ビジネスパーソンインタビュー
ファーストペンギンにも、作法がある。
「誰も思いつかないようなアイデア」じゃダメ。ダンサー界の常識を変えた男が語る“新常識の作り方”
新R25編集部
「ファースト・ペンギン」という言葉を知っていますか?
天敵に襲われるリスクを引き受け、魚を求めて群れから海へ最初に飛びこむペンギン。その勇敢なペンギンのように、リスクを恐れずはじめてのことに挑戦するベンチャー精神の持ち主を「ファーストペンギン」と呼びます。
ビジネスでも「新しい挑戦」を求められる機会は多々ありますが、日本人は「言い出しっぺ」になるのが苦手な人も多い気も…
そこで今回取材は、米国最大のダンスコンテストで連続優勝の実績を持ち、「“ダンサーという職業”の可能性を広げる」べくさまざまな“業界初の挑戦”を仕掛けてきた4人組ダンスパフォーマンスグループ・s**t kingz(シットキングス:以下シッキン)のkazukiさんに取材。
【kazuki(かずき)】shoji・ kazuki ・ NOPPO ・ Oguri の4人で構成されるダンスパーフォーマンスグループ・s**t kingz。アメリカ最大のダンスコンテスト「BODY ROCK」で2010年、2011年と連続優勝し、世界各国からオファーが殺到。これまで20カ国以上を訪問。2021年にダンス映像アルバム『Flying First Penguin』を発売し、国内でもさらなる注目を集める
「“誰かの後ろで踊ること”がダンサーの常識なんておかしくない…?」と、ダンサーとしては異例の全曲オリジナル楽曲で作り上げたダンス映像アルバム『Flying First Penguin』をリリースし、見事ダンサー単独での『ミュージックステーション』出演を実現するなど、業界の常識を次々と打ち破る姿はまさしくファーストペンギン。
そんなシッキンの発起人・kazukiさんに、「言い出しっぺになるために必要なマインド」を教えてもらいました。
〈聞き手=サノトモキ〉
「ファーストペンギンには“なりたくない”のが普通です(笑)」
サノ
僕は正直、ファーストペンギンが飛び込んだあと、2、3番目くらいについていってほどよく評価されたいと思ってしまう小物でして…
どうすればkazukiさんのように「先頭で飛び込めむ勇気」を持てるんでしょうか?
kazukiさん
あの、いきなり出鼻くじいちゃったら申し訳ないんですけど…
ファーストペンギンってたぶん、「なりたい」と思ってなれるものじゃないんですよ。
えっ
kazukiさん
もともとは僕も、「できればファーストペンギンにはなりたくない」タイプで(笑)。
だって冷静に考えて、「リスクも責任も負わず、言いたいことだけ言えるポジション」が一番楽じゃないですか。
サノ
まあ、そりゃそうですけど…!
では、そんなkazukiさんが今では「ダンサーという職業の可能性を広げる」を信念に、積極的に業界初の挑戦をするようになったのはどうしてなんですか?
kazukiさん
変わらざるを得なかったんです。
20代半ばくらいのとき …“ダンサーという職業”に危機感を感じてしまったから。
これは僕に限った話じゃなく…プロのダンサーって“ダンサーという職業”自体に対するモヤモヤが大きく2つあるんですよ。
kazukiさん
1つ目は、ダンサーの仕事の大部分が“裏方”であること。
突然ですけど、ダンサーという職業の“最高峰”ってどんな仕事かわかります?
サノ
えっ、全然イメージわかない…何なんでしょうか?
kazukiさん
「バックダンサー」です。
テレビに出て照明浴びて、有名なアーティストと一緒にパフォーマンスする…ダンサーなら誰もが憧れる頂点で。
僕もダンスを始めた小学生のころはいつかバックダンサーとして踊る日のことを夢見たし、18歳ではじめてアーティストのバックで踊ったときは心の底から自慢でした。
サノ
ふむふむ。
kazukiさん
でも、20代半ばくらいでアーティストさんの全国ツアーに同行するようになったとき、ふと思ったんですよね。「“誰かの後ろで踊ることがダンサーの仕事”って常識、なんかおかしくない…?」って。
みんな自分のダンスを見てほしくてダンサーやってるはずなのに、業界中最高峰のポジションですら“メイン”ではない。これが常識でいいんだっけと。
「自分が一生ダンスを仕事にしたいなら、“ダンサーである自分たちがメインになれるポジション”も作っとかないとモチベーション持たないぞ」って危機感が生まれはじめて。
20代半ばで職業のあり方自体に疑問を感じ始めたのか…早熟すぎる
サノ
でも今はYouTubeやSNSにダンス動画を投稿してる方も多いですよね。
メインとして見せられる環境も整ってきたのでは?
kazukiさん
まさにそれが2つ目の悩みで。
ダンサーの作品って「いつ消されるかわからない」んですよ。
ダンスは音楽ありき。みんな誰かの音楽を使わせてもらってダンス動画を投稿しているわけで…何かのきっかけで著作権の取り締まりが厳しくなれば、今までの作品は一瞬で全部消える。
サノ
そうか、たしかに…
kazukiさん
「100年後、自分たちのパフォーマンスが残っているかもわからない」「激しい競争に勝ち抜いてトップに抜けたとしても裏方」…これじゃ虚しすぎるじゃないですか。
だから僕らはどこでどう使おうが文句を言われない“自分たちだけの作品”をリリースして、「自分たちがメインで立てる未来」を作っていこうと決めたんです。
それが今年1月にリリースした“見る”ダンス映像アルバム『FlyingFirst Penguin』と、3月のMステ単独出演につながったんですね。
「ダンサーである自分たちが、アーティストに並ぶ。これを目標にしようと」
kazukiさん
ファーストペンギンになるときってたぶん、“そうならざるを得ない瞬間が来たとき”なんですよね。
僕も、「責任取りたくない」「リスク追いたくない」って“他の人が飛び込むまで待ってることが一番自分の首を絞める状況になったから、自分が最初に飛び込むようになっただけ。
そうじゃないときに、無理やりならなくてもいいんじゃないかなとは思います。
新しい挑戦の成功確率を高める、“2つのコツ”
サノ
でも、ビジネスパーソンも職場でリーダーになったりと、“ファーストペンギンになることを求められる瞬間”はわりとある気がしていて…
「新しい挑戦の成功確率を高めるコツ」ってあるんでしょうか?
kazukiさん
「みんながマネできそうなこと」をやる。
僕が新しいことをやるときは、これを一番徹底してますね。
みんながマネできそうなこと…?
kazukiさん
新しいことを考えるときって、つい「誰も思いつかないようなすっげえアイデア出してやろう」と遠くに遠くに飛び込もうとしちゃうんですけど…すごすぎるものって、みんな追いつけないんですよ。
「飛び込むぞ…飛び込むぞ…」と思って見てたファーストペンギンが2km
結果「すごいけど流行らない」という失敗に着地してしまいがち。
サノ
たしかに、すごいけど誰もついていけない。
kazukiさん
逆なんですよね。「新しい挑戦」をするときに目指すべき成功状態は、“みんなが後に続いてる状態”。
TikTokのダンスとかまさにそうですけど、結局流行るのはすごいものじゃなくて「みんながマネできるもの」。
「自分にもできそう」、これが “キャッチー”ってことなんですよね。新しいものを作るときほど、この状態を意識したほうがいいと思います。
kazukiさん
あとは、「同じ覚悟を共有できる人と一緒に飛び込むこと」。
つい「自分が先頭に立ってみんなをリードしなきゃ」って思っちゃう人もいると思うんですけど…
僕らも、自分たち4人だけだったらMステ進出の夢は絶対叶ってないんです。
サノ
どういうことですか?
kazukiさん
Mステに出るために自分たちの楽曲を作ろうと決めても、その先は僕らだけじゃ何もわからない。
「音楽作るってどうやればいいの?」「アルバムリリースってどうやればいいの?」「Mステ出るってどうやればいいの?」
当然、誰かの助けを借りなきゃ進まないわけです。
サノ
ふむふむ。
kazukiさん
それで僕らは、SKY-HIやC&Kさんに楽曲を作ってもらったり、所属事務所・アミューズに作品リリースや番組出演の面でめちゃくちゃ助けてもらいながら一つずつクリアしていったんですけど…
「誰もやったことがない挑戦をするから、一緒に飛び込んでほしい」って、やっぱり相手にとっても相当リスクの高い決断を迫ってるわけですよね。
たしかに
kazukiさん
それでも彼らがs**t kingzに全面協力してくれたのは、「ダンサーの可能性を広げたい」という僕らの覚悟に本気で共感してくれたからだと思うんです。
「リスクを承知で乗っかる」なんて、そこがなきゃできない。
サノ
なるほど…! 僕だったら、ついスキルや実績で仲間を選んでいたかもしれません。
kazukiさん
「自分にできないこと」を埋めてもらいたいわけだから、スキルや実績ももちろん大切ですよ。
でも、最後の最後飛び込む勇気をくれたのは「覚悟を共有できる仲間がいること」だったと思います。
たぶん、世の中を動かしてきたファーストペンギンたちも誰一人として「一人で飛び込んではいない」んじゃないかな。
最後に…「ファーストペンギン力が伸びる若手時代の過ごし方」とは
サノ
最後に…「ファーストペンギンな人」になるために若手時代に準備しておけることはあるのでしょうか?
kazukiさん
そうですね…
若手時代ほど、「この仕事俺じゃなくてよくね?」って思う仕事とちゃんと向き合って、引き出しを増やしといたほうがいいと思います(笑)。
!?
kazukiさん
新しいことをやるときは「みんながマネできるキャッチーさ」が大切と言いましたけど、「キャッチーなアイデア」ってマジで引き出しの数が勝負なんです。
少ない引き出しで「みんな」を網羅するアイデアを出すのは、相当難しい。
じゃあ、若手時代に一番手っ取り早く引き出しを増やす方法は何かと考えると…フられた仕事を全部「自分の守備範囲」にしちゃうことだと思うんですよね。
サノ
ああ、なるほど…
kazukiさん
僕自身、「かわいいダンス」の依頼が来てめちゃくちゃスランプになった経験があるんですよ。
かっこいいダンスが好きでそればかりやってたから「かわいい」の引き出しが空っぽで、一瞬「この仕事べつに俺じゃなくてもよくない?」って思っちゃったんですけど…
「違う、ここで“俺の仕事”に変えるんだ」と発想を転換したことで、今では「かわいいダンス」もかっこいいダンスと同じテンションでできるようになりました。
サノ
自分の得意分野だけに張っていては、引き出しが増えないと。
kazukiさん
まあ若いときって武器少ないんで、つい自分の得意分野にすがりたくなっちゃうんですけどね(笑)。
でもいつか「ファーストペンギンになることを求められたとき」の武器になると言い聞かせて、頑張ってみるのもアリじゃないでしょうか!
今日はありがとうございました!
口調は穏やかなのに、言葉の節々に強烈な覚悟を感じたkazukiさんの取材。どんな質問にすぐに答えを返してくれる姿から、分析と実行を何度も繰り返してきた跡が見え震えました。
・ファーストペンギンになるのは、“そうならざるを得ないとき”でいい
・「みんながマネできそうなこと」をやれ
・同じ覚悟を共有できる仲間と飛び込め
・「この仕事俺じゃなくてよくね?」な仕事と向き合え
ファーストペンギンに必要なマインドとスキル…みなさんも仕事で新しい挑戦を求められたときには、ぜひ思い出してみてください!
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉
ビジネスパーソンインタビュー
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