ビジネスパーソンインタビュー
「多くの政治家は、若者のほうを向いていない」
“逃げ切り世代”の石破茂に「若者の政治参加」をどう思っているか聞いたら、逆に相談された
新R25編集部
防衛庁長官、防衛大臣、農林水産大臣、地方創生大臣を歴任されてきた石破茂さん。
元旦に公開した前編では、閣僚としてさまざまな担当大臣を歴任しつつ、4度にわたり自民党総裁選に挑戦した経験から、「政治家のつらさ」「政治家に必要な力」などについて語ってもらいました。
今回のテーマは、「若者の政治への関心」。現役の政治家として、石破さんは何を語るのか…?
〈聞き手=サノトモキ〉
【石破茂(いしば・しげる)】政治家。自由民主党所属の衆議院議員。防衛庁長官(第68代・第69代)、防衛大臣(第4代)、農林水産大臣(第49代)、自由民主党政務調査会長(第52代)、自由民主党幹事長(第46代)などを歴任。趣味は料理(カレーには自信あり)。音楽はクラシックから演歌までなんでも好きだが、特に70年代のアイドルもの(そのなかでも特にキャンディーズと南沙織)を好む
「なぜ若者の政治への関心は低いんだと思いますか?」
サノ
石破さんは、ずばり「若者の政治への関心の低さ」についてどう思っているのでしょうか?
石破さん
これはねえ、私たちの一番の悩みでもありますよ。
逆にさ、どうしたらいいと思う?
!?
サノ
えーっと…そもそも政治の話が自分たちとあまり関係ないように感じてしまうんですよね。
目の前の暮らしで精一杯なのに、政治のことまで考えていられないというか…
石破さん
そう。「主語の違い」が一番の問題なんだよね。
政治家は、主語が「国」。多くの若者は、主語が「私」。
この主語の違いに一番ギャップがあるの。
サノ
主語の違い、ですか。
石破さん
私たちの時代は、若者の主語もまだ「国」だったの。
「日本は経済でアメリカを凌駕するんだ」っていう、そういう思いがあった。
「戦争に負けたけど、経済で勝つ」みたいなさ。“企業戦士”って言葉なんかもあったけど。
サノ
はい、はい。
石破さん
私も三井銀行(現在の三井住友銀行)でサラリーマンやっていたんだけど、8時には会社にいて、終電以外で帰ったことないわけ。
「終電で帰る俺、かっこいいな」、そんなころもありました。
わかります
石破さん
当時は高齢者も少なかったから、政府も自治体も企業も社会保障にお金を使う必要がない。
お金はガンガン賃上げ・設備投資。政治が若者の暮らしに反映されやすかったわけ。
サノ
なるほど。
石破さん
ところが、時代は変わる。価値観も変わる。
私が大学生のころ...中古の自動車を買って、隣に彼女を乗せてドライブするのが若者の夢だった。
ドライブデートの前の晩、徹夜でテープの編集してね。ここはユーミン、ここはサザン、ここで中島みゆきとかのセットリストを考えたりして。でも、今ってそんな価値観ないよね?
何の話ですか?
石破さん
ちょっと脱線したけども…とにかく、資本主義が発展して、一部の富裕層だけが豊かになり、そうじゃない人が暮らしに困るようになった。
自分の暮らしで悩んでいるのに「国」を主語になんてできるはずもなく、「国がどうなろうが、そんなの知らないよ」という感覚が当たり前になった。
これが、今の若者世代の政治不参加の構造なわけです。
サノ
まさにそういう状態な気がするな…
「政治家って、若者の投票率本気で上げようと思ってますか…?」
サノ
せっかくなので、僕も思い切って本音でぶつかりたいのですが…
政治家の方々って、「若者の投票率」を本気で上げようとしているんでしょうか…?正直、あまりそういう温度を感じない気がしまして。
石破さん
…率直にお答えすると、多くの政治家は、若者のほうを向いていないと思います。
石破さん
政治家は、投票で選ばれてはじめてスタートラインに立てる職業です。なしたいことがあっても、選ばれなければ何もできない。
つまり、「いかにお客さまにウケる政策をやるか」が大事になる。でも、多くの若者は選挙に行かないでしょう。投票率はシニアの世代の半分以下。票数は圧倒的に少ない。
簡単に言えば、コスパがよくないわけ。そうするとやっぱり、「お客様」はシニアになるよね。
サノ
だから投票率の高い高齢者の方向けの政策が中心になるわけですよね…
石破さん
しかも。非常に嫌な言い方をすると、ですよ。
私たちの世代って、“逃げ切り世代”みたいなところがあるわけですよ。
石破さん
これから日本は、人口がすごく減る。外国から人材も来ない。今の日本で働いたってちっとも稼ぎにならないもん。
でもそういう日本で暮らしていくのは、40歳~60歳になったときのみなさん。
サノ
…
石破さん
私たちおじさん世代の政治家は、逃げきろうと思えば逃げきっちゃえる。「投票に来なかったあんた方が悪いんだもんね」ってね。
だけどそんな考えが一瞬でも浮かぶんだったら、政治家なんかやめちゃえばいい。
石破さん
「関心を持ってくれないんだから仕方ない」で終わらせちゃいけない。
政治家がシニアにばっかり偏った政策したら、若い人たちたまんないでしょう。というか今、そうなっているよね。
被害に遭うのはいつだって「何も知らない人」なの。
それこそ、戦争になって酷い目にあうのも、指導者とか権力者より、何も知らなかった一人ひとりの国民。そうでしょう?
サノ
たしかに…
石破さん
政治家である以上、若い人たちにどんな国を残せるか、そこに責任を持たなくちゃいけない。
若者向けの政策もやりたい政治家は、本当はいるんですよ。
私も…これはまだ反発が強いんだけど、「投票を義務制にしようよ」という考えを持ってたりする。若者の声が必ず反映される仕組みをつくろうと。
だから本当なら、今あなたとしているような「どうしたら若者が政治に参加するか」という議論が、政治家同士でなされるように変えないといけない。私はそう思うんだよね。
「僕らは、どんな政治家を支持したらいいですか?」
サノ
若者に向き合ってくれる政治家もいるとは思うのですが…正直、本当に変えてくれるのか? と思うこともあって。
いったい僕らは、どんな方を支持したらいいのでしょうか?
石破さん
これは…私が議員になる前、1985年昭和60年。まだ、あなたは生まれてないかな。
渡辺美智雄さんというすごい政治家がいてね。生きておられたら間違いなく総理になった方だった。
※渡辺美智雄…1963年から30年以上にわたり衆議院議員を務め、厚生労働大臣、農林水産大臣、大蔵大臣、通信産業大臣、副総理兼外務大臣と閣僚を歴任されました
石破さん
その方が講演で、なんと言ったか。
「政治家の仕事というのはな、勇気と真心を持って真実を語るんだ」。
石破さん
「何のためにお前たちは政治家になりたい? 金が欲しいのか? “先生”と呼ばれたいのか? いい勲章が欲しいのか? そんなやつは政治家になるな」と。
「政治家の仕事というのは、勇気と真心で真実を語るんだ。それしかない。それができないやつは政治家やめろ!」とおっしゃったんですよ。
サノ
勇気と真心で真実で語る…どういう意味なのでしょうか?
石破さん
まず、真実。
世の中、「何が正しいか」なんてわかんないでしょう。いろいろな人がいて、いろんな説がある。
でも、政治家なら「自分だけの真実を、自分でみっけなさい」と。「人の受け売りでやっちゃダメだ」と。
石破さん
でね、見つけた真実ってだいたいウケないのよ。
「な〜に言ってんだ」って言われるのが関の山。「どうせ無理だと思われるよな」「これ言ったって票減るよな」…
「それでも、それを語る勇気を持て」と。
サノ
最後の「真心」は?
石破さん
勇気を持って真実を語っても、人がわかってくれなきゃ意味がない。
だから「人の心を動かすくらいの真心を持て」。真心というのはつまり、誠心誠意、他者に尽くす心。
こういうことを渡辺美智雄さんはおっしゃられたの。
石破さん
勇気・真心・真実を語る政治家が現れたら、きっとあなたの生活を変えてくれると思います。
でも私もいまだにね、これを「できてないな」と思うんですよ。
私もさ、35年もこんな仕事をやっていて、自民党の政治家で言えば、もう上から6番目なのにね。
国会議員全体で言えば上から8番目。めちゃくちゃベテラン。大ベテラン。もう…重鎮?
ご自分でどんどん上がっていった
サノ
「真実、勇気、真心」3つありますが、どこがとくに難しいのでしょう…?
石破さん
…「真心」なのかな。
「共感してもらう力」は、もっともっと勉強していかなくちゃいけない。若者の人たちに対しては、とくにね。
サノ
たしかに、政治家と若者の距離ができている今の時代だからこそ、とくに必要な要素なのかも。
石破茂「若い人と“個人的な物語”をつくりたい」
石破さん
だから私は今、若い人と「個人的な物語」をつくりたいのね。
「一緒に飲んだ」「一緒に語った」「一緒に歌った」…そういう物語をさ。
石破さん
シニアの人たちは長いお客様だから、物語はできている。
でも若い人たちとの間には物語がないわけ。
だからね、なるだけ若い人たちのいるところに行く。田舎に帰れば、「あ、ナマ石破だ!!!」みたいな反応もあったりして、それもうれしいよね。
サノ
ナマ石破(笑)。
…今日は本当にありがとうございました。
正直、ここまで赤裸々に語っていただけるとは思ってもいなくて…読んでくださっている方々にもきっと何か届くんじゃないかと思っているので、頑張ってまとめさせていただきます!
石破さん
こちらこそ、お話しできてとてもよかったです。ぜひまたお願いします。
ありがとうございました。…あっそうそう、名刺はお持ちなの?
サノ
え“っ、あっハイ…!
筆者の社会人人生で最も腰のヒケた名刺交換でした。家宝にします
「若者の政治への関心を、どう思うか」。
「政治家」という仕事をする人間として、率直に、真摯に回答してくれた姿がとても印象的でした。
若者の政治の参加度はまだまだ課題だらけですが、「政治家」の素顔に迫る本企画が、少しでも誰かの関心につながっていたらとてもうれしいです。
(もしかしたら、続編がある…かも!?お楽しみに!)
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=福田啄也(@fkd1111)/撮影=長野竜成(@ryuseicamera)〉
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