ビジネスパーソンインタビュー
木下勝寿著『売上最小化、利益最大化の法則』より
プロモーションは目立ってはいけない。「北の達人」が徹底する“利益を生む”広告術
新R25編集部
北海道札幌市に拠点を置き、健康食品や化粧品を自社ECサイトで販売している「北の達人コーポレーション」をご存じでしょうか?
実はこの会社、「利益率」が抜群に高く、2020年2月期の売上は約100億円・営業利益は約29億円を達成。
営業利益率29%は、上場しているEC業界内平均の12倍の利益になるんだそう。
効率的に利益を生み出し続ける北の達人コーポレーションでは、どんな経営や戦略が練られているのか?
代表取締役社長・木下勝寿さんの著書『売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)より、盤石な会社をつくるために知っておきたいマインドを一部抜粋してお届けします!
プロモーションは目立ってはいけない
プロモーションには2種類ある。
「目立つプロモーション」と「目立たないプロモーション」だ。
目立つプロモーションは、テレビCMやイベントなど、不特定多数の人を対象に「目立つ」「話題になる」ことが目的だ。
目立つプロモーションで、売上が上がらないケースは、自己満足、内輪受け、消費者不在になっている。
一方、売上が上がると、競合に目をつけられ、競争が激しくなり、利益率は下がる。
目立つプロモーションは会社にとってメリットがまったくない。
テレビCMをたくさん打っても、売上も利益も出ないケースがある。
それに対し、目立たないプロモーションは、ターゲットのみに認知されることが目的だ。
目立たないプロモーションで売上が上がらないケースは、目立たなすぎてターゲットに認知されていないのだ。
一方、目立たないプロモーションで売上が上がると、競合が生まれないので永続的に成長できる。
目指すべきはココだ。
「北の達人」は目立たないプロモーションを行っている。
ネット広告は商品ごとにターゲットを絞って出稿する。
だから、ターゲットの外には認知されていない。
たとえば、若い人でウェブマーケティングに興味のある人は、「北の達人」は知っていても、「北の快適工房」という健康食品、化粧品のブランドについてはほとんど知らない。
また、株主総会のとき、ある年配の男性株主から、「『北の達人』はのびていると聞くけれど、実感がないな。おたくの商品を見たことも聞いたこともない。まだまだだな」と言われたことがある。
それは「ほめ言葉」だ。
なぜなら、その人がターゲット外だからだ。
「目の下の加齢」に悩んでいない人が、それを解消するクリームを知っていても意味がない。
「便秘」に悩んでいない人が、それを解決してくれる健康食品を知っていても意味がない。
オリゴ糖の健康食品を扱い始めた頃、お客様はどんな言葉で検索するかを考えた。
その際、妊娠した女性は便秘になりやすいが、便秘薬は飲みたくないという情報を得た。
強い便秘薬を大量に服用すると、流産を誘発する可能性があるという。
そうしたことから便秘にならない体質になりたいと思っている。
オリゴ糖は腸内環境をよくし、便秘になりにくい体質に変える。
そこで「妊娠」「便秘」と検索すると、当社の広告がヒットするようにした。
でも、ターゲット外の人はその商品の存在すら知らない。
それは競合が生まれにくいということでもある。
広告の目的は目立つことではない。
利益を生み出すことだ。
目立たないプロモーションが一番利益を生む。
当社は、知名度を上げるためだけの無駄なことに、お金も時間もかけないから利益が上がっている。
スキルの低いマーケッターは、目立つプロモーションをやりたがる。
なぜならテレビCMなどを指して、「あれは自分がやった」と言いたいからだ。
本当にスキルのある人は、目立たないプロモーションで利益を上げることを考えている。
商品を必要とするお客様だけに知ってもらい、そのお客様と長くおつき合いする。
少しずつお客様が増え、結果的に知名度が上がるのが理想だ。
広告を考えるときは「何を伝えるか」に注力しろ
広告を考えるとき、多くの人は「どう、伝えるか」をいきなり考える。
だが、その前段階として必要なのは、「何を」だ。
たとえば、iPhoneについてユーザーに伝えようとしたとき、いきなりiPhoneのキャッチコピーを考えるのではなく、iPhoneの強み、他の商品との違いを考え、何を言うかをまず考える。
iPhone発売初期の頃は、「まったく新しい便利なもの」と商品自体の普及活動をしていた。
マーケットが変わり、スマホが当たり前になってくると、「カメラ性能のよさ」を伝えた。
iPhoneで撮影した高画質映像を流し、「こんな映像も撮れます」「iPhoneで撮った映像を人に見せると感動された」などをアピールしていた。
ユーザーは「何を」の部分に反応する。
大手予備校の代々木ゼミナールのキャッチコピーに「志望校が母校になる。」がある。
名作キャッチコピーとして注目を集めたが、だからといって代々木ゼミナールに行くかというと話は別だ。
どの予備校でも当てはまるコピーであり、代々木ゼミナールならではの特徴、優位性がまったく含まれていないとも言える。
一方で、ある予備校のコピーは「志望校合格率95%」と、キャッチコピーとしては平凡だが、これには予備校生から大きな反響があったという。
その予備校は「その予備校でしか言えない実績」を言っているので「差別化」ができている。
要するに「何を言うか」なのだ。
「どう伝えるか」の部分は平凡でも、ターゲットにはダイレクトに刺さる。
一般論だが、世間で広告が作品として評価された商品はそれほど売れない。
一方で、商品が売れた広告は、広告としてはあまり評価されない。
売上につながる広告メッセージの多くは、差別化ポイントをストレートに表現しているので、広告としてはあまり面白みがなく、作品としては評価されないからだ。
しかし、売上につなげるには、何を伝えるかが大事で、それでも差別化できないときに、「どう伝えるか」を工夫する。
ウェブマーケティングは「誰に、何を、どう、伝えるか」の「誰に」の部分はウェブメディアのセグメント機能によって精度を上げ、「何を、どう、伝えるか」の部分を広告表現のクリエイティブでつくり上げる仕事だ。
ウェブ以前のマーケティングでは、「誰に」というセグメントをまず考えた。
主婦向けの商品なら、クリエイティブの中で「主婦向け」とわかるようにした。
テレビCMの最初の1秒で、主婦の格好をした人が登場し、主婦の目を留める。
CMを放送する時間帯も、主婦が多く見ている時間帯にする。
一方、現在のウェブマーケティングでは、グーグルやフェイスブックのAIが「この人は主婦ではないか」と把握している。
セグメントはウェブメディアが行う。
より買ってくれそうな人に、買ってくれそうな時間帯に自動配信する。
ただし、セグメント機能は、「誰に、何を、どう」の「誰に」の部分を肩代わりしたにすぎず、「何を」「どう」の部分は相変わらず、クリエイティブの役割だ。
今後のウェブマーケティングにおいてクリエイティブの重要性はさらに高まる。
さらに、「誰に」の部分が個人情報保護の観点から規制されてくる。
ヨーロッパでは個人情報を無断で取ってはいけない法律(GDPR=EU一般データ保護規則)ができている。
今後、ウェブマーケティングでターゲットをセグメントする機能がどんどん使えなくなるだろう。
昔のテレビCMのように、クリエイティブで「誰に」をセグメントしていけるようにならないと広告効果は落ちる。
よって、マーケッターは、原点回帰でターゲットを絞り込める広告表現のクリエイティブ力を身につけなければならない。
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