ビジネスパーソンインタビュー
「俺らの20代、見てらんないね…(笑)」
「会議で自分が話すと、全員が耳ふさいでた…」桝本壮志×スピードワゴン小沢が語る“20代の失敗”
新R25編集部
放送作家、桝本壮志さん。
もともとお笑い芸人の桝本さんは、同期芸人で大の仲良しのスピードワゴン小沢さん、チュートリアル徳井さんとシェアハウスを借り、男3人で共同生活を送っているのだとか。(※現在はコロナウイルスの影響を受け別居状態)
そんな桝本さんが芸人二人と放送作家のシェアハウス生活を描いた青春小説『三人』が、12月17日に発売されます。
「人生を左右する20代の失敗」を痛切に切り取った物語ということで…今回新R25 では、20代を共に駆け抜けた桝本さんと小沢さんのおふたりに、「20代の失敗」をテーマに対談を実施。
桝本さんの異次元の言語化能力に感嘆しつつ、一瞬で場を自分色に染め上げてしまうオザワールドにブンブン振り回されつつのド濃厚な取材、ぜひお楽しみください。
取材冒頭、さっそく今日ここにはいない「あの方」の話題に…。
〈聞き手=サノトモキ〉
【桝本壮志(ますもと・そうし)】1975年生まれ。放送作家、コラムニスト、小説家。大阪NSC13期生で、同期芸人にスピードワゴン小沢一敬、チュートリアル徳井義実など。2010年から母校である吉本総合芸能学院の講師も務めている。2020年12月17日、自身初の本格小説『三人』を上梓
【小沢一敬(おざわ・かずひろ)】1973年生まれ。お笑いタレント、YouTuber、俳優。お笑いコンビスピードワゴンのボケ、 ネタ作り担当。相方は井戸田潤。愛称はオザ、セカオザ
最初はやっぱり、「3人」のお話を。
サノ
今日は「20代の失敗」がテーマです。
桝本さん、小沢さん、徳井さんは、18歳のころからお知り合いで、失敗も含めお互いを知り尽くしてると思うのですが…
まずは、お互いのイメージを教えてください。
桝本さん
僕からしたら、オザ(小沢さん)は「ピーターパン」ですね。
ピーターパン。小沢さん、さっそくちょっとうれしそう
桝本さん
昔も今も、ずっと変わらない。どこで誰といても、裏表がなくて等身大。
ピーターパンもモデルがいるらしいですけど、いつかオザをモデルにした、金髪で声ガサガサの童話の主人公が生まれるんじゃないかってくらい(笑)。
トクイくんは…オザ、どう?
小沢さん
そうねえ、トクイくんは一言でいうと…「火を点けて吸いかけた、葉巻」。
サノ
え?
桝本さん
うん。どういうこと?
「…」
小沢さん
もしくは…「娼婦が作ったスパゲティ」。
桝本さん
なるほどね?教えて教えて?
小沢さん
…こういうのって、「意味」とかあったほうがいいんだっけ?
「それっぽいこと言うんだけどじつは何の意味もない、みたいなのがやりたかっただけ…ごめんね?(笑)」マジOZAWA
小沢さん
真面目に話すと、トクイくんは俺やマスマン(桝本さん)のことを「やさしい」って言ってくれるけど…
トクイくんほどやさしいやつ、いないよね。
桝本さん
そうだね。
もうかれこれ20年以上一緒にいるけど、イラっとさせられたこと1回もないもん。
サノ
えー? それはさすがに言いすぎじゃ…
小沢さん
本当にやさしいの。
俺が一番感動したのはね…
トクイくんがいろいろ大変だったときに、俺、1回だけ「全然俺らに相談しないね」って言ったことがあったのよ。
「普段は“本人が言いたくないことは聞かない”ってスタンスなんだけど、そのときだけは聞いたのね」
小沢さん
そうしたらトクイくん…
「だって…友達に相談した内容がもしマスコミに出回ったとき、『友達から漏れたのかな』って考えるのはイヤやから。友達であればあるほど言わない」って答えたの。
俺たちを疑いたくないから、言わないの。やさしいよね。
桝本さん
たしかにそういうやつだね。品格がある。
余計なことにはクビをツッコまないし、ツッコませない。
小沢さん
彼には、「知らないフリをする美学」もあるしね。
飲みの場でみんなが噂話とか陰口を始めると、「俺その話知らんなあ」って知らないフリを貫いて、輪に入らないの。
持つべき美学だよね、それはね。
それはめちゃくちゃかっこいい
サノ
では小沢さんから見て、桝本さんはどんな方ですか?
小沢さん
マスマンはね、こう言われるのはイヤかもしれないけど…すごく丸くなった。
20代のころは怖かったよ(笑)。飲んでても、「面白いこと言うまで帰さない」みたいな。
桝本さん
嫌なやつでしたよ、ホント…(笑)
20代の僕は、わかりやすくトガってた。それがオザに向いちゃったこともあったし。
たくさん失敗して、少しずつ変わってこれたんですよね。
これはなにやらありそうだ…
自分ばかり見ていた20代…「今振り返ったら、見てらんねえなって」
サノ
桝本さんが20代でした「失敗」って、どんなことですか?
桝本さん
20代あるあるなのかもしれないですけど…
ようは「自分のことしか考えてなかった」んです。
そのせいでまわりにたくさん迷惑をかけたし、敵も作った。
桝本さん
当時、お笑い芸人出身の放送作家ってあんまりいなくて。「俺は面白い」って過信して、会議でも偉い人たち相手にガンガン意見してたんです。
でも、ある日いつものようにガンガン話してたら、気づいちゃって。
先輩の作家さん、プロデューサーさんが、俺が話してる間みんな耳ふさいでるんですよね。
「こうやって頬杖つきながら、親指で耳ふさいでた」
サノ
め、めちゃめちゃ嫌われてる!!
桝本さん
挫折しました。番組のエンドロールに名前こそ出るけど、自分のアイデアは何も使われてないんだもん。
アイデアや企画の良し悪し以前に、話を聞いてもらえる人間になれてなかった。
「語彙力」が大事ってよく言いますけど、20代がまず手に入れるべきは「自分の意見を伝えるための語彙力」じゃなくて、「人の意見を受け取るための語彙力」なんですよね。
耳を傾けないと、相手の心はこっちに傾かない。
サノ
なるほど…
桝本さん
小説にも書きましたけど、「自分が自分が」でたくさん失敗して、いろんなものを失って…
「オザとトクイくんまで失ったら」って頭によぎるところまでいったからこそ、僕は考え方を改められたんです。
「この居場所まで失ったら、俺終わる」って。
小沢さん
でもそれ、俺も似たようなところあったかも。
桝本さん
あら、オザも?
小沢さん
僕は、自分が漫画の主人公で、他の人は登場人物だと思ってるのね。今でもそう思って生きてる。
でも当時は、「まわりなんてどうでもいい」とまで、本気で思っちゃってたんだよね。
サノ
20代の小沢さんにも、「自分のことしか考えてない」時期があったと。
具体的に、何か失敗したことはありますか?
小沢さん
なんだろう、とにかく態度が悪かったらしくて…(笑)。
べつに「てめえ!」とか言ったりしやしないけど、打ち合わせでずっとこうやったりしてたの。
態度悪いって次元じゃない
小沢さん
人の気持ち、想像してなかったんだよね。相手は相手で、自分が主人公の漫画を生きてるって理解できてなかった。
たぶん、あのころの俺の漫画って、スピンオフを1冊も出せないと思うんだよ。自分しか見てないから、俺以外のこと何も描けないの。つまんないじゃん、そんな漫画。
今、20代の俺が主人公の漫画を読んだら、「見てらんねえな」って感じると思う。
「20代は、逃げ場なんて作っちゃいけないと勘違いしてしまう」
サノ
他にも、20代が気をつけるべき「失敗」ってありますか?
桝本さん
うーん…「自分をストイックに追い込むこと」を、正しいと勘違いしてしまうこと。
仕事って、「見せ場」とか「正念場」とか「修羅場」はいっぱいあるのに、「逃げ場」がなかなかないんだよね。20代、これで折れちゃう子がすごく多いと思う。
“逃げ場”を作る大切さに気づけてる子、あんまりいないんじゃないかな。
逃げ場?
桝本さん
俺にとっては、オザとトクイくんが“逃げ場”でした。
「今日こんなイヤなこと言われてさ…」「この仕事マジやってらんなくてさ…」って、思いっきり吐き出せる場所だった。
でも、芸人学校の講師をやっていても、仕事の弱音を吐ける“逃げ場”を持ってる若い子って、けっこう少ないんですよね。
サノ
たしかに、言ったらカッコ悪いと思ってるかもしれません。
桝本さん
そう! “逃げ場”がないというより、「“逃げ場”なんか作っちゃいけない」と思い込んでる。
まあ、逃げず、弱音も吐かず、ストイックに頑張れるやつが先輩に好かれたりするから、若い子もどんどん自分を追い込んで頑張っちゃうんだろうけど…
今その頑張り方で苦しくなってる人には、「もうやめときな?」って言ってあげたい。
サノ
小沢さんはどう思いますか?
「20代はむしろ逃げずに頑張るべき!」という意見もよく聞くと思うんですが…
小沢さん
…少なくとも俺は、嫌なことからは全部逃げてきたよ。
桝本さん
オザは、やりたくない仕事全部断ってるもんな。
いっつも子どもみたいに言ってるからね。「この仕事ヤダよお、菅野さ~~~ん!!(おそらくマネージャーさん)」って。
小沢さん
俺は、仕事と遊びの境目なく生きていたいから…わざわざ「行きたくない遊び場」に行きたくないんだもん。
今日の取材も、マスマンとマスマンのお知り合いの方たちとランチするみたいな気持ちで来てるから。
ランチなんかい
小沢さん
みんな、「逃げちゃダメだ」って言いすぎじゃないかな。
そもそも動物って、逃げ切った種族だけが生き残ってるわけじゃん。人間だけなんで逃げちゃダメなの? もっと逃げりゃいいのに。
相方の(井戸田)潤には本当に申し訳ないよ。潤は1日も休まず働きたいんだから。でも、それでも俺は、これでいいと思ってる。
「失敗しないように」はもったいない。ぶら下げた「失敗の鍵」がいつか「成功の鍵」へ
サノ
ここまで、20代の失敗について聞いてきましたが…
どうすれば失敗を上手に回避できるようになるんでしょうか?
小沢さん
正直、俺は今でも毎日失敗だらけだからなあ。
卵割るとき、殻が入っちゃったり…
失敗がかわいいな
桝本さん
個人的には、「失敗しないように」と考えすぎるのはちょっともったいないなと思います。
傷つかないように、失敗を回避したくなる気持ちもわかるんだけど…
40代になって、「失敗」こそが“成功の鍵”の正体やったんやなとつくづく思うから。
「失敗」こそが、“成功の鍵”…?
桝本さん
40代にもなると、数えきれないくらい失敗してきてるんで、「失敗の鍵」をジャラジャラ腰にぶら下げてるんですよ。
でね、次の未来に進む扉に差し掛かったとき、腰に下げた「失敗の鍵」を鍵穴に一個ずつ当てていくと、たいていはどれかが「成功の鍵」になってるんです。
放送作家の仕事にしても、テレビの視聴率も、「過去の失敗」のビッグデータによって作られてるんですよね。「食事どきに爬虫類出しても数字取れないね」とかね。
サノ
「失敗は成功の母」っていう有名な言葉の通りですね。
桝本さん
だから、「成功」って、「失敗の鍵」いっぱい持ってたやつがたまたまラッキーパンチで開けた扉のこと言うてんちゃうかなって、最近すごく思います。
「若いうちの苦労は買ってでもしろ」なんて美辞麗句を言うつもりは、全然ない。
ただ、俺が見てきた経験則で言うと…大失敗しない人って、日ごろ動き回って小さな失敗をたくさん経験してる人なんですよ。逆に、一つも失敗しないように生きてきた人ほど、大失敗をしたり、失敗したときにポキッと折れたりする。
桝本さん
たとえば、新車を買ったとしますよね。倉庫に入れたままにしておけば、そりゃ凹まないで済みますよ。
でも、いずれ外に出なくちゃいけないタイミングがきたとき、日ごろ運転してる人に比べると大事故になっちゃう可能性は高いと思うんですね。
逆に、小さな事故を経験したことがある人は、車が大破するような大事故は起こしにくくなるはず。
「俺もちょっといいかな」
小沢さん
話を聞いてて思い出したんだけど…
俺、麻雀やるとき、たまに「雑にやるんじゃなく、今日はちゃんと考えて丁寧に打とう」と思う日があるの。
桝本さん
ほう、おもろいな。ほんで?
小沢さん
たとえば、リーチかかった、いつもだったらポンポン、「はいツモ!」とかやってるところを、丁寧にやろうと考えてる日は、「こういう可能性があるな」って、普段なら切れるやつが切れなくなる。
で、帰り道に思うの。「今日俺丁寧にやるつもりが、臆病にやってたな」って。
…!
小沢さん
「丁寧のつもりが、“臆病”になってない?」みたいなこと、すごくあると思うんだよ。
仕事も人間関係も、大事なものほど丁寧にやろうとして、考えすぎて動けなくなったり、慣れないことして裏目に出たりするじゃん。
サノ
ああ、それはめちゃめちゃわかります…
小沢さん
丁寧って、いいことのように聞こえるんだけど…雑なほうが断然「軽やか」だね。
俺も普段麻雀をやるときは、絶対2秒以内に切るって自分で決めてる。雑にやろうと思ってれば、次の一手も案外軽やかに決められるもんなのよ。
「失敗しないように」もいいと思うけど、丁寧にやろうと思うと途端に手や足が止まったりする。もっと雑に軽やかに生きたいよ、俺は。
つまり俺が一番言いたいのは…「大切なことはだいたい麻雀に教わる」。
もう普通に「そっちかい!」ってツッコんでしまいました
終わりに…
サノ
今日はありがとうございました!
3人のことをお聞きしたうえで書籍を読むと、また違って見えて面白そうだなと思いました。
桝本さん
ありがとうございます! そういえば今回の本ね…じつはオザワくんがきっかけなんですよ。
小沢さん
絶対違うじゃん。どういうこと?
桝本さん
俺が小説書こうと思うんだよって言ったらさ、「パンクバンドのファーストアルバムは、自叙伝なんだよ。だからマスマンも自叙伝書いたら?」って一言をくれたでしょ?
小沢さん
…言った(笑)。
小沢さん
俺はどのバンドも1枚目のアルバムが一番好きなの。1枚目のアルバムには、そいつのそれまでの人生全部が詰まってるから。
2枚目は、1年後に出したら1年分の人生しか出せないでしょ。だから、1枚目が一番いいの。
桝本さん
俺はその話を聞いて、それまで書いてた小説を捨てる決心をしたのよ。
それでたどり着いたのが、今回の『三人』。だから、いろいろありがとね。
小沢さん
へえ、そうだったんだ…
そういうのって、俺に印税入るの?
「絶対、イヤ!」おふたりとも最後までらしさ全開で面白かった~!
「失敗」って、ついつい避けたくなってしまうものだと思います。とくに上から評価される機会の多い20代は、一つでも失敗を減らそうと頑張ってしまうことも多いはず。
でも、40代になったおふたりが「20代の失敗」を振り返る姿を見て、少しだけ肩の力が抜けた気がします。
僕も、自分が今両手いっぱいに抱え込んだ「失敗の鍵」が、いつかどこかのドアにつながっていることを信じて、20代を駆け抜けたいと思います!
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
桝本さんの青春小説『三人』が12月発売予定!
芸人6000人を育てた人気作家・桝本壮志さんが若者の生き様を痛切に描いた青春小説『三人』は、12月17日に発売予定!
「情けない自分」「こんなはずじゃなかった人生」と対峙する若者三人の姿が、きっと失敗だらけ・傷だらけの20代の背中を押してくるはず。
気になった方はぜひチェックしてみてください!
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