話題の“価格自由”本『実験思考』の内容を一部公開
「全力で普通の生活をします」CASHの生みの親・光本勇介が語る“アイデア発想の極意”
新R25編集部
最短2分でオンラインストアがつくれるサービス「STORES.jp」、目の前のアイテムが一瞬で現金に変わるアプリ「CASH」、あと払い専用の旅行代理店アプリ「TRAVEL Now」など、あの堀江(貴文)さんも舌を巻く発想力で世間を驚かせるサービスを次々と生み出す起業家・光本勇介さん。
電子版を0円、紙の書籍を原価の390円(税抜)で流通させ、Webサイトで自由な金額を課金してもらうという前代未聞の売り方で話題となっている著書『実験思考』より、光本さんの頭のなかを覗くことができる4本の記事を連日公開でお届けします。
社長は暇なほうがいい
「社長は暇なほうがいい」と思っています。仕事はなるべくまわりに振りまくって、ぼくは考える時間をなるべく多くするようにしています。
朝は会社にほとんどいません。家にいる。家で考えているのです。
いちばんアイデアが出るのは「シャワーを浴びているとき」か「運動をしているとき」です。「シャワーと運動を交互にしている」と言うと「アスリートじゃん」とツッコまれますが、本当なのです。
毎日、午前中は運動をしています。前の日にお酒を飲みすぎたときは運動できないこともありますが、だいたいは家のランニングマシーンで走っています。筋トレではなく、有酸素運動です。音楽を聴きながら、1日1〜2時間、週5〜6日は走っています。
ぼくは運動が好きなわけではありません。むしろ嫌いです。なぜ運動をするかというと、ひとつは体形を維持するため。もうひとつは、脳内を「フラットな状態」にしたいからです。
つねにスマホやパソコンとにらめっこしていると思考が行き詰まってしまいます。細かいことばかり考えるようになり、メジャーなサービスを思いつきづらくなります。
よって体を動かすことで、あえて「考えない」状況を作り出しているのです。
午後はふらっと会社に行って、バーッと社内でミーティングをして、またすぐに帰ります。
とはいえ、毎日19時くらいまではいろいろと予定が入ってしまうのですが、なるべく創造的なことにしか時間を使わないようにしています。
「普通の生活者」でいる
ぼくは「普通の生活者」でいようとします。
走ったり、シャワーを浴びたりすることで、アイデアが出やすいようにはしていますが「考えようとして考える」ことはありません。
会社や事業に関する小さな考えごともいっぱいありますが、「仕事だから、がんばって考えないと」とも思わない。普通に生活しています。
フリーターや専業主夫みたいに過ごす日もあります。 「あえて普通に生活する」という状態にして、企業経営者が忘れてしまうような、あたりまえの感覚を持つようにしているのかもしれません。
また、流行っているものにはなるべく触れるようにしています。メジャーなサービスや新しいモノもいちおう全部知るようにしています。
流行るものにはかならず理由があり、それがマスの人たちの感覚だからです。
逆に、最先端すぎる、めちゃくちゃ新しすぎるものには触れません。インターネット業界には、ブロックチェーンや仮想通貨、AIなどのテクニカルで「まだ大衆的ではない」ものに関するニュースもあふれていますが、そういったものもあえて読まないようにしています。
あまり詳しくなりすぎると、「普通の人」ではなくなってしまうからです。
具体的にやっているのは「iTunesのトップ10」を毎月かならずダウンロードしていたり、とにかくニュースはヤフーニュースのトップページをチェックしていたり。
そうすることで「マスの人たちの感覚」を知ることができるのです。
ただ、それを明確に言語化するようなことはしません。「ふーん」という感じで、単純に触れてみて、その状態で置いておく。
いちおう自分も体験して知っておく、くらいの感じです。
飯塚さん
フラットに生活して、思いついたものをメモに書く
ぼくは「Captio」というメモアプリを使っています。メモを書いて送ると、自分のメールアドレスに届くというものです。
この段階では有象無象のことをいろいろ書いて雑に送っておきます。後で見返して、いいアイデアをノートに入れていくのです。
アイデアはメモやノートに書きます。思いつきを書くためのメモやノートは「1軍」 から「3軍」まであります。
メモは広告代理店で働いていたときからとっていました。ビジネスをずっと探していたからです。「これ、ビジネスになるかな」などと考えながら書き続けてきました。
「毎日書く」などの特別なルールはありません。ノルマとしてこれくらい書こうといったこともぜんぜん意識していません。
「アイデアを出そう」と意識しすぎると、頭が凝り固まってしまうのです。フラットに生活していて、パッと思いついたものを書く。
「事業を作ろう」と思っても作れないし、アイデアなんて出てきません。あえて言うなら、「全力で普通の生活をする」ことが大切なのです。
全力で「普通の生活」をしていると、世の中は不便なことだらけだと気づきます。「これ、こうなったらもっと便利なのに」「こうしたほうがいいのに」「なんでこんなふうになってるんだろう」など、1日過ごすだけで思うことがいっぱいある。
そのたびに「ぼくだったらこうするな」とメモに書いていくのです。
寝る前には1日を振り返ってみて、「ああそういえば、あそこ不便だったな」といったことを思い出すようにしています。大きな視点で考える。
普通の人の生活を、もう一人の自分が眺めている感覚です。
ちょっとした違和感をスルーしない
そういえば、骨を折ってレントゲンを見ているとき、こんなアイデアが浮かびました。
最近、レントゲンでがんなどを見逃さないようにAIが画像解析をするという話を聞きます。それもすごくいいと思うのですが、「やっぱり人間の目で見てもらわないと信頼できない」という人も多いでしょう。
そこで複数のお医者さんに画像解析をしてもらえるようなアプリがあると便利なのではないか、と思ったのです。
まず、ユーザーは自分のレントゲン写真をアプリでアップロードします。アプリでアップロードされた写真は、たくさんの若いお医者さんたちが見られるようになっています。
お医者さんたちは、アップロードされたレントゲンの写真を見て、「健全」もしくは「健全ではない」というボタンを押します。お医者さんなので、画像を見ればおそらく一瞬でわかるはずです。
しかも複数のお医者さんに聞けば、そのパーセンテージもわかります。「100人中99人は健全と言っています」といったことがわかるのです。
お医者さんは、見てボタンを押すだけでたとえば500円もらえます。若いお医者さんや研修医は、給料も少なく大変だと聞いたことがあります。それなら、ちょっと休憩しているあいだに、おこづかい感覚でやってもらえるかもしれません。
「今日は5回押したから2500円だ」とか「毎日やったら10万円プラスになる」と言ったら、普通のお医者さんでもやってくれるのではないか。
ユーザーは1万円の予算で20人のお医者さんに判断してもらえるわけです。20人全員に「健全」と言ってもらえたら安心するでしょう。
たまに病院に行っても、「この医者は本当にちゃんと診てくれてるのかな?」と不安になることがあります。不安だからネットで検索したり、ヤフー知恵袋で聞いたりする。
そんななかこのアプリは、その不安を払拭してくれる存在になると思うのです。
「AIに対する不信感」「お医者さん側のメリット」「一人のお医者さんにしか診てもらえない不安」などを組み合わせていったら、こういうアイデアに結実するのです。
普通に生活して「これって不便だな」と思ったら、そこからいろいろ考えを巡らせるとおもしろいアイデアに行き着くことがあります。
大切なのは、ちょっとした違和感をスルーしないことです。
「このお医者さん、ちゃんと診てくれているのかな?」「AIで画像診断なんて、ちょっと不安だな」と誰もが思うけれどスルーしがちなところで立ち止まってみる。
すると大きなビジネスチャンスが転がっていることもあります。
「インターネットの人」にならない
ぼくは「ネットから離れる」ことを意識しています。
インターネットは大好きだし、インターネット依存症なので、つねにネットにつながっていないと不安なのですが、だからこそ「インターネットのなかの人」としては生きないようにしています。
インターネットは好きですが、「ブロックチェーンがどうこう」というような「インターネット的な発想」だけにはなりたくないのです。
インターネットの仕事をしているので仕方がない部分もありますが、だからこそ「インターネットの人」にはならないよう気をつけています。
広いパイを取れるような新しいサービスは、インターネット村のなかだけを見ていたら思いつきません。ぼくは「C向け」の事業が好きですし、つねに「マスのサービス」を作りたいと思っています。
ぼくの会社の人たちやインターネット業界など、この界隈の人たちはリテラシーが高すぎるのです。頭もいいし、所得も平均と比べると高すぎる。ツイッターでフォローしている人たちも、小難しいことを考える、頭がいい人ばっかりです。
だから「それが世の中だ」とつい思ってしまう。ちゃんと「いま見ているのは世の中の0.001%なんだ」と意識しないと、その他の99%以上の人たち向けのサービスが作れないのです。
「少額の資金」というニーズが世の中にすごくあることに気づいたとき、ぼくがばら撒きたかった「少額のお金」というのは1万〜2万円くらいでした。
いまこの瞬間に1万〜2万円がないだけで困っている人とか、一歩が踏み出せない人、何かを制限せざるをえない人は、たくさんいるんじゃないかなと思ったのです。
しかしこういう話を、サービスをリリースするときにまわりに言うと、「1万〜2万なんて、どうにかなるでしょ?」という反応も多かった。
ただそれは「東京・港区に住んでいる人」の発想なのです。地方に住んでいる人にとっての1万〜2万円は本当に貴重で、大きい。その感覚を忘れてしまうのです。
たった1万〜2万円かもしれないけれど、それがないから「参考書が買えなかった」「友だちの誕生日を祝えなかった」「デートを断念せざるをえなかった」という人もたくさんいる。
少額であっても、いま得ることで、小さな一歩を踏み出せたり、チャンスをつかめたり、幸せを手に入れることができたりする人たちも、世の中にはいっぱいいる。
たぶんそれが「マス」なのです。そういうことは「港区の感覚」でいると、忘れてしまうのです。
人の「いいね」も「悪いね」も信じない
ちなみにぼくは人に相談をしません。
「人に相談しない」というのは「自分の感覚を大切にしている」ということです。人に相談すると、自分の考えがブレてしまう。それがイヤなのです。
自分が世の中と接して気づいたことをもとに立てた「仮説」を試して、合っているかどうかの答え合わせがしたい。だから相談して何かをやるのは時間の無駄です。
CASHをやるときも誰にも相談しませんでした。モック(試作品)を作ってくれる人だけにイメージを伝えました。最初は2人くらいから始めたわけです。
また、モックを見せるなどするとだいたいみんな「いいね」と言うのですが、それも信じません。「いいね」も「悪いね」も信じない。「悪いね」と思っていても、「いいね」と言う人も多いのです。
「世の中の反応」が唯一の答えです。
そこで自分の考えていた構想と世の中が見事に化学反応を起こすのが快感であり楽しみなのです。
サービスをローンチする(立ち上げる)ということは、その構想を世の中にバーンとぶっ込んでみること。すると絶対に化学反応が起きます。
その化学反応を見るのが、いちばんの楽しみなのです。
無駄に見えるものも、視点を変えれば売りものになる
かつてグーグルが買収した「ネスト」という会社には監視カメラのサービスがありました。ぼくはそれを見て、すごくおもしろいと思いました。
日本では見られないのですが、ネット上で、あらゆる監視カメラの映像が見られたのです。
監視カメラを設置する側は「自分しか見られない」か「この映像を公開してもいい」かを選択できます。そして、サイトではその「公開してもいい」カメラの映像をバーッと見られるのです。
知らない人の家のガレージやリビング、フィットネスクラブなど、いろいろな場所が「覗き見」できて、見ていてすごく楽しかったです。
「監視カメラの映像なんて見ても、おもしろくない」という人もいるでしょう。でも、他人の普通の日常などなかなか見られるものではありません。実際にそういうものを「覗き見」したいという需要は大きいのです。
ぼくはこれを勝手に「覗き見市場」と呼んでいます。
ある人にとってはどうでもいいシーンでも、ある人にとってはすごく価値がある。「他人の何気ないシーンを覗く」というのは、すごく価値も需要もあると思っています。
たとえば、寿司屋のカウンターで職人が寿司を握っているシーンは、ぼくからしたらどうでもいい。けれど、寿司を勉強している人にとっては、プロフェッショナルの寿司職人が握っているところが見られるので価値があります。
だから、その人からは月額300円とれます。それはフランス料理の厨房も同じでしょう。
「覗き見」というと、どうしてもみんなエッチなイメージを思い浮かべてしまうのですが、そうではない「覗き見」したい場所は、いっぱいあるはずなのです。
そこに価値を感じる人たちがたくさんいて、そういう人たちからお金をもらう覗き見サービスは世の中にいっぱい作れると思っています。
ほとんどの人が価値を感じないようなものであっても、実は隠れたニーズがあったりします。誰もが「無駄だ」と思い込んでいるものであっても、視点とやり方を変えたら「売りもの」になるのです。
多くの人が見逃している「無駄」なもののなかに本当に価値はないのか。改めて考えてみると、意外な発見があるかもしれません。
世の中は可能性だらけだが、市場選択は慎重に
こういうふうに考えていくと、世の中は可能性だらけです。アイデアは無限に出てきます。
ビジネスアイデアを思いつかないというのは想像もできない。ぼくは、死なないのであればあらゆるサービスにトライするでしょう。
でも、人生は有限です。「死ぬまでにマスのサービスを作りたい」と思っているので、「無駄撃ち」をして時間をとられるのがいちばんイヤなのです。
需要があるかもしれない、食べていけるかもしれないけれど10万人×3000円の小規模なサービスを作るのなら、ぼくは5000万人×300円の大規模なサービスを作ることに時間を使いたい。
だから、なんでもかんでも手を出さないと決めています。
ひとつのサービスを成長させるのに10年くらいかかると考えると、生きているあいだに3つのサービスを立ち上げるのが限度でしょう。後は、それをやるべきかどうかを考えるだけです。
ZOZOの前澤さんは、外から見るとイケイケで大胆なイメージがあります。しかし、前澤さんと一緒に働いてみると、実は「石橋を叩いて渡る」タイプだとわかります。
だから前澤さんは「やらない」と判断することが圧倒的に多い。やらない、やらない、 やらない、やらない、やらない…。そして「これだ」と決めるとフルスイング、という感じです。
なんでも手を出してしまうと時間をとられてしまう。前澤さんは「選択」と「集中」をきちんとしたいのです。
だから市場選択をして「攻めるべき市場か」を慎重に判断しています。
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