“SNSをたくさん見ていたころは、2時間映画を観るのも怖かった”
誹謗中傷に「相手は人間だからやめよう」と言うのは逆効果。戸田真琴から、SNSで消耗するあなたへ
新R25編集部
戸田真琴さんというAV女優がいます。
Webメディアでコラムを執筆したり、Twitterを中心としたSNSで発信したりと、ネットにおける活動が注目されることも多かった彼女ですが、2019年、「Twitterをやめます」と宣言したことが話題になりました。
SNSをきっかけに起こった事件が世間を騒がせることも多い昨今。
あらためて戸田さんに「SNS」をテーマにお話を聞いてみると、「人間は、人間を傷つけたい」という真理、そして“孤独”についてまで話が広がっていくことに…。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
【戸田真琴(とだ・まこと)】1996年生まれ。2016年にセクシー女優としてデビュー。女優として活躍する傍ら、コラム連載や映画評などを文筆家としても注目されている。著書に『あなたの孤独は美しい』(竹書房)、『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』(角川書店)など。長編オムニバス映画『永遠が通り過ぎていく』では初の監督を務めている
誹謗中傷に「相手も人間だからやめよう!」という呼びかけがあったけど…
天野
今日は戸田真琴さんに、あらためてSNSについてのお話が聞ければと思っています。
戸田さん
はい!
自粛期間中に髪をピンクに染めたそうです
天野
最近で言うと、たとえばSNSでの誹謗中傷によって事件が起きたことが話題になりましたが…
戸田さん
そうですよね。
事件が起きたとき、多くの有名人の方が「相手も人間、だから傷つけちゃダメ」って言ってたじゃないですか。
天野
ですね。「誹謗中傷をなくそう」というムードが高まったのを覚えてます。
戸田さん
でも、それは逆効果かもしれないなと思ったんです。
天野
逆効果…? なぜですか?
戸田さん
私がつくった「まこにゃん」っていう猫のキャラクターのTwitterアカウントがあるんですけど、そのキャラクターに対して誹謗中傷をしてくる人っていないんですよ…
戸田さん
私のように顔出ししてる女性はちょっとしたことでも叩かれるんですけど、サンリオさんとかのキャラクターのTwitter見ると、超平和じゃないですか。
それを見てて思ったんです。
「傷つく“人間”だからこそ、傷つけたい人がいるんだ」って。
だから、「人間だから傷つけちゃダメ」なんて言うのは逆効果なんです。
天野
じゃあ、著名人たちの呼びかけも意味がないってことに…
恐ろしすぎる話ですが、その通りなのかも…
戸田さん
「人間には、人間を傷つけたいという欲求がある」。
それを痛感してしまったのも、私がTwitterをやめるきっかけのひとつだったかもしれません。
いきなり視点の鋭さを見せる戸田さん
戸田さん
Twitterって昔は、みんながご飯アップして「これ食べた」とか「お風呂入ってくる」みたいなことだけ書いてる雰囲気でしたよね。
天野
そうですね…
ただ、今もSNSの機能は変わってないはずなのに、なぜ雰囲気が変化したんでしょうか?
戸田さん
利用者の大半が“コスパよくストレスを解消したい人”に変わったのかなと思います。
ニュースがたくさん表示されるようになって、「意見がぶつかり合う場」になった。
そうすると、普段満たされない気持ちで生きている人が集うようになって…
戸田さん
「Twitterは、めちゃくちゃコスパよくストレス解消できる場所」と認識されたんじゃないですかね。
だって、トランプ大統領にも橋本環奈ちゃんにも無料かつ匿名でリプライを送れる。
どんな有識者とも世界的アーティストとも、同じフォント、同じ文字の大きさ、同じ字数制限でつぶやけるものだから、ぱっと見同じステージに立っている気になれてしまう。
そうやって、以前は別の“コスパいい場所”でストレスを解消してた人たちが集うようになっていると思うんですよね。
「“バズらないこと”が自分らしさだ」と戸田さんが考えるようになった理由
天野
そんな戸田さんも、デビュー当時はTwitterにかなり力を入れていたそうですが…
戸田さん
デビューしたときは、“知名度のためならリスクもいとわない”と思ってやってました。どうしても消費の早い業界なので、そもそも有名にならないと生き残れないというか…
ファンの方を何より優先すべきだと思っていたので、全部のリプライに返信して腱鞘炎になったり、「返事してくれないならフォロー外す」って言われたら必死になって返信したりしてましたね…
腱鞘炎に…大変な世界すぎる
天野
知名度が上がってメリットもあったんですよね?
戸田さん
そうなんですけど、だんだんネットの「バズ」で消耗することが多くなってきて。
たとえば、3万リツイートされると3万人と意思疎通を図らなきゃいけなくなるわけですけど、そんなの本来は1人の手に負えないものじゃないですか?
バズると、「相手のことを理解しよう、知ろう」という向上心がない人と交流しなくちゃいけなくなるので、傷つくことも増えていきました。
天野
戸田さんのことを目にしてファンになる人もいると思うんですが、傷つけられることのほうが多かったんですか?
戸田さん
好意的な人のほうが圧倒的に多いですよ。でも、そっちが多いから大丈夫っていう話じゃなくて…
「うれしい」「楽しい」って気持ちと、「傷ついた」って気持ちは打ち消しあうものではなくて、別々に蓄積していくものなんだと思いましたね。
天野
なるほど、わかる気がします…
戸田さん
そういうことが増えていくのと同時に、だんだん“バズの正解からこぼれ落ちるものが自分らしさ”なんじゃないかと思うようになったんです。
天野
こぼれ落ちるもの?
戸田さん
ネットでは、一言でズバッと言っているものがバズりやすいじゃないですか。誰が見ても一瞬でわかるものが人気を得やすい。CMとかに近いかもですね。
でも自分の本当の気持ちは一言で表現するのは難しいし、140文字には入りきらない。むしろ「バズる正解」には共通点があるので、そこからこぼれ落ちたものだけが本当のその人らしさなのでは…と思うんです。
天野
140文字では表現できない部分に個性が出ると。
戸田さん
そして、自分らしさを犠牲にしてファンが増えたとしても、それで集まったファンは、自分らしさを出してしまうといなくなってしまうんじゃ?って思ったんですよね。
自分のやりたいことや仕事のために始めたのに…本末転倒じゃんって(笑)。
仕事でやっている以上、数字から逃れられない? “SNSの数字”から離れるには
天野
ただ、バズとかフォロワー数という“数字”から逃れるのって難しいことだと思うんですよね。
自分らしさを優先して「SNSの数字から離れる決断」をできたのはなぜなんでしょうか?
戸田さん
それは私のいいところでもあるし、ダメなところでもあると思います。「自分らしさ」が捨てきれない。
逆に、自分らしさというものを捨てて「もっと流行ろう、バズろう」ってできる人は大成できるんでしょうね。
天野
なるほど。
戸田さん
デビューしたときから、「AV女優としての正解」と言われているものと、私が「自分らしい」と考えるものが折り合わないときがあって。
人気のためには、最初に求められた人物像…私の場合は“何も知らない女の子が黒髪のボブカットでおぼこい(幼い)服を着てる”っていう状態で期待を裏切らないでいるのが正解なんですけど、私は「そんなもんなのかなあ…?」って全然ピンと来てないみたいな。
天野
そんな「ネットで求められるAV女優・戸田真琴像」と「自分らしさ」の折り合いはつけられるようになったんでしょうか?
戸田さん
2018年に、クラウドファンディングで写真集を作ったとき、それができた感じがしましたね。
ファンの人たちに先行予約してもらって、そのお金でアメリカに行って自分の好きな映画の再現をして、自分の書いた文章も載せて…自分の人間性や考えていることを作品にした、いわゆる“エモい写真集”。
ファンの人がどんなものを見たいかって気持ちと、自分がやりたいことを表現するっていうことが合致したなと。
戸田真琴 写真集制作プロジェクト 憧れの映画ロケ地メンフィスで写真集を撮りたい!
戸田真琴が、憧れの監督ジム・ジャームッシュの映画『ミステリートレイン』の舞台になったアメリカ・メンフィスで写真集の撮影をする為のプロジェクト
「憧れの監督ジム・ジャームッシュの映画『ミステリー・トレイン』の舞台になったアメリカ・メンフィスで写真集を撮影したい!」
天野
「自分を出していったから、期待されるものとのズレがなくなっていった」ような感じ…?
戸田さん
それがすごくミソだなと思ってて。「人気商売は、お客さんを選べない」ってよく言うじゃないですか。
私もそう思ってたんですけど、ファンを選べないのは“とにかく大多数の人に好きになってもらわなければ”って気持ちがあるから選べないんですね。
数字を追うのをやめたら、まわりからの期待と、自分がやりたいことが一致したような感覚があります。
「数字を追うのをやめたら、求められることと自分らしさが一致した」一般のビジネスパーソンも参考にすべき教えな気がします
戸田さんの考える「SNSと孤独」
天野
戸田さんが昨年著した書籍のタイトルは『あなたの孤独は美しい』。
SNSはたくさんの人と交流して“孤独”から遠ざかるツールだと思うんです。戸田さんのなかには「孤独でいるべきだ」という考えがあるんでしょうか。
戸田さん
孤独でいるべきだというよりは…、孤独って別に特別なことではない。
人は生まれるときも死ぬときも1人だし、自分自身の舵をとって生きていくしかないわけじゃないですか。
戸田さん
孤独ってすごく悲観的に、悪いことだと言われているけど、私はあんまりそう思わないんです。
1人だからこそ人と出会うことが喜びになるし、心が通じ合う瞬間がうれしい…って私はずっと思ってるんですね。
天野
戸田さんから見ると、とくにSNSに依存してるような人たちはその感覚が薄いように見えますか?
戸田さん
そうですね。SNSって…だんだん見ていない時間が怖くなりません?
私、SNSをたくさん見ていたころは、映画館で2時間映画を観ることすら怖かったんですよ。
「この2時間の間に、すごく大事なことが起きて見逃したらどうしよう」「すごく叩かれていたらどうしよう」みたいな焦りがあって。
戸田さん
SNSで人とつながればつながるほど、1人でいる時間が怖くなる。
それにおびえながらもSNSに依存して、幸せな方向に連れていってもらえることって、多分あまりないと思うんです。得る幸福よりも、失う時間とか心の余裕っていうマイナス面が大きくて、割に合わない…
だったら無理に孤独を回避しなくてもいいんじゃないかな。
天野
孤独は回避しなくていい…
戸田さん
自立している人って、「依存先が程よくばらけていて、1人でもいられる人」のことだと思います。
私も散歩したり、美術館に行ったり…スマホを見ていなくても、いろいろな種類の楽しい時間をつくることでバランスが取れるようになりました。
今は、1人でいる時間も健やかにすごせるようになった気がしますね。
戸田さんとお話ししていて、そして戸田さんの書いた文章を読んでいて感じたのは、自身の言葉を何重にも俯瞰していること。
それについて聞いてみると、
「『優しさ』が何かって言うと、『視点の多さ』だと思うんです。だから、正しさよりも視点の数を大事にしたい。そういう想像力が、優しい世界をつくるんじゃないかな」
と答えてくださいました。
SNS上の数字と、人生の価値を混同してしまいやすい今、戸田さんのアドバイスをご自身のSNS生活にも活かしてみてください。
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)ほしゆき(@yknk_st)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
「大人の保健室」をテーマにしたラジオ『戸田真琴と飯田エリカの保健室』が毎週月曜日に配信中です!
戸田真琴さんと少女写真家・飯田エリカさんが、保健室のような大人のよりどころになる場所を目指して語り合うラジオが、毎週月曜日20:00に配信されています。
戸田真琴と飯田エリカの保健室 - me_hokenshitsu
AV女優で文筆家の戸田真琴と、少女写真家の飯田エリカが、あなたと、私たちのためにつくってみた、保健室がほしいひとのための場です。 大人にも
戸田さんの著書と合わせて、ぜひチェックしてみてください。
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