ビジネスパーソンインタビュー
「まっとうな人」では、務まらない。
田中角栄からの檄で国会議員に。石破茂が35年を振り返って断言する“総理大臣の条件”
新R25編集部
みなさん、明けましておめでとうございます。新R25、新年1発目から渾身の記事いかせていただきます。
2020年は、「コロナ禍での政治対応」「自民党総裁選(岸田文雄さんが当選)」「衆議院選挙」など政治の話題がたくさん挙がった1年でした。しかし、2019年7月の参議院選挙でも全年代平均投票率48.80%に対し、20代投票率が30.96%(総務省調べ)にとどまるなど…まだまだ“若手の政治への関心”は低いのが現実。
この問題、「政治家がどんな人たちなのか全然わからない」ことが大きな理由のひとつになっているのでは…? と我々は考えました。
そこで新R25編集部は、政治家を我々と同じ“ひとりの働き手”として掘り下げてみることにします。お相手いただくのは…石破茂さん。
【石破茂(いしば・しげる)】政治家。自由民主党所属の衆議院議員。防衛庁長官(第68代・第69代)、防衛大臣(第4代)、農林水産大臣(第49代)、自由民主党政務調査会長(第52代)、自由民主党幹事長(第46代)などを歴任。趣味は料理(カレーには自信あり)。音楽はクラシックから演歌までなんでも好きだが、特に70年代のアイドルもの(その中でも特にキャンディーズと南沙織)を好む
自民党政権において、防衛庁長官、防衛大臣、農林水産大臣、地方創生大臣を歴任。第2次安倍内閣では自民党幹事長を務め、自民党総裁選にも過去4度挑戦している言わずと知れた “政界の大物”。
さすがにご出演は難しいか…と思いつつ、長文の依頼メールをお送りしたところまさかのご快諾。
「“政治家という仕事のしんどさ”とか聞いても、うまくかわされちゃうのかな…」そんな不安を抱きながら、国会議事堂の隣りにある議員会館の事務所へ伺ったのですが…あまりのぶっちゃけぶりにこちらが焦る展開となりました。
〈聞き手=サノトモキ〉
「政治家になる気はないか?」→「ありません」石破茂がサラリーマンを選んだ過去
サノ
石破さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします…!
石破さん
はいはい、よろしくお願いいたします。
サノ
今日は、石破さんの「いち働き手としての素顔」に迫りたいと思っておりまして。
というのも、若者が政治に興味を持てない理由のひとつとして…政治家という存在があまりに謎すぎるというか…
あまりに不透明すぎて、そ、そりゃ興味持てないよと…!
もう最初に腹を括って本音でぶつかるしかない…! どうなる…!?
石破さん
たしかにな〜〜。
想像の5000倍くらいゆるい返事来た
サノ
今日はまず、「そもそも、なぜ政治家という職業を選んだのか?」というところから教えていただきたいんです。
正直、普通に暮らしてたら「将来は政治家になろう」ってならない気がするんですけど…石破さんはどうして政治家という職業を選んだんですか?
石破さん
私はもともと、政治家の子どもでね。
父親が建設省という役所で働いていて、その後15年間鳥取県知事をやって、65歳で参議院議員になりました。
サノ
ほう。
石破さん
息子が言うと変だけど、すごく立派な人だった。頭もいいし、苦労に耐える力も、人情の機微を理解する力も、決断力もある。
そんな父親の姿を見ていて、「政治家など、とても自分にできる仕事じゃない」と思ってたんだよね。
だから、大学を出るとき父親から「お前、政治家になる気はないか?」と言われたときも、「ありません」と答えて三井銀行(現在の三井住友銀行)に就職しました。
えっ
石破さん
父親はちょっと寂しそうな顔をしてね。「そうだろうなぁ、お前みたいに人のいいやつには務まらんだろうな」と。
まぁよく見てたんでしょうな、父親は私のことを。
サノ
…では、そこからなぜ政治家に?
石破さん
田中角栄先生に、「お前は政治家になれ」と言われてしまったから…だねえ。
教科書で見たあの…今日の取材は、こんな話がたくさん出てきます。
田中角栄に激怒された1981年。23歳の石破茂の人生が動いた
石破さん
私の父親は、角栄先生の無二の親友だったんです。
その父が、73歳のとき膵臓ガンで亡くなった。葬儀が終わって、葬儀委員長を務めてくださった田中先生にお礼に行った。
田中角栄。第64・65代内閣総理大臣。圧倒的なカリスマ性と政治手腕で戦後日本をリードし、首相退任後も政界に隠然たる影響力を保ち続けたことからマスコミからは「闇将軍」との異名で呼ばれた
石破さん
すると権力絶頂の闇将軍・田中角栄が、三井銀行に入って3年目、24歳の私に…「政治家の基本は挨拶まわり。今すぐ名刺を作って、葬式に来てくれた人全員に挨拶してきなさい」と言う。
「お前は2年後、衆議院選挙に出るんだ」と。
石破さん
呆然としましたよ。いや、何のことだと。いったい何を言われているんだろうかと。
「いや、私はそのような器ではございません。三井銀行で銀行員として仕事をまっとうしたいです」、ここでもはっきり断った。
サノ
断ったんですか!?
石破さん
言った、言った、言った。
激怒された。
わろた
石破さん
「バカ言ってるんじゃない。そんなことでは石破二朗のせがれとは言えない!」
…もう「ひえ〜〜」みたいな感じだったんだけど、それでも私はぶつぶつ言ったんですよ。
サノ
あ、わりと抵抗したんですね?
石破さん
そりゃしますって。
そしたら角栄先生がバンッと机を叩いてね。「よく聞け。政治家ほど面白い仕事はない」と。
石破さん
「世の中、森羅万象のルールをつくるのが政治家の仕事なんだ」。角栄先生はこうおっしゃるんだね。
「道路には道路法。川には河川法。山には森林法、田んぼには農地法。ありとあらゆるものが法律によって律せられている。政治家はそれをつくることができる。日本で起こるすべてのことは、この目白で決めるんだ。こんな面白い仕事がどこにあるか」と。
※当時、目白には「目白御殿」と呼ばれる田中角栄氏の私邸がありました
サノ
(日本の歴史に名を残す大物リーダーの名言に触れている…)
そこから心が動きはじめたんですか?
石破さん
そんな人に言われたら、やっぱり心動きますわな〜。
終始話し方が絶妙にゆるい石破さん
石破さん
ただね、もし「絶対やらない」という確信があったらやっぱり断ってたと思うの。たとえ田中先生に言われたとしても。
だけど結局、心のどこかに“父親に対する憧れ”があったんでしょうな。「自分もあんなふうに生きられたらいいな」と。
サノ
「父親みたいになりたい」…そう聞くとある意味、すごく普通の「志望動機」ですね。
石破さん
「自分の存在によって、人の人生が幸せになっていく」。結局ここなんでしょうね。
それはべつにさ、政治家でなくても、お医者さんでもビジネスマンでも、どんな仕事でもいいんだけどね。
私の場合はそれを、父と同じかたちで挑戦してみたかったと、そういう話なんですね。
石破さん
政治家って、どうしても「権力」って言葉がセットになる職業でもあるから、いろいろ想像されちゃったりもするんだけど。
「偉くなりたい」「お金持ちになりたい」「政治家になって権力を振るいたい」…そんな気はカケラもなかったよ。もちろん今もね。
防衛庁長官、防衛大臣、農林水産大臣を歴任。石破茂は、各総理から何を評価されたのか
サノ
そんな石破さんも、今となっては閣僚の常連メンバーとして、時の首相から“国の要職”を何度も任されていますよね。
石破さんは、歴代の総理大臣から、プレイヤーとしてどんな力を評価されていたのでしょうか?
石破さん
「逆境をなんとかする力」。
一言で言うと、そういう評価だったんじゃないかな。
石破さん
私は45歳のとき、第1次小泉純一郎内閣で防衛庁長官になるわけですよ。
そのときはね、戦争などの有事に対応する「有事法制という法律をつくれ」というミッションを与えられた。世の中では「戦争するための法律か」みたいな声も多くて、ずっと実現できていなかったからね。
それを小泉さんは「やりたい。お前がやれ」と任命した。「この面倒臭い法律について国会で答弁するのがお前の仕事だ」とね。それを、やった。
サノ
うおお…
石破さん
その後、福田康夫内閣で防衛大臣になったときは、「テロ対策特別措置法」の延長を任された。
※テロ対策特別措置法…2001年10月16日、対テロ作戦を支援するために成立。当初は2年間有効の時限立法でしたが、2003年に2年延長、2005年に1年再延長、2006年に1年の再々延長。2005年以降、同法に基づく自衛隊の派遣(政令で規定)は半年単位で延長されています
石破さん
2001年9月11日、ニューヨークのビルに飛行機が突っ込んだ。戦争のできない日本は世界のために何ができるか…と生まれたこの法案も、「自衛隊をなぜ海外で活動させるのか」とずっと反発を食らっていたんですね。
で、福田首相はというと、「石破くん、延長してください」。
この法律を延長するのがまた面倒くさかったんだわ…
「反対の声が多くて…まあ、なんとかしましたけども」国を支えた男の本音が炸裂している
石破さん
で、麻生内閣では農林水産大臣。このときは農林水産大臣が1年9カ月で5人変わってた。
呪われてるんじゃないかってくらい、次々と大臣が変わっていく。
そんななか、外国から輸入したお米に有害な物質が残留していて、検査不十分ということで「農林省など潰してしまえ!」といよいよ大騒ぎになった。
そこで麻生さんが言うんだよ、「君、農林水産大臣やりなさい」。
サノ
ミッション・インポッシブル!!!
石破さん
すべて、「お前ならなんとかすんだろ?」と役割が回ってきたわけです。
つまり歴代の首相は、どれだけ逆境にある分野でも、「国会議員とその先にいる国民に対して、逃げずにブレずに答弁する力」を買ってくださったんだろうね。
正しいことは「正しい」、間違ってることは「間違ってる」と言ってしまう私は、決して一般受けするキャラじゃなかった。でも、時の総理大臣はそこを評価してくださったのかな。
並大抵ではないであろう胆力が垣間見えました
「閣僚とは、いわば“中間管理職”だね」垣間見える“政治家のつらさ
石破さん
ただ、私が経験した“大臣”という仕事は…「中間管理職的なつらさ」もあるんだよね。
政府を会社にたとえると、総理が「社長」、大臣は「取締役兼部長」。
当然、社長さんと方針が一致してないと、「あれやりたい」とか言っても「ダメ」って言われるわけですよね。
サノ
歴代首相とお仕事されるなかで、意見が一致しないこともあったのでしょうか…?
石破さん
そりゃあ、ありましたよ。
“時の社長”と自分の「やりたいこと」にギャップがあっても、上からのミッションを優先するのが中間管理職の責務。
リーダーと同じ思いでやっていけたら幸せだけど、そうでないとやってて辛いよね。自分に信念があればあるほどさ。
サノ
どう乗り越えるんですか?
石破さん
そこを本当に乗り越えたかったら、自分が“リーダー”になるしかないんでしょうな。
石破さん
私もギネスに挑戦してるわけじゃないが、自民党の総裁選挙に4回出たわけで。
べつに「総理大臣」になって権力の頂点に立ってみたいとか、そんなことではなくてね。
「そこに行かなきゃできないこと」があるんですよ。
ここから、20人の総理大臣を見てきた石破さんが「国のリーダーに必要な素質」を語ります
20人のトップを見てきた石破さんが語る「総理大臣」という仕事
サノ
石破さんは35年の政治家人生で、総裁選にも出馬しつつ、すごく近い距離で「総理大臣」という存在を見てきたと思います。
実際に総理大臣になれる人って、どんな人なのでしょうか?
石破さん
「仲間」と「お客さま」。その両方を巻き込める人でしょうね。
石破さん
アメリカは国民投票でリーダーを選びますが、日本は議院内閣制だから、国会議員による投票で総理大臣が決まりますよね。
つまり、「お客さま=国民」だけじゃなく、「仲間=国会議員」の両方から応援されなくちゃいけない。
サノ
なるほど…去年の総裁選では、お客さんである国民からの支持が多かったのは河野太郎さん、仲間である国会議員からの支持が多かったのが岸田文雄さんでしたね。
そして、岸田さんに軍配が上がりました。
石破さん
国民からの支持と国会議員からの支持って、なんとなく「逆相関」みたいな関係にあるんだよね。
でも、ときどき両方から支持を得られる人間がいる。
そういう人が総理大臣になるんでしょうね。
サノ
「お客さんからも仲間からも支持が厚いリーダー」…歴代の首相でいうと、どんな人でしょうか?
石破さん
小泉純一郎さん。小泉さんが一番わかりやすい例だよね。
石破さん
人を熱狂させる。そこが小泉さんの「天才・小泉」たるゆえんだった。
「古い自民党をぶっ壊す」という言葉で国民のとんでもない熱狂をつくった。それは、国会議員たちも抗えない熱だった。
サノ
国民の熱に、国会議員も飲み込まれていったと。
石破さん
だって、42都道府県ですよ? 小泉さんを選ばなかったのは、京都と鳥取と島根と岡山と沖縄の5府県だけ。
あそこまで突き抜けられたのは、やっぱり小泉さんだけじゃないかな。
石破さん
ただ、総理大臣としての評価って難しくてね。
たとえば福田康夫さんは任期は短かったものの、「お仕えするならこんな人」みたいな立派な人でした。
サノ
そうなんですか...! いったいどんなところが?
石破さん
人柄です。人に対しても自分に対しても、非常に厳しい。でありながら、人の心の痛みというものをよく知っている。
パフォーマンスは大嫌い。やるべきことを粛々とやる。人としてすごく立派な人だったと思います。
「この人に怒られるってことは本当にまずいことしたんだな」って納得しちゃうところがあった。
第91代首相を務めた男の意外な横顔
石破さん
だけどそんな福田さんが1年で辞めてしまわれて、私は呆然としました。
「まっとうな人であるがゆえ」に、一国のリーダーとしては長く務まらなかったというところがあったのかもしれない。
サノ
“まっとうな人”であるがゆえに…では、「国のリーダー」には何が必要なんですかね?
石破さん
「非情さ」…かな。
他者の感情をあえて切り捨てられる心の強さ。これは、べつに悪い意味ではなくてね。
まわりに批判されようと味方がいなくなろうと、「これをやるべきだ」と信じて、耐えて、実行し抜ける人だと思います。
石破さん
政治の世界って、そのときは「反対、反対、大反対!」と言われても、10年20年経って評価されることが多々あるんですよね。
たとえば、私が当選したばかりのころの話。竹下登さんって人が総理大臣をやっていて、そのときに「消費税」ができたわけですよね。
最初は3%でしたけど、国民はみんな「反対、反対、大反対」。
サノ
なるほど…想像できる気はします。
石破さん
だけど竹下さんは、「絶対にやる。今やらないと、この先日本の社会保障はもたない」と、最後は自分の内閣を引き換えにしてまで消費税を通したわけですよね。
そのとき、選挙に負けて竹下内閣は倒れた。でも今は、「消費税なくして日本の社会保障は成り立たない」と評価されている。
きっと「政治家の評価」っていうのは、その人が引退して、亡くなって、何年も経ってから決まるものなのだろうね。
石破さん
理解されなくとも、生きてるうちに評価されなくとも、ぐっと耐えて、信じて、やり切る。
それが、国家の頂点に立つリーダー…“総理大臣という仕事”に求められる力なんでしょうな。
歴代首相に見守られながら、「政治家」を語る石破さん。後編につづきます
田中角栄、竹下登、小泉純一郎、福田康夫。
名だたる歴代首相の名前が飛び出し、しかも彼らの写真が後ろからこちら見守っているというなんとも異質な空間。非常に緊張しましたが、話があまりに面白い。
いち働き手の目線で語られる「政治家」という仕事。後編のテーマは、「若者の投票率、このままでいいの?」。
石破さんから魂の言葉の数々、お見逃しなく!
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=福田啄也(@fkd1111)/撮影=長野竜成(@ryuseicamera)〉
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