ビジネスパーソンインタビュー
見られてない時代の努力は、“不毛”。
「勝つために、麻雀の勉強を減らした」多井プロが“本業の努力”より大切にしていること
新R25編集部
「頑張っていれば、いつか評価されるはず」。
そんなふうに思いながら、「自分を見せるのが上手なあいつ」にモヤモヤしている…そんなとき、ありませんか。
今回お話を伺うのは、競技麻雀のプロ団体RMUおよびMリーグ・渋谷ABEMAS(アベマズ) に所属するトッププロ雀士・多井隆晴さん。
「最速最強」の名の通り数々のタイトルを獲得してきた多井さんは、「麻雀プロとして成功したかったら、麻雀だけやってたらダメ」「確実に失敗するのは、誰よりも麻雀の勉強だけをしている人」など、とにかく「自分の見せ方を磨け」と主張されているのです。
いったいどんな話をしてくれるのか…!?
〈聞き手=中村碧(なかむら・あおと)〉
【多井隆晴(おおい・たかはる)】RMU及びMリーグ・渋谷ABEMAS所属。RMUでは同団体の代表を務め、同団体最高ランクのSSS級ライセンスを保持。多くのタイトルを獲得している他、トーク力を活かして様々な番組に出演している
実力より自己プロデュースを磨けと語る理由「見られてない状態での努力ほど不毛なものはない」
中村
多井さんはなぜそんなに「見せる力を磨け」と仰るんでしょうか?
本業そこそこの実力で、自分の見せ方を磨いてる若手っていかがなものかと思うのですが…
多井さん
僕から見れば、「期待の新人」って感じを受けますね。おお、どんどんやりなって思う。
「誰も自分を見てない時代」に一生懸命頑張っても、不毛なことが多いんで。
「見られてない努力」は不毛…
多井さん
人って、人に見てもらえないと勉強しないんですよ。
勉強って、すごく苦痛じゃないですか。たくさんの人から見られて、評価されないと一生懸命やらないんですよ。
中村
でも…
自分、「頑張ってるアピールはしたくない」と思ってしまうというか、「黙々と実力磨けばいつか評価してもらえる」と信じるタイプなんですが…?
多井さん
メンタルが強ければ、そういう専門家タイプもいいと思いますよ。ただ人間、「いつか報われる…!」って思いだけじゃそんなに続かないです。少なくとも僕は持たない(笑)。
だから、「先に有名になっちまえ」っていうのが僕の持論で。
僕も、何千人、何万人に見られてるから勉強するんですよ。恥かけないから頑張れるんです。
多井さん
最初は中途半端な知識でいいんです。偉そうに語って、的外れでもいい。
今の自分なりに自信もって言ったはずのことを指摘してもらって、はじめて本気で「あ、もっと勉強しなきゃ」って思えるんだから。
「見てもらえる状況」を作ってから努力する。この順番のほうが、圧倒的に成長スピードも、報われる可能性も高くなると思います。
多井流・自己プロデュース論①「“本業の勝率を上げる”以外を磨け」
中村
でも、自己プロデュースって具体的に何をすればいいんですか?
多井さん
僕は、他の人が勉強していないところを人よりちょっと多く勉強するんです。
多分他のプロと、1日の勉強量は一緒なんですよ。
ただ、1日8時間勉強するなら「麻雀の勉強」は1時間にして、他の7時間で麻雀以外のこと勉強しようと決めたんです。
本業の勉強、ちょっとすぎません?
多井さん
大半の人が、結果を出すために本業の実力を磨きますよね。
麻雀のプロも、一心不乱に麻雀の勉強だけをしてる人って本当に多い。
ただ僕は、あるとき「こんなもんいくら勉強したって無駄だよ」と思っちゃったんですよね。
中村
無駄…!? 大事な本業なのに…?
多井さん
圧倒的な実力で応援される人気者ってときどきいますけど、それってもうイチロー選手とか藤井聡太さんとかのレベルだと思うんですよ。
麻雀は4人対戦なので、シンプルに言えば「勝率25%」。で、みんなこの勝率を40~50%くらいまで高めようとめっちゃ努力するんですけど、僕は「一生捧げても勝率30%くらいにするのがやっとだ」と思った。
だったらYouTubeとか解説とか…「本業での勝率30%」以外の武器を磨いたほうが、プロとして圧倒的に伸びしろがありそうだなと。
なるほど
中村
本業以外の武器、どんなことを磨いたんですか?
多井さん
「伝える力」です。
麻雀って昔、日本一決定戦すら観戦者ゼロでやっていたんですよ。観戦無料なのに。
何十年、「麻雀を見る」という文化自体がなかった。
僕は「いつか見る時代がきますよ」とずっと言っていたんですよ。「そのときに伝える力がなかったら終わりです」と言っていたんですけど、全員「そんな時代来るわけねえ」と取り合わなかった。
中村
ふむふむ。
多井さん
僕はそこで、アナウンス学校やボイストレーニングに通いました。芸人のビデオもたくさん観た。
世間に届くことで語れるように、新聞やニュースも毎日読みました。
「麻雀ファンを盛り上げる」は、麻雀のプロなら誰でもできる。でも、「麻雀に興味のない人々」も引き込むには「みんなに届く言葉」を話せなくちゃいけないので。
「こち亀が100巻続けられたのも、オリンピック、人気のアイドル、話題の政治家…常に『今話題の何か×両さん』という“みんなに届く表現”をしてたからだと思うんです。なので、両津勘吉を全力で目指しました」
多井さん
で、あるとき藤田晋社長が“強くて面白い雀士”として僕を見つけてくれて。
それ以降いろんな番組に出させてもらって、配信や解説の仕事もいただけるようになったんですよね。
見事な逆転劇だ
多井さん
ちなみに、僕は「勝つこと」だけを頑張るのは諦めたわけですけど…
そしたらすげー勝てるようになりました(笑)。
中村
へええ!?
多井さん
麻雀の技術を磨くより、相手3人の人間性を研究したほうが勝率は上がりましたね。
あいつはこういう性格だから、こういうことやってくるはずだとか、麻雀を攻略するより人間を攻略した方が早い。これは間違いない。何を切るだの言っているうちは勝てません。
こういうこと、どんな業界でもあるんじゃないかな。
多井流・自己プロデュース論②「負け試合の見せ方を磨け」
多井さん
あと、自己プロデュースには「負け」が一番いいんすよ。
みんな、勝って評価されようとするでしょう? でも僕は「負け試合」でいかに評価されるかを考えてます。
言っちゃえば、「負け試合をいかに金に変えるか」。そここそが「プロとしての実力」だと僕は思っていて。
ダメだ全然理解が追いつかない。どういうこと…?
多井さん
勝率25%。シンプルに考えれば「負け戦」のほうが3倍あるわけで、僕らって「勝ち戦」の3倍、「負け戦」の情報を持ってるわけですよ。
麻雀に限らず、うまくいったことよりうまくいかなかったことが多かったりするでしょう?
成功体験より、圧倒的に語れることがあるはずなんですよね。だからこそ、「負け戦」をいかにプロデュースするかが大事。
「なのにみんな『成功本』ばっか出してるから…僕は今自分の負け戦をまとめた『負け本』を出そうと思ってます」
中村
でも、仕事での「負け」「失敗」をまわりに見せるって普通に考えたら評価が下がりそうだし、難しくないですか…?
多井さん
考え方が違うんです。「結果を見せる」から「プロセス」を見せるに思考を切り替えたほうがいい。
自己アピール苦手な人って、「結果でアピールする」と思い込みがちなんですが…「これから頑張ること」として見せればいいんですよ。
多井さん
たとえば僕が今、ヨーロッパで麻雀を流行らせたいとします。
その場合、「なので多井、外国語教室通いだしました」と言ってしまって、その過程を見せればいい。
今は全然話せなくても、「本気でやってくれんじゃねえのかこいつ」と誰かに思ってもらえるかもしれない。“期待”が生まれるんです。その“期待”が、人を「見てみよう」と思わせる。
中村
あっ、そしてさっきの「人は、人に見てもらえると勉強する」にもつながっていくのか…
多井さん
だから、「自分が今から何に挑戦するか、最初に宣言するやつ」。
そういう若者がいたら僕はすごく評価しますよ。たとえ今は全然結果を出してなくてもね。
中村
でも…まだ誰も自分に興味のない状態で宣言するって、ちょっと恥ずかしくないですか?
多井さん
みんな、「どうせ誰も自分に興味なんてない」と思いがちですよね。同時に「期待を裏切ったらどうしよう」とも思いがち。
でも世の中の“人への興味”って、たぶん「そんなには期待してないし、かと言って興味がないわけでもない」ぐらいのバランスなんですよ。
多井さん
あなたが思うほど大バッシングされることもなければ、大絶賛されることもない。
だから、「自分なんて…」とも「期待を裏切ったら…」とも思わなくていいんです。
多井流・自己プロデュース論③「キャラ作りじゃない。カードの切り方を知れ」
多井さん
あとね、自己プロデュースって「キャラ作りをすること」だと捉えてる人も多いんです。
みんなに応援してもらえる、愛されるようなキャラを作ろうって。
これ、一番ダメな勘違いで。
えっ、どうして…?
多井さん
「相手に好いてもらえるように自分を変える」なんて、無理、無理!
いつか絶対破綻するし、経験豊富な人には簡単に見透かされます。その場しのぎの面接なんか、すぐバレる。
100人成功者がいたら、100通りの「自分」があるんです。藤田晋とホリエモンは違う。
中村
じゃあ、どうやって自分を変えれば…?
多井さん
自己プロデュースにおいて一番やっちゃいけないのは、「自分にない何かを足そうとすること」。
自己プロデュースとは、「足す」んじゃなく、「深掘る」ことなんです。
多井さん
結局のところ自己プロデュースは、「自分をどう見せるか」という話です。
あくまでも素材は自分で、「自分のなかからどんなカードを切るか」という技術。
「相手に好いてもらえるカード」を切って、「相手に嫌われそうなカード」を隠す。これだけなんですよ。
中村
なるほど。
多井さん
なので、まずはとにかく自分のことをよく知ってください。
他の人が自分のどこを嫌がって、どこを能力あると思ってくれているのか。他の人が自分をどう思っているかをたくさん考えたほうがいい。
中村
自己プロデュースは「自分の作り方」じゃなく、「自分の使い方」を知ることだと。
多井さん
そうです。「評価される自分」はすでにいるんですよ、自分のなかに。
最後に…「口下手なスペシャリストなんて宝の山ですよ」
中村
お話、よくわかりました。
ただ、どうしても「性格的に自己プロデュースやアピールが苦手」という人はどうすればいいですかね…?
多井さん
アピールが苦手な人は、今までのアピールが失敗してきただけだと思うんですよ。
過去にプレゼンした相手が、たまたまあなたに合わなかっただけ。
中村
ほう?
多井さん
たとえば漫画家になりたい人で、「『ジャンプ』に持ち込んだけどダメで、漫画家を辞めちゃった人」ってけっこういると思うんです。
でも、『マガジン』だったらOKがもらえたかもしれない。才能あるのに、「見せずに終わってしまう人」って結構いるんですよ。
多井さん
いくらでもあるんで、「見せる先」なんて。あなたの話を聞いてくれる人は他の場所にはいくらでもいる。手数打ってないから、それに気づいてないだけ。
僕は、アピール苦手だって人の話聞きたいですよ。アピール苦手ってことは、今まであんまりアピールしてこなかったんでしょう?
「口下手なスペシャリスト」なんて、宝の山ですよ。これから伸びしろしかないじゃないですか。
中村
そっか…めちゃくちゃ背中を押してもらえた気がします…
多井さん
僕もここ7、8年は、まわりにどんどん見てもらえるように、自分のすべてを正直に出してます。
まあ、麻雀中も全部顔に出ちゃっているのは問題なんですけどね(笑)。
オチも華麗だ…今日はありがとうございました!
自分をアピールすること。なんとなく恥ずかしいことだと思っていましたが…アピールしないデメリットがデカすぎる。
・「見られてから努力せよ」
・「本業以外の勝率を上げろ」
・「負け戦こそプロデュースせよ」
・「足すな。深掘れ」
学びだらけの1時間、記事に載せてない脱線内容も全部面白かった。多井さん、すごい方でした。
明日から自分のこと、ちょっとずつ見せていけるようになったらいいな。
〈取材・構成=中村碧(@aoto_cyberagent)/文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
多井さんが出場する「朝日新聞Mリーグ2020」セミファイナルシリーズが配信予定!
多井さんが所属する渋谷ABEMASも参戦している「朝日新聞Mリーグ2020」セミファイナルシリーズが4月12日~4月30日の日程で配信予定!
「最速最強」の多井さんが展開する試合は、勝ち戦・負け戦にかかわらず大盛り上がり間違いなし。
ABEMAビデオで視聴可能なので、気になった方はぜひチェックしてみてください!
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