ビジネスパーソンインタビュー
須藤憲司著『ハック思考』より
一見くだらない方法で、成果が劇的に変わる。あなたを助ける「ハック思考」の身につけ方
新R25編集部
WebサービスのUI改善を実現する「Kaizen Platform」を立ち上げた須藤憲司さん。
2003年にリクルートに入社し、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズ執行役員を務めた超優秀なビジネスパーソンです。
2013年に「Kaizen Platform」を立ち上げてから、現在までさまざまな組織の課題を洗い出し、改善しています。
そんな須藤さんの思考の原点にあるのが、書籍タイトルにもなった『ハック思考』。
今回はその実態について、同書より一部を抜粋してお届けします。
あなたを助けてくれる究極のスキルは何か?
僕は、いつの時代でも普遍の究極のスキルが知恵だと考えています。
単なる知識は、ググればいいし、作業のスピードや正確さは、RPAやロボットには絶対に勝てないわけです。
会社の寿命は、30年から、半分の15年に、人の労働寿命は、30年から、倍の60年になると言われています。
普通に考えて3~4回は、転職をすることになります。
そのときに同じ業態が存在しているかどうか?はわかりません。
職種も職能も、これからは変化し続けないといけない可能性が高いわけです。
そんなときに活きるのが知恵です。
そして、僕が現代における知恵の一つだと思っているのが、このハックなのです。
そもそもHackとはなにか?
われわれを取り巻く世界のルールは非常にシンプルにできています。
仕事も、勉強も、スポーツにおいても、皆がかけがえのない人生の時間や時にお金を投じて、何らかの成果を得ようとしています。
同じインプットから大きな成果を得られるように転換効率を劇的に高めることをハックと呼びます。
私自身、これまで自分の周りの世界をハックして、身の丈以上の成果を得てきました。
世界をハックするのに複雑なプロセスは必要ありません。
人と違う規則性や法則を見つけて、…①
その規則性や法則を構成するシステムのスキマに介入する。…②
というたった2つのステップで実行できます。
例えば、「エレベーターの待ち時間をどのように最小化するか?」という有名な問題があります。
そのビルの管理会社は、「ビルに設置されたエレベーターの待ち時間が長い」と借主から多くのクレームを受けていました。
専門家たちは、詳細な分析を行った結果、下記の解決策を提案しました。
1)エレベーターの増設
2)より高速なエレベーターへの機種変更
3)新たに開発されたエレベーター制御装置の設置
要するに、専門家たちは、大幅なコストをかけない限り、クレームの解決は行えないことを明らかにしたわけです。
担当者は、部下を招集し、この事態について相談しました。
長時間の会議が開かれ、皆が疲れてきた頃、それまで口を開かなかった新人が、おずおずと一つの提案を行いました。
「各階のエレベーターの前に、大きな鏡を置きませんか?」
すると2週間後、エレベーターに対するクレームは、一件もなくなったのです。
なぜ、「エレベーターの前に鏡を置くこと」で、「エレベーターの待ち時間を減らす」という「問題」が「解決」したのか。
それは、「エレベーターの前に置いた鏡によって、エレベーターを待っている人が、そこを覗き込み、身だしなみを整えたり、後ろにいる魅力的な異性に目をやったりする時間が増えたから」です。
その結果として、「エレベーターの待ち時間」──正確に言うならば、「エレベーターの待ち時間として認識される時間」は、激減することになりました。
つまり、「鏡を置くこと」で、「エレベーターの待ち時間はまったく変わっていない」のにもかかわらず、その時間を「待ち時間」として認識しなくなった、ということになります。
世界をHackするためのたった2つのステップ
→世界を違った角度から見つめ、他人が気づいていない規則性や法則に気づく
→その規則性や法則を構成するシステムのスキマに介入する
先ほどのエレベーターの例を基に世界をHackする2つのステップについて考えてみましょう。
・因果関係を疑い、真の因果を解明するステップ
(待ち時間が長いから、クレームが起きている→待っていることを認識している時間が長いから、クレームが起きている)
・その規則性や法則を構成するシステムのスキマに介入してハックする
(他に暇つぶしになるもの=鏡を置いて、待っていることを認識する時間を減らす)
ということになります。
やっていることは非常にシンプル。むしろくだらない。なのに効果的。
これが、ハックの威力です。
エンジニアでなくても、特別な才能がなくてもできて、仕事・勉強・スポーツ・恋愛・子育てなど様々な領域で活用することができます。
皆さんも、一見くだらない方法で成果が劇的に変わるのであれば、やってみたいと思いませんか?
観察、考察、推察、洞察という4つの察する力
ここまで読んで、「さて、よーし自分の目の前の課題をハックしよう!」と考えた方もいると思いますが、実はすべてのものがハックできるわけではありません。
前提として、規則性や法則がないもの、つまりルールがないものはハックできません。ですから、まずは既存のルールを知るということが大切なのです。
そして、ルールを知るために必要な最初のステップは、世界を疑うことです。
でも、世界を疑うとは具体的にどういうことをすればいいのでしょうか?
それには「観察、考察、推察、洞察」という4つの察する力が必要となります。
小学校の夏休みの宿題を思い出してください。朝顔の観察日記がありましたよね?
その日記をつける過程で先ほどの4つの察する力が登場します。
まずは対象を「観察」します。
「芽が出てきた」とか、「芽が昨日より伸びた」とか、「ツルが2段目の棒まで届いて巻きついた」とか。これは、昨日との違いを見つけていたわけですよね?
そうなのです。観察とは、変化を見つけることです。
次に「考察」です。
「昨日はつぼみだった朝顔が今朝咲いた」という観察から、「花は朝に咲くものなのだろうか?」という考察を書いたとします。
つまり、考察とは観察から規則性や法則を導き出すことなのです。
そして「推察」というのが、考察によって導き出した規則性や法則の転用先を探すことです。
この場合、「朝顔は朝に咲く。ということは、すべての花が朝に咲くのだろう」と推察できます。
そうすると現実からのフィードバックがあり、「あれ?朝に咲かない花もあるな」という気づきを得ます。
そして考察の結果に戻って、「なぜ朝顔は朝に咲くんだろうか?」との問いから、「朝に咲く花は他にどんなものがあるのだろうか?」という推察になって、共通点から考察を深めて規則性を見つけようということになります。
つまり、この観察、考察、推察という行為は行ったり来たりしながら、それぞれが導き出す“変化”“法則”“転用先”の精度を高めていくことになります。
最後の「洞察」は、観察・考察・推察を同時に行うことで、目の前で現実に起きた事象とまったく異なる因果関係に気づくことを言います。
「朝顔の花が朝に咲くということは、きっと朝に活動する虫が受粉を助けているか?虫の助けがいらないか?のどちらかだろう」というのが洞察です。
観察、考察、推察、洞察。目の前の課題をHackするための第一歩として、ぜひこの4つの力をフル活用してルールを見つけてみてください。
子供のときの好奇心を取り戻す
世界を疑う、その根底にあるのは「好奇心」です。
誰しも子供の頃、「なぜ?」「なぜ?」を繰り返して、親を困らせたことがあると思います。
あの疑問を、大人になるといつしか忘れてしまいます。知識と言われるものによって疑問への解答が得られ、好奇心が失われていくからです。
ただ、これからの時代はこれまでの知識が通じない可能性が高いわけです。
そもそも疑問があればググればいいわけですから、多少人より知識があってもGoogleに勝てる人間は存在しないわけです。
むしろググる手前に存在する良質な問いのほうが重要になってきます。
そうすると、まさに子供のときに感じていた、あの「なぜ?」「なぜ?」という好奇心が必要になってくるわけです。
好奇心を忘れずに、観察・考察・推察を繰り返し高めていくことで、洞察力というものは高まっていくのだと思います。
つまり世界を疑うとは、まっさらな気持ちで対象を観察し、考察し、推察し、洞察することで、自分自身の世界観を再構築していくことに他ならないのです。
ハック思考で、目の前の課題を見つめ直してみよう
「特別な才能や知識がなくても、パパっと成果が出たら最高だな~」
そんなフワッとした願望を、具体性のあるものに変えていく方法を、須藤憲司さんの著書『ハック思考』は教えてくれます。
「自分なんて平凡だから…」と諦めている人こそ、ハック思考を身に付けて、大きな成果をゲットしていきましょう!
〈撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
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