ビジネスパーソンインタビュー
コロナ禍にリーダーが持つべき思考法
【1万字抜粋】青山学院の陸上競技部が強くなった理由とは? 原晋『改革する思考』
新R25編集部
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、先が見通せない日々に不安を抱き、模索している人も多いでしょう。
青山学院大学陸上競技部監督の原晋さんは、自身の著書『改革する思考』のなかで、「ピンチをチャンスに変えるには、将来に対する問題点を日ごろから考える能力を磨いておかないといけない」と話します。
陸上指導者として異端児と言われながらも、大学駅伝3冠、箱根駅伝4連覇という偉業を成し遂げる原さんが提唱するのは「“改革する思考”を身につけよう」ということ。
改革する思考とは一体なんなのか?これからの時代に知っておきたい考え方を、同書より抜粋してお届けします。
現代は組織の力を高める大チャンス。青学・原監督が伝える“改革する思考”
良い組織を作るために必要な“改革思考”
リーダーの役割というのは、自分がやりたいことを実現するために、情報を精査し、方針を決めること。
もちろん、その方針はメンバーに共有されなければ意味がありません。
学生諸君に納得してもらい、一緒に新しい生活様式を作っていく。
日本中の様々な組織が揺らぎに直面した中で、青学の陸上部としては軸をぶらさずに第一波を乗り切ることができたと思っています。
そしてこの時期の我慢が、いつか花開くと私は確信しています。
やはり、リーダーの覚悟が組織の方向性を決めます。
そして覚悟がどうやって決まるかは、私は「改革する思考」から生まれると思っているのです。
上が決めたことだから…という言葉は、聞きたくありません。決められたことは、必ずしも正しいとは限らないからです。
唯々諾々と従うのではなく、自分の知恵を振り絞り、最適解を探す努力を続けていく。
これが改革する思考の原点です。
改革へのマインドを持つと、アイデアが浮かび、考えたことを表現したくなるはずです。それが人間の欲というものだからです。
そうすれば、人間は行動に移ります。こうした思考を続けていくと、考え始めることから行動に移るまでのスピードが一気に上がります。
すると、アイデアがどんどん生まれ、組織の改革スピードが上がっていき、よりよい組織になる可能性が高くなります。
私は、青山学院の陸上競技部は10年以上の歳月をかけて、組織として強くなったと自負しています。
そして、日本の教育や未来のことを考えると、私たちの世代だけでは時間が足りないことに気づきました。
もちろん、私はとことんあらゆることを改革するつもりではいます。
しかし、いつ時間切れになるかは分かりません。
それならば、原イズムともいうべき、改革する思考を持った選手たちをひとりでも多く育てよう。そう考えるようになりました。
それが未来の陸上界、そして日本の活力になるはずです。
実際、卒業生たちはそれぞれのフィールドで活躍し始めています。
おそらく、学生生活の4年間で私の発想に触れ、彼らが社会に出て、彼らなりに疑問を持ち、考え、そして行動に移しているのかな、と思います。
彼らが社会と妥協せず、自分なりの発想で行動していけば、日本は変わります。私はそう信じています。
現在は“改革思考”を鍛える大チャンス
社会をよりよくするためには、既存の仕組み、枠組みを変えていくことが必要です。
そのためのアイデアを出していけば、社会が変わるチャンスが生まれます。アイデアが浮かんでくるのは、昔からの私の習性です。
会社員時代から、私はテレビのニュースを見ていても、すぐになにかツッコミを入れたくなってしまうのです。
企業での不祥事のニュースがあったりすると、「こうしておけば、こんなことにはならなかったんじゃないか?」と思ってしまうし、すぐに改革のアイデアが閃いてしまう。
そうしていると、まったく退屈しません。改革する思考を日ごろからトレーニングしているようなものです。
2020年の新型コロナウイルスの感染拡大は、そうした改革思考力を鍛える、またとないチャンスです。
まずは「意見」を言える自分になろう
打たれ強さというのは、リーダーに必要な資質です。
人生50年以上生きてきて感じるのは、そうした強さというものは大人になってから得られるものではなく、学生のころから改革マインドを持って物事を考えていかないと体得できないということです。
上から言われたことにハイ、ハイとばかり答えているイエスマンでは、こんな発想は身につきません。
必要なことは、「是々非々」の関係を作っていくことです。
いいものはいい、悪いものは悪いと年齢なんか関係なく話し合える人間関係を作っていく。
日本人は、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」といって、どこかひとつでも気に入らない部分があると、すべてを嫌ってしまう傾向が強い。問題や課題の分離ができないのです。
これは日本人の大きな弱点で、是々非々対応ができなくなります。
いま、大切なのは指導者と学生がともに話し合い、誰が言ったかということには関係なく、何が正しくて、何がダメなのかを考える組織、文化を醸成していくことでしょう。
私は「空気を読めよ」という言葉も大嫌いです。私は空気なんか読んだことはありません。
たとえば、関東学連では監督会議というものが開かれます。監督の発言機会をカウントしていったら、10のうち約半分は私の発言です。
他の監督さんたちは、黙っていることが多いのですが、私は黙っていることなんてできない。おかしいと思ったこと、学生のためにならないと思ったことがあれば、躊躇なく発言してきましたし、これからもそれを続けます。
発言しない限り、改革などできないからです。
でも、日本ではこうした態度が好まれないのです。組織に波風を立てる人間というものは…。
私は、会議自体をぶっ壊そうと思って発言しているのではありません。学生の活動にとって一番いい方法はなにか、それを議論する場だからこそ、発言しているのです。
私が異端視されてしまうことが、実は残念でならないのです。
それでも、私がこうして空気を読むことなく行動しているからこそ、適切な判断が下せるのだと自負しています。
“改革思考”を鍛えるために必要な3つの要素
①事象を「自分ごと」にすること
改革する思考を持つために必要なのは、「柔軟性」です。
ただし、体の柔軟性ひとつとってみても、すぐに体の可動域が広がるわけではない。
毎日毎日、欠かさずストレッチなり、エクササイズなりをすることによってしか、柔軟性は獲得できません。
発想の柔軟性にも同じことがいえます。
私は学生たちに「発想の柔軟性を養うためには何が必要か?」と、よく問いかけます。
その第一歩として必要なのは、すべての事象を「自分ごと」として捉えること。
当事者意識と言い換えてもいいかもしれません。たとえば、2020年4月にはインターハイの中止が発表されました。
青学の選手たちの多くも、インターハイで競い合い、喜びや悔しさを味わってから大学に入学してきました。
高校生にとって大きな目標であるインターハイがなくなってしまった。それをどう捉えるかは、その選手の感性次第です。
ああ、自分たちのときはインターハイがあってよかった。こういう発想は、他人事でしかありません。まったくもって、ダメ。
一見、自分のことに考えをめぐらせているように見えて、自分ごとではなく、他人事になっている。
必要なのは、「自分がいま高校3年生の立場だったら、どう感じるだろうか?」という想像力であり、共感力です。
英語で共感力は、“empathy”(エンパシー)という単語で表現され、現代社会において、必要な感情とされています。
では、共感力を磨くためにはどうしたらいいか。
テレビのニュース、新聞、インターネット、あるいはテレビドラマを見た時に、常に自分ごととして捉え、「自分だったら、どう対応するだろう?」ということを常に考えなさい、と学生たちには伝えているつもりです。
いまの学生はネットニュースで情報を得ることがほとんどです。
単に受け取るばかりでは、新型コロナウイルス騒動のときのようにメンタルがやられてしまう場合もあります。
つまり、受け手にばかりなってしまってはダメなんです。それよりも、ニュースにおける物事の本質、問題点とはなにか?そうしたことを自分なりに探り当てることが肝要です。
そのうえで、自分ごととして捉えたときに、解決策を3つ提示するという訓練をしていけば、改革する思考が身についていくはずなんです。
インターハイが中止になった。じゃあ、高校生に新たなモチベーションを保ってもらうためには、どんな方法があるだろうか?
きっと、そうしたテーマなら、青学の学生ならばたくさんアイデアが湧いてくると思います。
こうした訓練を積んでいくときに、私が学生に言っているのは、「自分が最高責任者になったつもりで考えること」ということです。
自分が改革できる立場にあって、組織を変えるチャンスがある。そういうポジションで問題点を探り、解決する手段を発見していく。
それが改革マインドであり、改革する思考を育てる近道だと思います。
②挫折経験を活かす
挫折体験も大切だと考えています。挫折は人間を強くします。
ここで思い浮かぶのが、「レジリエンス」という言葉です。
どういう意味かというと、HR(人的資材)ビジョンの「人事労務用語辞典」の解説では、次のように書かれています。
「『復元力、回復力、弾力』などと訳される言葉で、近年は特に『困難な状況にもかかわらず、しなやかに適応して生き延びる力』という心理学的な意味で使われるケースが増えています」
復元力や回復力とはどんなものか。
たとえば、背の高い葦が風に吹かれて倒れたとします。しかし、葦には元通りに戻る力がある。
この力がレジリエンスです。
青山学院大を指導して10年以上が経ちましたが、現役、そして青学を巣立っていった選手たちを見ていると、このレジリエンスの力がとても重要だと気づきました。
新型コロナウイルスの影響で、日本のすべての人が自粛を求められ、それに従って行動様式を変えました。
町田寮で生活する選手たちも、当然我慢を強いられました。本当は、遊びたい盛りの青年たちです。
ずいぶんと我慢を重ね、ストレスも溜まったに違いありません。
では、こうした時間はネガティブなものかというと、行動によっては、そうとも言い切れないのです。
自粛期間中、溜まりに溜まったエネルギーをポジティブな方向へと発散させる。それができる選手こそが、2020年の秋以降、ブレイクするのではないかと私は期待しているのです。
これがレジリエンスです。
レジリエンスの考え方で興味深いのは、吹く風が強ければ強いほど、葦の倒れる角度は深くなるということです。風が強ければ倒されたままになってしまうかもしれない。
しかし、ひとたび復元力を持つとどうなるか?反発力は倒れる角度が大きければ大きいほど、強くなるのです。
つまり、どん底を味わった人間の反発力は強い。これは私が指導現場で感じていることと一致します。
吉田祐也は報道でも知られるようになりましたが、2年、3年と箱根駅伝の登録メンバー、16名のなかに入っていました。
優勝した2018年、2位となったものの2019年の青学のメンバーは質が高く、吉田はボーダーラインの選手であり、最終的に私は彼を起用しませんでした。
ただし、彼が走っていれば区間によっては区間賞を争う走りをしたと、私は保証します。
走れそうで、走れない。これは選手にとっては大きな挫折です。
吉田も4年生を迎え、かなり精神的に追い込まれていたとは思いますが、5月にあった関東インカレのハーフマラソンで学内トップの成績を収め、夏合宿も順調にこなしていきました。
吉田は自らの走りで信頼度を増し、駅伝シーズンへと突入したわけですが、2020年の箱根駅伝での4区の走りは素晴らしかった。東洋大の相澤晃君が持っていた記録を破る区間新。
私は吉田の後方を走る運営管理車に乗っていましたが、1km、5kmごとのラップを見て鳥肌が立ちました。
そして中継所手前になって、思わず、こう言ってしまったのです。「吉田、お前すごいよ!」
さらに吉田は、2020年2月2日に行われた別府大分毎日マラソンで、2時間8分30秒という記録で3位に入り、GMOインターネットグループで競技生活を続行することになりました。
箱根と別大毎日マラソン2本の走りで吉田は人生を変えたのです。
人生を変える走り。吉田は私の想像を超えるレジリエンスを発揮してくれました。
吉田祐也の4年間を振り返ってみれば、彼は本当によく練習ができていました。それでも、上級生のスターたちが輝いていて、日の当たる道を走れなかった。
しかし、腐ることなく、吉田は最終学年でさらに練習量を増やしていました。
吉田の生き方を見ていると、やっぱり人間は日の当たる道ばかりを歩んでいるよりも、ハングリー精神があったほうが強くなれる。そう思うのです。
③情報の扱い方を学ぶ
改革発想を養っていくには、様々な力が必要です。
特にコロナウイルス禍で分かったのは、情報の扱い方です。
不安な情報が先行したことで、大学に限らず、教育現場での学習機会が著しく損なわれました。
オンライン授業の定着などによってプラス面もありましたが、情報を正確に評価していたとは思えませんでした。
つまり、情報を集める力だけでは発想力は磨かれません。
情報収集は「諸刃の剣」ということだったのではありませんか?
たとえば、学生の中にもSNSでネガティブな情報に晒された結果、元気を失ってしまった人もいました。
今回分かったのは、集めるだけではなく、「情報を分析する力」がなければ、適切な行動がとれないということだったと私は思います。
つまり、情報を集め、加工していく力。
ここでも加工という単語は、ポジティブな言葉です。
情報、数字などは加工して自分のものとして落とし込んでいかなければ意味がありません。
たとえば、数字の扱い方ですが、青山学院の選手たちに則して考えると、「月間目標走行距離」という指標があります。
なんだか車の走行距離みたいですが、選手たちの足回り、心肺能力を鍛えるためにはある程度の距離を走った方が効果的なのは間違いありません。
目標管理シートでも、「今月の目標800km」といった数字が上がってきます。そして実際に達成したとする。
しかし、私から見れば、800kmという数字には大きな意味はないと思います。重要なのは、自分がどんな内容で走っているのか、そのデータを分析する力なのです。
ジョグで稼いだ距離なのか。それとも、スピード練習を多めに取り入れた強度の高いものなのか。あるいは昨年同時期と比較して、どのような結果が予想されるのか。
そして実際に、1週間、2週間後に自分の身体にどんな変化が起きたのかまで分析できなければ、次のターゲットにつなげられないのです。
私が求めているのは、単なるデータ集めではないのです。
どう情報を加工し、それを強化に結びつけられるのか、自分の成長を促し、その知見を基にして、青山学院の組織の改革に活用できるのかを問いたいのです。
その意味では、選手たちには高校まで数学はしっかりやってきて欲しい。
アカデミズムの場にいると分かりますが、数学、統計が現代ではより重要な意味を持っています。
行動経済学の流行なども、心理学と経済学、数学の「加工」です。加工する技術を高校の教室でしっかりと学んできて欲しい。
そうすれば、青山学院の選手たちから改革する思考が発信できるようになるはずです。
人生を充実させるには「デュアルキャリア」を目指せ。青学生が意識している習慣
人生の成功の確率を上げる「デュアルキャリア」のススメ
私は学生たちに卒業後、必ずしも選手としてトップになって欲しいとは思っていません。もちろん、オリンピックに出場する選手は出て欲しい。
ただし、それは大学での競技生活以上に競争は激しいし、簡単なことではない。それならば、それぞれの決めた道でトップを目指せばいい。そう思っています。
青学の卒業生は、これから社会で大きな役割を果たしてくれると信じています。
4連覇、そして2020年の優勝に貢献したメンバーは、これから競技者としてピークを迎えるはずです。日本の長距離界に、青学の卒業生のプレゼンスが高まっていくのは間違いないと思います。
そして競技面だけではなく、もっと遠い将来には企業活動であったり、スポーツ産業の様々なエリアで卒業生が活躍する絵が私には思い浮かびます。
それはなぜか?
青学の選手たちには、学生の時から「デュアルキャリア」を意識させているからです。
デュアルキャリアは、陸上と自分の人生の「両輪」を充実させて欲しいという意味で私は学生たちに話しています。
ただし、実業団で陸上がうまくいかなくなってから準備したのでは遅い。
学生のときから基盤を固めていけば、十分に備えることができるんだよ、と私は選手たちに話しています。
ただし、これは陸上からの逃げでは決してありません。「ダメだったらサラリーマン」という発想ではどちらも成功しません。
デュアルキャリアを意識した発想を身につければ、陸上でも、そして仕事でも成功する確率が高まるよ、ということを伝えているつもりです。
「デュアルキャリア」に必要な要素
では、デュアルキャリアに必要な要素とはなんでしょうか。パッと思い浮かぶ3つの要素をあげてみます。
・計画性
・分析力
・コミュニケーション力
この3要素は私の指導経験から導き出されたものです。
数年前のことですが、勧誘で全国を飛び回っていると、高校のレベルだと、その日の練習の概要を把握していない選手があまりにも多いことに気づきました。
指導者から与えられたメニューをこなしているだけ…という選手が半分以上いました。
トレーニングには計画性が必要です。
高校生が知らないということは、指導者が説明していないか、それとも指導者が説明しているにもかかわらず、受け手である選手個人の問題であるか、どちらかです。
強くなるためには、計画性が欠かせません。ターゲットとなる大会に向けて、逆算してトレーニングを組み立てていかなければなりません。
青山学院にとって、最大のターゲットである箱根駅伝。この舞台で勝つために逆算してトレーニング計画を組み立てていくわけです。
ここでは2020年箱根駅伝を例にとってみましょう。2019年の大会では、最強の4年生を擁しながら敗れたこともあり、年間計画を見直したシーズンでした。
通常であれば、春から初夏にかけてのトラックシーズンは、スピードを磨く時期でした。
しかし敗れたこと、チームの核となっていた4年生が多く卒業してしまったことから、2019年の5月には走り込みを重視した菅平合宿を実施しました。
秋になってのタフな練習に耐えうるだけの土台を身につけようと考えたのです。
そのおかげでスピードは犠牲になり、トラックシーズンでは結果を残すことはできませんでした。関東インカレでもふるわず、「今年の青学は大丈夫か?」と心配されたほどです。
内心、不安がなかったといえば嘘になります。
ただし、学生たちと「箱根駅伝優勝」という目標を共有できていればこそ、年間計画に沿って強化を進めていくことができました。
それを受けて、夏合宿で練習量をグッと増やす。箱根駅伝のある時期に、練習の質を上げる。
そしてまた、ある時期にはリフレッシュ期間を設けて、選手たちの心身の回復を促す。
学生のうちに計画性を体に沁みこませること。私はそれが改革発想を持つ若者を育てることにつながると思うのです。
青学生の「客観性」を高めるための習慣
選手は、自分のことを知っていれば、成長するための適切な計画を立てることができます。
陸上の例でいえば、5000mのベストタイムが14分45秒の選手がいて、今月の目標を「14分15秒に到達」と書いてきたとしたら、それは夢物語に過ぎません。
適切な目標設定とは言えないのです。
練習でのタイム設定で負荷をかけ、そのうえで5秒、10秒縮められたら大成功です。
自分を知るうえで大切なのは、「レビュー力」だと私は思っています。
青山学院では、早い時期から「目標管理シート」というものを導入しています。
1カ月ごとにシートに目標、そこに到達するための具体策を記入していきます。
自分だけでは独りよがりになりがちで、目標を立てただけで満足してしまう選手もいるので、選手たちがシートを見せ合い、「目標管理ミーティング」というものを行います。
このミーティングの意味はなにか?
青学の選手たちは普段から練習日誌をつけ、目標管理シートに記入するわけですが、ひと月が経って振り返ったときに、目標に到達しなかった場合、選手たちは勝手に自分に都合よく目標や記憶を修正してしまう。それでは意味がなくなるわけです。
そこで青学ではどうするか。個人としてチームメイトと向き合うわけです。
自分ひとりでレビューするだけではなく、グループディスカッションの形態をとることで、「客観性」を保ちます。
5、6人のチームメイトの前で話し合うことで、自分に嘘をつけなくなります。
つまり、説明責任(アカウンタビリティ)が生じるわけです。こう書くと、目標になにがなんでも到達しないといけないように思えますが、たとえ目標に達していなくても構わないのです。
なぜ、目標に到達できなかったか自己分析を行い、それを仲間から批評してもらえば次につなげることができます。選手たちの分析力はこうして磨かれていきます。
自分の言葉で話せているか?
私自身、改革する思考を持つ学生と一緒に時間を過ごしたい。
勧誘活動をしていくなかで、高校生と話すことを重視しています。私が気にしている項目には、次のようなものがあります。
・人の目を見て話しているか
・「いい返事」をすることに心を奪われていないか
・自分の言葉で考えを話すことができるか
・人生、そして陸上競技の計画性を持っているか
こう書いてみて気づくのは、走力はもちろんのこと、人間としての「総合力」を見ているのだな、と思います。
対面で話をしてみて、しっかりと私の目を見ているか。
日本人は、目上の人間に対して視線を合わせることを良しとしません。失礼に当たると思ってきましたが、もはやそういう時代ではないでしょう。
テレビでしか見たことがない私に対して(私と話すことは、高校生にとってそれなりに緊張することのようです)、目を見ながら話せれば、「青学でなにかを成し遂げたい」という気持ちがそれだけで感じられます。
もうひとつ、私が重視しているのは「ハイ」という返事です。
名門校と呼ばれる学校を訪ねると、先生の問いかけに対して元気よく「ハイ!」という返事が聞こえてきます。ふつうの人たちだったら、それだけで心が和むかもしれません。
しかし、私は違います。「ハイ」の中身が気になるのです。実際に高校生と話をしてみて、「このことについてはどう思う?」と質問をすると、「ハイ!」と答える生徒がいました。
私が「いやいや、どう思っているのか聞いてるんだよ」と改めて尋ねると、ハッとしたような顔になり、自分が考えていることを話してくれます。
ハイ、といういい返事に騙されてはいけないのです。部活動の先輩、後輩との上下関係、あるいは指導者との関係性。
そうした日本的な人間関係のなかで、機械的に返事をすることが中学生、高校生に求められる場合があります。
つまり、目上の人間が「従順さ」を要求し、考える力を奪ってしまうのです。
これでは、改革発想を持った人間は育ちません。
目上の人間の目を見て、そして自分の言葉で考えをしっかり話せる。
自分の言葉で話す。それは、自分のことを知り、把握していることの表れなのです。
原監督のリーダーシップ論
『改革する思考』は、スポーツ業界だけではなくビジネスの場でも参考になる考え方が満載です。
読み終わったあとには、青学陸上部の強さの理由がわかったような気がします。
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