ビジネスパーソンインタビュー
岩田松雄著『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』より
業績低迷のザ・ボディショップを立て直す。就任初日で社員の心を掴んだ“演説力”とは
新R25編集部
リーダーや社長になるのは特別な人たちだけで、自分には無理だと思っていませんか?
多くの人が描くリーダー像とは、一歩前に出てチームを引っ張っていくカリスマ的な人物のはず。
しかし、ザ・ボディショップの社長やスターバックスコーヒージャパンのCEOを務めた岩田松雄さんは著書『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』で自分のことを「ごく普通のおじさん」と話しています。
ではなぜ、ごく普通のおじさんがトップ経営者になれたのか。
自分の持っている力で“周りに推されるリーダー”になる方法を同書より抜粋してお届けします。
就任演説から学んだ、聞く人をイメージして話すこと
リーダーのコミュニケーションといえば、私には忘れられない思い出があります。
ひとつは失敗談。
そしてもうひとつは、その失敗からの反省をふまえて学習したエピソードです。
社長を初めて経験することになった、プリクラやゲームソフト制作などで知られたエンタテインメント企業のアトラスでは、私はかなり張り切っていました。
会社が厳しい状態にあったこともあり、自分の力でこの会社を何とか立て直すんだ、と強い意欲を持っていました。
社長に就任するにあたり、就任演説を社員の前でする機会がありました。
ここは最初の頑張りどころだ、今までと違った、自分の考えをしっかり見せないと、と私は思いました。
そこで出てきたのが、ビジネススクールで学んだ知識や言葉でした。
これからは企業価値経営が求められている。
キャッシュフロー経営が重要だ…。
ところが、目の前で立って聞いてくれている100人ほどの社員から、まるで反応がありません。
身体はそこにあるけれど、魂はここにはない、といった状態。
私は、一所懸命に話を続けたのですが、途中でハッと気づきました。
会社の経営というのは、こういうことではないのだ。
キャッシュフロー経営とか、株主価値経営とか、そんなことを言ったところで、実際には誰も動いてはくれないのです。
ましてやアトラスはエンタテインメント企業でした。
クリエイターやプランナー、プログラマーやデザイナーなど、専門職の人たちもたくさんいました。
彼らにとって、そんな話に興味が持てるはずがありません。
彼らが関心を持っていたのは、私がどうやってこの会社を立て直し、その後にはどんな明るい未来が待っているのかという、私の生身の言葉だったのだと思います。
この失敗を強烈に覚えていた私は、次に社長就任演説を求められたザ・ボディショップで、同じ失敗を繰り返してはなるまい、と誓いました。
ただ当時のザ・ボディショップも、厳しい状況にありました。
業績低迷で90億円あった売上高は67億円に落ち込んでいました。
社員は萎縮している様子。
社員同士の人間関係もギクシャクしているようでした。
従業員満足度調査の結果は最悪。
社内には縮小均衡の負のスパイラルがありました。
社長就任までの二カ月間、イギリスのザ・ボディショップの創業者デイム・アニータ・ロディックの著書『BODYANDSOUL』(ジャパンタイムズ)を繰り返し読み、店舗訪問し、社員とじっくりコミュニケーションを交わしていきました。
そして、就任後最初にみんなを集めてお話ししたのが、次の「社長就任挨拶七つのお願い」でした。
「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方一.一緒に働ける縁を大切にしましょう
二.ともに人間成長しましょう
三.社長が交代しても具体的な行動を起こさなければ何も変わらない。「一人ひとりが変革に参画する」気持ちで、会社を良くしていきましょう!
四.社長ではなく現場を見て仕事をしよう。現場重視・小売の原点に戻って仕事を振り返りましょう
五.接客の気持ち:自分の大切な友人を自宅に招く気持ちで接客しましょう
六.BacktotheBasics創業の原点に戻り、バリューズを大切に。常にフィードバックシステムを仕事に取り込みましょう(PDCAサイクル)
七.ブランドはお約束。ザ・ボディショップが目指すブランドにすべての仕事が有機的につながるよう細部にこだわりましょう
手応えを感じたのは、語りかけている最中に、何人かの女性社員が涙を流して聞いてくれていたことです。
自分たちがしてほしい、さらには、したいと思っていたことを聞くことができたからではないかと思います。
社員はみんな、ザ・ボディショップというブランドが大好きだったのです。
だから正しい方向に導いてあげれば、力を発揮するはずだと思っていました。
実際、後に日本のザ・ボディショップは、大躍進を遂げることになります。
この心からの一所懸命な言葉、生身のコミュニケーションが、会社を大きく変えるきっかけとなったのだと思います。
意識するのは、とにかく「わかりやすさ」である
アトラスのときと、ザ・ボディショップのときの就任演説は、何が違ったのか、おわかりでしょうか。
失敗と成功を分けたのは、聞く人をどれだけイメージできていたか、聞く人の立場にどれだけ立てたか、ということでした。
何より大きな違いは、社員にとってわかりやすい話、具体的な話だったかどうか、ということだと思います。
リーダーとして部下に話をするとき、最も重視しなければならないのが、この「わかりやすさ」だと思います。
振り返れば、本当にありがたいことなのですが、ザ・ボディショップでも、スターバックスでも、「岩田さんのメッセージはわかりやすい」とよくお店の人から言ってもらえました。
それは私にとっては、大変な褒め言葉でした。
実際、ザ・ボディショップ、スターバックス時代は、お店のマネージャーをイメージしてメッセージを発していました。
相手の立場に立って、難しい言葉は決して使わない。
とにかく、わかりやすい言葉を使おうとしていました。
また、自分が店長なら、どんな情報がほしいだろうか、どんなことを聞きたいだろうか、といつも考えていました。
聞く側の立場になって、どういうことに興味を持つのか、常に意識していました。
オープンにできる情報なら、できるだけオープンにしました。
なぜなら、それを知りたいだろうと思ったから。
相手の立場に立ち、相手への愛情があれば、そういうことも想像できると思います。
リーダーが部下に愛情を持っていれば、自然に何をすればいいかが見えてくる。
キャッチーなフレーズを作る
もうひとつ、私が意識していたのが、キャッチーなフレーズを作ることでした。
目指す方向があるときや、何かのプロジェクトを進めたりするときに、私はよくキャッチーなフレーズを作って、それを旗印にしていました。
ザ・ボディショップのときには、お店のスタッフの採用や教育において何を目指すべきか、その旗印として「アニータ100人計画」というフレーズを作りました。
創業者のアニータのような、楽しく、情熱を持ってお客様に接する人が100人いれば、売り上げはすぐ倍増するだろうと思っていました。
だから採用のときもアニータをイメージする。
社員教育に関しても、いかにしてアニータを作っていくかを考えてほしいと思っていました。
アニータを愛していた社員はたくさんいましたから、これはイメージしやすく、とても喜んでもらえたフレーズでした。
また、「お客様を大切な友人のようにお迎えしよう」といったスローガンも作りました。
もしお客様にとって必要な商品がない場合は、他のブランドの商品を紹介しても良いとまで言いました。
このように、キャッチーな言葉は印象に残ります。
また、「CSよりもES」という言葉も社内で評価をもらえた言葉でした。
これは、カスタマー・サティスファクション(顧客満足)よりもエンプロイー・サティスファクション(従業員満足)が大切、という意味です。
もちろん顧客の満足度を高めるのは当然のことですが、そのためにまず従業員満足度を上げていこうということです。
初めての従業員の満足度調査で低い結果が出ていましたから、この取り組みが、やる気を大きく変えると思っていました。
「顧客満足度よりも従業員満足度を先に実行しよう」ということなのですが、これでは長ったらしいし、小難しく見えます。
そこで「CSよりもES」という短いフレーズを選んだのでした。
この旗印もあって、さまざまな取り組みが社内で進み、会社は従業員のことを考えてくれているのだ、という社内での認知も大きく広がり、後に従業員満足度の急激なアップへとつながっていくことになりました。
総称としてのお客様はとても大切だけれど、一人のお客様と一人の社員とを比べたら、100万倍社員のほうが大切である。
もし理不尽なお客様がいて社員を困らせているのなら、さっさと帰っていただきなさい。
他にお客様は無限にいるのだから、という話もしました。
まわりに推されるリーダーとは
同書では、岩田さんの経験を基に、周りに推されるリーダーになるノウハウが具体的に紹介されています。
常に強調されているのは、リーダーシップとは生まれつきのものなどでは決してないということ。
「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方我こそがリーダーだ、などと思わなくていいし、示さなくてもいいのです。
自分で自分を修めようと努力し、自分でコツコツ頑張って自分を高めていくと、
まわりから推されてリーダーになっていくのです。
「ついていきたい」と思われるリーダーになる第一歩として、まず、同書を参考に自分ができることから努力してみるのはどうでしょうか。
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