ビジネスパーソンインタビュー
「小人症」「障がい者」という偏見に立ち向かう
「あえて偏見の世界に飛び込んだ」138cmの女優が教える、レッテルとの向き合い方
新R25編集部
目には見えない偏見にさらされている人がいます。
身長138cmの女優・笹野鈴々音(りりね)さんもそのひとり。「超未熟児で生まれたチビ女優」と名乗っているのですが、低身長であることを「病気だ」「障がいだ」と言われてしまうことも多いそうです。
彼女は、世間からの一方的な偏見に対して、どう向き合っているのでしょうか? 実際に彼女に会って話をきいてきました。
〈聞き手=ほしゆき〉
【笹野鈴々音(ささの・りりね)】1984年生まれ神奈川県出身。4歳の頃から演じることに興味を持ち始め、中学生の時から劇団に所属。主に舞台で活躍していたが、2009年に放送された『トリハダ5~夜ふかしのあなたにゾクッとする話を~』でホラー女優としてヒットし、以来活躍の幅を演劇から映像作品に広げた
ほし
先日話題になっていた笹野さんのツイートを見たのですが…笹野さんは138cmと背が小さいだけで、「障がいを持っている」というわけではないんですよね?
笹野さん
そうなんですよ。障がいではなく、ただ超未熟児として生まれてきただけで。
アトムと同じ身長なんです、私!(笑)
想像以上に明るい方でした
ほし
でも、まわりからは「障がいがある」という扱いを受けることが多いんですね…今日は答えられる範囲で構いませんので、いろいろお話をきかせていただきます。
いじめに対しても「今日はどこに隠してあるのかな~。お、今日はゴミ箱にはないぞ!」
ほし
見た目で勘違いされてしまうことは昔から多かったんですか?
笹野さん
そうですね。小学校の低学年までは通院しなければならず、あまり同級生のお友だちと一緒に遊ぶことができなかったんです。
そのせいか外見だけで判断されることが多くて、「気持ち悪い」とか「ゲテモノ」とか暴言を吐かれていました。
ほし
ひどい…
笹野さん
そのかわり、両親がよく演劇やミュージカルの舞台や美術館に連れていってくれたんです。
お友だちと遊ぶことができなかった私に、芸術の感性を養ってほしかったんだと思います。
その影響で中学生のころから劇団に入っていて、放課後に行く「稽古」が自分にとって本当の居場所だと思っていました。
ほし
学校とは別の場所に自分の居場所を持っていたことが、救いだったんですね。
笹野さん
そうです。だから学校でどんなにいじめられても、ふさぎ込んでしまうことはなかったです。
上履きを隠されても、「今日はどこに隠してあるのかな~。お、今日はゴミ箱にはないぞ!」くらいのテンションでした(笑)。
たくましすぎて不安になる
笹野さん
でも、学生時代に付き合っていた彼氏に、「りりぃのことを友達や親に紹介するのが怖い。大切な人たちから、自分を変に思われたくない」って言われたことがあって。
ほし
はい…!? 大切な人たちからどう思われるか…って、彼女も大切じゃないですか!
笹野さん
私の男性を見る目もなかったんですけどね(笑)。
でも、大好きな人にそんなふうに思われていたなんてすごくショックで。自分と身近に関わる人が、そんなことを考えるんだと悲しくなりました。
演劇の世界にずっといたことで、思いつめることはなかった
ほし
失礼な質問かもしれませんが、ご自身の見た目について思い悩むことはあったのでしょうか…?
笹野さん
演劇の世界にずっといたからか、あまり感じなかったんですよ。
今まで出会ってきた演劇界の方々は、色んな過去やコンプレックスを持っていたり、社会に生きづらさを感じていたりする人たちもいて、個性的な人が集まってるから、自分の外見に対して何か言われることがほとんどなかったんです。
「みんな違ってみんないい」って受け入れられていました。
笹野さん
それに、私も学校で嫌なことがあっても、すべて役を演じて発散できていたんです。
学校にいる私は仮の姿で、舞台にいる私こそが本当の姿なんだと思っていました。
安全地帯から飛び出さないと、「自分の強み」を表現できないという危機感
笹野さん
大学を卒業してからも表現者でいたくて、ずっと劇団にいました。
そんなとき、『トリハダ5』(2009年放送、フジテレビ)というホラー作品のオーディションを受けたんです。
オーディションのチャンスをいただいたとき、「ああ、私がこの作品に出たら、きっと怖いだろうな」ってイメージできました。
(C) 2012「トリハダ ‐劇場版‐」製作委員会
笹野さん
ありがたいことに、私の出た回が話題になってインタビューを受けたんですが、「女優さんは身長が高くて容姿端麗な人が多いと思うのですが、なぜ笹野さんは女優を目指そうと思ったのですか?」って聞かれたんですよ。
ほし
え。失礼じゃないですか!?
笹野さん
あ、怒らないで怒らないで!(笑)
取材相手になだめられる筆者
笹野さん
インタビュアーの方からの質問で、「世の中の人は私に対して、そういう偏見を抱いているのかもしれない」と気づかされたんです。
私は劇団という「居心地のいい安全な場所」にずっと甘えてきたんだなって。
同時に、居心地のいい劇団でずっと生きていていいのかな?と思いました。
ほし
逆に、「偏見が存在する世間に出ていったほうがいいんじゃないか」と思われたんですね…!
笹野さん
そう。自分が表現者として生きていくには、守られた世界から出て「多くの人は自分のことを見てどう思うのか」「何を感じるのか」を理解しなきゃいけないなって気づいたんです。
だから、活動の幅を広げて、テレビや映画にチャレンジすることに決めました。
『トリハダ』は本当に挑戦してよかった。「私にしかできない役だ」と自信を持てる作品になりましたから。
偏見を見て見ぬふりをしていたことがストレスだったと気づいた
ほし
居心地のよかった劇団を出て、どうなりました?
笹野さん
ホラー女優として知名度が出てくると、SNSで「小人症」とか「気味が悪い」ってコメントをいただくことも増えてきました。
ほし
ええ…
笹野さん
見た目で判断されて、私自身の演技を何も見ずにNGを出されたり、テレビの制作の人たちに「小人NGなんだよね」とか「○チャンネルは障がい者はダメなんだよ」って言われたりすることもありました。
それに対しての悔しさはありましたね。
ほし
演技を見もせずに、そういう暗黙のルールによって活躍の場が制限されてしまうことは、もどかしいですね…
笹野さん
でも、私としては、それはそれで精神的に楽な気持ちなんですよね!
ほし
そうなんですか!?
笹野さん
今までは、やっぱり心のどこかで「自分はほかの人とは違う」って理解しつつも、それを気にしないように無理をしていたんだなと。
でも、そう思われていることを受け入れたうえで「自分にしかできない表現をしよう」と挑戦することを決めたら、どんどん自分に自信が持てるようになったんです。
ほし
すごい心の強さ…
まわりは変わらない。レッテルを貼られて悩む人へ
ほし
今日のインタビューで笹野さんの強さに圧倒されています。最後に、笹野さんがR25世代に対して伝えたいことはありますか?
笹野さん
私のように、「レッテル」に悩んでいる人はいると思うんですよね。「本当の自分は違うのに…」って
ほし
会社で「使えないやつ」とかレッテルを貼られていることがあるかもしれませんね…
笹野さん
そう。でも、それに対して「改めてほしいな」と思っても、まわりが勝手に変わることってないんですよね。
だったら、「今どうして心地よくない状況にいるんだろう」ってことを自分で考えて行動したほうがいいと思います。
笹野さん
レッテルを貼られたり、偏見を持たれたりすることを人のせいにしない。
心地よくない状況は自分の選択によって作られていることを理解して、ここから打破する方法を考え選択しなおし、闘いつづけることが最大の近道だと思っています。
「不安を抱えて、挑戦した先に手に入れた結果でしか、誰かの心を震わせることはできない」と言う笹野さん。
印象的だったのは、インタビュー中に自分への偏見に対しての「怒り」を感じることが一度もなかったことです。
「お花みたいな生きものでありたい。『生きてやる!』って芽吹きを絶やさない。咲き誇り方に迷いのない女優でいたい」という笹野さんからは、“小さな体で大きな偏見を受け入れる”強さを見せてもらいました。
〈取材・文=ほしゆき(@yknk_st)/編集=福田啄也(@fkd1111)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉
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