ビジネスパーソンインタビュー
「音にも、“シズル”があるんです」
次は音の時代!? 「Spotifyを活用した広告アイデア」をビジネス賢人に考えてもらった
新R25編集部
近年、すっかり身近なものになったオーディオストリーミングサービス。なかでも、移動時間や勤務時間、家事タイムに、Spotifyで音楽を聴いているという人も多いのでは?
無料で音楽やポッドキャストを楽しめるSpotifyのフリープランを利用している人なら、曲と曲の合間に流れるSpotifyのデジタル音声広告を聞いたことがあるはず。
ですがこのデジタル音声広告、まだまだ一般的にも認知が低かったり、広告関係者のなかでも活用方法が広まっていなかったりという課題があるそうなんです。
そこで今回は、広告・マーケティング領域において第一線で活躍するビジネス賢人たちに、「Spotifyの広告を活用して、あなたならどんな広告を展開しますか?」「“音”の広告ならではの良さとは?」という2つの質問に回答してもらいました。
辻愛沙子「ながらで聴ける“手軽さ”と、音楽とセットの“深い体験”を両立している」
【辻愛沙子(つじ・あさこ)】株式会社arca CEO / Creative Director。社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の二つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。昨年春、女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。昨年秋より報道番組 news zero にて水曜パートナーとしてレギュラー出演し、作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している。
Q1. Spotifyの広告を辻さんならどう活用しますか?
辻さん
声優さんを起用したボイスドラマ仕立てのコンテンツや、芸人さんを起用した漫才調のコンテンツのように、“聴く人の想像力に委ねた広告”をつくるのはどうでしょう。
もしくは、音声ならではのパーソナルな訴求を活かしつつ、外部の他者へとつなげられる施策もできそうです。
たとえば、赤ちゃんの声を使ったデジタル音声広告。電車内でその広告を聴いた人が微笑んだり笑いをこらえたりするような不思議な瞬間を生みだし、その様子を撮影してウェブ動画を制作するなど展開できそうです。
Q2. 辻さんが考える“音”の広告ならではの良さとは?
辻さん
Spotifyのデジタル音声広告は、朝の準備時間や通勤時間、勤務時間とあらゆるシーンにおけるスキマ時間に、しっかり入り込んできますよね。
コンテンツがあふれる今の時代、メディアが生活者のスキマ時間を獲得する方法は、“何かをしながらインプットできる手軽な情報”か、“映画のような深い体験”を届けるか二極化しています。
そんななか、「ながら」で聴ける手軽さに加え、音楽とセットになることで深い体験を届けてくれるSpotifyのデジタル音声広告はまさに一挙両得。
時間帯やシーンに合わせたサウンドデザインをすることで、朝はパワフル、夜はまったりなど訴求シーンを細分化してつくり込めるのもメリットだと思います。
須藤憲司「聴き手の生活や行動に入り込む広告メニューを開発できるかが重要」
【須藤憲司(すどう・けんじ)】1980年生まれ。2003年、早稲田大学を卒業後、リクルート入社。史上最年少(当時)で、リクルートマーケティングパートナーズ執行役員に就任。2013年、アメリカでKaizen Platform社を起業。著書に『ハック思考』(幻冬舎)、『90日で成果をだす DX入門』(日本経済新聞出版社)
Q1. Spotifyの広告をスドケンさんならどう活用しますか?
スドケンさん
僕なら、デジタル音声広告のメニューをいくつか用意し、パッケージを再編して販売していくと思います。
例として3つ挙げるなら、まずはアーティストや、Podcast配信者、YouTuberといった表現者向けのコンテンツ連動広告メニュー。YouTuberが話しかけるような広告や、とある曲が流れた後に同じアーティストの新譜やライブの告知をしてもらうというものです。(※現状は個別アーティストのリスナーセグメントは不可)
2つ目は、声優さんを起用したアニメや映画の広告メニュー。実際のキャラクターの声で作品の告知をしてもらいます。
3つ目は、位置情報と連動して、飲食店やお出かけスポットの関連の広告が出てくるローカル連動広告メニュー。飯テロを音で再現したり、温泉を彷彿とさせる音で旅情を呼び起こしたりできるといいですね。バスの停留所や電柱にある「○○まで何メートル」という案内広告として活用するのもニーズがありそうです。
Q2. スドケンさんが考える“音”の広告ならではの良さとは?
スドケンさん
運転中や移動中の「ながら」に広告が自然に入り込めること、そこに偶発性があることは、音の広告ならではの良さですよね。
そういう意味では、いかに聴き手の生活や行動にするっと入り込む広告メニューを開発できるかが、非常に重要だと思います。
少し残念なのは、まだSpotifyに入稿されている広告の種類が少なく、同じデジタル音声広告が当たってしまうこと。
テクノロジーを活用して再生中の曲や現在地に連動した広告を開発していけると、おもしろがってくれるユーザーや広告主が増えていくのではないでしょうか。
中村洋基「Spotifyの広告は“ターゲティングできるラジオCM”である」
【中村洋基(なかむら・ひろき)】(株)電通で斬新なアプローチのデジタル広告を手がけ、2011年PARTY設立。ヤフーMS統括本部ECD、電通デジタル客員ECD兼任。国内外300以上の広告賞受賞歴がある。TOKYO FM「澤本・権八のすぐに終わりますから」司会、TINTO COFFEE運営
Q1. Spotifyの広告を中村さんならどう活用しますか?
中村さん
Spotifyのデジタル音声広告は「ターゲティングできるラジオCM」と考えるとよさそうです。
そもそもラジオCMの良いところは、テレビのように不特定多数に向けた体験ではなく、なぜか「私のために語りかけてくれている」とリスナーが感じられること。これは「自分にだけ優しい」と思わせる手法で、「銀座のママ理論」なんて言われたりします。一方で、聴取ユーザーをあまり限定できないことがネック。
その点Spotifyの広告は、ラジオCMの弱点を補ってストロングポイントをより強化しています。年齢・性別・音楽ジャンル・プレイリスト(チルアウト、ワークアウト、通勤中など)というターゲティングによって、「通勤中にレゲエを聴いてる26歳女性」に直接語りかけるコンテンツも考えられます。
広告が面白すぎてプレミアムプランに乗り換えられないというユーザーも出てきそうですね。
Q2. 中村さんが考える“音”の広告ならではの良さとは?
中村さん
以前、全国紙の新聞5紙を使って、音声と連動した広告をつくりました。
QRコードをスキャンすると、新聞上に掲載されている某アイドルグループのメンバーがしゃべりだすというもので、さらに2紙、3紙と集めていくと、メンバーのメッセージも変わって、お互いにしゃべり合うんです。予想通り、売り切れ続出となりました。
音は、静的なコンテンツに感情を与えてくれるだけのアクセントではありません。価値あるコレクション対象になったり、刷り込みができたり、ユーザーがマネすることで流行したりと、いろんな可能性を秘めていると思います。
田端信太郎「無意識に入ってくる“刷り込み効果”で、自然と記憶に残る」
【田端信太郎(たばた・しんたろう)】1999年にNTTデータへ入社。リクルートに転職しフリーマガジン『R25』を立ち上げる。2005年にライブドア執行役員メディア事業部長に就任し、LINEの上級執行役員などを経て、2018年からスタートゥデイ(現ZOZO)コミュニケーションデザイン室長として活躍。2019年末にZOZOを退社し、現在はベンチャー企業数社のマーケティングやPRの顧問を務める。著書に『これからの会社員の教科書』(SBクリエイティブ)などがある
Q1. Spotifyの広告を田端さんならどう活用しますか?
田端さん
プレイリストのムード(チルアウトやワークアウトなど)や、音楽ジャンル(J-popなど)をもとにターゲティングできるのはメリットですよね。
企業もブランドイメージに合う人に訴求できますし、ユーザーとしても好きなミュージシャンとイメージが近いブランドアイテムを紹介されたら欲しいと思うはず。
活用イメージとしては、ユーザーの好みに合わせたライブやフェスの開催情報を流したり、アーティストが歌うテレビCMの曲を商品やサービス訴求のセリフ付きで再生させたりするのはどうでしょう。
楽曲と連動させたデジタル音声広告なら、ユーザーも違和感なく楽しめると思います。
Q2. 田端さんが考える“音”の広告ならではの良さとは?
田端さん
音声による「刷り込み効果」はすごく大きいと思いますね。
電車の中吊りのような視覚的な広告は意識しないと見ないですが、デジタル音声広告なら自然と入ってくる。料理中や車の運転中など、両手が塞がっている状態でも耳には届きます。
ちなみに僕は高校生の頃、よくベッドのなかでイヤホンでラジオを聴いていたんですが、いまだに覚えているCMソングやサウンドロゴもあるんですよ。
同じデジタル音声広告が繰り返し流れるのを聴いていると、耳に残りやすくなるところがメリットですよね。
明石ガクト「動画にはない没入感と、つい商品や企業を好きになってしまうシズル感」
【明石ガクト(あかし・がくと)】ワンメディア株式会社代表取締役CEO。共感を生むストーリーテリングをベースに1500本以上のスマートフォン向け動画をプロデュース。2020年7月に「動画の世紀 The STORY MAKERS」を出版。情報番組やバラエティ番組にもコメンテーターとして出演
Q1. Spotifyの広告を明石さんならどう活用しますか?
明石さん
僕はこれまで動画をつくってきましたが、来年は音声もつくろうと考えていたんです。というのも、動画と並行して音声のクリエイティブで地続きの世界観を表現することで、目と耳の両方から世界観を刷り込むことができるからです。
そもそもSpotifyはユーザーが習慣的に毎日聴くものですよね。
会社に行くまでの時間や寝るまでのリラックスした時間など、毎日のルーティンにスッと近い距離感で入ってくるので、商品や企業を好きになるきっかけを作りやすい媒体。毎日の習慣に入り込める広告はすごく魅力的だと思います。
Q2. 明石さんが考える“音”の広告ならではの良さとは?
明石さん
動画の場合は視聴場所によって視覚的なノイズがあるのに対し、イヤホンで聴く音声の場合は、その音しか聞こえないので没入感がすごいんです。
業界では没入感を表す「イマーシブ」という言葉が流行しているのですが、「イマーシブ型」の広告を目指すうえでも、デジタル音声広告はこれから伸びていくと予想しています。
ちなみに、動画や写真を見たときの「おいしそう」や「綺麗」という感覚を「シズルがある」と表現するんですが、音声にもシズルがあるんです。肉がジューッと焼ける音とか、ささやき系の甘い言葉とか、イヤホンの進化で音声の解像度もだんだん上がっているので、より染みる音をつくれますよね。
そんなシズルのある音声表現を浴び続けたら、絶対にその商品や企業を好きになっちゃうと思いますね(笑)。
「デジタル音声広告はこれから伸びていくのでは」という明石さんの言葉をはじめ、それぞれの広告アイデアや意見から、今後のポテンシャルを感じる「デジタル音声広告」。
そう遠くない未来に、位置情報に応じた飲食店の紹介や、個々のニーズに合わせたライブ情報、新人アーティスト紹介など、よりワクワクする広告が流れるかも?
今後Spotifyを聴くときは、楽曲の合間に流れるデジタル音声広告にも注目してみてください!
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