

楠木健・山口周著『「仕事ができる」とはどういうことか?』より
センスを磨くには“3つの意識”を持て。島田紳助が「努力するな」と語った理由
新R25編集部
「『仕事ができる』ようになるためには、スキルよりも“センス”が必要」
経営学者であり、一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻教授の楠木建さんと、電通、ボストンコンサルティンググループで組織開発などに従事してきた山口周さんの対話集である『「仕事ができる」とはどういうことか?』の主張です。
つい、スキルを磨くことばかりに目が向けられがちですが、そもそも仕事に対する“センス”がないと、ビジネス力を上げることは難しいと2人は言います。
仕事ができるとは、一体どういうことなのか?
新時代の仕事論について、同書から2記事を抜粋してお届けします!

戦略のない努力はするな!
山口:2011 年に芸能界を引退された島田紳助さんが、吉本の若手に対して明確に言っているのは「努力するな」ということなんですね。
その発言がDVD(『紳竜の研究』2007年製作/アール・アンド・シー)にも残っているんですけれど、ここで言う努力とは漫才やコントの稽古ということですね。
若手は不安でしょうがないのでじっとしていられない。すると何をやるかというと、やたらと漫才の練習をしちゃうわけです。
だけどそんなことは紳助さんに言わせたら順番が違うと。
「どうやったら売れるか」という戦略のないままにひたすらに漫才の稽古をする、そんな不毛な努力をするならまずは「笑いの戦略を立てろ」と紳助さんは言っている。
お笑いというのはマーケットであり、実は競合がいるんだと。
紳助さんの当時だとB&Bだとかツービートだとかオール阪神・巨人といった面々がいるなかで、彼らがお笑いのマーケットでどういうポジショニングを取っていて、自分の笑いのセンスや見た目だったら、誰のポジションの近くだったら取れるか、芸能界でどこのポジションが狙えるのかと、それだけを考え続けろと言っているんですね。
楠木:なるほど。
山口:紳助さんが実際に何をやったかというと、まずは売れている芸人の漫才をすべて録
音して書き起こして、どこでどうボケて、どうツッコミ、どういう種類の笑いを取っているのか、ということを分析していく。
すると「落ちのパターンは8割一緒」「つまらないネタを直前に入れると面白いオチが光る」といった具合に言語化が可能になるんですね。
紳助さん自身は「お笑いには教科書がなかったので自分で教科書をつくろうと思った」と言っていますけど、もう完全に笑いの経営学なんです。
だけど、それをほかのみんなはやらない。なぜかというと、努力していると安心するからです。
楠木:鋭い。
山口:漫才の練習をしているとなんとなく前に進んでいるような気がして安心する。確かに、それで多少は漫才がうまくなるということもあるでしょう。
ですが、自分がお笑いタレントとして本当の意味での生きていく場所を見つけないことには、職業として続けていくことはできないわけです。
紳助さんの場合、その努力のレイヤーというか、努力の質がほかの芸人さんたちとは違っていたと思うんですね。
楠木:だからスキルを身につけていく努力と、センスに至るまでの…それを努力と言うかどうかは別にして、そこはやっぱり違いがあると思うんですよね。
山口:「センスに磨きをかけていく」という、やっぱり紳助さんが言っているのもそこにつながることだと思うんです。
だから、自分の持っている間合いとか、話し方とか、見た目とか、お笑い芸人として自分をどうプロデュースするか、という視点ですよね。
自分自身はどこだったら勝てるのか、それをもう意図的に自分らしさを磨いていくということが、ほかの人から見たら努力に見えないかもしれないけれども、そっちのほうが本当の努力なんだと。
だから、お笑いタレントとして一流になりたければ、「ひたすらに漫才の練習をする」というわかりやすい努力ではなく、その上位のレイヤーにある「お笑い芸人としての戦略を考える」という努力をやりなさいということを言っているんですが、これはお笑い以外の世界で生きている、私たちのようなビジネスパーソンにとっても示唆に富んだ話だなと思うんですよね。

センスを磨く、日常の3つの意識
楠木:1年目は相手が知らない人でも誰でも「おはようございます」「ありがとうございました」、何か言われたら「はい」。もうこれが最初に必要な能力の8割ですね。
そして2つ目が「視る」ということ。「これは!」と思う仕事ができる人を決めてずっと「視る」。
「視る」というのは、漫然と眺めているというよりは自覚的に視る、“視破る”というニュアンスです。
それで「なんでこの人はこういうことをこの局面でして、なんでこういうことはしないのか」ということを、答えがわからなくても常に考えていろと。
もう全部が文脈に組み込まれていることですから。
そして3つ目が、僕はこれ、仕事の基本だと思っているんですけど、「顧客の視点で考えろ」ということ。
取引先というだけではなく会社の中にもお客さんはいて、「相手が自分に何をしてもらいたいのか」「あの人は何を欲しているのか」ということをまず考えてから、それに向けて仕事をするのがいい。この3つを最初の年に言ったんですね。
この3つは全部センスに深くかかわっていると思うんですよ。
1年目から「エクセルでこれができなきゃダメだ」とか「英語はこのぐらいできるようになれ」なんてことを言ってもあんまり意味がない。
それは自然とフィードバックがかかるんです。
スキルの重要な特徴として、TOEIC が300点だと、やっぱりさすがにもうちょっと英語を勉強しようかなという気になるものでしょう。だから放っておいてもいい。
ところが、センスはフィードバックがかからないので、ない人はないままいくことになる。これがセンスの怖いところ。
なぜかと言えば、センスのない人はそもそも自分にセンスがないということがわかっていないんですよね。
だから洋服のセンスがない人はいつまでたってもない。フィードバックが自然にはかからないから。
山口:フィードバックに気づくということ自体がもうセンスですからね。
楠木:そうですよ。だからセンスを身につけるためには、本人が気づいていないようなところで第3者の助言が有効になると思うんです。

身近な人を「見て真似る」でセンスを定着させる
楠木:「努力」という言葉を使っちゃうと第2レイヤーの努力(一般の人が行いがちな努力のこと)と混同されてしまいそうなので、仮にそれを「錬成」、錬り上げていくという言葉を使って区別しておきますが、錬成の非常に古典的な方法というのは、さきほども少し触れましたが、修行ですね。
つべこべ言わずに10年、まずこれをやれと。
そこにはロールモデルとしての親方がいて、日本料理の世界でも「なんとかの上にも3年」というのがあるじゃないですか。あれも最近は評判が悪いですよね。
確かに、それはそれで無駄な面もいっぱいあるんだけれども、やっぱりやむにやまれず定着した方法でしょう。
センスの錬成において、事後性の克服方法としてやっぱりわりと強力なんですね。
ただ本来的な意味での修行ということになると強制力が働かないとなかなかできない。究極になると禅寺みたいなことになっていく。
山口:禅で言うところの「只管打坐」ですね。つべこべ言わず、ただひたすら壁に向かっ
て座っていろ、みたいな。
楠木:そういう修行となるとちょっと一般性がないんですが、全員で生活を共にするというのは大いに理由があることだと思うんですね。
センスというものの本来の性質に戻ると、きわめて総体であり、全体であり、総合的なものなんですよね。
ということは、裏を返すとセンスというのはその人の一挙手一投足すべてに表れていると思うんですよ。
プレゼンテーションのスキルを学ぶとなれば、観察する対象がプレゼンテーションをしてくれていないと学べないんですね。
その人がプレゼンをしているところを見ないと意味がない。
ところがセンスについては、ひとつ有利な面があって、それはセンスがある人の一挙手一投足、メモの取り方、商談相手への質問の仕方、会議の取り回し方、そしてデスクの配置、ご飯の食べ方、鞄の中に何が入っているのかというところまでも含めた、そのすべてにセンスが表れている。
だから一緒にいれば、なんでも学びになるわけです。
確たるセンスを錬成する方法はないし、人によってそのセンスのあり方も千差万別なので標準的な習得方法はないのですが、センスがある人が身近にいればその人をよく視る。
これがいちばん手っ取り早いセンスの錬成法ですね。大切なのは「全部視る」ということ。
これをある種、方法化したのが「カバン持ち」とか「書生」みたいなシステムだと思うんです。
修行よりもちょっとソフトですが、同種のロジックに依拠している。
「仕事ができる」を言語化してくれる、ビジネスパーソンの必読書
目の前の仕事をこなすことに精一杯で、「まわりが見えていない…」なんて人も多いはず。
自分がまわりからどのように見られていて、相手はどんな人なのか、俯瞰して考えることが、“できる”ビジネスマンになるための第一歩かもしれませんね。
「仕事ができる人」を多角的に分析した同書を読んで、自分のキャリアの糧にしましょう!
〈撮影=清水健〉

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