ビジネスパーソンインタビュー
ゴールデンボンバー・鬼龍院翔も激賞
「悩みだった吃音症が、ラップバトルで武器になった」ラッパー・達磨が語る“弱みは強み”
新R25編集部
人にはさまざまな「弱み」があります。
容姿、頭脳や、どうしても直せない悪癖…。生まれついての“人より苦手なこと”に落ち込んでいる人もいるのではないでしょうか。
しかし、そんな弱みがありながら、独自の活躍をしている人たちもいます。
新R25の特集「弱みは強み」では、そんな人々に、「弱みとの付き合い方」「弱みをどうやって強みに変えたのか」を聞いていきます!
【達磨(だるま)】愛知出身・在住。高校1年生からラップをはじめ、2018年、『BAZOOKA!!!第13回高校生RAP選手権』出場。2019年に『バリバラ〜障害者情報バラエティー〜』(NHK)に出演。 同年公開された『ブラック校則』で俳優デビュー
今回お話を伺ったのは、ラッパーとして活躍している達磨(だるま)さん。
NHKの番組『バリバラ〜障害者情報バラエティー〜』で放映されたライブ映像が注目を集め、2019年には『ブラック校則』で映画出演デビューもされています。
達磨さんが抱えている「弱み」は、話そうとするとどもって最初の音を連発してしまったり、声が出ず無音状態になってしまったりする「吃音症(きつおんしょう)」。
正直、ラッパーには致命的すぎる「弱み」なのでは…?
「以前は声を出すのをなるべく避けていた」という達磨さんが、なぜラップで戦うことを選んだのか。お話を聞きに行きました。
〈聞き手=ほしゆき〉
「どもってはいけない」と思えば思うほど、言葉が出ない吃音症
ほし
達磨さんは、小さいころから吃音の症状があったのでしょうか?
達磨さん
小学生のときには、もう症状がありました。
当時は軽度だったので、友だちの前では誤魔化してやり過ごしていたんですが、中学から高校の間でかなり悪化してしまって…授業中に指名されるのが、本当にイヤでした。
ほし
吃音症の原因などはわかっているんでしょうか?
達磨さん
発症の原因はわかっていないんですが、吃音症はメンタルと深く関わっているので、「うまく発音しなきゃ」「どもったら恥ずかしい」と思えば思うほど、緊張して言葉が出なくなってしまうんですよ。
ほし
そうなんですね…!
症状が出てほしくないときほど、吃音になってしまうというのはツラいですね。
達磨さん
日本人の約100人に1人が吃音の発音障害を持っているらしいんですが、「ただ緊張しているだけ」と思われて、学校の先生にも笑われたりしました。
ほし
たしかに、「吃音症」自体を聞いたことがない人も多いと思います。
達磨さん
知らない人は、まだまだ多いと感じます。
お店で料理をオーダーをするのも、けっこうプレッシャーなんです。僕はカ行と濁点が苦手なので、「からあげ棒」の発音がうまくできなくて…いつも注文をあきらめていました。
店員さんに笑われたくないから、「食べたいもの」より「頼みやすいもの」を選ぶようになってしまうんです。
「これは吃音症あるあるだと思います」
吃音症という弱みを、強みに変えてくれたのが「ラップ」
ほし
でも…「吃音症」だった達磨さんが、なぜラップを?
達磨さん
もともと「歌うこと」は好きだったんです。
吃音症でも歌はスムーズに歌える場合が多くて、僕もそうでした。
ほし
そうなんですね…!
知らなかったです。
達磨さん
音楽系のYouTubeを見ているときに「BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」(BSスカパー)の動画を見つけて、最初は見ているだけだったんですが、友だちと遊びでやってみようってなったんです。
後から知ったんですが、ラップは「歌と会話の中間くらい」なので、吃音症の治療法として使われることもあるらしいです。
「歌と会話の中間」…たしかに!
達磨さん
ラップに夢中になっているうちに、日常生活でも吃音が出なくなっていることに気づきました。
「そういえば、普通に話せてる」って(笑)。
ほし
好きになったものが、たまたま自分の悩みを解決するのに最善なラップだったんですね。
すごい巡り合わせだ…
達磨さん
ラップって、たくさんの言葉を扱えるほうが有利なんです。
僕は日常生活で「発音しにくい言葉の言い換え」をすごく考えていたから、語彙が多かったのかもしれなくて。
吃音は自分にとってネガティブなものでしかなかったけど、言い回しを考えるクセが付いていたことが、ラップの表現力に生きてたんです。
ほし
すごい!
あらゆる側面でつながっていますね!
達磨さん
そうなんです。
ラップが、僕のネガティブを「強み」に変えてくれました。
達磨さん
嫌なことも悔しいことも、普段はうまく伝えられないこともラップなら表現として吐き出すことができたから、今まで苦しかったぶん、心の拠りどころになりました。
ラップバトルで言われた「その経験曲にしやがれ」という言葉が背中を押してくれた
ほし
ラップをはじめてから、印象に残っている出来事はありますか?
達磨さん
いろいろありますが…吃音症のことを歌った「音文(おとふみ)」という曲が多くの人の心に届いた瞬間のことは、忘れられないですね。
達磨さん
高校1年から「BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」の出場を目指していて、初めて本戦まで行けたときに、対戦相手だったU-mallowくんに「その経験曲にしやがれ」って言われたんです。
結局、彼に負けて初戦敗退になってしまったんですけど、「いつか(即興ラップをやるだけではなく)オリジナルの曲をつくりたい」と思っていたので、「今すぐ動こう」と背中を押してもらいました。
ほし
ラップって、ディスりあう文化だと思っていたんですが…励ますような言葉をかけたりもするんですか?
達磨さん
HIPHOPの根底には「暴力の否定」というマインドがあって、手を出さず言葉でケンカしようぜって考えから生まれたもの。
相手を罵るのが基本ではありますけど、今は、ラップでのディスは攻撃じゃなくて「お前もっとこうなった方がいいぞ」ってアドバイスとしてのコミュニケーションが多くなっていると思います。
僕はそれが好きなんですよね。
そういう優しい世界もあるんですね…
達磨さん
すぐに曲をつくりはじめて、NHKの番組『バリバラ〜障害者情報バラエティー〜』からライブのオファーをいただいていたので、そこで披露することになりました。
そのときは、いろんなバトルに負けてた時期で、かなり自信を喪失してたんですが、それだけはしっかり歌おうと。
今でも気持ちが落ち込んだり、自信がなくなると吃音が悪化してしまうそうです
達磨さん
そこで「音文」を歌ったら、審査員やお客さん、スタッフさんが想像以上に「感動した」と言ってくれて…ゴールデンボンバーの鬼龍院翔さんが審査員だったんですが、鬼龍院さんも「感動した、かっこよかった」って言ってくださって…
これ、やっぱやめらんねぇな!もっと歌いたいな!って、つづける覚悟ができました。
『音文』より引用拝啓、自信を持った僕へ
現在の僕から過去の自分へ
音楽も上手くいかず酷くなる吃音
やっと持てた自信もすぐに折れます
自分を救ってくれた音楽で
苦しむくらいなら音楽をやめたいと
思った僕の心を救ったのは
やはり音楽でした
「吃音症ってキャラで注目されただけだろ」と言われることもある
ほし
この「音文」という曲で、達磨さんは注目を浴びるようになったんですよね。
達磨さん
はい。
『バリバラ』で放映されたライブ映像がYouTubeで300万回ほど再生されて、その映像を見た監督が2019年に公開された映画『ブラック校則』への出演オファーをくれました。
ほし
多くの人から注目されるようになって、なにか変化はありましたか?
達磨さん
いろんな声が届くようになりましたね。
YouTubeを見た人たちから「吃音症だから注目されただけ」ってディスられることもあるし、逆に吃音症の人たちから「励まされました」って言われることもあります。
でも僕は、“吃音症だから”ラップをはじめたわけじゃないし、誰かのために歌ってるわけでもない。
達磨さん
吃音症はあくまで「ラッパー達磨」の特徴のひとつでしかないので、「吃音症ラッパー」と呼ばれてしまうのは、もどかしいです。
ほし
なるほど。
達磨さん
吃音に悩む人の勇気になったり、自分を見た人がラップに興味を持ってはじめたり、そういう言葉を聞くのはもちろんありがたいですが、それが目的なわけじゃない。
吃音症だけじゃなく、自分の負の感情を曲にすることでマイナスをプラスに変えたくて、歌っています。
達磨さん
あと大きく変わったのは、親に「吃音症だ」って言えるようになったことですかね。
ほし
えっ、ご両親は吃音症のこと知らなかったんですか!?
達磨さん
はい。
もともとリラックスしているときには吃音が出ないので、家族の前ではふつうに話せるんですよ。なので、打ち明けたときにも、最初は信じてもらえなかったです。
ほし
なんと…
友だちの前だけではなく、ご家族にも話していなかったんですね…
達磨さん
以前は「吃音を隠すこと」ばかり考えていたので、経験を歌にして、多くの人が聞いてくれたことで自分が変化した証拠かな、と思います。
「夢中になれること」が、マイナスをプラスに変えてくれる
ほし
最後の質問なのですが…達磨さんがラップを見つけたように、私たちが「弱み」を「強み」に変えるには、どう行動したらいいんでしょうか?
達磨さん
「夢中になれるもの」を見つけるのが、最強ですよね。夢中になってるときは、ネガティブなんて忘れてる。その状態が一番幸福だと思うので。
夢中になれるものを見つけるには、たくさん「寄り道」をするしかないと思っています。
ほし
「寄り道」って言うと、いつもと違うことに挑戦してみるとか?
達磨さん
「挑戦」と言うほど、大げさなものではなくていいと思っています。僕も、YouTubeの動画をクリックすることからはじまっていますし。
「ちょっと気になる」をスルーする回数を減らしてみる、くらいでいい。
自分の好奇心を大事にできるよう意識できたら、自然と寄り道は増えていくんじゃないかと思います。
ほし
なるほど〜。
達磨さん
何かが見つかるまではモヤっとした期間が長いと思いますし、僕もそうでしたけど…細く長くでもつづけていくことで、不意にどハマりするものと出会えたりするんだと思います。
取材後に「今はライブがどんどん中止になってしまって、本当に大変です(笑)」と最近の悩みを打ち明けてくれた達磨さん。
こういう時期だからこそ、考えはじめれば心配事は絶えないけど、「選んで進んできてしまったのだから、もうこの道をまっとうするしかない。今いる場所で最善を尽くすこと以外に正解はないから『楽しんでいこう』って思ってます」と笑う姿に、筆者も、今自分にできることを積み重ねていこうと肝に命じました。
ライブ活動が本格的に再開した日には、ぜひ「音文」を聴きに行ってみてください!
〈取材・文=ほしゆき(@yknk_st)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
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