

「礼」と「儀」の意味、わかりますか?
部下が印鑑を傾けるって必要? マナー講師に「不要だと思うビジネスマナー」を聞いた
新R25編集部
4月、5月…新社会人が職場でぶつかる壁はいろいろとありますが、そのなかのひとつが「ビジネスマナー」でしょう。
しかし、マナー研修を受けても、「これ本当に必要ある?」「時代に合ってなくない?」と思ってしまうマナーが多い気も…。ネット上で「トンデモマナー」が笑いのネタにされることもよく目にします。
そこで今回は、テレビなどでも活躍されているマナーコンサルタント・西出ひろ子さんに、「本当はいらないと思ってるマナーもあるんじゃないですか?」と、失礼を承知で聞いてみました。
西出さんが考える“ビジネスマナー”の本質とは、いったい…?
〈聞き手=ライター・於ありさ〉
【西出ひろ子】マナーコンサルタント・美道家。ヒロコマナーグループ代表。ウイズ株式会社代表取締役会長。HIROKO ROSE株式会社代表取締役社長。一般社団法人マナー教育推進協会代表理事。マナー研修やおもてなし講座などを開催するほか、マナー評論家としてテレビ番組などのメディアへの出演も。これまで国内外で85冊以上の著書・書籍監修を手がける

ライター・於
今日はよろしくお願いします!
実は私、ファーストキャリアが金融機関の営業職でして、マナーについてはかなり厳しく教え込まれました。
でも、当時も今も納得していないビジネスマナーがたくさんあって…。今日は私の疑問をぶつけさせてくれませんか?

西出さん
理由もわからずに「これが常識!」と言われると、納得できないこともあるでしょうね…
今日は、何でも正直に答えましょう!
このマナーいる?①「印鑑を傾ける」

ライター・於
社会に出ると、「世の中には無意味なマナーも多いな」と思ってしまうんですよね。
たとえば、最近SNS上で「上司に出す書類の印鑑は左に傾ける」というマナーが「変だ」と話題になったのですがご存じですか?

西出さん
あー見ました見ました…!(笑)
あれってどなたが言い出したんでしょうね?
笑ってくださって安心しました

西出さん
私も「真っ直ぐのほうがきれいなのでは?」と思いました。

ライター・於
おお! 感性が同じで安心しました。
では、あれは「不要なマナー」?

西出さん
うーん、でも、会社の独自ルールなどはそれぞれありますから…
もしご自身の会社がそうならば、そのルールにならうのがいいのではないでしょうか?

ライター・於
ええ~…なぜですか?

西出さん
仕事とは「事に仕える」と書きますから、自分勝手ではいけません。
会社の内外で、相手に好印象を残しながら、仕事を成立させることが求められる。そのための型・形がビジネスマナーなのです。
うーん、そうですか…(なぜか残念)
このマナーいる?②「夏でもジャケットを着る」

ライター・於
次にききたいのは、とくに営業は「暑くてもジャケットを着てないと失礼」というマナーです。
クールビズが定着しつつある現在ですが、金融の営業をやっていたときは「それは関係ない、ジャケットは着ないと失礼だ」と言われていて…

西出さん
そういう板ばさみ的なことってありますよね。でも、先ほどと同じく「事に仕える」という意味で、職場でのルールなら、それに従うのがいいと思います。

ライター・於
ええ…どうやら「事に仕える」というのがかなり重要なポイントなんですね。

西出さん
そうですね。仕事のマナーにおいて念頭に置いてほしい「TPPPO」という考え方がありまして。

ライター・於
TPPPO…?(Pが多い…)

西出さん
TIME(時間)、POSITION(立場)、PLACE(場所)、PERSON(人)、OCCASION(場合)です。
いわゆるTPOにくわえて、POSITIONというのは、ビジネスの相手との関係性や自分の役職などのこと。PERSON(人)というのは、相手が初対面なのか、よく会う人なのかなどを指します。

ライター・於
なるほど。ではジャケットの話でいうと、私のPOSITIONは「若手営業」。

西出さん
「PERSON」は、取引相手ですよね。目的は「会社の顔として契約を取る」ことなので、その会社では先輩が「ジャケットを着ろ」という理由があったのだ、と思いませんか?

ライター・於
たしかにそうですね!(やっぱりなかなか「このマナーはいらない」とは言ってくれないな…)
このマナーいる?③「ハンカチを3枚持ち歩く」

ライター・於
次は、西出さんの著書のなかにあったマナーへの疑問です。
ハンカチは「大判のもの」「タオル地のもの」「人様のための新品」の3枚を持ち歩くべきというのを拝見したのですが…
西出さん、ふだん本当に3枚も持ち歩いていますか?
緊張の瞬間…

西出さん
かなり細かいところまで読んでいただけたんですね…
それに関して言うと…

西出さん
すみません。3枚持ち歩けてないときもあります…

ライター・於
ですよね!!!(謎の勝利ムード)
自分のまわりでも、他人のために新品のハンカチを持ち歩いている人なんて誰もいないですよ!

西出さん
これは痛いところをつかれました…でも、大切なのは本当に持っているかではなくて、持とうという意識なんですよ。
西出さんの弁解タイム

西出さん
自分以外の誰かのために、「ハンカチを持っているほうがお役に立てる」という気持ち!これが大事なんです。
だから、1枚しか持ち歩いていなくても「相手に渡す可能性がある」ことが意識できていればOKなんです。

ライター・於
よし! じゃあ相手に貸す可能性を意識しつつ1枚持ち歩きます!
やっと1勝…(※別に勝負はしていません)
このマナーいる?④「エライ人は奥の席」

ライター・於
飲み会とかでも疑問に思ってしまうルールがありまして…
たとえば「目上の人を奥の席に座らせる」というアレ。お店の席の配置的に奥が座りにくいときもありますし、あとは「上座の譲り合い」になることもあって面倒くさいなと…
そもそも、あのマナーはどういう意味があるんですか?

西出さん
あれは位の高い人をお守りする、という理由からです。
侵入者が入ってきたときに、出入り口に近いと危険。矢を放たれたり、鉄砲で撃たれるとき、遠距離のほうが命中する確率は低くなるという…

ライター・於
鉄砲で!!?
今その風習を守る意味って…

西出さん
そうですね…
於さん、マナーって日本語だと「礼儀」という言葉になるのですが、「礼」と「儀」それぞれの漢字の意味をご存じですか?
急ですね

ライター・於
うーん…? なんでしょう。単体での意味なんて考えたこともありませんでした。

西出さん
「礼」は思いやり、「儀」は型という意味なんですね。
つまり、礼儀=マナーというのは、「思いやりを型で表現する」ということ。

ライター・於
へえ…そうだったんですね。

西出さん
ただ、大切なのは「儀」ではなく、その前に「礼」の気持ちがあるかどうか。
日本のマナー教育ってとりあえず形から、「儀」から入っているんです。「思いやりを表す」という根本思想を伝えきれていない。

西出さん
たとえば於さんが親しい友人と食事に行って、その友人のことを思いやれていたら「どの席がいい?」ってききませんか? これは、相手を思いやっているから出る言葉。
こういう「思いやり」が、マナーには何より大事なんです。

ライター・於
じゃあ、必ずしも席次にこだわらなくていいと!

西出さん
そうとも言えるでしょう。相手の方が一番心地の良いところに座ってもらうことが重要。奥が苦手な方だっていますから、別に絶対に上座じゃなくてもいいんです。
その人が「ここがいい」とおっしゃったら、そこが上座になる。
先ほど「TPPPO」の話をしましたが、ビジネスマナーを考えるときには、
・まず、「事に仕える」発想から、仕事上のルールを遵守する
・次に、「礼」の気持ちで、思いやりを意識する
という順番で考えてみれば、正解がおのずと出てくると思います。
「席次」は条件付きでお許しをいただけました
このマナーいる?⑤「エレベーターに乗る順番にこだわる」

ライター・於
ほかに「変だな」というマナーとしては、「エレベーターに乗る順番にこだわる」っていうのもあります。
これも…

西出さん
そうですね、会社でのルールがある話ではないですし、相手や周囲の人に対する「思いやり」があればいいのではないでしょうか。
もともと、乗り物だから安全に乗るためには…っていう意味で「目下の者が先に乗って操作する」というマナーが生まれたんですけど、たしかにお昼どきとか混んでいるときにマナー本通りに守れないこともありますよね。
そういうときには、「失礼いたします」とか「恐縮です」などの一言を、感じよく伝えればOKですよ。
マナー講師の牙城を完全に崩せた…!
結局マナーってどういうことなの?

ライター・於
結局マナーって、「愛嬌があればOK」なところもあるんですね!

西出さん
その通り、と言いたいところですが…
え? とうとう怒られます…?

西出さん
たとえば、「愛嬌」とおっしゃいましたが、中国のビジネスの世界では笑顔の人というのはあまり好まれません。
私も中国で講演や研修をしていますが、最初に行ったときにニコニコしていたら、注意されてしまいました。

ライター・於
え! それは知らなかった…

西出さん
心地よいと感じる基準は、人や国、文化によって違うんです。
自分基準で「にこやかにしていればOK」などと考えるのではなく、「TPPPO」に沿って相手のことを知り、相手の立場に立って何をされたらうれしいかを考えましょうね。
怒られなかった…

ライター・於
納得しました。基準は自分じゃなく相手なんだと。

西出さん
そうそう。仕事をしていて「なんかこの人好きかも」っていう方っていませんか?
「好き」って思われる方って、相手がされたらうれしいことをできる人。それが要するにマナー力が高い人ということなんですよ。
ビジネスにおいても、日常生活においても大切なのは丁寧な言葉が使えるか、お辞儀の角度が何度なのかではありません。いかにして「相手が喜ぶこと、うれしく思うことを想像できるか」が大切なんです。

西出さん
想像力を働かせるということは、相手とのコミュニケーションだけでなく、仕事で企画を考えるときとかにも大切なことですよね。
ビジネスマナーを実践するということは、そんな力を高める一番手短な方法なのです。
大切なのはきっちりした言葉でも、ハンコの角度でもない。目の前にいる人の気持ちを想像すること…。
ビジネスマナーに無粋にもツッコみに行ったら、大切なことを教えていただけた気がします。
私も今日から、仕事相手の心中を察して適切なマナー対応をしたいと思います!ただし、ハンカチは1枚で…。
〈取材・文=於ありさ(@okiarichan27)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=渡辺健太郎(@kentaro_w1230)〉
※記事内の見解は、西出さんによるビジネスマナーの解釈です。マナー講師の方それぞれに、見解があります
※「TPPPO」は、西出博子さんの登録商標です
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