漫画家だったのに、気付いたら落語家60年

「今の若い人は、生きるのがヘタね」木久扇師匠が語る「愛されるコツ」は“人生を軽く考える”

キャリア
社会で働いていると、「人から愛されること」の重要性に気づきます。

愛されているから、仕事で指名される。愛されているから、先輩に相談をしやすい。

社会のなかでの「愛され力」は、そのまま「働きやすさ」に直結するといっても過言ではありません。誰からもあまり嫌われず、人から愛されて働きたい。みんなそう思っているのでは?

そんなふうに「みんなから愛されている人」として、筆者の頭に真っ先に浮かんだのは、林家木久扇師匠。そう、長寿TV番組『笑点』の黄色い着物でおなじみの落語家です。
あいさつは明るく、大喜利をすれば突飛な答えを繰り出す「おバカキャラ」として知られる木久扇師匠。笑点に出演して50年。長きに渡って、お客さんとメンバーから愛されてきました。

そんな木久扇師匠は今年、ご自身の人生訓をまとめた初の生き方指南本『イライラしたら豆を買いなさい 人生のトリセツ88のことば』(文春新書)を刊行。高座生活60年の節目に書き上げられた本には、若者にとっても生きるヒントとなる言葉がちりばめられていました。

本に感銘を受けた編集部は、師匠に「愛されキャラ」になるためのインタビューを依頼。大喜利みたいにとぼけられたらどうしよう…という我々の不安をよそに、師匠は自ら考えた数々の「愛されるための作戦」を語ってくれました。

実はとっても知略家な師匠の「愛されキャラになる方法」を、どうぞお楽しみください。

〈聞き手=いぬいはやと〉

「まわりから愛されるのは、“素早い”人ですよ」

木久扇師匠

木久扇師匠

あー、もしもし! 聞こえていますか?
今回はzoomでのインタビューに応じてもらった
いぬい

いぬい

師匠! 本日は「愛されキャラ」である師匠の秘密に迫っていきたいと思います。よろしくお願いします!
木久扇師匠

木久扇師匠

はい、よろしくお願いします。
いぬい

いぬい

師匠は、2019年に「笑点出演50周年」を迎えられました。その50年間、ずーっと老若男女から愛されてきた印象があります。

僕も小学生くらいから笑点を見ていて、当時も木久扇師匠(当時は木久蔵師匠)のことが好きで…
木久扇師匠

木久扇師匠

確かに、小さいお子さんからのファンレターもたくさんいただきますね。この間は3歳の子から届きまして
いぬい

いぬい

3歳からのファンレターですか!?
木久扇師匠

木久扇師匠

もちろん、文章はお母さんが書いてくれてね。お子さんはひらがなで「き」と一文字。黄色の「き」なんですね
笑点で着てるのが黄色の着物だからか…。やさしい愛されエピソード
いぬい

いぬい

そんなふうに老若男女から愛されている師匠ですが、ズバリ「人から愛される方法」とはなんだと思いますか?
木久扇師匠

木久扇師匠

そうですね…とはいえ、一朝一夕で愛されるのは難しいですよ。人は簡単に性格を作ることなんてできないですからね。

でもあえて言うなら、私は「愛されるということは“素早い”ことだ」と思ってます。
御年82歳の師匠、すんなりとzoomインタビューになじんでいます
いぬい

いぬい

素早いこと…?
木久扇師匠

木久扇師匠

例えば、遠方で落語会を開いてもらったとするでしょう。弟子にいつも言っているのは、必ず帰りの飛行機の中でお礼の手紙を書きなさい、ということなんです。
いぬい

いぬい

帰りの道中で手紙を…!
木久扇師匠

木久扇師匠

落語会を開くのって、大変なんですよ。僕たちのためにそんな大変な思いをしてくれた主催者の方に、すぐお礼を送るんです。

切手はいつも持ち歩いておいて、機内で絵葉書をもらって書く。飛行機の中なんて暇だから、すぐに取りかかれるでしょう。
いぬい

いぬい

素早いですね…
木久扇師匠

木久扇師匠

もちろん早いだけじゃだめですよ。形式的なお礼ではなく、していただいたことに対する、気の利いた一言を返す。何をしたら相手が喜ぶのか、考えるのが大切です。

おいしいわさび漬けをいただいたら、「わさび漬けを普段食べることは少なかったけど、試しに朝に食べるとさっぱりして気持ちがよかったです」とかね。

そうすれば、「あの子は気が利く子だから」と愛してもらえる。その人が仕方なくやってるのか、相手のためを思ってやってるのかは、伝わるものですから
いぬい

いぬい

なるほど…素早くお礼を伝えることなら、僕らもすぐに始められそうです!

「軽く軽く考えて、人生を重くしない」元首相に中国で2000坪の店をやらされそうになった話

いぬい

いぬい

他にも日頃から気をつけていることはありますか?

例えば「愛されキャラ」としての振る舞いとか…言動とか…
木久扇師匠

木久扇師匠

僕が人生で大事にしていることとして、「軽く軽く考えて、人生を重くしない」という考えがあります。
木久扇師匠

木久扇師匠

僕はチャンスがあったことは、バカみたいにヒョイヒョイと受け入れて、やってみたほうがいいと思うんですよ。

深く考えるより先に、まずは行動してみる。「キクちゃん、やりなよ!」「はい!やります!」って具合にね。そのほうが面白く充実した時間が過ごせるものです。

私が落語家になったときだって、ちょっと試しにやってみるくらいの気持ちだったんだから。
いぬい

いぬい

そんな軽い始まり方だったんですか??
木久扇師匠

木久扇師匠

本当は、漫画家になりたかったんですよ。

勤めていた食品関連の会社を辞めた私は、漫画家の清水昆先生(※)のもとで書生…今でいうアシスタントをはじめました。21、22歳くらいのときですね。

絵を描いているとき、私は自分の描くキャラクターのセリフを声色(モノマネ)でやっていた。そうしたらウケてね。
※清水昆=本の装丁・挿絵などをメインに執筆した漫画家(1912~1974)。酒造メーカー「黄桜」の河童のキャラクターを描いたことでも知られる
いぬい

いぬい

漫画家時代もめちゃくちゃ楽しそうに働いてますね。
木久扇師匠

木久扇師匠

楽しかったですよ。ある日先生が「描くものだけじゃなく、描く本人が面白いのは珍しい。落語もやってみたらどうだ」と言ってくれて。

知り合い伝いに、最初の師匠である桂三木助師匠のもとに弟子入りさせてもらいました。

それからもいろいろありましたけど…当時「ちょっとやってみたらどうだ」と言われて、いつの間にか芸歴60年ですから。「ちょっと」という精神は大事ですよ。
いぬい

いぬい

「受け入れてみる」ことで、まさに人生が変わっていますね。そのおかげで、今はこんなに愛される落語家になられた。
木久扇師匠

木久扇師匠

その後も、ラーメンの事業をやることになったり、海外にラーメンチェーンを作ることになったり…いろいろありました…
いぬい

いぬい

「木久蔵ラーメン」のことはもちろん知ってますけど、海外のラーメン店って…!?
笑点でもたびたび登場する「木久蔵ラーメン」。通信販売のほか、羽田空港、東京駅でも販売。以前は国内に27の店舗があったそうだ
木久扇師匠

木久扇師匠

「木久蔵ラーメン」はそもそも、私が卒業した工業高校の食品科の同窓会に参加したのがきっかけで。

当時、「みんなで集まれる店があるといいよな」って話になったんです。名前が売れていた私の名義で、「店を出そう」と言われて。
いぬい

いぬい

なんて返したんですか?
木久扇師匠

木久扇師匠

「いいよ!」って。
あまりにも軽い返事に、笑ってしまう筆者
木久扇師匠

木久扇師匠

実際に店を始めてみたら評判で、ラーメンの商品化、国内のチェーン店とあれよあれよと話が進んで…

ついに中国でも店を出そうとなって。

しかも、なんだか話が大きくなっちゃって、かつて日中国交正常化に取り組んだ、田中角栄さんが一肌脱いでくれる」なんてことになったんです。
いぬい

いぬい

元首相の!? 話が大きくなりすぎてる…
木久扇師匠

木久扇師匠

最初は同級生みんなで集まる7坪くらいの立喰いの店がやりたかったのに、いつの間にか北京の2000坪の土地を紹介されそうになってたんです。
いぬい

いぬい

最初の計画と全然違うじゃないですか…流されすぎでは…?
木久扇師匠

木久扇師匠

結局、それも天安門事件とかで、治安が悪化して流れたんだけどね。あれはびっくりしたなあ…まわりの人たちにも「生き急ぎすぎだ」って言われるようになって。

でもね、人間いつか死んじゃうんだから、お金のあるうちにいろいろやったほうがいいんです。
木久扇師匠

木久扇師匠

僕からすれば、今の若い人たちは生きるのがヘタね。

ひとつの仕事と決めたらそれを全うしようとするところがあるでしょう。
いぬい

いぬい

生きるのがヘタ…
木久扇師匠

木久扇師匠

僕は何に自分の人生を使いたいのか、「人生の時間割」を考えているんですよ。一時間目は落語、二時間目はラーメン、三時間目はマンガ…という具合に。優先順位をつけている。

そんなふうに、気になるもの、面白いと感じていることを、優先順位をつけながらいくつもやったらいいんですよ。生きている時間は有限なんだから、充実しているほうがいいでしょう。

見つけたチャンスや、「やってみたら?」って言われたことは、どんどん受け入れてしまえばいいんです。
いぬい

いぬい

どんどんやってみる…なるほど。

それにしても、その行動力を持ち続ける師匠のバイタリティはすごいです。
木久扇師匠

木久扇師匠

僕にはやっぱり、「東京大空襲で生き残った」という感覚が強いからですね。

あのとき一度「死ぬかもしれない」と思ったから、生きているうちにやりたいことをやりたいし、その分「生きていて得してるな」といつも思いますよ。
空襲が価値観を変えた…木久扇師匠の長い長い人生の歴史と重みを感じる…

愛される「おバカキャラ」になるには、相手を否定しようとしないこと

いぬい

いぬい

木久扇師匠はさまざまなことにチャレンジされて、落語家の顔、漫画家の顔、ラーメンオーナーの顔とありますが…やはり、僕たちにとっては笑点での顔が印象的です。

あのくだらなくて、どこか愛おしい「おバカキャラ」でいるために考えられていることもあるんでしょうか?
木久扇師匠

木久扇師匠

もちろんです。

このときに大事なのは、「バカのフリをする」んじゃなく、「バカになりきる」ことです。
いぬい

いぬい

…そのふたつって、どう違うんでしょう?
木久扇師匠

木久扇師匠

結構違うものなんですよ。普通の人は、「社会に出てバカにされるのなんて嫌だ」と思うでしょう。

そういう人が内心では「本当はバカじゃないんだからな!」と思いながらバカをやっても、うまくは行かない
いぬい

いぬい

「フリをする」だけだと、プライドが透けて見えてしまう…? では「バカになりきる」には一体どうすれば?
木久扇師匠

木久扇師匠

例えば、誰かから「バカだなあお前は」と言われるでしょう。そうしたら「僕はバカじゃないです、画家なんです」と、こう答える。

「キャラを理解してもらおう」と力むんじゃなくて、突っ込まれてもどこか面白く返す柔らかさが大切なんです。
漫画家・挿絵作家でもある木久扇師匠ならではの返しだ
いぬい

いぬい

なるほど、受け返しのしなやかさが全然違う…
木久扇師匠

木久扇師匠

そういう姿勢を続けることで「この人に振ったら、必ずバカなことをやってくれる」と思ってもらえるようになって、自分の役割がはっきりすると思うんです。

その証拠に、歌丸師匠なんかは、大喜利でも僕をなかなか指さなかった。
いぬい

いぬい

『笑点』の先代司会者、桂歌丸師匠が? 「なかなか指さない」のはどうしてですか?
木久扇師匠

木久扇師匠

歌丸師匠はいつも、1つの問題にみんなが答え終わってから、最後に振ってくれるんです。それで僕がバカな答えをやって、会場をドッと盛り上げる。
木久扇師匠

木久扇師匠

盛り上がったところで「実にくだらない! 本当にキクちゃんには困っちゃうよ」なんて言いながら次の問題に移る…という流れができていたんです。
いぬい

いぬい

それって、“オチを任される”ということですよね!
木久扇師匠

木久扇師匠

そう。絶対に点を取らなきゃいけないという、三番バッター的な役割ですよね。プレッシャーでしたけど、いい仕事でした
いぬい

いぬい

笑点での一見バカバカしいおふざけの裏には、冷静な計算と責任感があったんですね…
いぬい

いぬい

そういえば、師匠は数カ月前からYoutubeチャンネルも始められましたね。
木久扇師匠

木久扇師匠

ええ。今チャンネル登録が6.3万人くらいかな?
出典Youtube
いぬい

いぬい

最初は「楽しそうに遊んでるなあ」くらいの認識だったんですが、YouTubeを始めたことにも何かちゃんとした意味が…?
木久扇師匠

木久扇師匠

YouTubeはね、落語文化を無くさないためにはじめようと思って
いぬい

いぬい

(思ったよりスケールの大きな話だ)
木久扇師匠

木久扇師匠

落語文化を後世に伝えていくためには、今の小さい子供たちに興味を持ってもらうことが大切だな、とずっと考えていたんです。

小さい子供が興味を持ったものは、必ず親御さんにも話します。すると、親御さんも一緒になって好きになってくれるかもしれない。
いぬい

いぬい

なるほど、小さい子たちが落語の宣伝部隊になってくれる可能性が。
木久扇師匠

木久扇師匠

コロナ禍のようなことがあると、人が集まって成り立つ「寄席の文化」が途絶えてしまう。

それで、集まらなくても見られるYouTubeで「落語っぽい笑い」を届けて、小さな子供達に興味を持ってもらおうと思って。

今はYouTuberになりたい子も多いというでしょう。その夢と、落語的な笑いへの興味がつながればいいなと思ってますね
数々の「愛されるための方法」を、独自の目線で語ってくれた木久扇師匠。

その話を聞けば聞くほど、愛されるために必要なのは小手先のコミュニケーションや仕草ではなく、生き方の姿勢なのだとわかります。

木久扇師匠が60年の芸の世界にいるなかで気づいた「その場の状況を受け入れて、行動してみる」「個性を磨き続けると、役割が生まれる」といった姿勢は、若きビジネスパーソンが何か重要な選択を迫れられたときの指針になるのではないでしょうか。

〈取材・文=いぬいはやと(@inuiiii_)/編集=天野俊吉(@amanop)〉

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軽やかに人生を楽しむ木久扇師匠が、60年の高座生活を通して得た教訓の数々をまとめた書籍『イライラしたら豆を買いなさい 人生のトリセツ88のことば』(文春新書)。

師匠の「軽やかさ」に少しでも憧れたなら、この書籍から「悩んだ時、師匠のあの言葉を思い出す」なんて羅針盤のような言葉がたくさん見つかるはずです。

「なんだかうまく生きられない」「楽しいことが少ない」と感じている方は、ぜひチェックしてみてください!
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