ビジネスパーソンインタビュー
キャリアにも影響するかも!?
夫婦別姓にはどんなメリットが? 訴訟を起こしたサイボウズ・青野社長に疑問をぶつけた
新R25編集部
目次
- 意外と多い夫婦同姓(改姓)のデメリット
- 夫婦同姓のデメリット①:面倒な変更手続きの山
- 夫婦同姓のデメリット② 仕事の成果がゼロになってしまう恐れも
- 夫婦同姓のデメリット③ ホテルや飛行機の予約名が違うと利用できない
- 夫婦同姓のデメリット④ 本人確認が滞り、子どもが危ない目に遭う恐れも
- 選択的夫婦別姓にデメリットはない? 批判をぶつけてみた
- 批判① 夫婦が別姓になると、家族の絆が崩れてしまうのでは
- 批判② 子どもの姓の取り合いになるのでは?
- 批判③ 日本の伝統が失われるのでは
- 批判④ 制度を変えなくても、事実婚で別姓を実現できるのでは?
- 「ニュー選択的夫婦別姓訴訟」ってどんな裁判?
- なぜ青野社長が「ニュー夫婦別姓訴訟」の原告をやることになったのか
- 今回の裁判はなぜ敗訴したのか。裁判所側の主張は?
2019年3月25日、結婚後に別姓を保つことも選べる「選択的夫婦別姓」の実現を求める「ニュー選択的夫婦別姓訴訟」に東京地裁が判決を下しました。その判断は「現行制度は合憲」。
サイボウズの青野社長を代表とする原告側は、控訴(上級裁判所へ不服の申し立てをすること)する予定だという。
さまざまなメディアで話題になっていますが「名字が変わるくらい、何が問題なんだろう」「結婚はまだ先のことだから」と、R25世代にとってあまり身近に感じられていないのが正直なところ。
そこで原告代表の青野社長に、選択的夫婦別姓のメリットやデメリット、訴訟の内容などを伺いました。実はこの問題はキャリアにも影響があるようで、意外と他人事ではないかも…。
【青野慶久(あおの・よしひさ)】サイボウズ株式会社代表取締役社長。1971年、愛媛県生まれ。1994年に大阪大学を卒業後、松下電工株式会社(現パナソニック株式会社)へ入社。1997年にサイボウズ株式会社を設立し、取締役副社長に就任。2005年に代表取締役社長に就任した。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)など
意外と多い夫婦同姓(改姓)のデメリット
葛上
青野さんはご結婚されたときに、奥様の姓に変えているんですよね。
青野社長
はい。妻から「姓を変えたくない」と要望があったので、あまり考えずに私が変えることにしました。現在も仕事では旧姓の「青野」を使用していますが、戸籍上は「西端」です。
葛上
姓を変えたことで夫婦同姓による不都合を感じたそうですが、具体的にどのような点で苦労したのでしょう?
青野社長
いくつかあるので、順番にお話しますね。
夫婦同姓のデメリット①:面倒な変更手続きの山
青野社長
保険証や免許証、銀行口座や株式の名義、パスポートなどの氏名変更手続きの山は面倒でしたね。
財布の中に入っているすべてのカードに加え、ネット上の契約など、ありとあらゆるものの氏名を変更しました。
葛上
うわあ、面倒くさそう…。
青野社長
市役所に行って住民票を取ったり、有給を取って銀行に行ったり、いくつもの手続きが重なると膨大な時間と手間がかかります。
望まない改姓のために、本人だけでなく、それぞれの窓口の人たちの時間も奪ってしまうのは、もったいないことですよね。
葛上
手続きの面倒くささに関しては、はあちゅうさんも同様のことをおっしゃっていて、それを理由に事実婚を選ばれたようですね。
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結婚直前には別れていた期間もあった!?
ご結婚ついての取材で、夫婦同姓のデメリットについて語られています。
夫婦同姓のデメリット② 仕事の成果がゼロになってしまう恐れも
青野社長
姓が変わると、キャリアにも影響があるんですよ。
葛上
どういうことですか?
青野社長
たとえば研究者の場合は旧姓の利用があまり認められてないんです。だからたくさん論文を発表していても、姓が変わったら自分のものだと気づいてもらいにくくなりますよね。
改姓によって、仕事で生み出した成果や知名度などがゼロになってしまうリスクがあるんです。
葛上
それは恐ろしい…。フリーで活動されている方なんかには、特に致命的ですね。
夫婦同姓のデメリット③ ホテルや飛行機の予約名が違うと利用できない
青野社長
海外出張のとき、まわりの人が気を利かせて飛行機やホテルを予約してくれるんですけど、たまに「青野」で予約しちゃうことがあるんです。
でもパスポートは「西端」なので、チェックインしようとしたらスムーズにいかなくて。戸籍上の名前が違うと、自分が「青野慶久」だと証明するのって難しいんですよ。
葛上
あーなるほど。仕事で通称を使っている方ならではの苦労ですね。
青野社長
なので毎回わざわざチェックする手間が発生しています。
夫婦同姓のデメリット④ 本人確認が滞り、子どもが危ない目に遭う恐れも
青野社長
仕事と戸籍上で名前を使い分けていると、銀行や公的機関から「西端さんいますか?」と会社に連絡が来ても、つないでもらえない可能性だってあります。
すると「子どもが急に熱を出した」と保育園から連絡があっても、スムーズな対応ができないかもしれません。そんなふうに緊急時のリスクが高いのは不安ですね。
葛上
名前が違うだけでそんなリスクもあるなんて、想像できてませんでした。
青野社長
そのほかにも、代表的なデメリットにはこんなものがあります。
〈夫婦同姓による代表的なデメリット〉
・精神的苦痛を感じる人もいる
名前は姓と合うように、意味や響きなどを考慮してつけられたもの。自分の姓名を気に入っていて、強制的に改姓されることに精神的苦痛を感じる人もいます。
・プライバシー情報が漏れる
改姓やそれに伴う旧姓の併記によって、婚姻状況が周囲にわかります。特に離婚時に苦痛の原因になりやすい。EUでは、婚姻状況はプライバシー情報として保護対象になっています。
・システム改修コストがかかる
マイナンバーカードに旧姓を併記するためのシステム改修費用として、
総務省は100億円を平成29年度の補正予算案に計上していました
。夫婦別姓であれば必要のないコストです。
・日本のブランドイメージが棄損される
夫婦同姓制度は、日本が1985年に批准している「女子差別撤廃条約」に違反しているとして、国連の女子差別撤廃委員会から何度も法改正の勧告意見を出されています。海外のほとんどの国では、夫婦別姓の選択が可能です。
選択的夫婦別姓にデメリットはない? 批判をぶつけてみた
葛上
現状の不都合を解消できるとはいえ、選択的夫婦別姓制度には反対意見も寄せられていますよね。そのあたりについてどうお考えか伺いたいです。
青野社長
わかりました。
批判① 夫婦が別姓になると、家族の絆が崩れてしまうのでは
葛上
夫婦が別姓になることで家族の絆が崩れるのでは、なんて批判もありますが…?
青野社長
この点については2つ反論があります。
まず1つは、すでに同様の状況が起きていること。別姓のために事実婚を選ばれている方もいれば、法律婚をしているけれども通称利用というかたちで日常生活では別姓を名乗る方などもいます。
なので、家族の別姓は選択的夫婦別姓制度によって生まれるわけではありません。
葛上
なるほど。
青野社長
2つ目は、家族が別姓になったからといって、必ずしも家族の絆が崩れるわけではないということ。
現状でも外国人と結婚した場合は別姓が認められていて、たとえば福原愛さんは旦那さんと別姓です。でも決して不幸そうには見えないですよね?
葛上
むしろとても幸せそうな家庭に見えますね。
青野社長
僕も子どもから「青野慶久」だと捉えられていますが、特に問題はありません。姓が違うくらいでは、家族間の関係に大きな影響はないんですよ。
批判② 子どもの姓の取り合いになるのでは?
葛上
夫婦別姓を選んだ場合、どちらかの親が子どもの姓と異なる状況になりますよね。「子どもの姓の取り合いになる」という批判についてはどう思いますか?
青野社長
子どもの姓の取り合いが起きるとすれば、今だって同じようなことが起きてるはずですよね。結婚時に同姓にした時点で、子どもの姓も決めてるわけですから。もちろん自覚はないとは思いますが。
批判③ 日本の伝統が失われるのでは
葛上
日本の伝統が失われてしまうのでは、という懸念についてはどうでしょう?
青野社長
僕はそういう人に 「そんなに伝統を大事にしたいなら、ちょんまげにしなさい」って言っています。
葛上
ちょんまげですか(笑)。
青野社長
時代は変わっていくんだから、僕たちも伝統の中から取捨選択し、変化していかないと。
もちろん伝統自体が悪いわけじゃないんですが、別の選択肢も許容すべきだと思います。
たとえば日本の伝統である相撲をするのはOKで、野球は禁止になってたらおかしいですよね。
批判④ 制度を変えなくても、事実婚で別姓を実現できるのでは?
葛上
実質的な夫婦別姓って、青野さんのように通称を使う以外でも「事実婚(婚姻届を出さずに共同生活を営む)」として実現できますよね?
青野社長
形式上は可能ですが、現状では一般的な結婚である「法律婚」に比べてデメリットが多いんですよ。
たとえば税金面の優遇制度が適用されなかったり、病院で配偶者として認めてもらえず、大事な手術をするかどうかのサインもできなかったりというケースがあります。
葛上
うーん…それは困りますね。
正直なところ、いただいた反論にけっこう納得できてしまったんですが、これはつまり批判が的外れってことになりますか…?
青野社長
いえ、そんなことはありません。極めて正常だと思いますよ。
葛上
どういうことでしょう?
青野社長
反対する人たちが抱いているのは、何かが変わってしまうのではないかという不安。僕だって、経験のないことが起こるのは不安です。
そういう方に伝えたいのは、選択的夫婦別姓制度が実現したところで、言ってしまえば大した変化は起きないということ。すでに別姓の家族はたくさんありますし、「選択的」なので今までのように同姓も選べます。
僕らはこうして取材などでお話しして、不安を解消していかないといけませんね。
「ニュー選択的夫婦別姓訴訟」ってどんな裁判?
葛上
青野さんたちは2018年1月9日に「ニュー選択的夫婦別姓訴訟」を起こしましたよね。
この裁判で求めていることを、改めて教えていただけませんか?
青野社長
現在は日本人同士が結婚したら、すべての夫婦が必ず姓を同じにしないといけません。言い換えれば「強制的夫婦同姓」です。
僕たちが実現したい選択的夫婦別姓は、現行の制度に加え、希望する夫婦はそれぞれが結婚前の姓を使い続けられる制度です。
葛上
なるほど。訴えたということは、現状の強制的夫婦同姓が違憲だという主張ですか?
青野社長
はい。今回の訴訟で僕たち原告側は、「日本人同士の結婚に夫婦別姓を選べない現在の戸籍法は、法の下の平等を定めた憲法に違反する」と主張しました。
青野社長
先ほど、福原愛さんの例で挙げましたが、外国人と結婚・離婚する際は現在でも戸籍上の姓が選択できます。
一方で、日本人同士の場合は、離婚の際にしか姓を選択できない(※)んです。これが違憲の状態じゃないか、ということです。
葛上
たしかにそう聞くと、不平等な印象を受けますね。
※離婚時には旧姓に戻るのが原則ですが、届け出をすれば結婚時の姓を保つ選択も可能
なぜ青野社長が「ニュー夫婦別姓訴訟」の原告をやることになったのか
葛上
青野さんはなぜ訴訟を起こそうと思ったんですか?
青野社長
2015年に選択的夫婦別姓制度を求めた訴訟(最高裁で訴えが退けられた)を起こしたのが知人のITライターで、その方から「作花弁護士が原告を探している」と連絡をもらったんです。
「できれば男性で、名前を変えたことがあって、それによって不利益を被った人がいい」と。
葛上
まさに青野さんが当てはまったんですね。
青野社長
はい。これは僕がやる意味があるな、と思って二つ返事で引き受けました。
葛上
ちょっと気になったんですけど、作花弁護士はなぜ男性の原告を探していたのでしょう?
姓を変えるのは女性が多いので、女性が原告のほうが賛同者は増えそうじゃないですか?
青野社長
現状は姓を変えるのは96%が女性ということで、今までの選択的夫婦別姓訴訟は、フェミニズム的な運動の一環だと勘違いされやすかったんです。
でもこれは、「名前を変えると大変なことがある」っていう話なんですよ。そこを冷静に理解してもらうためには、僕のように男性で、“資本主義の権化”みたいなやつが合理性を主張したほうがいいですよね。
葛上
そうだったんですね。
正直なところ、サイボウズの社長としてのメリットも考えて受けたんですか?「売名行為だ」なんて声もありましたが…。
青野社長
結果的に名前が売れたことについては認めざるを得ませんが、ここまで反響があると予想せずに始めた個人の活動なので、会社のメリットということは考えてませんよ。
むしろまわりに迷惑をかけてしまって申し訳ないです。サポート窓口には応援や批判などが届いて、仕事を増やしてしまっていますから…
今回の裁判はなぜ敗訴したのか。裁判所側の主張は?
葛上
話題になったにもかかわらず、今回の訴訟では「(上位の法律の)民法を改正せずに戸籍法を変えるのはおかしい」という国側の主張が認められ、敗訴してしまったんですよね。
青野社長
裁判官は私たちの主張の中身を見て判決を書いてくれると思っていたのに、戸籍法を変えること自体がダメだと言われ、正直びっくりしました。
もちろん高等裁判所に控訴して、引き続き戦っていくつもりです。
葛上
青野さんのお話を聞いていると、選択的夫婦別姓を認めない理由がないように思うのですが、なぜダメだったのでしょう?
青野社長
どうやら地方裁判所は、2015年の最高裁の判決(夫婦別姓を認めない民法の規定を合憲とした)を覆せないようです。もはや大企業みたいなものですよね。
おそらく今回も、最高裁での裁判が勝負になるでしょう。
葛上
もし選択的夫婦別姓を実現させる支援がしたいと思ったら、何かできることはあるんでしょうか?
青野社長
まずは選挙に行ってください。夫婦別姓に反対している候補者に票が集まらなれければ、国会で改正案が可決する可能性も高くなります。
また、「陳情アクション」といって、地方自治体の議会に選択的夫婦別姓の導入を求める紙を提出することも有効です。
それによって地方議会から意見書が提出されれば、国会議員も次の選挙への影響を考えて動くかもしれません。
葛上
いろいろできることがあるんですね。
青野社長
僕は、選択肢が増えてみんな幸せに暮らせればいいなと思っているんです。
多様な家族の一種である同性婚や養子縁組についても、時代に法律が追いついてないという点で、根っこは似ている。うまいこといけば、1つが進むことでドミノ倒しのように法律が改正されていくかもしれません。
そのためにも、これからの裁判に期待しています。
青野さんにお話を伺うまで、夫婦同姓のデメリットについてあまり実感が湧いてませんでした。
でも、仕事への影響についても伺い、個人での仕事も増えている昨今では夫婦どちらもそのままの名前を使えるほうがいいのでは、と思うようになりました。
あなたは青野さんの意見にどう考えましたか? ぜひSNSなどで意見を発信してみてください。
〈取材・編集=葛上洋平(@s1greg0k0t1)/文=森かおる(@orca_tweet1)〉
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