ビジネスパーソンインタビュー

ビジパの悩みインサイト

「子どもがいないと半人前ですか?」仕事面で感じる“独身子なし男性”への目線を「男らしさ」目線でひもといてもらった

新R25編集部

2024/12/25

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複雑なはずのビジパの悩みを、単純化して取材していた」「本質的じゃない悩みをでっちあげていた

という反省のうえ、「個人のリアルな悩みにひもづいた取材」を改めてしていくことを方針とした新R25編集部。

今回は、新R25副編集長・天野が吐露した“お悩み”からスタート…。

同年代の友人と話すと、だいたい子どもの話仕事面でも、「家庭を持つと仕事にハリが出る」「一人では頑張れなくなる」と聞きます

自分って、大丈夫なのかな…というモヤモヤを、ジェンダーや男性性の分野でも多く執筆する「桃山商事」代表・清田隆之さんとおしゃべりさせていただきました。

編集部でウダウダ会議。なかなか言い出しづらい話をしてみました

天野

ちょっと、やや切り込みたいんですけど…

僕が思ってるのが「子どもがいないと半人前ですか」っていう。

渡辺

…やや切り込んでる

天野

自分って「モラトリアム」だなとか、人生の計画性が甘いとか、先延ばし癖があるみたいな話をずっとしてるんですけど。「独身、子どもいない」っていう自分の状況もつながってるなと。

渡辺

それをうっすら思ってると、同世代とかで集まって子どもの話になるとき、どう聞いてればいいの?ってなりますよね。

天野

そうなんですよ。まわりはもう「子どもが小学校入った」みたいな。

それに何か思ってるわけじゃないし、「すげえな~」って感じなんですけど、逆にまわりに気遣わせてるかな?とか。

米久保

けっこう大きい子がいるんだ。

天野

あと、めっちゃリアルに言うと、仕事や職場でもそれによって「大丈夫か?」みたいな目線があるのかな…と。

後輩への指導力、マネジメント力みたいな部分で、お子さんがいる人だと「さすがパパだし、包容力があるよね」みたいな空気がある。お子さんがいたからってそれができるかって言ったらそんなことないんでしょうけど…

渡辺

わっかんないな~。たしかに、「利己」っぽい人に見えてるとマネージャーになるうえでどうなんだろう…って思われたりするのかな…

天野

まあそれはただただ「自分の未熟さを感じる」って話なんですけどね…

渡辺

俺は子育てを経験して、自分の根本が変わったかって言われると正直全然だな…

人生なんてみんな自分のために生きてると思うのよ。ただ、「いつまでお前自分のために生きてんだ」みたいな、そういう見られ方をしそうっていうか…思ってもないけどね(笑)。

本来気にするべきことじゃないけど「これでいいのかな」と本人が思っちゃったりすることはあるんだろうな…

「家族を持つと、仕事にもいい影響があるぞ」って本当ですか?

天野

今回はなかなか難しいテーマなんですけど…会社で、うっすら「自分って子どもっぽいのかな」とか思ってしまったりすることがあって。

【清田隆之(きよた・たかゆき)】文筆業、「桃山商事」代表。朝日新聞で人生相談の回答者を務めるなど、さまざまな人の悩みに耳を傾け、コラムやラジオで紹介。『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』(晶文社/双葉文庫)、『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)、新刊『戻れないけど、生きるのだ 男らしさのゆくえ』(太田出版)など、“男らしさ”にテーマを置いた著書多数

天野

ひどいこと言われるとかはないので、被害妄想かもしれないんですけど(汗)。

たとえばお子さんが3人いる上司とか、なんとなく“器が大きくて素敵だな”って思うことがあって。

清田さん

うんうん。

子どもがいる人いない人、結婚している人してない人がいて…そのなかで「結婚して子どもがいる人のほうが、なんかちゃんとしてる」みたいな価値観はまだあるじゃないですか。

天野

まあ…そうですよねえ。

清田さん

実際は仕事と関係ないはずなのに、「家族のために、責任を持って働いている」と評価される

そういう社会の規範みたいなものを内面化して“リトル天野”みたいな人が「お前そのままでいいのか?」と言ってくるわけですよね。

天野

リトル(笑)。たしかに…

清田さん

一生懸命責任感を持って働いていても、結局「自分のことをやってるだけだしな」と、ずっと自分のリトルが自分を認めてくれない

「独身楽しんでるだけでしょ」みたいな幻聴になって聴こえてくると(笑)。

あなたにも聴こえますか。リトルの声が

清田さん

女性に対してそういうことを言うのはセクハラ、マタハラになるけど、男にはまだまだその繊細さは向けられない。

もちろん女性が受けているハラスメント被害と比較できるものではないと思うけど、なんとなく「男性は雑に扱ってもいい」っていうような感覚があるから、言う側も「どうなの?」とか平気で聞けちゃう、ってことですよね…

天野

ただ、まわりの人も「よかれと思って」言ってるはずで。

「家族がいるから自分の人生のモチベーションになるぞ」とか「それがあるから仕事も頑張れるんだ」って聞くと、そうだろうなと思うんですよ。

清田さんはお子さんを持ったことで、「人として成長したな」って思いますか?

清田さん

たしかに、20代、30代と年齢を重ねていくと「自分だけのために頑張れなくなってくるから、家族を持て」と言われますよね。

でも、その時点で、なんか「頑張る理由」をつくろうとしてるなーと思って。

何のために“頑張る”かって言ったら仕事ですよね。仕事で頑張ると最終的に、もしかしたらですけど…そのぶんの利益は株主とかに行くわけじゃないですか?

天野

株主…!? 会社とか??

清田さん

究極ね(笑)。そう考えていくと、“一人ひとりの人間を頑張らせるために仕掛けられているロジック”みたいに感じるわけですよ。

要は「いっぱい働け」って言ってるのか?みたいな(笑)

天野

資本主義っぽいロジックだと。

清田さん

そうそう。

まあ、実感としては「自分が成長できる」っていう感覚はとても分かるんです。僕は結婚したのが37歳で、子どもができたのは39歳のときで…

毎日料理をするとか、小さい子どもに対するケアとか、お金のことや社会についても具体的に考えるようになる。親としての経験を積み重ねて、“親として成長する”っていうのはわかる。

「ただ…」

清田さん

でも、それはあくまで親としてのスキルが積み重なってるだけで、「人間として」「一人の社会人として」の成長と関係があるかというと…

むしろそこだけ切り取ると、仕事をする時間もキャパシティも減る

天野

そうか、そりゃそうですよね。

清田さん

「子どもを持つと社会人として成長する」という言説があるとしたら、自分自身は“相当疑わしいな”と思うんですよ。

言ってることは分からんでもないけど、たぶんそれを言う人は、子どもを育てるという具体的なケア労働は多分妻に丸投げしてて(笑)、自分はイメージだけというか…

天野

あ~…(笑)

清田さん

もちろん仕事で得た収入が家族の生活に使われていくわけだから、仕事が子育てと関係ないとは思わないけど、子どもをケアして生活を回し、仕事も…ってなったら生産性は落ちるに決まってるので、「仕事面でも成長するぞ!」っていうのは、ウソくせえなと思います(笑)

アイドルの影響も? 「規範」がどんどんどんどん大きくなってる問題

天野

さっきおっしゃってた「自分のリトルが何か言ってくる」っていう話が気になってて。

“社会的な規範”を知らず知らずのうちに取り入れてるってことなんですか?

清田さん

そうだと思うんです。僕も「リトル清田が厳しすぎる」問題はよく言ってて(笑)。ずーっと語り掛けてくるんですよ。

リトルは、家父長制的な社会の「男はデーンと構えて」みたいな規範を吸収して、どんどん期待値を膨らませてくる。

天野

ちょっと難しい質問になるんですけど…いわゆる父が偉くて家族を養ってという「家父長制」って、雑に言えばリベラル的な人から“打倒すべきものだ”とされている。

ただ、自分も普通に家父長制っぽい社会で育ってきて、そこにめちゃくちゃ反発したいってわけではないというか…その辺のバランス感ってどう考えられてますか?

清田さん

僕も「家父長制」について、正しく理解できているかはいまだに自信がないところなんだけど…

家父長制っていうのは、男性がトップにいて、家族とか組織を構成していくピラミッドのようなものを単位としてると思うんです。

「家族」が一番小さなピラミッドで、その相似形で社会ができている。明治時代とかからシステムができていて、なかなか言いづらいけど天皇を頂点とする国家ができていたと。

天野

はい。

清田さん

制度は今はもう法律的にはないけど、風習とかが残っていて、なんとなくピラミッドの一番上に男が立たなきゃいけないって思っちゃうじゃないですか。

そのためには経済力、人間力とか体力とか、全てが優れていて、ちゃんと自分の家族を養っていかなきゃいけないというプレッシャーだけがめちゃくちゃ残ってますよね。

「そこで所有物的な扱いをされてしまう女性たちは、無限のケア労働を期待されるわけですし…」

清田さん

で、時代とともに「期待される男性像」が変化していき、平成とか令和になって、どんどん「男らしさの規範」が広がっている。

昔は「仕事ができる」とか「強い」とかが男らしさだったと思うんです。

天野

割とシンプルな。

清田さん

そこから、「コミュ力もなきゃダメだよね」「ファッションにも気を遣って」「面白さもなきゃいけない」「だけどここぞというときには頑張らなきゃいけない」「仲間もいっぱいいて」「趣味もあって」……みたいに増えて、もうすさまじいことになってる

天野

最近では「家事も育児もできて…」と。

清田さん

でも、その期待値を膨らませているのはフェミニズムではなくて、「社会のイメージ」ですよね。

よく研究のなかで、SMAPとか嵐といった平成のアイドルが、男らしさの規範を広げた一つの要因だとか言われるんですよね。

天野

そうなんですか。

清田さん

歌って踊って、喋りも何でもできる。それが理想の男性だと。

天野

たしかに、バラエティ番組でも面白い!みたいな。

清田さん

最近の令和の男性アイドルとかは、みんな“美しい”ですよね。

さらに、ビジネスの文脈でもみんなバリバリ自己投資して…みたいな話も入り込んできて、多くの人がそれに押しつぶされて苦しいっていう思いを抱えている。

清田さん

そのプレッシャーをかけてくるのは内面化しちゃったリトルだと思うんですよね。

理想と現実の自分にギャップがあるから、常にそのギャップをいじめてくる。「お前、子どもがいないじゃないか、独身じゃないか、半人前だぞ」って。

天野

僕がちらっと「被害妄想かも」って言ったのはまさにそれかもしれません…

清田さん

リトルは社会の空気を吸ってできている。でも、俺らはもう大人になっちゃってるから“社会を作る側の人間”でもあるじゃないですか。

だから「社会が悪い」って言ってるだけでもしょうがない。

結局のところ、自分の問題と社会の問題と他者の問題を考えながら、少しずつ「これはしんどいな」っていうものをできるだけなくしていく方向に動く…というのを大人としてやっていくしかないと思いますね。

誰だって、モテたいし儲かりたい。でも「男磨き」の先にあるのは?

天野

アイドルが出てるテレビを見て規範をつくっちゃうっていう話ですけど、難しいのは、よかれと思って作られてるコンテンツで、みんなそれを楽しんで見てるわけじゃないですか。プラスの意味で摂取してる。

「カッコよくて面白いほうがいい」「モテないよりはモテるほうがいい」と思うのは当然というか。…じゃあどうしたらいいんだろう?

清田さん

そうですよね…そういう社会であることは間違いないですよね。

最近、大谷翔平を見てても、まさにそういうモデルの一人だなって思うんです。

天野

大谷も!

清田さん

大谷は素晴らしい人物、選手ですけど、どんどん世の中が「目標を定めてコツコツ努力を積み重ねていくことが望ましいのだ」ってなっていくじゃないですか。

そして、実際にそういう人が結果を残したり、数字を残せたりする社会になっている。

そういう人が評価され、そういう人に富が分配され、“すごい人”とされて、メディアを通して規範になっていくっていう、すさまじいサイクルがあるわけじゃないですか。

ホームランと盗塁を純粋に楽しみまくってましたが、そういう見方もあるのか…

清田さん

最近「桃山商事(清田さんが代表をつとめるユニット)」でも「男磨き界隈」っていうタイトルで特集したんですけど、“自己投資してモテよう”的なインフルエンサーの界隈があるんですよ。

「背が低いやつより高いやつがモテる」「ガリガリよりマッチョのほうがモテる」「気の弱い男より気の強い男がモテる」。そのためのマニュアルなんていくらでもネットにあるんだから、なぜその努力をしないんだ。やらないってことはお前の全部努力不足だ…みたいな。

天野

最近めっちゃ見かけますね…

清田さん

そう言われると「確かにな…」みたいな(笑)

ぐうの音も出ない正論に聞こえるし、そういうことを積み重ねた結果モテたり儲かったりしてる人もいっぱいいると思う。

天野

でもなんか、「そこまでやりたくない」みたいな気になりますね(笑)。

清田さん

そこまでやりたくないし、それぞれ本当は一人ひとり個性も違うし資質も違うわけじゃないですか。その人に合った「心地いい状態」とか「望ましい自分」っていうのは本当はあるはずなのに、「これを目指せ」という正解が示されてしまう

「それに向かって努力することしか道がない」みたいになって、競争が始まるじゃないですか。どんどんしんどくなっていくなっていう感じがしますよね。

天野

しんどいですね…

清田さん

子どもとかも、そうじゃん。

そういう価値観のなかで子どもがいたとしたら、今度はその子どもの“ブランド競争”みたいになっていくわけじゃないですか。無限の競争っていう。

天野

最近、それこそジム行ったり、食べたものを記録するアプリを入れたりしてダイエットしてて。

痩せるのはうれしいんですけど、「今日はあと何キロカロリー食べられる」みたいなことをずっと気にしてると、だんだん何も食べられなくなってきちゃって(笑)。

今のお話を聞いてて、そんな感覚がどんどん広がっていくのはしんどいなと思いましたね。

清田さん

できないことができるようになると達成感があると思うけど、期待だけが膨らんでいくと「できたことよりもできてないことにフォーカスする」感じになってきちゃう

ずっと欠乏状態で、「未達の感覚」にさいなまれながら生きることはしんどいと思うので…

その“レール”からどう距離を取るかっていう話ですよね。

天野

頑張って達成していくということがゼロだとやっぱり問題ですけど…

清田さん

バランスって話になっちゃうけど、“自罰的な感情”と距離を取ることも考えていかないと。

この苦しさ、いつまで続けばいいんだみたいな?ってなってしまう。そういう根深い問題とつながる悩みだったなと思いますね。

清田さん

でも、みんなでモヤモヤして、こうやっておしゃべりするのはすごくいいと思うんですよね。「わかる~」とか言って。

天野

たしかに。清田さんが「おしゃべり好き」って言ってて、すごくいいなと思いました。

清田さん

しゃべってるだけで楽になるということもあるし。みんなでおしゃべりしつつ、こういう問題をいっしょに考えていけたら…楽しいですね

〈取材・文=天野俊吉〉

清田さんの新刊『戻れないけど、生きるのだ 男らしさのゆくえ』はこちら

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