ビジネスパーソンインタビュー
「これは、“障害者の救済”なんかじゃない」
生後3カ月、息子が視覚障害だと発覚。200人と話してたどりついた"強さの落とし穴"
新R25編集部
障害の有無、年齢、性別にかかわらず誰もが楽しめる「ゆるスポーツ」というスポーツがあります。
考案者は、澤田智洋さん。
【澤田智洋(さわだ・ともひろ)】1981年生まれ。2004年広告代理店入社。映画『ダークナイト・ライジング』の「伝説が、壮絶に、終わる。」などのコピーを手掛けながら、多岐にわたるビジネスをプロデュース。誰もが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ」協会代表理事。一人を起点にプロダクトを開発する「041」、視覚障害者アテンドロボット「NIN_NIN」、義足女性のファッションショー「切断ヴィーナスショー」などのプロデュースや、高知県のPR「高知家」コンセプトなどを手掛けている
激しく動かすと大声で泣きだすバスケットボールを使った「ベビーバスケ」、ほふく前進でラグビーをする「イモムシラグビー」といった「ゆるスポーツ」、障害のある1人のために服を作る「041(オールフォーワン)」プロジェクトなど…
お子さんが視覚障害を持って生まれてきたことをきっかけに、“弱み”を起点としたさまざまな仕事を実現してきたという澤田さん。
さまざまな弱みを持った方と会ってきた澤田さんが、「強さじゃ社会は変わらない」と語る真意とは…?
〈聞き手=サノトモキ〉
「“かわいそうな人”だと決めつけていた」息子のために障害者200人に話を聞いた父親が気づいたこと
サノ
澤田さんはもともと、大手広告会社のコピーライターなんですよね。
「ゆるスポーツ」の活動を始めるきっかけは、やはりお子さんが視覚障害を持って生まれたことだったのでしょうか…?
澤田さん
そうですね。生後1カ月検診でも何も言われなかったんですよ。
でも3カ月経っても全然目が合わなくて、近所の眼科に連れていったら「息子さんは視覚障害者です」と言われて。
そこから生活が一変しました。
「併発してた緑内障、白内障の手術に追われたり…何の心の整理もできないまま毎日が過ぎて」
サノ
そうだったんですね…
澤田さん
空いた時間で「目が見えない子の育て方」を調べようと思ったんですけど、当時視覚障害者の情報って全然出てこなくて。
たとえば、息子が将来どんな仕事に就けるんだろうと「視覚障害 高収入 職業」と検索しても全部“スティービー・ワンダー”みたいな。何これ、無理ゲーすぎるって。
なので…障害のある方々に、「どうですか? 人生」って直接話を聞きに行ったんです。
「家族に障害者がいる人、障害者を雇用している経営者さん、障害者スポーツ団体の偉い人にもお会いしました」
澤田さん
「どう勉強してきましたか?」「恋愛ってどうでしたか?」「夢ってなんですか?」…「どうやって育てたらいいかわかんないんです。助けてください」って僕もぶっちゃけて。
最終的に200人くらい聞いたのかな。
サノ
200人!
澤田さん
そのなかで、ポジティブな人、ひょうきんな人、すごく恋愛好きな人、本当にいろんな人がいろんな人生を送っていると知ったたこともすごく救いだったんですが…
一番僕の価値観を変えたのは、「障害から生まれた発明品がたくさんある」ということでした。
発明品…?
「メジャーチェンジはいつも“弱さ”から生まれる」
サノ
障害者から生まれた発明品…たとえばどんなものが?
澤田さん
たとえばライターは「戦争で片手を失った人でも火をつけられるように」発明されたという説がありますし、先端が曲がるストローは「寝たきりの人でも飲み物を飲めるように」開発されたらしいです。
他にも、クリミア戦争で負傷した兵士が着脱が楽にできるよう、カーディガン伯爵が発明した「カーディガン」とか。
へええー! カーディガンお前、伯爵の名前だったのか
澤田さん
iPhoneも、発達障害の傾向があったと言われているジョブズのせっかちさが、「誰でもわかるシンプルな操作性」を実現したと言われたりしますよね。
日本でも、1970年代以降に多くの障害者の方による運動が起こって、駅にエレベーターが設置されたり、障害者でも乗りやすい乗降口がフラットなバスが登場したり。
誰かの「弱さ」を起点に社会が変わった歴史って、たくさんあるんです。
サノ
“弱み”を起点に、誰もがより快適に暮らせる発明が生まれていると。
澤田さん
そう。人類は「弱さ」を生かすプロで、「弱さ」こそが常に革命を起こしてきた。
そんなお話をたくさん聞いているうちに、「弱さ」を生かさないことのほうがもったいないなと思うようになって。
日本の成長が30年以上止まってるのは、「強いところ」ばかり伸ばしつづけようとしてるからじゃないでしょうか。
どういうことですか?
澤田さん
今の日本って、「100%を101%に伸ばす仕事」をしている企業がすごく多いんです。
僕はある大手洗剤メーカーのグループインタビューに何度か同席したことがあるんですけど…ヒアリングに集められるのって、普段自社の洗剤を使ってるコアユーザーばかりで。
サノ
ああ…なんか想像できる気がします。
澤田さん
当然、「強いて言うなら」みたいな、重箱の隅をつつくような“伸びしろ”しか出てこない。
「100%→101%のビジネス」からは大きなイノベーションなんて生まれようがないんです。
日本の多くの企業はこういうことを繰り返しているから、ここ30年「マイナーチェンジ」しか起こせなかったのかもしれないと思うんですよね。
サノ
とっくに成長しきってしまった、「強い」部分同士の競争ばかり…なんかわかるかも。
澤田さん
ただ、あるとき別のメーカーが「計量不要のプッシュ型洗剤」を販売したんです。じつはこれ、「高齢者」や「目の見えない方」のために開発されたもので…
目が不自由な人や、高齢者の方は、洗剤を計量カップに注いで測るのが難しいんです。
その人たちの「弱さ」に焦点を当てた結果、メジャーチェンジが生まれたんですね。これが革命的だと支持されて。
サノ
「弱み」に着目したとたん。
澤田さん
今の僕らに必要なのは、このように弱さこそが「社会の伸びしろ」だと気づくこと。
日本は「あとはいかに緩やかに衰退するか」みたいな話ばかり聞きますが…伸びしろはまだまだ「マイノリティの世界」に全然ある。
僕は障害のある友人たちからそう教わったんですよね。
「僕たちが気づいてないだけで!」
澤田さん
障害者手帳を持っている方は、日本に大体930万人。他にも、LGBT、難民、難病指定患者の方々…世間的に「マイノリティ」と言われ、生きづらさを感じている人たちはたくさんいる。
僕は、社会における“新しい何か”を発見する視力を「ソーシャル視力」と呼んでいるんですが…
ソーシャル視力って、弱さを抱えた「マイノリティ」の人のほうが圧倒的に強いんですよね。
心臓病の少年をきっかけに生まれた「500歩サッカー」。しかし…
澤田さん
それで僕自身も、「ゆるスポーツ」を始めたんです。
実は僕自身すごく運動音痴なんですが、「運動音痴という視点を使ってスポーツを発明したらどうなるんだろう?」というソーシャル視力で立ち上げたのが「世界ゆるスポーツ協会」。
日本人の4割が日頃運動をしていない「スポーツマイノリティ」と知り、これぞブルーオーシャンとばかりに90種類の新しいスポーツをつくってきました。
世界ゆるスポーツ協会
20万人以上のユーザーが体験している「ゆるスポーツ」。見たことない光景ばかりだ…
サノ
ゆるスポーツ、サイト見ただけでもめちゃくちゃ面白かったんですが…
どんな「ソーシャル視力」を生かした例があるんでしょうか?
澤田さん
たとえば、「500歩サッカー」。
ある心臓病の少年が、本当はスポーツをやってみたいのに「こまめに休まなきゃいけないから体育は見学してなさい」と言われて、一度もみんなとスポーツをしたことがなかったと。
そこで僕は、「ひとり500歩しか動けないサッカー」を作ったんです。
サノ
えっ、どうやってやるんですか…?
澤田さん
まず、プレイヤーは全員「500歩サッカーデバイス」を装着します。
1歩動くと1ゲージ減って、走ると一気に5歩、10歩と減ります。500歩分使い切って、ゲージがゼロになったら即退場です。
なんか、ルール聞いてるだけで面白そう
澤田さん
そしてここがポイントなんですが…3秒以上動かずに止まっていると、4秒目から1秒に1ゲージ回復するんです。
つまり、「休む」ことが戦略の一部になってくる。どんなに体力自慢の人でもゲームに勝つためには「休まなきゃいけない」。
なので、心臓病の少年が入っても何の不自由なくプレーできるんです。
サノ
なるほど…!
澤田さん
「運動音痴がアスリートに、高齢者が若者に、障害者が健常者に勝てる」という面白さ。
これは「0.1秒速くなるシューズ」のようなスポーツ強者向けのビジネスをしている大手スポーツメーカーからは生まれなかったと思うし、自分の弱さを生かして本当に良かったなと思ってます。
サノ
心臓病の少年、うれしかっただろうな。めっちゃ感動的なお話ですね…
澤田さん
あっ、いや。
ゆるスポーツに対して、「感動的」という声をいただくことってけっこうあるんですけど…僕はそこに強烈な違和感があって。
これって、「障害者の救済」なんかでは決してないんですよ。
ゆるスポーツ発案者が一番伝えたいこと「“弱さを受け入れる社会”って、上から目線なんです」
澤田さん
僕は心臓病の少年を救済するために500歩サッカーを作ったわけじゃないんです。
彼ができるスポーツを「作ってあげよう」とか、彼のソーシャル視力を生かして活躍の場を「与えよう」とか、そんなことではまったくない。
「ソーシャル視力」という優れたビジネススキルを持ったビジネスパートナーである彼に、力を借りただけ。
サノ
「助ける」とか「働く場所を用意してあげる」とか、そういう視点ではないと。
澤田さん
ダイバーシティって「弱さを受け入れる社会」みたいに語られることも多いですけど、「受け入れる」って発想がすでに上から目線なんです。
違うんです。シンプルに、社会が「弱さ」という最強の一手に気づけていないだけなんですよ。
澤田さん
「弱さを許容する」ではなく、「弱さが持つ“力”を認知する」。
同情してる場合じゃない。彼らのソーシャル視力がいかに優れたスキルか、早く気づかなきゃ。
サノ
ここまでお話聞いて、すごく納得できました。
澤田さん
今までのダイバーシティって、「温度と湿度が高い」というのが一つの特徴だったと思うんです。やたらと高い熱量で、過剰にしっとりと、感動的に扱う。
でも僕は、平熱で、湿度低めでありたい。心臓病の少年の「500歩サッカー」も、「泣きのストーリー」にしたいわけじゃない。まわりが感動して終わるだけのキレイゴトで終わらせたくないんです。
「弱さ」の世界にはゲームチェンジャーがごろごろいるという事実を、フラットに述べているだけ。
澤田さん
ただ、「弱さ」を無理にポジティブに捉える必要もないと思うんです。
それぞれのペース・向き合い方があるわけで、「弱さを『ソーシャル視力』としてポジティブに捉えよう!」なんて言いたいわけでは全くありません。
「弱い自分を無理やり変える」じゃなく、「弱さを生かせる社会に変える」ほうが絶対にいい。でも、一個人で社会を変えるなんてむずかしい。だから、ビジネスがカギなんです。
感情論や倫理観で語るんじゃなく、一緒に社会に生きる人間として、一人ひとりがフラットに力を借り合う。それだけでいいんです。
サノ
それこそが真のフラット…めちゃくちゃ腑に落ちました。
澤田さん
ビジネスの世界が「弱さ」の価値に気づいたら、日本は一気に変わると思います。
だから、一個人の「弱さ」との向き合い方としてお伝えしたいのは、「無理して自分を変えないで」。
そして、「人生のどこかのタイミングで、あなたの弱さがあなたを救う可能性はあります」ってことですかね。
このあともいろんなゆるスポーツを見せてもらいました。全部、ただただ楽しそうだった。ありがとうございました!
「マイノリティのことをあれこれ考えるより、“自分もマイノリティである”という事実を自覚するほうが、圧倒的に早いです。誰だって絶対に、マイノリティな弱さを持ってるんだから」
取材終わりにそう教えてくれた澤田さん。
受け入れるのではなく、あくまでも「力を借り合う」。この視点、ハンデの有無にかかわらず、すべての人に対して働かせるべき想像力なんじゃないかと思いました。
自分のなかの弱さとも、上手に向き合っていきたいと思います。
澤田さんの初書籍『マイノリティデザイン』が3月3日に発売!(そしてなんと「発売即重版」が決まったそう…!)
「すべての弱さは社会の伸びしろ」。
誰かが抱える弱さを起点に、みんなにとって居心地の良い社会を作る“マイノリティデザイン”の仕掛人・澤田智洋さんの初書籍『マイノリティデザイン』が絶賛発売中。
「弱さ」を抱えて生きていく私たちに、大きなヒントを与えてくれる1冊。気になった方はぜひチェックしてみてください!
ビジネスパーソンインタビュー
またスゴいことを始めた前澤さんに「スケールの大きい人になる方法」を聞いたら、重たい宿題を出されてしまいました
新R25編集部
【不満も希望もないから燃えられない…】“悟っちゃってる”Z世代の悩みに共感する箕輪厚介さんが「幸せになる3つの方法」を伝授してくれた
新R25編集部
「実家のお店がなくなるのは悲しい… 家業を継ぐか迷ってます」実家のスーパーを全国区にした大山皓生さんに相談したら、感動的なアドバイスをいただきました
新R25編集部
「俯瞰するって、むしろ大人ではない」“エンタメ鑑賞タスク化してる問題”に佐渡島庸平が一石
新R25編集部
社内にたった一人で“違和感”を口にできるか?「BPaaS」推進するkubell桐谷豪が語るコミットの本質
新R25編集部
【仕事なくなる?そんなにすごい?】“AIがずっとしっくりこない”悩みへのけんすうさんの回答が超ハラオチ
新R25編集部