしても、「まだ手にしてない幸せ」の重さがわからない以上、答えって出しようがなくないですか?
この2つの狭間で答えを出せなくなっちゃう人、けっこう多いと思うんですけど…
幡野さん
なるほどねえ。
…それ、そもそも「天秤にかける」って考え方が間違ってるんじゃない?
サノ
えっ!?
幡野さん
なんか、「何かを手放さないと他のものを選べない」と思い込んでる人って多いですけど、全然そんなことないですよ。
悩んだときにすべきなのは、何か一つを選ぶことじゃなくて、プライオリティ(優先順位)をつけることなんです。
ⓒHiroshi Hatano
幡野さん
全部大事なのに、どれか一つに決めようとするから、答えを出せなくなっちゃう。
そんなふうにわざわざ自分を追い込まないで、どういう順番で手に入れれば自分のほしいアイデンティティをスムーズに増やせるか、論理的に考えればいいんですよ。
たとえば僕は、写真家志望の若い子には「まず公務員を目指せ」って言っていて。
サノ
写真家志望なのに、公務員…?
幡野さん
安定した収入もある。残業がないから時間も確保しやすい。社会的信用もあるからローンも組める。
「写真家」に向いてるのは明らかに公務員なんです。
たまに若い子で「すべての人生投げうって写真家目指そうと思ってます…!」みたいな子がいるんだけど、「絶対やめとけ」って思いますもん。
サノ
でも、「二兎を追う者は一兎をも得ず」とも言いますよね?
二足の草鞋で保険をかけるより、すべてを捨てる覚悟で挑戦したほうが…
幡野さん
それは子どものころの刷り込まれた「きれいごと」ですよ。
ⓒHiroshi Hatano
幡野さん
現実的に考えて、経済力がなくちゃ、写真家として稼げるようになる前に生活を維持できなくなって終わりじゃないですか。
アイデンティティって、優先順位を間違えてしまうと、手に入れるハードルがまったく変わっちゃうんです。
「収入の安定性」なんてのは、圧倒的にプライオリティの高いアイデンティティなんですよ。それ一つあるだけで、他を手に入れるハードルがぐっと下がるので。
サノ
たしかに、冷静に考えてみたら絶対そうだ…
幡野さん
だから、「やりたい、やりたくない」とか「かっこいい、かっこよくない」みたいな感情に流されるんじゃなくて、あくまでも先を見据えたうえで、論理的に考えたほうがいい。
悩んじゃう人ほど、「美しくあろう」とする
幡野さん
でもねえ…
やっぱり、悩んじゃう人ほど「美しくあろう」としてますよ。
ⓒHiroshi Hatano
幡野さん
大人になって現実を見ていくと、「きれいごと」の落とし穴みたいなものにだんだん気づいていくじゃないですか。
それこそ「二兎を追う者は一兎をも得ず」みたいに一つのことを極めるのって美しいとされがちだけど、アイデンティティが一つしかないと人ってそれに依存しちゃうんですよ。
「恋愛」しかない人が、恋人に全体重をかけてもたれかかっちゃうみたいに。
サノ
たしかによく見る光景だ…
幡野さん
でも、一つに依存してるとそこが崩れたとき全部ダメになっちゃうから、アイデンティティって並行して複数持っておいたほうがいいんだなって気づいていくと思うんだけど…
悩んじゃう人に限って、「きれいごと」を信じつづけて自分の首を絞めちゃってる気がするんだよね。
ⓒHiroshi Hatano
サノ
世間の求める「美しさ」に応えようとして自分の本音を犠牲にしちゃってること、いっぱいある気がしてきました。
幡野さん
とくに今の20代の人とかは、子どものころに教育された「きれいごと」とこれから生きていく時代が全然合わないって場面が山ほどあると思うよ。
だから今って、より一層、自分の頭で考える必要がある時代になったなと思います。
若い子は早いうちに思考力を高めておかないと、後で痛い目見ちゃうよ。
「自分で答えを出せる人、出せない人の違い」とは…
サノ
最後にもう一つだけ…
「自分で答えを出せる人、出せない人の違い」って、ずばり何なのでしょうか?
幡野さん
目の前の不安を、「やる理由」として捉えるか、「やらない理由」として捉えるか。
もう、それだけだと思いますよ。それだけの違いで、圧倒的に分かれちゃう。
ⓒHiroshi Hatano
幡野さん
自分で答えを決められない人にとっては、結局悩みって「やらないための言い訳」でしかないんです。
「お金がないから」、「時間がないから」、できない。そういう人は、お金や時間を与えられても、また次のやらない言い訳を探してしまう。
サノ
たしかに悩んでるときって、最初から「やらない理由」を探してることも多いかも…
幡野さん
でも、自分で答えを出して行動する人にとって、悩みとは「解決すべき課題」なんです。
お金がないなら、時間がないならこう動こうと考えていく。目の前にある悩みを分析して、次やるべきことを決める。やる人っていうのは、みんなそうだと思いますよ。
サノ
でも、悩みを「やる理由」として捉えてみるって、頑張って意識すれば、明日からも挑戦できることなのかも。
今日はありがとうございました! 少し、「自分なりの答え」を出せる気がしてきました。
幡野さん
とにかく、「人の目」とか「きれいごと」に惑わされないで、「自分の目」で「現実的に、何を、どうするか」を論理的に考えてみてください。
自分で答えを出すって、そういうことだと思うから。
ⓒHiroshi Hatano
取材中、「人の相談を受けるとき、『この人の人生を変えちゃうんじゃないか…』と責任を感じることはないですか?」と聞くと、幡野さんは即答されました。
「まず、“責任を取る”って発想がない。人の人生の責任なんて取れるわけない。誰かに背中を押されたとしても、最終的に答えを決めるのは“本人の責任”。当たり前じゃないですか」
自分で答えを出しても、誰かの答えに従っても、その結果と責任を背負うのはいつだって自分自身。そう思ったら、自分で答えを出すことに少し勇気を持てる気がしました。
『なんでぼくに聞くんだろう。』が、また違って聞こえるなあ。
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)〉
幡野さんの書籍『なんでぼくに聞くんだろう。』が絶賛発売中!
Webメディア「cakes」史上最も読まれた連載が、ついに書籍化。
恋の悩み、病気の悩み、人生の悩み。質問文に隠された本音をスルスルと紐解いていく幡野さんの言葉は、ウソがなくまっすぐで、ときにとても厳しい。
でも、だからこそ自分の頭で考え、自分の本音と向き合うための大切なヒントがたくさん散りばめられているはず。気になった方は、ぜひチェックしてみてください!
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