ビジネスパーソンインタビュー
暦本純一著『妄想する頭 思考する手』より
Googleも実践する「20%ルール」とは。東大大学院教授が提唱する“妄想”の可能性
新R25編集部
業界を問わず、あらゆる人が「新しいアイデア」を生み出そうとしています。
ディープラーニングや人工知能(AI)技術の開発が進むにつれて、その競争はさらに激化してくはずです。
東京大学大学院情報学環教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・副所長を務める暦本純一教授は、新著『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』(祥伝社)の中で、アイデアを出すために必要なのは「妄想」だと語っています。
「私たち人間は、いつも『新しいもの』を求めている。(中略)アイデアの源泉は、いつも『自分』だ。誰に頼まれたわけでもなく、むりやり絞り出したわけでもなく、自分の中から勝手に生まれてくるのだ。そう、それは『妄想』である。妄想から始まるのだ」
新しいものを生み出すためになぜ「妄想」が大切なのか。
アイデアを出すためには具体的にどうすればいいのか。
同書より一部を抜粋してお届けします。
想像を超える未来をつくるには「妄想」から始めよう
どんな仕事でも、常に新しいアイデアは求められるだろう。
そんなときは、真面目に課題を解決することだけではなく、自分の「やりたいこと」は何なのかを非真面目に考えてみるとよいのではないだろうか。
そこから生まれたアイデアが新しい未来をつくる可能性は十分にある。
未来を予測して課題を設定し、
「これからの世の中はこうなるはずだ、そしてこういう課題があるはずだ」
と想像するところから始まるのが、課題解決型のイノベーションだ。
しかしそれだけでは、想像の範囲内での未来しかつくることはできないかもしれない。
想像を超える未来をつくるために必要なのは、それぞれの個人が抱く「妄想」だと私は思っている。
広辞苑を引くと、妄想とは
「みだりなおもい。正しくない想念」
「根拠のない主観的な想像や信念」
などと書いてある。
後者は病的な意味だ。
いずれにしろ、ふつうはあまりポジティブなニュアンスでは使わない。
しかし私には、この言葉がしっくりとくる。
誰も考えなかった新しい技術は、往々にして、人から「はあ?」と呆れられるような思いつきから生まれるものだ。
ちょっとクレイジーな印象を与えることもあるかもしれない。
でも、他人にはすぐには理解されず、そのため広く共有もされない妄想であっても、本人はそこに何らかのリアリティを感じている。
つまり、乗っている価値軸が違うということだ。
本人にとっては自然なことであって、奇をてらっておかしなことを言っているわけではない。
自分の価値軸の上で「面白い」と感じたことを、素直かつ真剣に考えている。
自分という価値軸がなければ、そもそも何が楽しいのかもわからない。
だから、まずは「妄想」を大事にすることから始める必要があるのだ。
自分の中に「20%ルール」を作ろう
かつて、炭鉱には「スカブラ」と呼ばれる人たちがいた。
「スカッとしてブラブラしている人」の略だという説がある。
みんな一生懸命に炭鉱で働いているのだが、100人のうち5人ぐらいは、何をするでもなく機嫌の良さそうな風情でブラブラとそのへんを歩いている。
それで同じ給料をもらっているのだから怒られそうなものだが、誰も文句は言わない。
スカブラの人たちは、「平時」は何もしないけれど、いざ事故やトラブルなどが発生するとすぐに駆けつけてみんなを助けてくれるからだ。
アリなどの集団でも同様で、観察すると実際には働いていないアリが一定の比率でいるそうだ。
しかし、常に100パーセントのアリが働いている状態だと、何かが起きたときに余力がなく集団全体が滅びてしまう。
今の社会や企業でも、「スカブラ」的な人たちを抱えることは、その集団全体を強くすることになると思う。
何をやっているのか誰が見てもわかる人たちだけではなく、何をやってるのかよくわからない非真面目路線の人たちの存在も許容するのだ。
そういう妄想型の人材も評価される世の中にならなければ、今の社会を覆う悲壮感は消えないし、イノベーションを生む土壌も育たない。
グーグルには、かつて「20%ルール」と呼ばれる制度があった。
「従業員は、勤務時間の20%を自分自身のやりたいプロジェクトに費やさなければならない」というルールだ。
今はそれが許可制になるなどトーンダウンしているようだが、以前はそれがグーグルの「イノベーションの源泉」とも言われた。
従業員の時間を、20パーセントだけ「スカブラ」させていたのだ。
それも組織に「スカブラ」を抱えるためのひとつのやり方だろう。
イノベーションにつながる妄想は、世界中のいろいろなところで多くの人たちが抱いている。
これは地下でグラグラと煮立っているマグマみたいなものだ。
マグマがどこから噴き出すかわからないのと同じように、それらのアイデアのどれが「世界初」のイノベーションとして噴き出すかは誰にもわからない。
ノーベル賞をとった研究者や発明家の多くも、たまたまある種の偶然がマグマの噴き出し口としてその人を選んだだけだと考えることもできる。
「自分のやりたいことが見つからない」という人も、自分自身の中の「スカブラ」を探してみるといい。
課題を与えられないと何も考えられないと思っている人でも、どこかにスカブラが隠れているものだ。
何の意味があるかわからない妄想をまったく抱えていない人間は、たぶんひとりもいない。
本当にイノベーションを起こしたいなら、「こうあらねばならない」的な真面目路線のほかに、「非真面目」な路線を確保することが必要だと私は思う。
つまり、人をキョトンとさせるような妄想を語る人間を排除しない。
役に立つかどうかよくわからないアイデアでも、とりあえずやってみる。
自分のやりたいことを思い浮かべて、楽しそうに何かを考えている人が大切にされる社会こそが、イノベーションを生むはずだ。
自分の妄想を直視しよう。
そして大切にしよう。
「妄想」の先に、今ここにないものがある
私たちはいつも新しいものを求めている。
にもかかわらず、私たちの思考は、既存の枠組みに囚われすぎてはいないでしょうか。
暦本教授は明確に述べています。
『妄想する頭 思考する手』我々は、現在の延長で物を考えがちである。妄想は、今あるものを飛び越えて生まれるものであり、だからこそ『新しい』。いや、何かを妄想しているとき、最初からそれが新しい発想だとは自分でもわかっていないかもしれないのだ。
「何かアイデアを」「何か新しいものを」と考えすぎず、自由な妄想を広げた先に、今ここにないものを描いていることに気付けるのかもしれません。
私たちも、まずは「妄想」から始めてみましょう。
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