ビジネスパーソンインタビュー
「20代、雄ロバを口説く仕事をしていて…」
デビュー後売れずリストラ宣告→35年現役のガンダム歌姫へ。森口博子が語る“若手時代の走り方”
新R25編集部
「人生100年時代」、「終身雇用の崩壊」…
“60歳まで1社で勤めあげる”が主流だった時代は終わり、今では転職や副業も当たり前。「生涯現役で稼ぎつづける力」がますます重要になっていると感じます。
しかし筆者、30代を目前にして焦っています。
「若手」とも言えない年齢になってきたのに、まだまだ仕事も半人前、大きな成果も出せていない…こんなんじゃいつか仕事もらえなくなるのでは!?
そこで今回お話を聞いたのは、今年でデビュー35周年、『機動戦士ガンダム』シリーズの主題歌を担当するアニソン女王、また“元祖バラドル”としてバラエティ番組でも第一線で活躍しつづける森口博子さん。
「生涯現役で活躍しつづける秘訣」を聞きにいったら、森口さんからは18歳のときに事務所から“リストラ宣告” されたちょっと重い話から始まりました…。
【森口博子(もりぐち・ひろこ)】1968年生まれ、福岡県出身。1985年、TVアニメ『機動戦士Zガンダム』のオープニングテーマ「水の星へ愛をこめて」でデビュー。1991年には『第42回紅白歌合戦』に『機動戦士ガンダムF91』の主題歌「ETERNAL WIND 〜ほほえみは光る風の中〜」で初出場し、6年連続でステージに立つ。2019年、『GUNDAM SONG COVERS』でオリコンウィークリーチャート3位にランクインし「第61回日本レコード大賞・企画賞」を受賞。翌2020年に続編「GUNDAM SONG COVERS 2」を発売。オリコン/Billboard JAPAN共に週間ランキング2位という前作を上回る実績を残し、シリーズ累計20万枚をを超える大ヒットとなった。元祖バラエティアイドル(バラドル)でもあり、時代を超えて幅広い層に支持されつづけている
〈聞き手=いしかわゆき〉
歌手として花開くまで「ターザンみたいな姿で雄ロバを口説く仕事をしていた」
いしかわ
今日の取材テーマは、「生涯現役でいるコツ」です。
実は30代を目前にして、「生涯働き手として必要とされるなんて一部のエリートにしか無理なんじゃないか」と不安になってきまして…
森口さん
すっごくわかる(笑)!
実際私も30代はしんどかったです。この社会に、自分のポジションなんてあるのかなって。
森口さん、めちゃくちゃ元気はつらつ
森口さん
私、アニメ『機動戦士Zガンダム』の主題歌「水の星へ愛をこめて」で17歳のときにデビューしたんですけど…ありがたいことに無事スマッシュヒットで。
新人のときって「自分の力以上の風」が吹くんですよね。
体力があるから無理も効くし、まわりの手厚いサポートもある。「自分のド根性×まわりの手助け」の追い風に乗っかれてるときは何でもうまくまわるというか。
いしかわ
はい、はい。
森口さん
でも、デビュー曲の後…堀越学園卒業間近のことでした。
「さあ華やかなアイドル活動が始まるぞ」と思いきや、しばらく思うように結果が出なくて、「あの子は才能がないから」と事務所にリストラ宣告されて、福岡に帰されそうになったんです。
栄枯盛衰の芸能界の話や…
森口さん
そこで思い知るんですよ。自分の初速はまわりの力であってのことだったと。
いしかわ
若手時代の初速はまわりあっての力…これはビジネスの世界もそうかも。
森口さん
しかも当時の私は、まだ2曲しかリリースしていない状態(笑)。
事務所は同期のアイドルの子を売り出していて、私はもう用なし的扱いに。
追い風だったはずが、気づけば向かい風に…まだ何もやっていないのに!
いしかわ
まさにその感覚かも…! 私も20代後半になって追い風がなくなってきたというか。
こういうときって、どうすればいいんでしょうか?
森口さん
追い風がなくなってからこそ、「がむしゃらにやれるか」が大事なんだと思う。
森口さん
そういう時期って、焦って自分の武器を磨こうと仕事を選びたくなるんだけど、損得勘定で選ばずにとりあえずやってみるほうがいいと思いますね。
当時私は、“ターザンみたいな格好で雄ロバを口説く仕事”をしてましたから。
いしかわ
どういう状況なんですかそれは。
森口さん
どうしても歌手をつづけたくて、「なんでもやりますから」と懇願した結果回ってきたのが雄ロバを口説くバラエティの仕事だったんですよね(笑)。
それはさすがに選びたい
森口さん
雄ロバを誘惑しながら「何やってるんだろう…」と思ったけど、絶対歌の仕事につなげてやるんだって全力で手を抜かずにやったんです。
いしかわ
すごい。
森口さん
そうしたらバラドルとしての仕事が増えて、気がついたら20代でレギュラーが12本になっていて。
ありがたいことに、歌手としても再びガンダムの映画のテーマソングを担当させていただき、初のオリコンウィークリーベスト10入り。紅白歌合戦、全国ツアーへと繋がっていきました。
本当に、ファンのみなさん、スタッフのみなさんの支えがあってこそです!
いしかわ
雄ロバから紅白歌手へ…!
森口さん
さらに、30代になったとき…森光子さん、松坂慶子さん、大地真央さん、沢口靖子さん、そうそうたる先輩方が座長公演を行う舞台で、私も座長としてオファーが突然来たんです。
プロデューサーの方に理由を聞くと、「バラエティで頑張る20代のあなたを見て、いつかオファーしようと決めてました」と言ってくださって。
「『見てくれている人がいたんだ』と号泣しました」
森口さん
がむしゃらにやっていれば、見ていてくれる人は絶対いる。これは、36年やってきた私が心から言えることです。
自分では絶不調だと思っていた時代の仕事が、数年後の自分を助けてくれる。その連続なんですよね。
いしかわ
…森口さんがそう言ってくれると説得力があります。
森口さん
もちろん、自分の気持ちが追いつかないと感じたら整理するのもいいと思いますよ。
でも、「若手時代の頑張り」ってリターンがすぐに来るわけじゃないんですけど…ね、いつか来るから。
タモリさんが『いいとも!』のCM中に教えてくれた「長く続けていくコツ」
いしかわ
でも、がむしゃらに頑張るなかでくじけそうになることもありますよね。
そういうとき乗り越えるコツってあるんでしょうか?
森口さん
実は私、同じことを地元福岡の中学校の大先輩であるタモリさんに聞いたことがあるんですよ。
聞かせてください。レジェンドからのお言葉を
森口さん
21歳で『笑っていいとも!』のレギュラーに選んでいただいたとき、小さなことに落ち込んだり、失敗を本番中も引きずったりしていたんです。
そうしたらある日のCM中、タモリさんにその話をしたら「芸能界を長く続けていく秘訣は、反省しないことだよ」と言われて。
いしかわ
反省しない…
森口さん
「終わったことは取り返せないし、次に進むしかないんだ。だから、執着しない」って。
それを聞いて、反省してウジウジひきずりつづけるより、「今の自分にできるベストを尽くす」ことに集中したほうがいいなと思えるようになりました。
森口さん
あと、どんな悩みごとにも絶対に寿命がありますからね。
生きていると次から次へと新しい悩みが生まれてきて、今悩んでることだけに悩んでいられなくなるから!(笑)
であれば、そこに執着している時間がもったいないですよね。だから、悩みも失敗もすべて「執着しない」というのは大事にしています。
「歳を重ねて失うものなんて、何もない」…?
いしかわ
ちなみに最近体力の低下を感じるんですが…年を重ねると「できなくなること」も増えていくのかなと不安で。
そことはどう向き合えばいいんでしょうか?
森口さん
じつは私…その悩みもタモリさんに相談してまして(笑)。
聞かせてください。レジェンドからのお言葉を(2回目)
森口さん
タモリさんのご自宅に遊びに行ったとき、つい「年齢と共にできないことが増えてきた」って弱音を吐いてしまったんですね。
そのときに言われたのが、「前にできていたことが正解とは限らないよ」という言葉。
「若いときにできていたことができなくなっても、そのやり方が正解だったかはわからない。だから、今できることを精一杯やればいいんだよ」って。
いしかわ
さすがタモリさんって感じのお言葉ですね…
森口さん
たしかに私も、若いころのようにできなくなったことはたくさんあります。
体力もそうだし、スピードもそう。何をするにも時間がかかるようになった。
でもね、「若手時代のやり方が“正解”とは限らない」と考えたら、自分のスピードの遅さも「丁寧に向き合う力がついた」と解釈できるようになったんです。
森口さん
細やかなことに気づく視点や、仕事仲間の気持ちを考える気配りの意識。若手時代にはなかったそういうものを身に付けられたから、時間がかかるようになったんだって。
だから今の私にしてみれば、歳を重ねて失うものなんてないんですよ。
いしかわ
「できなくなったこと」の裏側に、必ず「できるようになったこと」があると…!
森口さん
それに、「未来の自分」から見ればいつでも「今日の自分」が一番若いですからね。
私も、一昨年リリースしたガンダムソングのカバーアルバムが28年ぶりにオリコンウィークリー3位にランクインして、日本レコード大賞企画賞を受賞したのが51歳。昨年、続編がオリコンウィークリー&Billboard JAPAN週間ランキング2位になって、心から報われたと思いました。
夢に、締め切りはない!
いしかわ
そっか…どんな年齢でも「今でしかできないことがある」と思えば、もっと大切に歳を重ねていけるかも。
森口さん
おばあちゃんになった未来の自分から見たら、今しかできないことがたくさんある。しんどい今のことも、「あのころに戻りたいわぁ」なんて言ってるかもしれない(笑)!
そう思ったら、何でもできるような気がしません?
「歳を重ねて失うものなんて、ない」
こんな言葉を大先輩に言われてしまったら、もう何も言えないじゃない…! どこからどう見ても50代には見えない美しさとパワフルさにガツンと頭を殴られました。
心が挫けそうになったときは、未来の自分に意識を移して、「まだまだ自分、若いじゃん」と奮い立たせたい。
未だに「ヨッシャ! 30代だぁ!」とワクワクする気持ちはあまりないけど、腰を落ち着ける前に、もうちょっとだけ頑張ってみようかな…と思える取材でした。
〈取材・文=いしかわゆき(@milkprincess17)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
35周年記念アルバム『蒼い生命』が8月4日発売
そんな森口博子さんが24年ぶりとなるオリジナルアルバム『蒼い生命』をリリース!
収録曲のひとつである森口さん作詞&作曲(共作)「ポジション」は、93年のシングル「ホイッスル」の続編を描いたアンサーソング。森口さんが20代のハードスケジュールを乗り越え、もがきながらも自分の居場所を見つけるまでの心の動きが描かれ、「自分が今ここにいることに感謝をする」というメッセージが込められています。
地球とそこに生きるすべての生命のつながりをテーマに制作された本作品は、コロナ禍で孤独を抱えていたり、自分が必要とされていないように感じてしまいがちな私たちを優しく包み込んでくれるはず。アルバムのタイトルチューン「蒼い生命」のMVはギリシャロケのような美しい映像に仕上がり、オフィシャルYou Tubeチャンネルにて公開中。
森口博子さんのデビュー曲、TVアニメ「機動戦士Ζガンダム」のオープニングテーマを、35周年にちなんで35人の森口博子さんがアカペラで歌唱したというスペシャルヴァージョンも必聴。
「35トラック目指して、1トラック 1トラック重ねていく作業はこれまでさまざまなことを乗り越えて生きてきた、1年1年積み重ねているようなレコーディングでした。35人の私=みんなとの歴史です!」
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