香川真司著『心が震えるか、否か。』より
友人に「しんどいわ」と漏らしても…香川真司が「日本代表10番」の重圧を跳ねのけられた理由
新R25編集部
日本代表で長年「背番号10番」を背負い、欧州のビッグクラブで11年弱、闘いつづけてきたプロサッカー選手・香川真司さん。
世界中の期待と重圧にさらされながらも挑みつづける香川さんが、迷い悩んだときに大切にしてきた心の指針とは何なのでしょうか?
香川さんの最初で最後の著書『心が震えるか、否か。』より、原点となるジュニアユース「FCみやぎ」についてや、プレッシャーとどのように向き合っていたのか、挫折をどのようにして乗り越えてきたのかなど、エピソードを抜粋してご紹介します。
元日本代表・中村憲剛「真司は真剣に受け止めてしまう」
「最近はユナイテッドであまり試合に出ていませんが、今回の代表戦では試合勘が心配ではないですか?」
記者がそう問いかけて、少しぶっきらぼうに香川がこう答える。
「どういう環境でやっているのか、そこで何を得られるのかを最もよく知っているのは、僕ですから」
香川がユナイテッドで2シーズン目を迎えていた時期には、そんなやり取りがよくあった。
他には、こんな質問も定番だった。
「日本代表の10番として、どんなプレーを見せないといけないと考えていますか?」
そんなやり取りを目にしながら、「大変だな」と中村憲剛は感じていた。
ミックスゾーンと呼ばれる取材エリアでは、香川の前にはいつも記者の人だかりができていた。
ホテルにいても気が休まらないのではないかと心配したこともある。
「真司についてすごく厳しく書かれている記事やニュースは、嫌でも目に入ってくるでしょうから」
そう語る中村は、「ヨーロッパのメディアに直接、触れたわけではない」とことわりを入れてから、日本特有のプレッシャーをこんな風に表現する。
心が震えるか、否か。「ヨーロッパも厳しいと言われますけど、『いや、いや、日本のメディアのプレッシャーもすごいな』と感じますよ。
というのも、日本とヨーロッパの違いとして、日本ではスター選手を作りたがる傾向があると思うんです。
それがヨーロッパとの歴史の差なのかもしれないですが、日本ではどうしても、個人がフォーカスされる。
あの時期の代表だと圭佑と真司にほとんどがフォーカスされる状況でした。
チームのパフォーマンスは抜きにして、活躍すれば当然で、活躍できなければ批判されますから」
そうした状況に置かれた香川の様子をこんな風にとらえていた。
心が震えるか、否か。「そういうものを真司は真剣に受け止めてしまうところがありましたよね。
個人的には、若いころの方が、良い意味で、伸び伸びとプレーしているイメージがありました。
それが真司の良さでもありましたし。
ひょいひょい飛ぶようにプレーしている感じですかね。
ただ、クラブレベルで階段を上り、代表では10番も与えられた。
『自分は10番を背負う選手だし、自分のプレーが結果につながるから』というようなことを口にしたり...。
サッカーを楽しめていないのではないかと心配になることはありましたね」
自分がチームを引っ張らないといけない。
その想いだけは香川のなかに強くあるから、悩みは深まる。
ただ、そこで悩むのではなく、状況を打破するために必要なことを考え、行動に移せるようになるのは、もう少し先のことだ。
心が震えるか、否か。「だからこそ、一緒にやれたら、真司をリラックスした状態でプレーさせてあげられるのになと思っていました。
それは真司のためにという部分もありますけど、チームが勝つために必要なことなんです。
彼はそれくらいの能力のある選手ですから」
ユナイテッドの選手として、日本代表の10番として、世間から受けるプレッシャーを取り除いてあげることはできない。
でも、ピッチのなかでのストレスであれば、間違いなく、自分が軽減させてあげられるのに...。
中村は確かに、そう感じていた。
しかし、ボランチとして、中村に文字通り後方からサポートする時間が十分に与えられたのは、ザッケローニ監督が就任する直前のパラグアイ戦くらい。
結局、ブラジルW杯の1年前に行われたコンフェデレーションズカップの最終戦となったメキシコとの試合を最後に、彼が代表のピッチに立つことはなかった。
カズ「真司は背中だったり、プレーで引っ張るタイプ」
カズは、香川と同じ時期に日本代表で活動したことはないが、香川の置かれた立場には強く共感できる。
例えば、1998年のフランスW杯出場を目指して戦っていた、アジア最終予選でのこと。
当時の日本はまだW杯に出場したことがなかったが、すでに2002年に日韓ワールドカップが開催されることが決まっていた。
開催国として出場権が無条件で与えられる前に、本大会に出場できる力があると証明しないといけない。
当時の日本にはそういう空気があって、フランスW杯出場は目標というよりも、義務となり、選手たちにプレッシャーをかけていた。
日本代表へのプレッシャーは歴史上最も大きかったかもしれない。
その中心にいたカズは、フランスW杯の予選のさなかに、ファンから生卵を投げられたこともある。
心が震えるか、否か。「『あの選手はもっと良いプレーができるだろう』と口で言うのは簡単です。
でも、あのプレッシャーのなかで試合をやるのは大変なものです。
普通の試合とは重みが違いますから。
僕も身体で、W杯予選のことは覚えていますけど、あの重みはどうしたって、言葉では表現できないものです。
自分が試合を決めないといけないという責任感があるし、勝たないといけないというプレッシャーもある。
ときには、それが怖いと感じるときもありました。
それが代表の重みですから」
ただ、そうしたものに立ち向かうことは、きっと意味がある。
歳を過ぎてもなお、現役のプロサッカー選手として活躍を続けるカズは考えている。
心が震えるか、否か。「厳しく言われるのは、エースの証です。
特別な人しか、言われないわけで。
そういうものを真司たちは背負ってきたんです」
香川とこまめに連絡をとっていたカズは、こう感じることがあったという。
心が震えるか、否か。「色々なことに気を使っていたというか...。
味方を上手く使うためにはどうしたらいいのか、自分が活きるためにはどうしたらいいのか。
真司だって、本能のままに動いて、プレーしていた時期があったはず。
単純に相手をドリブルで抜く楽しさや、相手をかわしてからシュートを打つ喜びを覚えたり...。
サッカー選手は、色々な経験を積んでいくことで、デビューしたころのプレーのままではいられない部分はあると思います」
カズにも、そうした葛藤と向き合い、乗り越えてきた経験があるからこそ、今ではこんな風に考えている。
心が震えるか、否か。「無理にチームを引っ張ろうとしなくてもいい。
そういうことを意識しないで、自分のプレーに集中すれば良いのかなと思いますね。
チームメイトを鼓舞して、引っ張るようなタイプの選手も大切です。
ただ、真司にそうなってほしいとは、僕はこれまでも言ってきませんでした。
真司は背中だったり、プレーで引っ張るタイプだと思いますから。
そういうタイプの選手だって、とても大きな価値があります。
楽しくサッカーをして、幸せになってほしい。
それが一番、大切なことですから」
香川真司「プレッシャーに打ち勝つことが、モチベーションになった」
香川選手は以下のようにコメントしている。
心が震えるか、否か。当時は記者の人たちからユナイテッドの選手としてどうプレーするかをよく聞かれていた。
ただ、自分にはビッグクラブでプレーしているのだというプライドがあったから、「そこで何を得られるのかを最もよく知っているのは、僕です」と答えていた気がする。
実際に、成長する余地がたくさんあると考えていたわけだし。
ただ、周りからの評価や、日本代表の10番を背負う選手としての責任の大きさに振り回されていた部分があったとは思う。
親しい人に「しんどいわ」と漏らしたことは何度もある。
では、「10番なんて背負わなければよかった」と本心から思うのか?
答えはノーだ。
確かに、あの時期に「代表でプレーするのはしんどいな」と思うことがなかったといえば嘘になる。
でも、自分の心に問いかけてみれば、やっぱり日本代表のユニフォームを背負って活躍したいという答えにいきつく。
ただ、10番の重みを本当に理解して、そのプレッシャーに真っ向から向き合って、それに打ち勝つことをモチベーションにできるようになったのは、2018年のロシアW杯を迎えるころだったと思う。
あの時期の自分にはまだ、チームを引っ張ることの本当の意味まではわからなかった。
中途半端に気を使っていたところもあったのかもしれない。
過去を美化するつもりもないし、あのころは苦しかった。
でも、苦しんだ分だけ、今の自分につながった部分はあったと考えている。
「紆余曲折の中で僕が何を考え、もがいてきたか」
心が震えるか、否か。「脚光を浴びる一方で、数多くの失敗をしてきた。
それに後悔もたくさんある。
紆余曲折の中で僕が何を考え、もがいてきたか、を記すことでアスリートのみならず、多くの人の糧になることを願っている」
ブラジルW杯やロシアW杯など、世界中が注目する数々の舞台の裏で、香川真司選手は何を感じてきたのでしょうか?
そこには、プロのアスリートだけでなく、ビジネスパーソンが抱える悩みにも通ずる学びがあります。
栄光・挫折・苦悩・重圧を赤裸々に明かした最初で最後の著作『心が震えるか、否か。』を、ぜひお手に取ってお読みください!
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