ビジネスパーソンインタビュー
人気コント師の「負け人生」
「この人がお笑い辞めちゃダメだと思って…」東京03飯塚が“負け続け芸人人生”から飛躍した出会い
新R25編集部
社会に出ると、常に心のどこかに置かれる「勝ち負け」の基準。
もちろん、目標を決めて努力することは有意義でやりがいもあるけれど、勝ち負けばかり考えているとちょっと疲れてしまうのも正直なところ。
そんなことを考えていた筆者は、とある面白そうな番組を発見しました。
『東京03 in UNDERDOGS -今日は負けたけど、明日は絶対勝つ-』
それは「負け犬」をテーマとした、BSフジで毎週水曜23時から放送中のコント番組。
さまざまな「負け」エピソードを元にコントを制作し、実写やアニメなどのかたちで笑いにしようという番組です。
メインで出演するのは、芸人たちからの評価も高いコントグループ・東京03。
番組を見ていると、メンバーの1人である飯塚悟志さんは「僕らにぴったりの番組ですよ。負け続けてきた人生ですから」と語っていました。
【飯塚悟志(いいづか・さとし)】1973年生まれ、千葉県出身。1995年に豊本明長と「アルファルファ」を結成。2003年に角田晃広が加入し、「東京03」を結成する。2009年には「キングオブコント2009」で優勝し、人気を不動のものに。その後も公式YouTubeチャンネルを開設するなど、活躍を続ける。2020年6月から『東京03 in UNDERDOGS -今日は負けたけど、明日は絶対勝つ- 』(BSフジ)に出演中
好きなコントをやり、楽しんでいるように見える飯塚さんが、「負け続きの人生」?
疑問に思った編集部は、飯塚さんに取材の機会をいただくことに。負け続きだと語る本人に、「負けとの正しい向き合い方」について、お話を聞いてきました。
〈聞き手=いぬいはやと〉
「天才になれなかった」最初の負けと、「辞めさせたくないヤツ」との出会い
乾
今日はよろしくお願いします!
早速ですが、飯塚さんが番組で「負け続けの人生」って言っていたことが気になって。
飯塚さん
本当、その通りですよ。
乾
でも、単独ライブはまったくチケットが取れないと聞きますし、ラジオコントのレギュラー番組もお持ちで。
角田さんは、ドラマ『半沢直樹』や『いだてん』に出演されたり、めちゃくちゃ活躍されてるじゃないですか!
飯塚さん
まあ今はね、昔はそんなうまく行ってなかったですから。
乾
ぜひぜひ、飯塚さんの「負けエピソード」を聞かせてください。
人気コント師の「負け人生」、お楽しみください
飯塚さん
…そもそも、僕はこの世界に入ってきたときはめちゃくちゃ自信満々だったんですよ。高校のころからコントの台本を書いてたし。
しかも「コントを文化祭なんかではやりたくない」って思うくらいには尖ってて。
乾
「文化祭ごときで」ってことですよね?
尖ってる…!
飯塚さん
そう。それで芸人の世界に入って、いろいろコンビを組み替えたあと、豊本(明長)とアルファルファってコンビを組むんですけど、それが全然ウケなくて。
乾
東京03のメンバーのうち2人がそろったのに、ウケないなんてことあります?
飯塚さん
それがあったんですよね。
自分たちのやりたいことを好き勝手やってたんですけど、ビックリするくらいお客さんに伝わらなかった。
仕方ないから「お客さんはこういう感じが好きなんじゃない?」って“寄せた”ネタをやるようになって。CMのフレーズをイジってみたりとか。
そしたら少しずつ、その場ではウケるようになっていった。
乾
うまく軌道修正したように見えますが…それがどうして負けだったんですか?
飯塚さん
同世代でライブに出てたやつら、たとえばおぎやはぎ、アンタッチャブル、ドランクドラゴン…とかは、自分たちのやりたいことをやってめちゃくちゃウケてたんですよ。
それって一番いい状態じゃないですか。
乾
こっちはお客さんに合わせてネタやってるのに…?
飯塚さん
そう。
こっちが「ウケてるからいいか…」ってCMイジりみたいなネタしてるうちに、みんなは自分たちの笑いで結果を出してた。気づいたらすごい差を付けられてて。
もうこいつらすげえ、天才だ!…って自覚したのが最初の負けですね。
乾
それは辛い。
その「負け」にはどう向き合ったんですか?
飯塚さん
負けてることに落ち込むよりも、大事な役割が見つかったんですよ。
実はその頃、角ちゃんが「芸人辞める」って言い出して。
乾
えっ、どういうことですか?
飯塚さん
角ちゃんは当時、別の人と「プラスドライバー」ってトリオを組んでて。ライブでも一緒になるから仲が良かった。
すげえ才能があるやつだ、って思ってたのに、解散したから辞めるとか言い出した。
乾
それでどうしたんですか?
飯塚さん
「もったいないよ! だったら俺らと一緒にやろう!」って必死に引き止めましたね。
「才能のある角田を辞めさせない。世の中に出す」ってことが、自分の使命みたいなもんだと思ったんですよ。
乾
それ、バナナマンの設楽さんも似た話をされてました。「日村さんを世に出すのが使命だ」と。
負けた自分をどう慰めるかとかではなく、自分の使命が見つかったから、頑張らざるを得なくなったんですね。
しかし、飯塚さんをそこまで奮い立たせた角田さんって一体…?
飯塚さん
一緒に飲んでたときから、「この人は、僕らがやりたい”本質的な笑い”を持ってる人だ…!!」ってずっと思ってたんです。
センスある一言とか、奇をてらった行動とかじゃなくて、ボソッと言った本音が面白い、みたいな。
この人にお笑いを辞めさせちゃ、ダメだと思った。
飯塚さん
俺らも当時、「あと1年くらいやってダメだったら辞めるか」って感じだった。
だから後悔のないように、3人でやるお笑いはライブでウケなかろうが好きなことやろうって話して。
乾
おお…これまでの「お客さんに寄せた笑いをやる」って負けパターンに、変化が訪れましたね。
飯塚さん
そう。お客さんより、矢作さんとかザキヤマとか、俺らがすごいと思った人を笑わせようって。
そうやってると、2階席からザキヤマが笑ってくれてる声が聴こえたりするんですよ。お客さんは全然笑ってないんですけど(笑)。
それで初めて手応えを感じて。
乾
よかった…!
飯塚さん
そうやって決めたことを続けてると、「え、やりたいお笑いってこんなに伝わるもんなの?」って、ビックリするぐらいお客さんにもウケるようになったんですよ。
乾
“やりたいことをやる”方向転換で、「天才たちに負けた経験」を乗り越えたんですね…!
人間っぽい「ダメなところ」を、どうしても面白がってしまう
乾
東京03を結成して、調子が上がっていくわけですが、やっぱり、角田さん加入は大きな出来事でしたか?
飯塚さん
もちろん。ほんと、角ちゃんはすごいんですよ!
僕らがやろうとして出せなかった人間の本質的な笑いみたいなものを、一手に担ってくれた。
乾
コントを見てて思うんですけど、角田さんの「負け役」みたいな役回りがいつも面白いですよね。
飯塚さん
多分、僕の性格が悪くて。
そういう「人間のダメな部分」が漏れ出てる人を見るのが大好きなんですよね。
ちょっとプライドが高くて、恥ずかしいところを見せちゃった人がそれを隠そうとしてるのを見て「うわ〜!隠してる〜!」って。
嫌いになるんじゃなくて、面白がっちゃう。
たとえば、僕らの単独ライブネタで「スマイルハウジング」って不動産のコントがあるんですけど。
「東京03 Official YouTube Channel」にて期間限定で公開中
飯塚さん
あれは当時のマネージャーがモデルになってて。その人は、自分ができないことに対して「全然できます」みたいな感じでくるんですよね。
当時はそれがすごい嫌で、「よくないよ」って注意もしたし、かなりストレスだったんですけど…数年たったら、そのときのことをちゃんと面白いネタにできた。
そういう人間のダメな部分の面白さを、コントの舞台で、演技で表現できるのが角ちゃんなんですよ。
乾
なるほど、飯塚さんの思う「人間の面白さ」と、角田さんのキャラクターがバッチリハマったんですね。
ちなみに、飯塚さんご自身のダメなところや失敗も面白がれるものですか?
飯塚さん
そうなんですよ!
それこそ、個人的な勝ち負けで言うと「負け」にあたるエピソードとか、自分がすごく嫌な思いをしたことも、東京03としては違う捉え方ができるようになった。
乾
違った捉え方って…
飯塚さん
「これ、コントにできるかも…」って。
乾
コント師の鑑ですね…!
コントで「負け」を克服してしまった!?
飯塚さん
克服したかはわかんないですけど(笑)。
少なくとも、毎年の単独ライブでやるコントの元になったりはしてますね。
あのライブをやり続けてきたから、今の仕事があるとも思うし。
乾
負けからコントが生まれ、コントからライブ、ライブから仕事が生まれる…
「負けた経験」の捉え方ひとつで、自分の仕事の糧に変えられたんですね。
「自分一人が勝つ」はもういい。“勝ち負け”の定義が変わった
飯塚さん
あとは「勝ち負け」の話で言うと、その定義も歳をとってちょっと変わってきたかなって。
乾
と言うと?
飯塚さん
若いころって、「自分がウケたい」って思うじゃないですか。
まわりをどうこうするより、「自分がウケたら勝ち」みたいな。
僕自身も昔は、テレビ局のディレクターさんから指示された演出が好みじゃなかったり、自分の中で「つじつまがあってない」と思ったら、できるだけ演出を変えようとしたりしていて。
乾
演出にも意見を…そのころからはっきりコント哲学を持ってたんですね。
飯塚さん
でも、それってなんか嫌な感じじゃないですか。
向こうだって僕らのために時間を使って、僕らを面白くする方法を考えてきてくれたのに。
今までは「どうすれば自分が面白くなるか」「どうすればウケるか」ばっかり考えてたけど、最近はすっかり「その場が面白くなればそれでいい」って考えに変わりました。
共演者が笑ってるとか、スタッフも笑ってるとか、そっちが大事だなって。
乾
大きな変化ですけど、どうしてそう考えるようになったんですか?
飯塚さん
理由はわかんないんですけど、きっかけは35歳のときにやった単独ライブですね。
人生ではじめて、ライブ後に片付けしてくれてるスタッフさんのことが目に入ったんですよ。
乾
スタッフさんが?
飯塚さん
「うわあ〜、俺らがやったライブの後片付けしてくれてるんだ! 俺らのために時間使ってくれてるんだ!」って。
今思えば当たり前なんですけど。
そこから、意識が変わってきたんですよね。
乾
お話を聞いてて思ったんですが、飯塚さんは個性の違いははっきり認識するけど、他人と自分を比べることが少ないですよね。
先に売れていった人たちに対して「別にあいつらなんか…」って腐ったりも絶対にしないし。
飯塚さん
だって、お笑いが好きだし、面白い人が好きなんで。
自分のプライドを守るために、絶対的に面白いことをしてる彼らを否定するのは、自分に嘘をつくことになっちゃう。
乾
カッコいいです。
「負け」をコントに変えられるようになり、「1人で勝っても意味がない」と気づき…どんどん素敵な「東京03」になっていきますね。
飯塚さん
でも、東京03になってからも一回だけ「辞めようかな」って思ったことがあったんですよ。
乾
ええ!? それはどうして!?
飯塚さん
いろいろあって就職を考えたのと…あと、最初に「角ちゃんを辞めさせないことが使命」って話をしたと思うんですけど、「もうこの人、ほっといても売れるんじゃねえかな」って思ったタイミングがあって。
なんか自分の役目は果たした気がして。
乾
使命は十分果たしたと…どうして辞めずに済んだんですか?
飯塚さん
角ちゃんに「もったいないよ!」って止められました(笑)。
乾
おお…!
昔引き止めた相手に、引き止められる…アツい展開だ…!
乾
引き止められてよかった…
でも、「お笑い以外に趣味がない」って話をいろんなメディアでされてますよね。
もし引き止められずに辞めていたら、どうなってたんでしょう…?
飯塚さん
どうなんだろう…
本当にお笑い以外ないからな…
やっぱり休みの日は劇場に、コントを見に行ったりしてたんじゃないですかね。
飯塚さんと東京03を「負け続きの人生」から救い出したのは、「負けの捉え方を変え、コントの糧にする」という考え。
「人間のダメなところも面白がっちゃう」という、卑屈で優しい飯塚さんの性格から生まれたこの考えは、東京03を人気実力ともに随一のコントグループへとのしあげました。
日々の小さな敗北や「負けの意識」に苛まれている若いビジネスマンも、飯塚さんのように捉え方を変えながら、
「負けた経験も、新しい何かの材料にならないか?」
と考えてみるといいのではないでしょうか。
コントにはならなくても、将来の笑い話くらいにはなるはずですから。
〈取材・文=いぬいはやと(@inuiiii_)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉
『東京03 in UNDERDOGS -今日は負けたけど、明日は絶対勝つ- 』BSフジにて毎週水曜日23時~23時30分に放送中!
東京03第2チャンネルでリモート単独公演「隔たってるね。」をチェック!
ビジネスパーソンインタビュー
またスゴいことを始めた前澤さんに「スケールの大きい人になる方法」を聞いたら、重たい宿題を出されてしまいました
新R25編集部
【不満も希望もないから燃えられない…】“悟っちゃってる”Z世代の悩みに共感する箕輪厚介さんが「幸せになる3つの方法」を伝授してくれた
新R25編集部
「実家のお店がなくなるのは悲しい… 家業を継ぐか迷ってます」実家のスーパーを全国区にした大山皓生さんに相談したら、感動的なアドバイスをいただきました
新R25編集部
「俯瞰するって、むしろ大人ではない」“エンタメ鑑賞タスク化してる問題”に佐渡島庸平が一石
新R25編集部
社内にたった一人で“違和感”を口にできるか?「BPaaS」推進するkubell桐谷豪が語るコミットの本質
新R25編集部
【仕事なくなる?そんなにすごい?】“AIがずっとしっくりこない”悩みへのけんすうさんの回答が超ハラオチ
新R25編集部