ビジネスパーソンインタビュー
桑原晃弥著『トヨタ式「人を動かす人」になれる6つのすごい!仕事術』より
「何も変えなければ3年で潰れる」トヨタを“21世紀も繁栄する企業”にした8代目社長の教え
新R25編集部
欧州連合(EU)が、2035年までに「ハイブリット車を含む二酸化炭素(CO₂)を排出する内燃機関車(エンジン車)の販売を禁止する」という提案をしたことにより、日本の自動車産業が締め出される恐れがあるというニュースを耳にしたことはあるでしょうか…?
この危機に直面しているのは、“業界トップ”と謳われるトヨタ自動車も例外ではありません。
しかし、トヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した、桑原晃弥さんの著書『トヨタ式「人を動かす人」になれる6つのすごい!仕事術』によると、今の今になって迫りくる危機に慌てているわけではないようです。
長年のトヨタ史を紐解いていくと、業界トップと言われる理由が垣間見えました…。
この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・業界トップの裏側を知りたい人
・トヨタ自動車の今を知りたい人
・チームをトップへ導きたいリーダー
安泰なんてものはない
「トヨタは安泰」「向かうところ敵なしのトヨタ」
しかし、自動車業界は、100年に1度の大変革期に入った。
「勝つか負けるか」ではなく「生きるか死ぬか」の瀬戸際の戦いが始まった。
テスラが先鞭をつけた電気自動車が急加速しており、ハイブリッドカー「プリウス」によって環境の時代を切り開いたトヨタでさえ、今後は発売する車の半数以上を電気自動車にするという決断を行っている。
トヨタの特徴の一つは「危機を迎え撃つ」ことである。
危機が訪れてから慌てふためくのではなく、やがて来る危機を先取りし、危機をチャンスに変えていこうという考え方だ。
創業者の豊田喜一郎さんは「100年に一度の危機を乗り越えるために備えよ」と訴えていましたが、現社長の豊田章男さんは100年に一度の危機を、自ら先頭に立つことで乗り越えようとしている。
豊田章男さんは2009年に社長に就任して以降、社員に対してこう呼びかけていた。
「失敗を恐れずに何度もチャレンジし、バットを振り続けよう」
「もっといい車とは何かをとことん考え抜こう」
これらは社員に「トヨタは安泰」という気持ちからの大転換を迫るものだった。
豊田章男さんは社員に「三振はいいが、見逃しはダメ。空振りは思いっきり」と、社員の挑戦を後押しする言葉を発し続けている。
100年に一度の大変革期でも大切にしていることは、「大儀」と「何のため」
この数年、急速に進む電動化や自動運転。
しかし、「なぜ自動運転か」の理由が、グーグルなどIT企業とトヨタグループでは大きく異なっている。
グーグルやテスラ・モーターズは完全自動運転になれば、運転手が運転中に他のことをやることができて便利と考えているのに対し、トヨタやSUBARUが重視しているのは「交通事故死傷者ゼロの社会をつくる」というものである。
そしてもう一つ。
身体的なハンディキャップがある人や公共交通機関のない移動弱者に安全な移動手段を提供する、というものだ。
つまり、海外メーカーの目指すゴールが「完全自動運転の実現」なのに対し、トヨタやSUBARUはあくまでも「交通事故死傷者ゼロ」や「移動弱者の解消」にある。
ただ、自動運転の実用化には多額のコストがかかる上に、いつ収益化できるかも未知数だ。
その意味ではすべての自動車メーカーにとって苦しい選択だが、だからこそ実現には「大義」が欠かせない。
車には事故がつきものだが、世界一の自動車メーカーのトヨタが追い求めるのはいつも、「事故ゼロ」であり、「人に優しく人に優しい移動手段」なのだ。
「何をするか」よりも「何のためにするか」である。
「仕事はなんのためにやるのか?」
しばしば問いかけられるのが「改善はなんのためにやるのか?」だ。
原価を下げて利益を出すというのは「企業のため」だが、知恵を出すことを覚えるという点では「自分のため」でもある。
さらに大切なのは「お客さまのため」という視点である。
常にお客さまを意識しながら、お客さまのためにものをつくり、お客さまのために日々改善をする。
これがトヨタ式ものづくりである。
苦しい選択を乗り越えてきたのは「大儀」があったから
日本の自動車メーカーが世界で飛躍するきっかけとなったのは1970年にアメリカで成立したマスキー法(自動車の排ガス規制)だ。
厳しい規制を前にアメリカ自動車大手3社が先延ばし工作を考えたのに対して、日本のメーカーは必死になって技術開発に努め、日本車躍進へとつながっていった。
1995年6月に正式プロジェクトとなったトヨタの「プリウス」も、トヨタのためというより、自動車業界全体の発展を見据えた考えから生まれたものだ。
当初、「プリウス」の量産開始は98年12月の予定だった。
それを当時の社長である奥田碩(おくだ・ひろし)さんが「それでは遅過ぎる。1年早められないか。この車の発売を早めることには大きな意義がある。この車はトヨタの社運だけでなく、自動車業界全体の将来も左右する可能性がある」
そして、1年前倒しの97年に発売させたのだ。
開発を急ぐことは、ある面ではトヨタのためである。
しかし、21世紀が「環境の世紀」と考えれば、「プリウス」という車を世に送り出すことは自動車業界、さらには地球のためである。
「自社のことだけ」ではなく「業界全体」のことを考える。
自分たちのやっている仕事が会社だけでなく、社会にとって大きなインパクトをもっていると感じられる時、人は心の底からやる気を刺激されるのだ。
人を突き動かすのは強い使命感やロマンであり、「世のため、人のため」が多くの人の心を動かす。
変わることを恐れない
「プリウス」を1年前倒して発売させた、奥田さん。
奥田さんがトヨタ社長に就任した際、こんな所信表明をしている。
「この1、2年の対応次第で、21世紀にも成長・発展を約束された企業となるか、あるいは20世紀に繁栄した過去の企業に終わるのか、重大な分岐点に立っている」
当時奥田さんは、トヨタという会社が「重大な分岐点」に立っているという強い危機感をもっていた。
そこで「何も変えないことが最も悪いことだ」と、「変えること」「変わること」の大切さを強調して語った。
「企業は何も変えなければ3年で潰れる」というのが、トヨタの考え方である。
企業には栄枯盛衰がある。
奥田さんが目指したのは、21世紀も繁栄し続ける企業へと変えることだった。
何も変えなければ、企業の寿命は尽きる。
その後、奥田さんのもとで誕生した「プリウス」は、トヨタの企業イメージを大きく変えることとなった。
変わることを恐れない精神は社員にも
変わり続けることの大切さは、「君子豹変す」という故事を使って現場で言い続けられている。
仕事に「計画」は欠かせない。
誰がどこで何を、いつまでに、どんな方法、いくらの予算でやるのか……。
計画があるからこそ、人は達成しようと努力するし、達成した時には、苦労した分だけ喜びや安堵感が大きい。
ただ、中には計画と現実の間に大きな隔たりがあるにもかかわらず「一度決まったことだから」と言って、計画通りにやることを現場や部下に強いる人がいる。
状況を鑑みず、計画通りにつくられるものの典型が、行政が主導する道路や巨大な建造物づくりだ。
何年も、何十年も前に計画され、今は必要なくなっているのに、「一度決まったことだから」といって血税が投入される。
これほどムダなことはない。
ただ、これはなにも行政に限った話ではない。
企業の生産現場でも「一度決めたことだから」が金科玉条となり、過剰な在庫を抱えたり、売れ筋商品が品不足に陥ることがある。
そこで、トヨタ式の基礎を築いた大野耐一(おおの・たいいち)さんは変わり続けることの大切さを「君子豹変す」という故事を使って現場に言い続けた。
立案した時は素晴らしい計画であっても、状況が変わればそれに合わせて変えていく。
リーダーは「計画通り」よりも「結果を出す」ことにこだわるべきなのだ。
リーダーは「豹変」するくらいがちょうどいい。
トヨタマンたちは、いかにして世界のリーダーになれたのか
脱炭素や新型コロナウイルスの感染拡大、世界的な半導体不足、資材・物流費の高騰などによりトヨタを含む多くの産業が危機に立たされています。
しかし、その危機を乗り越えていく体制が、トヨタにはすでに存在していました。
そんなトヨタを支えてきた伝説のトヨタマンたちは、何をどのように考え、部下たちに伝えてきたのか?
現場のリーダーたちの見方や考え方が詰まった一冊です。
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