ビジネスパーソンインタビュー

「88点の仕事を、88点って言っちゃダメ」つんく♂が語り尽くす“伸びる若手”の共通項

「メンバーが息切れしてるサインは、これやね」

「88点の仕事を、88点って言っちゃダメ」つんく♂が語り尽くす“伸びる若手”の共通項

新R25編集部

2020/07/29

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社会人になって数年たったR25世代のビジネスマン。後輩ができたり、ちょっとしたチームのリーダーを任せられたりする機会も増えてきます。

でも、いわゆる「マネジメント」なんてしたことないから、どうしたらいいのかわからない!

今回は、そんな悩みを、この超大物に相談する機会に恵まれました

【つんく♂】1968年生まれ。大阪府出身。1992年、「シャ乱Q」でデビュー。「シングルベッド」「ズルい女」「いいわけ」などのヒット曲を発表する。1997年より「モーニング娘。」のプロデューサーとして活動。その後、「ハロー!プロジェクト」にて多くのグループのプロデュースを務める。2020年には絵本『ねぇ、ママ?僕のお願い!』(双葉社)をプロデュース。また、オンラインサロン「つんく♂エンタメ♪サロン」を主宰するなど、さまざまな活動を続ける

プロデューサーとして、モーニング娘。をはじめとする、数多くの才能を見出してきたつんく♂さん。最近はオンラインサロン「つんく♂エンタメ♪サロン」を主宰するなど、さまざまな人々との交流を続けています。

そんな彼に、「伸びる若手」は何が違うのか、プロは若手のどんなところを見ているのか、聞いてみました。

つんく♂さんの口から飛び出してきたのは「加点理論」と「ミッキーマウス理論」。それっていったい…!?

〈聞き手=小沢あや〉

つんく♂さんがオーディションで必ず「おでこ出して」と言う真意

小沢

ずっと尊敬しているつんく♂さんにお話を伺えてうれしいです!

昔のオーディション映像を見ていると「みんながこんなに垢抜けて伸びたの、本当にすごいな」と、毎回感動します。つんく♂さんは若手のどんなところを見て、「コイツは伸びしろがある」って判断してるんでしょうか?

つんく♂さん

ある種の才能なんだけど、「心の中を見せられる子なのか」を見ます。

たとえば、面接や面談、オーディションって、ジャッジする側は「これから仲間になる」人を選ぼうとしてるわけ。いわば、“家族”として受け入れようとしている

なのに、戦争ととらえてしまって、相手を“敵”のように見てしまう子が多い

小沢

つんく♂さんは、オーディションで必ず「おでこ出して」と言うそうですね…?

つんく♂さん

そうそう。前髪でごまかした状態ではなく、ありのままの状態を“すぐ、その場で”見せられるかどうかを見たい

「自分を良く見せよう」と考えてる人って、どんどんこちら(上司やマネジメント側)との距離ができちゃう。秘密が増えちゃうんです。

そもそも相手を“家族”“仲間”ととらえる姿勢があるかどうかは、とても大事だね。

自分の仕事は、自分で加点して100点にしよう

つんく♂さん

あと、日本の若い子の間に、「謙虚の美学」みたいなものが広がりすぎてるのが気になってて。

つんく♂さん

オーディションでダンスや歌を見たあと、すぐ「今のパフォーマンス、自分的には何点?」って聞くでしょ。そうすると、「60点くらいです」「70点です」って答える子が多い。

理由を聞くと、「歌の出だしを間違えたから」「練習のときは、もっとできたから」とか言うんです。

小沢

たしかに、それぐらいの点数を言うのが無難な気が…

つんく♂さん

でも、プロだったら、「60点って言うのは美徳なんかな~?と。いつだって「100点でした!」って言ってほしいのよ。お客さんからしてもそうでしょ?

小沢

でも、ミスはあるし「いつでも100点」って難しいですよね?

つんく♂さん

だから、そこなんよね。「加点」を、自分自身で見つけ出すことなんですよ。

つんく♂さん

「振り付けと歌詞を間違えたから、88点」っていうパフォーマンスだったとするでしょ。

そのときに、「マイナス12点分のミスをした」と認めたうえで、別のところで「12点分のプラス」を自分で見つけられるかどうかが大事

「あそこはかっこよくできた」「ここのフレーズは最高だった」って、自分の加点ポイントをきちんと理解して、トータルで100点を取る力がほしいのよ。

小沢

88点のパフォーマンスなのに、自分で12点プラスしてしまう…!

つんく♂さん

日本人は、できなかったことを認める「謙虚の美学」は持ってる。でも、できたことを見つけ出すプラス思考ができないんですよ。

小沢

なるほど。

つんく♂さん

ハリウッド俳優が映画に出演して、インタビューで何て言う?

全力で「今回の作品も最高だよ! みんな見てくれ!」って言うやん。そこで自己批判とか反省コメントしてる映像とか、見た記憶がないよね。

だから、日本人もそれがあたりまえのマインドでいてほしい。生意気だなんて、誰も思わないから。

たしかにそうです…

つんく♂さん

くわえて、ずっと若い子に言いつづけてるのが「ミッキーマウス理論」。

どんなに暑い日でも、ミッキーは「暑い」とか絶対に言わないでしょ?

ハロー!プロジェクトメンバーにもずっと言ってましたね。「ステージに立つなら、ミッキーマウスと同じ気持ちで戦わんとあかんよ。プロなんだから」って。

つんく♂さんが見極める「メンバーが息切れしているサイン」とは?

小沢

若手や後輩に、プレッシャーをかけすぎて潰れてしまう…ということもありますよね。

「この子、今ヤバイな」という見極めや、ケアはどうしてますか?

つんく♂さん

そこはかなり注意してメンバーを見るようにしてる

息切れしてないか、不安や不満がたまってないか…

小沢

それはどこで感じるんですか? 本人にきいたらきっと「やれます!」「大丈夫です!」って言うと思うんですけど…

つんく♂さん

本業と関係ないこだわりを出してくるかどうか」やね。

衣装の丈を2cm伸ばしたいです」とか「前髪を伸ばしたい」って言ってきたり…“周囲から見たらどうでもいいこと”にこだわるとき。

音楽に関係ない部分でいちいちこだわりだしたら、危ないサインかなと思ってる。

小沢

ハッキリは言えないけど、何か不満があるというサインなのかな…

つんく♂さん

モーニング娘。も、メンバーそれぞれが「輝いている時期」はある。でも、ずっとエースでいつづけられるわけではないだろうし。

後藤真希にしろ、安倍なつみにしろ、グループを引っ張ってるときもあるけど、「息切れしてんな~」と思ったときは、ちょっと立ち位置を下げて、そのときにノッていた石川梨華を前に出したり。

ずっと連投させて、替えがきかない組織になるのはもったいないもんね。

小沢

潰れる前に、きちんと休ませる判断をするのが大事なんですね。

つんく♂さん

そうそう。

犬ぞり」ってあるでしょ。6頭くらいの犬が走るんだけど、あれは先頭とか真ん中を走る犬がメインで引っ張ってるの。実は後ろのほうの犬はけっこう休んでたりするらしい。で、先頭が疲れてくると入れ替えるんだとか。

それと同じで「みんなで一緒に走るけど、手を抜くやつもいてもいいよ。調子ええやつに引っ張らせるから、適当に足並みは合わせて。ただ逆向きにだけは走らないでね」という方針で、心に余裕もってプロデュースするようにしてきた。

つんく♂さんが抜擢するのは「面倒くさそうなヤツ」

小沢

若手をリーダーやセンターに抜擢するうえで、つんく♂さんが意識していることはありますか?

つんく♂さん

…今の若い子って、みんな“リーダー”みたいなポジションで目立ちたくないのかな?

小沢

うーん、「キャリアアップのためにやったほうがいい気がするけど、本心ではそこまでやりたくない」くらいの人が多いじゃないでしょうか。

批判、減点されがちで、あんまり得しないイメージなんですよね。

つんく♂さん

まあ、そりゃそうやね(笑)。リスクはあるよな。

俺は、一番面倒くさそうなヤツにリーダーやらせるかな。モーニングの最初のリーダー中澤裕子も、一番自分のことが好きそうだからやらせたの(笑)。

小沢

え、年功序列じゃなかったんですね…! 

でも、「自分が好きな人」って、リーダーに向かないイメージです。 

つんく♂さん

いやあ、みんな自分のことは大好きなのよ(笑)。だから、我が強いくらいのヤツのほうが、責任感持ってやる。道重(さゆみ)なんかも、よくやってたし。

小沢

たしかに、道重さんは伝説のリーダーですね!

つんく♂さん

ただ、急な抜擢はこっちも賭けよ。

メンバーもスタッフも「あれ?」ってなるでしょ?それに対して、ちゃんと説明できる要素を本人がそろえなければならない

だから、まずは小さなところから結果を出して、周囲に認められる必要があるやろうね。

小沢

抜擢される下地がないと、抜擢もできないってことですね。

つんく♂さん

たとえば石川梨華は、4期メンバーのなかではあんまり目立たなかったんです。

でも、後藤・安倍が伸び悩んできた時にサイドに入れてみたら良かったんだよね。そこで、カントリー娘。で真ん中やらせたら、一気に伸びて、自信もついた。

そこから「ザ☆ピ~ス!」のセンターで、ドーン!と輝いた。歌は下手やけど、最初は地味だったところからセンターを体験した、象徴的なメンバーやね。

「いつも宴会の幹事やってた(笑)」つんく♂さんが信頼を勝ち取った若手時代

小沢

ここからは、つんく♂さんの“若手時代”のことも聞いてみたいです…!

つんく♂さんは、若いころに「自分が評価されてない」と悩んだことはありますか?

つんく♂さん

いや、そんなになかったんじゃないかな(笑)。

今若い子はさ、堀江(貴文)さんとか、サイバーエージェントの藤田(晋)さんを見てたら「自分も何か成し遂げないと、もう遅いんちゃうか」と焦ってしまうよね。でも、彼らみたいな人はまれだし、天才だから。

昔の俺もそうやったけど、まずは、狭いなかでの成功例をつくっていけばいいんです。人の嫌がることをどんどんやって、信用を勝ちとっていけばいい

小沢

具体的には、どんなことから始めたんですか?

つんく♂さん

僕はどんな食事会や歓迎会でも幹事をやった

大学のゼミのようなカタい集まりでも、バンドのときも同じ。店選び、メニュー決め、会計まわりのこと…全部やってたね。

小沢

つんく♂さんが雑務を…!?

つんく♂さん

そう。スマホなんてなかったから、いろんなタイプのレストランや居酒屋の、個室の有無、最大貸切人数、パーキングの大きさ…とかいろんな情報と電話番号を手帳に書き込んで持ち歩いてました。店長の名前とかもね。

ちょっとえらい人に「どっかないかな」って言われた瞬間に電話するくらいの瞬発力を備えてたと思う。

小沢

ただ、今は「業務外のことをわざわざやらなくていい」という風潮もありますが…

つんく♂さん

そうかもねえ。ただ、俺はそういう他のやつらが面倒くさがりそうな作業を、全部巻き取ってやった。大学のころも、大阪でアマチュアバンドやってたころもね。

誰かに任せて流れが悪くなったり、自分の不得意分野でアウェイの戦いになるより、少々忙しくてもホームにしちゃったほうがラクだと考えてそうしてた。

つんく♂さん

そういう準備って、みんなで作業を分けるんじゃなくて、自分だけでやり切ったほうがいいみんなで分担しても楽しくないし、お互い気を遣って疲れるだけ

それより、みんなにはラクしてもらって、こっちが汗かいて最終的な結果として「思い通りになった」って思えるほうが達成感があった

いろんな人と知り合いなる、信頼を得るといったメリットもできるしね。

ある程度成功したら、「小っちゃい番長」にならないことが大事

つんく♂さん

最初はそうやって信頼を勝ち取る。でも、だんだん悪い部分が出てくるのよ。率先して動く人間って、目立つぶん、叩かれもする。

小沢

「あいつ、調子乗ってんな」みたいなやっかみはありますよね。

つんく♂さん

自分が厄介になる部分もあるよね。狭いコミュニティで権力を持っちゃうと、自分の勘違いスイッチが入っちゃって、どこかで足元すくわれてしまうっていう。

最初は俺がライブハウスに「うちのバンドを出してください!」ってお願いする側だったのに、いろいろ仕切ってお客さんを抱えるようになってからは、「うちに出てください!」って、向こうからお願いされるようになるんだよ。

小沢

最初と立場が逆転! それは勘違いしてしまいそうになりますね。

つんく♂さん

僕は、東京に出てきてすぐ売れなかったのが不幸中の幸いというか、結果イチからやりなおすことができたので、それがよかった。

大阪で“小っちゃい番長”になってたら、なんらかのトラブルに巻き込まれていたとか、天狗の鼻が折れてたやろね。

狭いなかである程度成功したら、“小っちゃい番長”にならないように、どこか別のステージに行くことは大事やね。小っちゃい番長は自分が小っちゃいことに気がつかないからね。

小沢

つんく♂さん個人の最近の活動で言うと、オンラインサロンの運営を本格化していますよね。

もう1000人以上のコミュニティになりましたが、サロンで「この若手、面白い!」と思うのは、どんな人ですか?

つんく♂さん

サロンで活躍するのは、不思議なもんで、その他のコミュ二ティでも頑張ってる人なんだよね。

そういう人は、どんな状況でも“楽しいポイント”を見つけようとする。「誰かと何かしたい」という野心があるから、どんなコミュニティにいても輝けるんやろうね。

コロナ禍に、予想以上に“飲み込まれた”ところもあったんだけど…そういうときにポジティブな仲間に救われることは多かったですよ。

小沢

そんなメンバーたちのモチベーションを維持するために、「サロンのリーダー」として意識していることはありますか?

つんく♂さん

リーダーとメンバーの間で、刺激をどれだけ共有できるかが大事。

ある程度チームや組織がこなれてくると、刺激を注入するって難しいのよ。

バラエティ番組のドッキリみたいな仕掛けをしても、その瞬間はわーっと盛り上がるかもしれないけど、あとでメンバーから反発する気持ちも出てくるでしょ。だから僕はあんまり使いたくない。

小沢

飛び道具的に盛り上げても意味はないんですね。

つんく♂さん

新人や社員のモチベーションに関しても上辺だけのキャンペーンでなく、「本当にこの会社をよくしたい!」という気持ちで運営していけば、人はついてくるはず

これはオンラインサロンもアイドルも、会社みたいな組織も同じやろうね。

大物なのに、穏やかに、まっすぐ目を見て語りかけてきてくれたつんく♂さん。

これまで関わった若手すべてに、真摯に向き合ってきたからこその教えをたくさんいただきました。

いつでも「今日の私は100点です」って答えられるように、ポジティブマインドで生きていきます。ピース!

〈取材・文=小沢あや(@hibicoto)/編集=天野俊吉(@amanop)〉

つんく♂さんのオンラインサロンはこちらをチェック!

つんく♂さん主宰のオンラインサロン「つんく♂エンタメ♪サロン~絶対言うたらあかんでぇ~」。取材中にも「ポジティブな仲間に救われた」と話が出たように、さまざまな人が集める交流の場となっています。

「未来に役立つような、貢献出来るような、いや、未来を引っ張っていけるような、そんな会話が花咲く素敵な場所に育てていければ」

とのことなので、気になる方はぜひ参加してみてください!

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