ビジネスパーソンインタビュー

「指示しなくても人を動かせる人が強い」えとみほが失敗から学んだマネジメント論

IT企業創業→サッカークラブという異色のキャリア

「指示しなくても人を動かせる人が強い」えとみほが失敗から学んだマネジメント論

新R25編集部

2019/09/11

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えとみほさんというマーケターを知っていますか?

Googleなどを経て、写真素材のプラットフォーム「Snapmart」を創業。昨年からは、なんとスポーツ業界に転身し、J2のサッカークラブ「栃木SC」のマーケティング戦略部長に就任したという、スゴ腕の経歴を持つこの女性。

ツイッター上でのマイルドながら核心を突いた発信を、目にしたことがある方も多いかもしれません。

【えとみほ】テクニカルライターとして活動したのち、2004年にコンテンツライセンス管理会社を創業。「禁煙セラピー」の普及などを手がける。その後Googleなど複数社を経てオプトに入社。Webメディア『kakeru』編集長に。2015年には、写真素材のプラットフォーム「Snapmart」を立ち上げる。2018年から、サッカークラブ「栃木SC」へジョイン。現在、取締役マーケティング戦略部長を務める

現在は栃木県在住だというえとみほさんが東京にいらっしゃったタイミングで、取材の機会をいただくことができました。

今回は、創業社長、会社員、スポーツクラブの部長など、さまざまな立場でチームを動かしてきたえとみほさんの「マネジメント論」を聞いています!

最近チームリーダーを任せられるようになった…というR25世代は必見ですよ~

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉

37歳まで会社員経験がなく、最悪のマネージャーだった

天野

えとみほさんはジャンルを横断した数々の企業で活躍されてますよね。その経験をもとに、「マネジメント」について教えてほしいんです。

えとみほさん

私、今でこそツイッターでマネジメント論とか語ってますけど、もともとまったくマネジメントができない人だったんですよ(笑)。

そうなんです?

えとみほさん

経歴的に、フリーだったり社長だったり…。はじめて会社員になったのが37歳になってからだったので。

「禁煙セラピー」っていうのを広める会社の社長だったときは、「社長は何もわかってない」って言って辞める人が続出するみたいな感じで。

天野

今の感じからは想像もつかないです。

えとみほさん

一方的に「こうしなさい」「頑張りなさい」みたいなことを言って、相手は本当はなにもわかっていないのに「ハイわかりました…」みたいな最悪のコミュニケーション(笑)。

“会社員のモチベーション”がわかってなかったんですよね。なので、その失敗経験を踏まえた内容ならお話しできますよ。

それは期待できそうです!

デキるマネージャーは、「ノンバーバルの力」がすごい

えとみほさん

まず、マネージャーの一番大事な仕事が何か?といえば、私は「思いついたことをパッと言えるような空気づくり」だと思ってます。

天野

空気づくりね…よくそう聞くんですが、難しくないですか? どういうことを言って空気をよくすればいいんでしょうか?

えとみほさん

いや、マネージャーに言葉はいらないんですよ。

天野

え。

えとみほさん

昔働いてた会社の社長さんが、すごく人を動かすのがうまい人で。

部下が、目標を達成できなかったとか、ミスしたとか、よくない報告をするじゃないですか。怒られるかなと思っても、怒られないんです

ただ…

天野

ただ?

えとみほさん

ひたすら“心底ガッカリした顔”をするんですよ。

言葉では「よく頑張ったよ」って言うんですけど「ハア…」って(笑)。そうすると、部下としては詰められても責められてもないんだけど、ものすごく申しわけない気持ちになるんです。

で、社長のそんなにガッカリした顔を見たくないから自然と「頑張らなきゃ!」ってなるんです。

天野

へえ~! 顔!

えとみほさん

今思えば、私が全然マネジメントをできてなかったときは、一生懸命言葉で人を動かそうとしてたんですね。

でも、「ガッカリする」とか「喜ぶ」とか、心の底から感情的になるほうが、人を動かせるんですよね。ノンバーバルの力ってすごいんですよ。

天野

なるほど…。これからは「表情」を意識してみます!

デキるマネージャーは、「役者」である

天野

でもそういう振る舞いって、「やってみよう」と思ってもなんか不自然というか、「ムリしてやってんな」みたいになっちゃうんですけど…

えとみほさん

そうですね、本心じゃないのは見抜かれますね

仕事がデキる人って、そのへんのコミット力がすごいと思うんです。自分すらもダマせてしまう。デキるマネージャーは「役者」なんですよ

また面白そうな話が…

えとみほさん

つまり、いろんなものを憑依させることができる

私がGoogleで働いていたとき、Tさんという女性がいたんです。彼女は、いろんな寺社仏閣を撮影しないといけないっていう難しい仕事にアサインされてたんですけど…

天野

Googleってそんな仕事があるんですね。

えとみほさん

私がプロジェクトに入ったとき、すでに彼女はその仕事をやってたんですが、めちゃめちゃお寺にくわしくて。てっきり、寺社仏閣マニアの人を採用したのかな?って思ってたんですけど、実際にはそれまで全然寺社仏閣に興味がなかったらしいんです。

でも、めちゃくちゃ調べて、お寺や神社に対する愛着というか熱量がすごい人になっていた。気づいたらまわりの人もどんどん巻き込まれていって

天野

趣味みたいにのめりこむことで、チームを引っ張っていったと。

えとみほさん

そうそう。メンバーが有名なお寺の撮影許可を取ってきたら、本当にうれしそうに大喜びするんですよ。

で、さらにすごいのが、最終的には「京都に住みます!」って移住しちゃったんですよねよ。

東京から行って話してても、京都のお寺の人には信用されない。何より自分がもっとお寺の近くに住みたい、と。結果的に地元のコミュニティに入り込んで、撮影のプロジェクトを成功させたんです

天野

すごすぎる…

えとみほさん

その人がさらにすごいのは、寺社仏閣のプロジェクトからが終わって“東北の震災復興プロジェクト”に部署異動になったんですけど、そしたらもうお寺のことなんか忘れたように東北のことばっかりまわりに喋ってるんです。

あんなに寺、寺言ってたのに!」って感じ(笑)。

完全にダマされたって。とんでもない「役者」なんですよ。

デキるマネージャーは、チームに夢を見させる

天野

あと、少し前にえとみほさんがツイッターで「若者を自走させるには」という内容を書いてたじゃないですか。あれについてもくわしく教えてほしいんですが…

えとみほさん

自走させるには、ワクワクさせること。

そのためには、「夢を見せる」ことですよね。

えとみほさん

「自分たちの仕事がうまくいったら、こんな景色を見られるんだ」というものを具体的に見せるのがいいと思います。

天野

具体的に見せる…

えとみほさん

たとえば、この前ウチの栃木SCが、天皇杯でJ1のビッグクラブ・鹿島アントラーズと対戦したんですね。そしたら、鹿島のサポーターが大挙してスタジアムに来るわけですよ。

もうすごい熱気で、「J1に上がったら、毎試合こんなすごいのか!」ってスタッフもワクワクしてましたね。

天野

「夢を見せる」って話でいうと、よく会社のキックオフミーティングとかで、リーダーがビジョンや目標を語るじゃないですか。

あれもうまく空気をつかまないと、上滑りして“恥ずかしい感じ”になっちゃいますよね…

えとみほさん

それもあるあるですね。

さっきの「言葉はいらない」と少し矛盾するんですが、そういうときはツイッターが使えるんですよ。

天野

ツイッター?

えとみほさん

面と向かってみんなの前で言うのはハードル高いし、お互い“照れ”があるから素直に聞いてもらえない可能性もある。

でもSNSなら暗闇に向かって語ってるようなものなので(笑)。自分のゆずれないポリシーだとか、仕事のこだわり、将来会社をこういうふうにしていきたい、みたいな話もできます。

最近発信したのは、これですね。

「“プロモーションの施策って、1回やって終わりでは意味がない”ということを伝えたくて」とのこと

えとみほさん

「メンバーの誰かに向けて」っていうわけではなくて、あくまで「自分のベーシックな思想を発信する」っていうことがキモなんですよね。

個人に向けて言ってると勘違いされると傷ついちゃう人も出てくるんで、“現在進行形で起こっている問題については話題にしない”とかいった配慮も必要です。

天野

IT企業の社長が、ブログでメッセージを発信したりしてるのもそういう意図だったのか…

ちなみに、えとみほさんがツイッターに書くと、チームメンバーはみんな見てるんですか?

えとみほさん

「見てる」とは誰も言わないですし、「いいね」もほとんどつかないんですが、なんとなく見てる気はするんですよ。

会議で「江藤さんがこの前言ってましたけど…」って言われたんだけど、それツイッターで書いてたことじゃない!?みたいな(笑)。

栃木SCの皆さん、バレてるっぽいです

えとみほさん

マネージャーに必要な要素はいくつかありますが、やはり姿で見せることが大事なのかなと。

たとえば「残業しないで帰りなさい」というメッセージを伝えたいなら、私はまず自分が早く帰ります。昔、これもGoogleのときの上司なんですが、7時に来て17時に帰る女性マネージャーがいて、すごく働きやすかったんです。

その人の真似をしていたら自然に朝4時に目が覚めるようになりました

天野

はっや!!

えとみほさん

最近は夜中の2時ぐらいに目が覚めるんですよ。

天野

やはり、事業にコミットしてるマネージャーは自然とそうなるんでしょうか…!?

えとみほさん

いや、それは年のせいだと思いますけど(笑)

まあ、一貫して伝えたいのは、「人に何か指示して動かす」より、「自らの態度や普段の働き方で、自然に人を動かせるような人は強い」ってことですよね。

いまの世の中「ありのままの自分」でいるのがよしとされる風潮がありますけど、マネージャーに限ってはそれじゃダメなんじゃないかな、って気はしています。

普段えとみほさんのツイッターを見ていて、「学びのあるお話を聞けそうだな」と思っていた予想は大当たりでした…!

しかし、まだまだ聞きたいことはたくさん。

ということで、9月17日(火)公開の後編では、現在の本業である「マーケティング」についてお伺いしています!

期待してお待ちください!

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉

えとみほさんの活躍は、こちらをチェック!

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