ビジネスパーソンインタビュー
デヴィッド・グレーバー著『ブルシット・ジョブ』より
世の中は“クソどうでもいい仕事”だらけ。目をそらしたくなる「ブルシット・ジョブ」の正体
新R25編集部
「週15時間労働にまで抑えることもたやすくできるはずだ」。
アメリカの人類学者・デヴィッド・グレーバーさんは、そう主張します。
私たちの生活はすでに十分な選択肢にあふれており、技術発展してAIなどによる自動化も進んでいるのに、仕事がなくならないのは一体なぜなのでしょうか?
そこで今回は、センセーショナルな指摘で日本でもたちまちベストセラーとなったデヴィッド・グレーバーさんの著書『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』より、「クソどうでもいい仕事とは何か?」について抜粋してお届けします。
ブルシット・ジョブとは、“クソどうでもいい”と本人に自覚のある仕事
ブルシット・ジョブの、ある典型的な事例から話をはじめてみよう。
クルトはドイツ軍の下請業者として働いている。
というよりも…実際には、ドイツ軍の下請けの、下請けの、下請けとして雇われている。
クルトの仕事がブルシット・ジョブの典型例だとみなしうるのは、それらの仕事口がたとえ消えてなくなったとしても、世の中になんの影響も与えないだろう、ということである。
むしろ、事態はもっとましなものになるはずだ。
ドイツ軍の基地は、おそらく備品を移転するもっと手間のかからない方法を考案するだろうからだ。
重要なのは、クルトの仕事がバカバカしいものであるだけでなく、クルト本人がそのことを完全に自覚しているという点である。
世の中に意味のある貢献をしていると確信する人間に対して、本当のところきみは貢献なんかしていないよとあえて語るつもりは、ここでは毛頭ない。
だが、自分の仕事が無意味なものだと本人が確信しているならばどうか。
「ブルシット・ジョブ」とわたしの呼んでいるものは、消え去ったとしてもなんの影響もないような仕事であり、なにより、その仕事に就業している本人が存在しないほうがましだと感じている仕事なのだ。
労働者の約40%が「意味のない仕事をしている」と感じている
イギリスのYouGovによる世論調査では、自分の仕事が世の中に意味のある貢献をしていると確信している人間は、フルタイムの仕事にある人びとの50%しかおらず、37%の人びとは貢献していないとはっきり感じていた。
スコーテン&ネリッセンによって実施されたオランダの世論調査では、後者の数値は40%まで高まった。
一国の労働人口のうちの37%から40%が、自分たちの仕事はなんの影響も及ぼしていないと考え、さらにそれ以外の相当数の人間もそうかもしれないと感じている。
5種類のブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)
ひとがブルシット・ジョブについて語るばあい、他人のために働くことによって、対価の支払われる(大半が給与の経理業務をともなう)雇用のことを指している。
わたしはブルシット・ジョブを5つに分類することが、最も有益だと考えるようになった。
① 取り巻きの仕事
取り巻きの仕事とは、だれかを偉そうにみせたり、だれかに偉そうな気分を味わわせるという、ただそれだけのために存在している仕事のことである。
歴史を通じて記録されてきたように、富と権力をもった男女は、奉公人や子分、おべっか使いや手下のたぐいを自分自身のまわりにはべらせる傾向にあった。
取り巻きなくして威厳なしである。
たとえやることがなにもなかったとしても、受付係は、ちゃんとした会社であることの証として求められているのである。
② 脅し屋の仕事
この用語は、もちろん比喩として使っている。
つまり、実際のギャングやお雇い用心棒を意味するものとして用いているわけではない。
この用語が指しているのは、その仕事が脅迫的な要素をもっている人間たち、その存在を他者の雇用に全面的に依存している人間たちである。
この手の最も明白な事例は軍隊である。
国家が軍隊を必要とするのは、他国が軍隊を擁しているからにほかならない。
もし、軍隊をもつ者がなければ、軍隊など無用の長物となるだろう。
③ 尻ぬぐいの仕事
尻ぬぐいとは、組織に欠陥が存在しているためにその仕事が存在しているにすぎない雇われ人である。
存在してはならない問題を解決するために置かれているのが、かれらなのである。
たいていプログラマーは、コア技術にかかわるおもしろくやりがいのある仕事なら、しばしば夜を徹してでもすすんで無償で取り組んでいる。
しかし、それらのコア技術を最終的に互換可能なものにすることには、あまり関心は寄せられない。
そのため、同じこのプログラマーたちは、日中は、それらの互換性を確保するという味気ない(だが有償の)仕事のみに精を出すということになる。
④ 書類穴埋め人の仕事
わたしが「書類穴埋め人」という用語によって言及しているのは、ある組織が実際にはやっていないことをやっていると主張できるようにすることが唯一の存在理由であるような被雇用者である。
マークは、イギリスの地方自治体で、シニア・クオリティ・アンド・パフォーマンス・オフィサー(業務品質および実績における上位責任者)なるものに就いている。
地方行政は月間「目標件数」を事務所の張り紙に掲げられ、「向上」は緑、「現状維持」は黄、「低下」は赤で色分けされているという。
部長は統計における不規則変動という基礎概念さえわからないようで──あるいは少なくとも無知を装うことで──毎月、緑のひとはほめそやされ、かたや、赤いひとはもっと仕事しろとハッパをかけられる。
ところが、こうしたことは、実際のサービス提供には、ほとんど関係がない。
⑤ タスクマスターの仕事
タスクマスターは二つの下位区分に分類される。
第一類型は、もっぱら他人への仕事の割り当てだけからなる仕事である。
タスクマスター自身が、自分の仲介が不必要であり、かつ、自分がその場にいなくとも部下たちだけで完璧に仕事をまわすことができると考えているなら、こうした仕事はブルシットだとみなしうる。
つまり必要ない部下というより、必要ない上司なのである。
第二類型のタスクマスターは、タスクマスターとしての役割にくわえて実質的な職務を有していたりもするだろうが、その仕事の大半が、他者に対するブルシットな仕事の形成だとすれば、かれら自身の仕事もまた、ブルシットに分類されうるだろう。
私たちはなぜ「ブルシット・ジョブ」に人生の時間を捧げてしまうのか?
生産性総体に重大な影響を与えることなく、わたしたちが従事している仕事のおおよそ半分をなくすことができるといったことが本当に正しいのであれば、なぜ、残りの仕事を再分配してあらゆるひとが一日4時間の労働ですむようにできないのか?
なぜ、グローバル労働機械が停止をはじめないのだろうか?
少なくとも、おそらくそれは、地球温暖化にブレーキをかける最も効果的な方法であるはずだ。
いま、週20時間労働、いや、15時間労働にまで抑えることもたやすくできるはずだ。
それにもかかわらず、ひとつの社会としてのわたしたちは、なんらかの理由で、つぎのように集団的に決断したのである。
すなわち、気ままにセーターを編んだり、犬と遊んだり、ガレージバンドをはじめたり、カフェで政治について議論したり、友だちの恋愛事情についておしゃべりしたりするよりも、表計算ソフトに入力するふりをしたり、PR会議に備えてマインドマップを作成することに人生の時間を捧げる方がよい、と。
なにゆえこうなっているのか、それを理解するのにいちばんかんたんな方法がある。
人びとの働き過ぎを取りあげそれをやめるよう戒める論説が大手の新聞や雑誌にあらわれることを想像してみる、そして、それがいかに困難であるかを考えてみるのである。
一般的には、勤勉な人間は立派ではないとか、仕事を避けようとする人間を軽蔑するべきではないなどと主張することは不可能であるし、そうした主張が公共の議論のなかでまじめに受け止められるとはおもえない。
わたしたちは自由であるとはどういうことか、自由を実践するということの本当の意味とはなにかという問いに深く立ち入ることをしない。
本記事の主要な論点は、具体的な政策提言をおこなうことにはない。
本当に自由な社会とは実際にどのようなものなのかの思考や議論に、手をつけはじめることにある。
鋭い指摘で視界が変わる。ブルシット・ジョブに学ぶ「仕事としあわせ」
激動のコロナ禍で、“自分の仕事や幸せのあり方”について考えた方もいらっしゃるでしょう。
『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』は、「なぜ無駄な仕事が増えているのか?」という素朴な疑問を、労働にまつわる不合理やストレスに目を向けて、深くふかく掘り下げていく一冊です。
労働のしくみは簡単には変わらないかもしれませんが、「自分が本当に好きなことや熱中できることは何か?」を見つめて、仕事に対する意識が豊かになる働き方を選ぶことはできます。
転職を考えている方や現状の仕事のあり方に悩んでいる方が読むことで、きっと次の選択のヒントとなるはずです。
〈画像提供=Adam Peers〉
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