中原 淳著『働くみんなの必修講義 転職学』より
地方移住・独立・副業...検討中なら知っておくべき「トレンド転職」4パターンの表裏
新R25編集部
副業・兼業に関心を抱く人も増えてきた今、転職は「当たり前」の選択肢になりつつあります。
しかし私たちは誰からも「転職のやり方」を教わっておらず、キャリアが異なる人の経験も参考にしにくいため、いざ転職を検討するときに不安を感じる方もいるかもしれません。
よい転職をするためにはどうすればよいのか?
このシンプルながら難しい問いに科学の力で答えを出したのは、立教大学経営学部教授・中原 淳さんと、パーソル総合研究所、パーソルキャリアの共同研究。その成果が新著『働くみんなの必修講義 転職学』になりました。
今回は、『働くみんなの必修講義 転職学』(中原淳・小林祐児・パーソル総合研究所著)のなかより、その一部を抜粋してお届けします。
「惹かれる理由」と「その後の不満」はコインの裏表。「トレンド転職」4パターンの特徴
「典型的な例の転職」のパターンは、自らの経験を活用しながら現在の生活圏内にある企業に転職する、というものです。
しかし昨今、地方企業に職を求めることや、ベンチャー志向、起業や副業・兼業がブームになっています。
具体的には、「地方転職」「ベンチャー転職」「独立開業」「副業・兼業」という4パターンについて、議論していくことになります。
この4つのキャリア選択はいま、ある種のブームになっており、ロマンや幻想とともに語られがちです。
まさに、「一つの会社で一生勤め続ける」というモデルが、人々には信じられなくなった反動ともいえます。
しかしもちろん、すべての選択肢がバラ色ではありませんし、実際にそうした選択をしたあと、不満を抱えることもあります。
以下の図をご覧ください。
働くみんなの必修講義 転職学
こちらの図は「地方転職」「ベンチャー転職」「独立開業」「副業・兼業」の4パターンに惹かれた理由を、特徴的に多い順に並べたもの。
働くみんなの必修講義 転職学
こちらの図は実際にこの4パターンの転職を行なったあとで抱えた不満を、こちらも特徴的に多い順に並べたものです。
この2つの表を見比べてみると、各パターンに「惹かれた理由」と「その後の不満」が、コインの裏表のような関係になっていることがわかります。
どういう意味か、説明していきましょう。
労働時間も所得も低下傾向にある「地方転職」
「地方転職」に惹かれる人の特徴的に多いきっかけの1位は「労働時間を短くしたい」、それを選択したあとの不満の1位は「所得が下がった」です。
当たり前ですが、労働時間が短くなれば、所得も低下します。
そもそも地方企業は都市部の企業と比べて規模が小さく、成長も緩やかなことが多く、相対的に所得が上がりにくい構造になっています。
働くみんなの必修講義 転職学【経験者への問い】過去の自分にアドバイスするとしたら?
「検討している企業の情報は調べられるだけ調べること。面接官や人事の人からの情報だけでなく、実際に工場や内部の見学を行なうとなおよい」(男性・34歳・製造業)
「仕事を辞めてから職を探しはじめると、経済的な面の余裕がなくアルバイトをしなければならない状況になって集中できないので、辞める前にある程度、固めておいたほうがよい」(男性・28歳・不動産、物品賃貸業)
厳格なルールがない「ベンチャー転職」
「ベンチャー転職」に惹かれる人の特徴的に多いきっかけの1位は「上司を変えたい」ですが、実際に転職後の不満を見ると、「組織に一体感がない」という特徴が1位に来ています。
厳しすぎる上司に嫌気がさしてベンチャー企業に転職したら、マネジメントが緩くてバラバラの組織で働くことになった、といったケースが想像されます。
働くみんなの必修講義 転職学【経験者への問い】過去の自分にアドバイスするとしたら?
「前職を続けていてもよかったかな、と思えているけれど、それはいまの職場で働いてさまざまな価値観を得られたからこそ。視野を広げればたくさんの世界が見られる、といいたい」(女性・33歳・医療、福祉業)
「雇用契約条件を確認しておくこと。契約書も存在しない状態で経営者を信じてはいけない」(男性・38歳・建設業)
自由度は高いが、身内の干渉が大きい「独立開業」
「独立開業」に惹かれる人の特徴的に多いきっかけの1位は「組織に縛られない働き方がしたい」ですが、それを選択したあとの不満の1位は「両親や家族とのあいだに不和がある」です。
自由を求めて事業や商売を始めたにもかかわらず、両親やパートナーから「自分勝手なことばかりやって」などといわれ、家庭内の空気が冷え切ってしまう、というシーンが思い浮かびます。
働くみんなの必修講義 転職学【経験者への問い】過去の自分にアドバイスするとしたら?
「時代の流れは思ったより速いので、もう一つやりたいことを見つけるように、といいたい」(女性・44歳・その他業種)
「決断は間違ってない。ただ、メリット・デメリットをもっと客観的に考えてみて」(女性・32歳・医療、福祉業)
手軽だが時間を取られる「副業・兼業」
コインの裏表のような関係がもっともわかりやすいのが、「副業・兼業」でしょう。
「所得を増やしたい」というきっかけが特徴的に多い1位ですが、実際にその選択をしたあとで抱える不満の1位は「プライベートな時間がつくれない」です。
「副業・兼業」による所得アップと、プライベートな時間はトレードオフの関係にあり、どちらかを優先させれば、どちらかを犠牲にせざるをえないはずです。
働くみんなの必修講義 転職学【経験者への問い】過去の自分にアドバイスするとしたら?
「収入がよいからといって自分の苦手分野で副業するのではなく、自分の得意分野を突き詰めるべき」(男性・48歳・製造業)
「貯金ができてなかろうが、身体を壊すほど頑張らなければいけない仕事はよくない」(女性・26歳・その他業種)
「トレンド転職」4パターンには、想定外の「ポジティブ・サプライズ」もある
そうした一方で、この4パターンの転職を経験した人たちは、事前に想像していなかった想定外、いわば「ポジティブ・サプライズ」を感じている、ということも、私たちの調査から明らかになりました。
「地方転職」では「知らなかった世界を知ることができる」が特徴的なポジティブ・サプライズの1位で、「上司」や「仕事仲間」に関する満足度も高くなっています。
「ベンチャー転職」では、意外かもしれませんが「労働時間が短い」というポジティブ・サプライズが1位です。
かつてのベンチャー企業には、長時間労働を社員に強いることもいとわない、というイメージがありましたが、近年では優秀な人材を採用するため、社員の労働時間をきちんと管理している企業が増えている、ということでしょう。
「独立開業」と「副業・兼業」のポジティブ・サプライズの1位は「顧客や取引先/周囲の人から高い評価やよい評判を得ている」というものです。
独立開業や副業・兼業では外部からのフィードバックを直接的に受け取ることができるため、そこに喜びや醍醐味を感じている人が多いようです。
「自分自身にとっての正解」を選択しよう
以上で見てきたような多くのデータを踏まえ、「地方転職」「ベンチャー転職」「独立開業」「副業・兼業」の4パターンについて、あらためて、そのコインの裏表の関係やポジティブ・サプライズなどをまとめたうえで、わかりやすく一つの表に集約してみました。
働くみんなの必修講義 転職学
この表からあらためて浮かび上がるのは、人が自ら選択した仕事先で不満を感じたり、悩んだりするのは、その人の願望や、なりたい姿への夢をかなえるための犠牲のようなもの、ということでしょう。
私たちはキャリア選択を考えるとき、「こんな副業が儲かる!」「地方移住がトレンド!」などの世間の声に流され、「これからの時代はこういうキャリアが有利」「こんなスタイルがイキイキとした働き方」など、そこに何かしらの客観的な物差しがある、と考えてしまいがちです。
しかしこの表が教えてくれるのは、「いいとこどり」のような「誰にとってもよい選択肢」は存在しない、ということです。
どんな働き方を選ぼうが、「自分がなりたい姿」「自分がめざしたい仕事」がいかなるものであるかによって、実際に働きはじめてから感じる想いは変わってきます。
逆にいえば、いかなるキャリアを選ぶにしても、さまざまな情報を収集し、自分の想いを整理し、「セルフアウェアネス(自己認識)」を高めながら、「自分自身にとっての正解」をつくり上げていくプロセスをたどるほかないのです。
転職にまつわるシンプルな問いに、科学的な視点から答えた一冊
「このまま今の会社で仕事を続けていてよい?」
「転職行動をどのように行なえばよい?」
「新しい職場で活躍するためにはどう行動すべき?」
同書はこのような転職にまつわる問いに対して、12,000人もの大規模調査を駆使し、科学的アプローチから答えを導きだした一冊です。
転職に悩んでいる方はもちろん、労働市場に参加する新卒の方、転職者を迎え入れる企業のリーダーやマネジャーなど、これからの働き方に関心がある方はぜひ読んでみてください。
ビジネスパーソンインタビュー
「人間関係が深まらないし、長続きしない」新R25編集長“最大の悩み”を人生相談1万件超のレジェンド・加藤諦三さんに相談
新R25編集部
「それ、嫌われてるに決まってるじゃん(笑)」Z世代慶應生がプロ奢ラレヤーに“友達がいない”悩みを相談したら、思わぬ事実が発覚
新R25編集部
「ビジネス書を読んでも頭に入らない…」インプットの専門家・樺沢紫苑先生に相談したら、さまざまな“間違い”を指摘されました
新R25編集部
【老害おじさん化回避】若者と絡むな、パーカー着るな。“いいおじさん”のすべて【イケオジへの道】
新R25編集部
「仕事と家庭で“顔”を変えろ」本音が話せない28歳にコミュニケーションのプロ・安達裕哉さんが“シーン別の戦い方”を教えてくれました
新R25編集部
またスゴいことを始めた前澤さんに「スケールの大きい人になる方法」を聞いたら、重たい宿題を出されてしまいました
新R25編集部