ビジネスパーソンインタビュー
「“言語化しづらい理想”を目指す、リスキーな勝負を」
「音楽SNSを目指してる?」「いや…」けんすう×AWA代表が語るスタートアップの下克上戦略
新R25編集部
まだ知らない、好きな音楽に出会えるサービス「AWA」。巨大グローバルIT企業ひしめく音楽ストリーミング業界で、スタートアップながら独自の世界観を武器に躍進をつづけているサービスです。
新R25読者のなかには、AWAと同じように巨大な競合を倒そうと日々頑張っている方もいるはず。
そこで今回は、群雄割拠のマンガサービス業界で「アル」を立ち上げたけんすうさんをお呼びし、AWA代表取締役社長・小野哲太郎さんとの対談をセッティング。
「スタートアップサービスがグローバルIT企業に勝つには?」と質問をぶつけてきました。
〈聞き手=森久保発万(新R25編集部)〉
【けんすう】(写真左)1981年生まれ。19才で学生コミュニティ「ミルクカフェ」を立ち上げ、大学在学中にネット企業の社長に就任。2006年、リクルートに入社。2009年に退職し、nanapi代表取締役に就任。2018年にはアル株式会社を設立し、2019年1月にマンガ情報Webサービス「アル」をリリース。【小野哲太郎(おの・てつたろう)】(写真右)1984年生まれ。2007年、サイバーエージェントに入社後、社長アシスタントや藤田ファンド設立などに携わる。2014年、AWA株式会社を設立
けんすうさん
僕、実際にめっちゃAWAユーザーなので、今日の対談を楽しみにしてました。
音楽ストリーミング業界には巨大な外資系サービスがいくつもありますけど、AWAはスタートアップながらしっかりと競合と渡り合ってるじゃないですか。
そのウラにある戦略をぜひお聞きしたいです。
小野さん
こちらこそよろしくお願いします!
「誰もが不可能だと思っているリスキーな勝負」を仕掛けろ
ーー(編集部)スタートアップのサービスが巨大サービスに勝つには、どこに勝機を見出せばいいか、お二人の考えを教えてください。
小野さん
あえて「正解がないリスキーな領域」に踏み込むことですね。
大手サービスは、確実に成果を出すため、すでに市場ができあがってきているような王道のやり方になりやすい。「ここに投資すればこれだけ結果が出る」と予想できるところを攻めたいものですし、それが正しい戦略だと思います。
なので、大損する可能性がある未知数な領域には踏み込みにくいとも思っています。
けんすうさん
リスキーな領域では、資金面でもスタートアップが有利ですよね。
大企業だと、稼いでいる事業がほかにあるなかで、リスクがある勝負に資金を引っ張ってくる意味がないじゃないですか。
その点、スタートアップは全力で投資ができるので、「実現できたら最高だけど、本当に流行るか誰にもわからない」領域を見つけて、資金も人材もブチ込む戦い方をしますよね。
ーー(編集部)「本当に流行るかわからない領域」…。なるほど。
けんすうさん
AWAは、どんなゾーンにリソースを「ブチ込む」ことにしたんですか?
小野さん
今、業界では、曲の品ぞろえで競い合っていた時代が終わりつつあり、マーケティングにいくら投資できるかの消耗戦になってきています。
でも、そこで殴り合うのはあまりにも分が悪い。
僕たちはまだ、定額制音楽サービスでできる体験が、本当のゴールに行き着いていないと思っていて、徹底的に「楽しみながら音楽と出会える体験」で勝負しようと考えています。
けんすうさん
…と言いますと?
小野さん
今、定額制音楽サービスはどこも「ただの便利な音楽ツール」で、できる体験自体に大きな差はありません。
そこで僕たちは、ツールではなく「音楽を楽しむ場所」を目指しています。たとえば、新しく好きになった作品を通して人と人の間で自然と会話が生まれたり、その会話を見聞きした人がその作品の存在を知って好きになったり、ファンの声がアーティストに届いてさらに素晴らしい作品を生み出したり…そんなワクワクする場所をつくろうとしているんです。
小野さん
AWAでは最近、曲やアーティスト、プレイリストにコメント機能をつけて、他人のおすすめから楽曲と出会えるようにしました。
けんすうさん
ぶっちゃけ、おすすめ機能、つまりレコメンドってどの配信サービスもめちゃくちゃ力を入れてると思うんですけど…それは大丈夫なんですか?
小野さん
そこなんですよ!!
競合サービスは、ランキング機能やレコメンド機能を強化して、ユーザーに最適化された曲を確実に届ける「間違えない戦い方」をしてますよね。
それに対して、AWAのコメント機能で「他人のおすすめ」から出会った曲は、もしかしたら機械的にレコメンドされた曲よりもマッチ度が低いかもしれない。
でも、血の通った音楽との出会いから予測できない熱狂が生まれると信じて、リスキーな戦いを挑んでいる…。この割り切りが「スタートアップの戦い方」だと思うんですよね。
小野さん
学生時代を振り返ってみると、クラスの詳しい友達からCDを貸してもらってロックにのめり込んだり、CDショップのPOPを見て何気なく聴いてみたアーティストに惚れ込んだりしてたじゃないですか。
でも最近は、ランキング上位の「みんなが聴いてる曲」を何となく聴いていることが多い。昔のような「血の通った音楽との出会い」が減ってきていると思うんです。
けんすうさん
たしかに。音楽もマンガも、スマホで楽しむようになってから全部自分だけで完結するようになって、昔のようにCDやマンガを通して友達とコミュニケーションをとることがなくなりましたよね。
「友達とワイワイ楽しむ」というより、「一人で淡々と楽しむ」に変わったというか。
小野さん
かつてはCDやマンガ本のような「モノ」があったので、その貸し借りなどをきっかけに会話が生まれていたと思います。
でも、そのモノがスマホの中に入った今、スマホでコンテンツを楽しみつつも「一緒にワイワイ盛り上がる体験」は、まだ誰も発明できていない。
AWAはそこにチャレンジしたいんですよ。
けんすうさん
なるほど…たしかに大手サービスだと「より正確なレコメンドを!」っていうことだけ追求しなきゃいけないから、「血が通ってて盛り上がる」みたいな漠然としたところは捨ててしまいがちですもんね。
コメント機能を通してユーザーはどんな風に盛り上がってるんですか?
小野さん
たとえば誰かが「疲れ切ったみなさんに送るR&B」のようなプレイリストを公開すると、「この曲初めて聴いたんですけど最高です!」「ありがとうございます。お役に立ててよかったです」みたいな会話が生まれています。
けんすうさん
古きよきインターネットだな〜。
小野さん
面白いのが、その後コメント欄で音楽とはまったく関係ない仕事の相談がはじまったり、「飲みにいきましょう」みたいな会話が生まれたりしてるんです。
人を通して新しい音楽と出会い、そこから一緒にワイワイ盛り上がる体験が少しずつ出てきていると思います。
小野さん
ほかにも、楽曲にCDショップの店頭にあるようなPOPが表示される機能もあります。
これも、あえて手触りのある“誰かのおすすめ”によって知らない音楽と出会う体験を大事にした機能ですね。
けんすうさん
従来の音楽サービスって「たくさんの音楽を便利に聴けるツール」でしたけど、AWAは「音楽を通して誰かと交流できる場所」ですよね。ほとんどコミュニティみたいな。
人間には強力な「所属したい欲」があるので、ユーザーに居場所を提供できるサービスは強いと思います。
コメントやPOPの機能を追加してからユーザーの動きは変わりました?
小野さん
実は、コメント機能を読む人は読んでない人に比べて、聴く曲数が1日36曲多くなったというデータが出ていて。
音楽へののめり込み方が圧倒的に変わっていますね。
コンテンツは“ながら見”争奪戦になってきている
けんすうさん
僕、コンテンツは“ながら見”争奪戦になってきていると思うんですよ。
なので、スタートアップで何かをつくるなら、いかに“ながら見”のスキマに入り込むかを考え抜くことが、大手サービスと戦うカギになると思ってます。
小野さん
すごくわかります。
みんな家事をしながらYouTubeを観たり、Twitterをしながらバラエティを観たりするようになってますよね。「少しでいいからユーザーに時間を使ってもらいたい…!」と願う我々のような立場であれば、“ながら見”前提のものづくりはマストですね。
けんすうさん
で、“ながら見”争奪戦を考えると、AWAのコメント機能やPOP機能はすごく理にかなってると思いますねえ。
音楽ってまさに“ながら聴き”するものなので、曲を聴いてるときは目がヒマになる。だから、ユーザーはほかに何か見たくなると思うんですよ。
そこにコメント機能やPOP機能があると、“AWAを聴きながらAWAを見る状態”が完成する。秀逸な機能だなと。
小野さん
それはよかった…! 音楽を耳だけでなく目でも楽しんでもらうことは、ずっと意識してますね。
ちょうどリリースしたばかりで今盛り上がっているのは、「リリックDIVE」という機能です。こんな感じで、曲の歌詞がリアルタイムでビジュアル化されるんです。
けんすうさん
うわ〜、すごい。ひと目で曲の世界観がわかるんですね。
これは1曲ずつつくってるんですか?
小野さん
いえ、曲調に合わせて全部自動でリアルタイム生成しています。なのでどの曲でも即座に対応できます。
これまで、聴く音楽はアーティストやジャケットで選ぶことがほとんどでしたが、その基準に歌詞をプラスするという考え方です。アルの「コマ投稿」のように、作品の雰囲気を直感的に感じていただけたらなと思っています。
けんすうさん
僕、“ながら見”を制するのは「面白すぎないコンテンツ」がカギになると思ってるんですよ。
面白いコンテンツって、熱中してしまうから“ながら見”ができないじゃないですか。
だから今、アルでは「マンガ家さんがひたすらマンガを描いてるだけ」の配信をして、あえて面白すぎないコンテンツを出すことで、巨大グローバルIT企業が入ってこない“ながら見”のスキマに入っていこうとしてるんです。
小野さん
「面白すぎないコンテンツ」…新しいですね。
(決してAWAやアルのコンテンツが「面白くない」わけじゃなく、気軽に見られるということですよ!)
スタートアップサービスは“言語化しづらい理想”を目指せ
けんすうさん
ただ、お金も人材もある大手に立ち向かうって、チームのテンションを維持するのも難しいじゃないですか。
マネジメントとかはどうしてるんですか?
小野さん
“言語化しづらい理想”を追い求めることが大切だと思ってます。
そのために、僕たちはAWAを「こういうサービスです」とあえて明言していなくて。
けんすうさん
話を聞くかぎり、AWAが目指しているのは“音楽SNS”じゃないんですか?
小野さん
方向性はそうなんですけど…もし“音楽SNS”という言い方をしてしまったら、「じゃあタイムラインをつくらなきゃ」みたいに、固定観念に引きずられてしまうじゃないですか。
だから、チームメンバーにも「音楽を聴くことを楽しめる場所をつくりたい」とぼやかした伝え方をしてるんですよ。
けんすうさん
目指す目標の伝え方をあいまいにするってことか…それ、かなりチームのマネジメントが難しくないですか?
小野さん
難しいです。メンバーから「結局僕たちはどんなサービスを目指してるんですか」と問い詰められることもあります。
でも、本当にいいサービスは“言語化しづらい理想”の先にあると信じてるんですよね。
小野さん
最初に話したとおり、僕たちスタートアップがやらなきゃいけないのは、誰もが不可能だと思っているリスキーな勝負。
「まだこの世に存在していない存在価値を、どうにか探し当てて実現していくこと」でしか勝てないと思っています。
だから、あえてサービス内容を型にはめず、チームメンバーみんなが自分が本当に欲しいと思えるものを考えつづけながらオリジナルなものをつくっているんです。
けんすうさん
なるほど…それいいですね。
型にはめず考えつづけることで、チームメンバーが「AWAに必要なものは何か」と自発的に考える習慣にもなりそうです。
…本当にマネジメントが難しそうですけど(笑)。
小野さん
そうですね…(笑)。
この難しさをチームメンバーと乗り越えて、これまでにない新たなサービスをつくっていきます。
リスキーな勝負をしているのは「いい音楽をつくる人を埋もれさせたくない」から
ーー(編集部)ここまで「血の通った音楽との出会い」についてお聞きしましたが、正直、ランキング上位の曲を聴くだけでも満足する人も多いと思うんです。わざわざ新たな音楽体験を追求するのはなぜなのでしょうか?
小野さん
…おっしゃる通り、ランキング上位の曲を聴くだけでも満足感は得られるんですよ。
それでも、僕たちがわざわざこんなリスキーな勝負をしているのは、本当にいい音楽をつくるアーティストを埋もれさせたくないからです。
小野さん
今の人気楽曲ランキングって、総再生数順に表示される仕組みなんです。
だから、一度上位に入った曲がさらに再生されてずっと残りつづけ、逆に上位に入れなかった曲はすぐに埋もれてしまう状態になってしまっている。
けんすうさん
たしかに、「これ何年前の曲だよ」みたいな曲がランキング上位にいたりしますよね。
小野さん
このままだと、少数の売れてるアーティストがずっと売れつづけて、新たな才能の芽がなかなか出てこない状況になりかねない。
そうなると日本の音楽業界も徐々に寂しくなっていってしまう。それは避けたいという想いがあります。
小野さん
それに…みんなが聴いてる曲を聴いたときよりも、流行りではないけどめっちゃいいマイナーソングを見つけたときのほうが感動しません?
けんすうさん
マンガも同じです。特にそれが新米作家だと、“古参”としてずっと作品を追いかけつづけられるっていう楽しみもありますよね。
小野さん
僕は、必ずしも全員が王道作品好きなわけじゃないと思ってるんです。
マンガだと、僕は女子向けコミックが好きだったんですけど、まわりの友達がおすすめしてくれるのは王道バトル系ばっかりで、好みのマンガに出会えなかった経験があって…
けんすうさん
話はまわりにあわせてるけど、心の底では肩身の狭い思いをしてる人はいると思います。
小野さん
そういう人が、コメント機能やポップ機能を通して、ランキングにはない本当に好きな音楽に出会えたり、音楽を通じてほかの人と盛り上がったりしてくれたらいいなと思っています。
ユーザーはもっと音楽を楽しめる。いい音楽をつくるアーティストが報われる。
そんな世の中にできたらいいなと思ってAWAをつくってます。
「“ながら見”前提のものづくりをする」「あえて言語化しづらい理想を目指す」
誰も知らない理想の体験を追い求め、巨大グローバルIT企業にリスキーな勝負を仕掛ける2人の戦略は、読者の皆さんの仕事にも活かせる部分が多いのではないでしょうか。
けんすうさんも実際に愛用しているAWAで、ただのツールではない“音楽を楽しむ場所”をぜひ体験してみてください!
〈取材・文=森久保発万(@vneck_now)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉
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