三戸政和著『営業はいらない』より
スターバックスやAppleは「体験」で売る。営業を必要としない“モノを売る仕組み”
新R25編集部
「AIの発達によって人間の仕事が奪われる」といった話は、誰でも聞いたことがあるでしょう。
特に複雑なヒアリングや、心に寄り添うホスピタリティサービスなど、コミュニケーションスキルを必要とする“営業”こそ、「近い将来いらない仕事になる」と、日本創生投資・代表取締役社長の三戸政和さんは、著書『営業はいらない』の中で断言しています。
もし本当に、営業をはじめとする“今当たり前にある職業”が、近い未来になくなるのであれば、私たちはこの先どのようなキャリアプランを立てていけば良いのでしょうか。
その答えを探るために、今回は同書より“営業”の現在から、今後営業マンが生き残るための未来について抜粋してお届けします。
「体験」や「感動」を提供できたらモノは売れる
今の時代に必要な戦略とは何か。
長らく日本では、 「プロダクトアウト型」で戦略を立てるべきか、 「マーケットイン型」で戦略を立てるべきかの論争が続いてきた。
「プロダクトアウト型」とは、作り手が作りたいもの、作ることができるものを優先して製品やサービスを生み出す発想法のことである。
一方「マーケットイン型」は、顧客の意見やニーズを取り入れる形で製品やサービスを生み出す発想法だ。
果たして、プロダクトアウト型とマーケットイン型のどちらが正しいのだろうか。
私は、プロダクトアウトもマーケットインも、どちらも重要な視点だと考えている。
いや、プロダクトアウトかマーケットインか、といった二元論ではなく、その2つをうまくつなぐ思考法が必要だと考えているのだ。
その思考法とは「エクスペリエンス優先型の発想法」である。
エクスペリエンス、すなわちユーザーが得られる「体験」や「感動」を想像しながら製品やサービスの開発に当たるのが「エクスペリエンス優先型の発想法」だ。
スターバックスの事例
この「エクスペリエンス」をわかりやすく説明するには、スターバックスを世界最大のコーヒーショップチェーンにまで導いた、元CEOハワード・シュルツ氏の逸話を紹介するのが早いだろう。
シュルツ氏の考え方が旧来の喫茶店経営者と違ったのは、 「スターバックスを訪れたお客さまに、どういう体験を提供したいか?」から逆算して、店作りを考えたという点である。
普通、カフェをオープンしようと思ったら、 「美味しいコーヒーを提供する」か「雰囲気のいいお洒落な内装にする」か、あるいは「それをなるべく低価格で提供する」かといった方法論ばかりが先に立つ。
しかしシュルツ氏は、 「スターバックスを“サードプレイス(第三の居場所)”にする」というコンセプトを掲げることで、まったく新しい店作りに成功した。
より具体的に言えば、シュルツ氏はスターバックスを、ただ「コーヒーを提供する店」ではなく、 「お客さまにとっての、家や会社(や学校)とはまた違う、心地よく過ごしてもらう第三の居場所を体験する場」と再定義したのである。
このような戦略の定義付けができたからこそ、シュルツ氏は「どんなコーヒーを出すか?」 「どんな内装にするか?」 「どんな接客にするか?」といった戦術のすべてを、「お客さまの感動体験」を第一に据えて生み出すことができたのだ。
そこから逆算していけば、正しい答えは自ずと導き出される。
正しい問いを立てれば、正しい答えが得られるというわけだ。
その結果が、世界最大のコーヒーチェーンという、大きな成果につながった。
このスターバックスのエクスペリエンス優先型戦略を象徴するような、シュルツ氏の次の言葉は、いまだ広く語り継がれている。
「スターバックスはコーヒーを売っているのではない。体験を売っているのだ」
すなわち先に述べた、 「エクスペリエンス優先型の発想法」とは、スターバックスのように「どんな感動体験を顧客に経験してほしいか?」を第一に据えて、商品やサービスの開発に当たる思考法のことである。
これはプロダクトアウトでも、マーケットインでもない。
顧客を感動させられたら、営業なんていらない
シュルツ氏の言葉同様に、Apple創設者の一人であるスティーブ・ジョブズ氏が語った、次の言葉もまた有名である。
「消費者に何がほしいかを聞いて、それを与えるだけではいけない」
「製品をデザインするのはとても難しい。多くの場合、人は形にして見せられるまで、自分は何がほしいのかわからないものだ」
こう見ると一見、ジョブズ氏はプロダクトアウト派の経営者に見える。しかし真実は違う。
ジョブズ氏は、 「顧客がどんな商品をほしがっているか?」を考えるのではなく、「どんな製品だったら顧客は圧倒的に感動するだろうか?」といった視点に立って製品の開発を進めていたのである。
Appleが「エクスペリエンス戦略」を採っていることを証明するかのように、Appleの現CEOティム・クック氏は、ジョブズ氏の言葉を借りながら、次のように述べている。
「iPhone Mania」2017年6月16日より我々のテクノロジーは、素晴らしくなければならない、あるいは彼の言葉を借りれば『とてつもなく素晴らしく』なければならない。
なぜならば、これこそが未来をコントロールし、品質やユーザーエクスペリエンスをコントロールできる唯一の方法だからだ。
最高の「エクスペリエンス」を提供できる会社が行き着く先は、 「営業をする必要すらない世界」である。優れた戦略さえあれば、スーパー営業マンなどいらないからだ。
そして時代はもはや、そんなスーパー営業マンの力に頼って会社の売り上げを保つ、そんな時代ではない。
バルミューダのヒットの陰にも営業マンはいなかった
日本企業の中にも、この「エクスペリエンス戦略」によって過大な営業なしに商品が大ヒットし、急成長を遂げた企業がある。
家電ベンチャー企業の「バルミューダ」だ。
バルミューダは今でこそ、蒸気を使ってパンをふっくらと焼き上げる高級トースター「BALMUDA The Toaster」などが有名であるが、最初のヒット商品は3万円もする高級扇風機「グリーンファン」だった。
当時からバルミューダが最重視していたのも、ユーザーエクスペリエンスであった。
グリーンファンは、ただ単に扇風機の機能を向上させるという単純な足し算型の思考ではなく、 「人は扇風機にただ単に涼しい風を求めているわけじゃない。人々は、扇風機の風に心地よさを求めているのだ」といった、正に「エクスペリエンス思考」の上に立って開発された製品だった。
そういった思考にのっとり、 「扇風機から自然界のやさしい風を感じられる」という感動体験を実際に生み出した結果、グリーンファンは累計30万台を超える大ヒット商品となった。
バルミューダには、このグリーンファンのヒット当時、ほとんど営業マンがいなかった(そもそも同社には、当時社長を合わせ3人の社員しかいなかった)。
バルミューダの企業説明文にはこうある。
「バルミューダは家電という道具を通して、心躍るような、素晴らしい体験を皆様にお届けしたいと考えている企業です」
その後バルミューダは、「最高の香りと食感を実現する感動のトースター」を謳う「BALMUDA The Toaster」がさらなるヒット商品となり、多くの人にその存在を認知されることになる。
「体験」や「感動」があれば、世界へ勝手に拡散されていく
今はSNS隆盛の時代であり、情報流通のコストは限りなくゼロに近い。
ある一人の人間が、ある商品から得た感動的なエクスペリエンスは、あっという間に世界で共有される。
これがエクスペリエンス戦略が現代の戦略としてフィットする一つの理由でもある。
実は、筆者もまんまとバルミューダの戦略にはまり、加湿器を購入、SNS投稿をしてしまった。
つまり国民総メディア化の時代においては、ユーザーのエクスペリエンスを追求した商品を形にできれば、自分のメディアを持つ顧客が勝手に宣伝することで無駄な営業は必要なくなるということだ。
同社の今日の成功は、正しい戦略があれば、営業自体が必要なくなることを、見事なまでに体現している。
このように今後は、さまざまな業界において、エクスペリエンス戦略を駆使することで、営業などすることなく業績を上げる企業が増えるはずだ。
バルミューダのような適切な戦略があれば、営業という戦い(戦術)を減らせるのは間違いない。
もし今、営業マンであるあなたの業務に無理が生じているなら、それは川上の戦略が間違っている可能性がある。
もしかしたらあなたは必要のない戦いを強いられているのかもしれない。
営業マンはどうサバイブする?これからの未来に備えたい一冊
営業をはじめ、今ある“当たり前”がなくなる未来。
そんな激動の時代を生き抜くためには、国内だけではなく世界各国のビジネスの動きを把握し、理解を深め、未来に備える癖を今から身につけていくことが必要です。
その一助となってくれそうな一冊が、三戸政和さんの『営業はいらない』。
ぜひ一度手に取って、これから先10年ほどの間に変容する未来と、その未来で生き抜くための選択肢に触れてみてはいかがでしょうか?
きっと今後のキャリア選択に必要な視野を養ってくれるはずです。
〈撮影=大参久人〉
ビジネスパーソンインタビュー
「それ、嫌われてるに決まってるじゃん(笑)」Z世代慶應生がプロ奢ラレヤーに“友達がいない”悩みを相談したら、思わぬ事実が発覚
新R25編集部
「ビジネス書を読んでも頭に入らない…」インプットの専門家・樺沢紫苑先生に相談したら、さまざまな“間違い”を指摘されました
新R25編集部
【老害おじさん化回避】若者と絡むな、パーカー着るな。“いいおじさん”のすべて【イケオジへの道】
新R25編集部
「仕事と家庭で“顔”を変えろ」本音が話せない28歳にコミュニケーションのプロ・安達裕哉さんが“シーン別の戦い方”を教えてくれました
新R25編集部
またスゴいことを始めた前澤さんに「スケールの大きい人になる方法」を聞いたら、重たい宿題を出されてしまいました
新R25編集部
「学生時代の経験を活かそうとか、論外です」北の達人・木下社長に“社会人1年目の働き方”を相談したら、キャリア観が180度変わりました
新R25編集部