アラン・B・クルーガー著『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』より
ジェフ・ベゾスやビル・ゲイツにも共通する“スター”の条件。音楽から紐解くトップ市場の作り方
新R25編集部
通勤中に聴いてやる気をだしたり、仕事からの帰り道に聴いて癒やされたり...
日々何気なく音楽を聴く機会は、多いのではないでしょうか?
そんな感覚的な「音楽」の世界に「経済」の思考が隠されていると語るのは、オバマ大統領の経済ブレーンを務めたアメリカ屈指の経済学者アラン・B・クルーガー氏。
今年、邦訳版が出版された『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(ダイヤモンド社)で、クルーガー氏は次のように語っています。
ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!アメリカの労働市場はスーパースターが席巻する勝者総取りの世界になった(中略)
どうしてこんなことが起きているか、誰にとってもうまくいくもっと公平な経済を実現するにはどうすればいいかを、ロックな経済学(経済学による音楽稼業の研究)で説明するのだ。
音楽の視点から経済を見ることで、わかることとは一体...!?
スーパースターが生まれる市場の特徴2つ
スーパースターになるのはほんのひと握りだ。
一部のアーティストがスターにのし上がり、同じように才能あるアーティストが無名で貧しいままなのはどうしてだろう?
経済学者は、まず、もっと簡単な疑問から手をつける。
そもそもスーパースターが出やすい業種ってどうしてそうなんだろう?
小売店の売り子さんや保険の営業担当、看護人だと、スーパースターなんて出てこない。
音楽以外にも、スーパースター現象が起こりがちな分野は少ないけれど増えている。
どうしてそんなことに?
音楽業界を道しるべに、経済学者はスーパースターのモデルを開発した。
モデルは時の試練に耐え、経済に幅広く適用できるのがわかった。
ある業種がひと握りのスーパースターに牛耳られるには、その業種の市場に欠かせない特徴が2つ必要である。
1つ目は規模の経済だ。
つまり、自分の才能をより多くのお客に提供するのに追加でかかる費用は、お客が1人増えてもほとんど増えない。
2つ目に、アーティストは不完全代替財でないといけない。
つまり、彼らの作品は差別化されていて独自でないといけない。
音楽にはどちらの要素も備わっている。
成功した歌い手やバンド、オーケストラはどれも独自のサウンドを持っている。
そして録音された音楽は、ひとたび録音されれば追加の費用をほとんどかけずに何十億人もの聴き手にだってちゃんと届けられる。
一方、たとえば医療業界だと、外科医にはすごい人もすごくない人もいるが、1人の外科医が1日にやれる、たとえば人工股関節置換手術の数は限られている。
最高の外科医は羽振りがいいだろうけれど、そんな彼らと他の外科医の差は、最高のミュージシャンと曲を録音して出せる他のミュージシャンの差ほどには大きくならない。
規模が理由でスターになれなかった、最高のソプラノ歌手
アルフレッド・マーシャル(1842-1924)は彼の世代で一番の影響力ある経済学者だった。
彼は自分が生きている間に起きた、所得の分配の変化に目を見張った。
1870年代にマーシャルはこう書いている。
ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!凡庸な能力と凡庸な運を持った事業家が得る利益率は、これまでなかったほど低くなった。
一方、類を見ないほど才と運に恵まれた人が参入できる事業はとても幅広く存在し、そうした人はこれまでなかったほど素早く巨額の富を蓄えられるようになった。
なんだか知ってる話のような気がするって?
同じようなことが今どきのジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグなんかにも言えるかもしれない。
マーシャルは、事業家のスーパースターとそれ以外の所得格差の拡大を、新しい通信技術が開発されたことを使って説明している。
それは何かというと電報だ。
電報はイギリスとアメリカ、インド、その他遠くはオーストラリアまでをつないだ。
その結果マーシャルは、最先端の起業家たちが「自分の建設的な、あるいは投機的な才を、従来よりも大きな規模、広い地域にわたる事業に生かせるようになった」のに気づいた。
言い換えると、技術革新で市場の規模が拡大したのだ。
スーパースターがスーパーサイズの稼ぎを得るには、巨大な市場が不可欠だったのである。
マーシャルは自分の主張を裏づける例にエリザベス・ビリングトン(1765-1818)を挙げた。
ビリングトン夫人は、当時、最高のソプラノ歌手として広く認められていた。
しかしマーシャルは
ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!人間の声が届く範囲に入る人の数が厳密に限られている間は、前世紀の初めにビリングトン夫人が1シーズンで手にしたと言われる1万ポンドを大きく超える額を受け取る歌い手が出るとは考えられない。
また、今の世代の企業経営者たちは前世紀の経営者たちよりたくさん報酬を得ているが、歌い手たちがあれほど報酬を増やせるとは思えない。
と言う。
ビリングトン夫人も他の並外れた歌い手たちも、大観衆を相手にすることはできなかった。
だからスーパースターになるのに不可欠な規模の要素が、彼女たちには欠けていたのである。
市場のトップを狙うなら「規模×独自性」を意識せよ
シャーウィン・ローゼン(1938-2001)はシカゴ大学の経済学者で、乾いたウィットと鋭い頭の持ち主だ。
彼の仕事のおかげで、スーパースターの出現に規模は必要だが、それだけでは十分でないのがわかった。
ローゼンはスーパースターを厳密な経済学でモデル化し、それを使って、市場がひと握りのスーパースターに牛耳られるのはどんなときか、不可欠な要素の2つ目を明らかにした。
市場のトップを狙えるのは不完全代替財だけだ。
つまり、スーパースターはそれぞれ独自のスタイルや技術を持ち、それで収益性が上がったり下がったりするのでないといけない。
経営者の才がみんな同じなら――つまり経営者たちが完全代替財なら――誰が会社のCEOなりトップなりを務めようが関係ない。
会社の経営トップの人たちは誰も他の経営トップより高い給料なんて貰えない。
能力は同じライバルたちとの熾烈な競争にさらされるからだ。
同じように、ミュージシャンといえばどの人の音色も同じようなものなら、ぼくらがスマートフォンやラジオで聴くのが誰だろうが関係ないわけで、ミュージシャンの稼ぎはみんな同じになるだろう。
頂点を狙う人が、なんらかの意味で大事な面で、他の人たちみんなに差をつけられるときにだけ、市場がスーパースターに席巻される可能性が出てくる。
能力で劣る働き手がどんだけ頑張っても、一番能力がある働き手の産み出すものは超えられない、というのでないといけない。
ローゼンもこう書いている。
ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!「月並みな歌い手を何人聴いても、並外れたパフォーマンス1つには届かない」
つまり、規模と独自さの両方がないとスーパースター市場は生まれない。
ビリングトンさんの声は独自だけれど、彼女には規模が欠けていた。
小さくてよくわからないほどの才能の違いでも、規模がその効果を何倍にも大きくする。
規模を拡大できるなら、次点の人よりほんのちょっと才に恵まれているだけで、トップの報酬は次点の人よりずっと大きくなる。
誰にとっても身近な音楽と経済
著者のアラン・クルーガー氏は、次のように語っています。
「ほとんど誰だってなんらかの形で音楽業界とつながっている」
日々の買い物や食事、遊びや仕事など、こうした生活そのものが「経済活動」と呼ばれるように、経済も音楽と同様に身近なものです。
同書を通じて身近な経済と音楽の関係を知ると、私たちがふだん何気なくしている行動の意味や、音楽との新しい付き合い方が見えてくるかもしれません。
ぜひ一度、読んでみてはいかがでしょうか。
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