ビジネスパーソンインタビュー
人間の担うべき仕事はなんなのか?
“生存率の低い治療法”を選べるのは人間だけ!?「AIに仕事が取られてしまうかも病」への処方箋
新R25編集部
「寝てない自慢をする先輩」「飲み会で昔話をする上司」「すぐに折れてしまう新入社員」…などなど、職場にはたくさんの“はたらく問題”があふれかえっています。
そんな職場の問題や働き方改革に切り込んだ、新木曜ドラマ『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日)が2019年1月よりスタート。
杉咲花さん演じる派遣社員の的場中(アタル)が、占いの力を使ってまわりの正社員たちが抱える悩みを解決していくお仕事コメディードラマです。
今回は新R25の期間限定連載として、同ドラマとVoicyで配信中の番組「職場の治療室」のコラボ企画が実現!
カリスマ産業医の大室正志さんと組織人事コンサルタントの麻野耕司さんが、『ハケン占い師アタル』を観ながら、ドラマに登場するビジネスパーソンの悩みに効く処方箋を見出していきます。
第8話で語っていただいたのは、「AIに仕事が取られてしまうかも病」について。
杉咲花さん演じる的場中(アタル)は、自分の占い能力を散々金儲けの手段にしてきた母親に嫌気がさして家出をしていました。ところが、母親に居場所が見つかり、連れ戻されそうになります。
勤務先のイベント会社の仲間が、占いで自分たちを救ってくれたアタルを守ろうとしますが、母親は「アタルの存在意義は占い能力のみにある」と主張。「いまアタルが任されている雑用はいずれAIに取って代わられる程度のものだ」と言い放ちます。
その言葉に悔しさをにじませたアタルは、「占い以外にも、この会社であたしにしかできないことがあると証明する」と宣言するのですが…。
絶対にAIに取って代わられない仕事はあるのか?
杉咲花演じる的場中(アタル)
麻野さん
今回取り上げたい病は、「AIに仕事が取られてしまうかも病」です。
大室さん
最近、人事系のイベントに呼んでいただくことが多いのですが、「AIに仕事が奪われるんじゃないか」ってテーマは、必ずセッションのなかに入っているんですよね。
実際、AIに奪われる仕事はあると思います。
麻野さん
アタルのお母さんも、娘さんに「あなたが今やっている仕事はそのうちAIに奪われるんだから、あなたしかできない占いをやりなさい」とドラマのなかで言っていましたよね。
大室さん
たとえば医者って、聴診器と打腱器を使うだけで、かなり正確な診断ができる病気もあるんですよ。
でもぶっちゃけ、今はMRIの方が早いし、正確なわけです。ほかにもレントゲンの診断とか、パターン学習のような仕事はどんどん機械に代わっていくと思います。
だからこそ、機械では代われない、自分の担うべき仕事は何なのかを考えないといけないですよね。
麻野さん、バンドの電気グルーヴって知っていますか?
麻野さん
知ってます。石野卓球さんとピエール瀧さんですよね。
大室さん
そうです。電気グルーヴは2人組のバンドなんですけど、石野卓球さんがすべての楽曲をつくってるんですよ。ピエール瀧さんは、着ぐるみを着て、横で踊ってるだけ。
麻野さん
ピエール瀧さん、いらないんじゃないか説(笑)。
大室さん
そう思うでしょ?
だけど、石野卓球さんは「電気グルーヴにはピエール瀧がいないと、電気グルーヴじゃない」とおっしゃってるんです。
これって、絶対にAIに取られないポジションですよね。
麻野さん
たしかに。作曲とか楽器の演奏はAIに取られるかもしれないけど、ピエール瀧さんはAI化できないですね。
大室さん
だから、AIに代われないことって最終的には“人間らしさ”というか、人と人とが一緒に仕事する上で生まれる、化学反応みたいなことのような気がします。
AIには、まだ「人を動かす力」がない
麻野さん
ボクは今、いろんなテクノロジーを使った新規事業に取り組んでいて、そのなかのひとつに、社会人スクール事業があるんですよ。
ユーザーに「今日の課題やりましたか?」とアプリでリマインドしたいんですけど、AIから「今日の課題やりましたか?」ってリマインドされるのと、人からLINEでリマインドされるのとでは、相手の反応が何十倍も違うんですよ。同じ言葉なのに。
大室さん
画面の向こうに、人がいるかどうかの違いで。
麻野さん
そうそう。画面の向こうに人がいると思うから、「やってないと恥ずかしい」とか、「この人を裏切ってはいけない」という感情が生まれるので、やっぱり人を動かせるのは、人なんですよね。
大室さん
それは、圧倒的にそうだと思う。
AIが人を動かすためにはドラえもんレベルくらいのロボットじゃないと無理だよね。
麻野さん
たしかに(笑)。
大室さん
でも、ドラえもんほどのロボットは22世紀になっても登場しない気がしますね。
AIが「合理的な判断」を行うなら、人間は「情理的な判断」を行うべき
麻野さん
ボクは、仕事には「合理的な判断」と「情理的な判断」があると思ってるんです。
「合理的な判断」は、これからAIにどんどんサポートされていくと思います。一方で「情理的な判断」というのは、人間の感情を基準にする判断です。
AIと自分を差別化するためには、この情理性が大事になってくるでしょうね。
大室さん
そうですね。さっきも話したけど、医者の仕事でも検査や診断は機械やAIの仕事になってくると思う。
じゃあ医者は何をするのかというと、ひとつのものさしでは測れないような決断や意思決定を、一緒に寄り添ってすることなんだろうね。
たとえば、治療法にAプランとBプランの2種類あったとします。Aプランの治療は生存率51%で、Bプランの治療は生存率が48%。
麻野さん
合理的に考えると、Aプランの治療法のほうがよさそうですね。
大室さん
そうだよね。でも、Aの治療はめちゃくちゃ痛くて、Bは旅行も楽しめるくらい楽な治療だとしたらどうする?
麻野さん
なるほど。
大室さん
こういうとき、情理性を持って「どっちがいいですかね?」って一緒に寄り添えるのは人間だよね。
やっぱり最後、人間の心情含めて複雑に条件が絡み合っているなかで、何を優先してどう判断を下すのか?という部分は、AIじゃちょっと難しいと思います。
麻野さん
そういう意味でいうと、コミュニケーション力が今後は大切になってきそうですね。
このドラマでも、「毎朝気持ちをこめて挨拶してくれる警備員の人」とか、「食堂で相手の顔色に合わせてちょっとサービスしてくれるおばちゃん」とか出てきたじゃないですか。
ああいう人が担っているコミュニケーションが、仕事として残っていくんでしょうね。
大室さん
逆にいうと、評価のポイントがそこになっちゃうと思うんだよね。
これまではコミュニケーションが苦手でも、「Excelの鬼」として評価されていたとか、業務上で必要な役割をちゃんと担えていればよかったじゃないですか。
だけど、もしそれらの仕事がAIに取って代わられてしまったら、評価の基準は人間性になってくるんですよね。
麻野さん
時代によって、評価される能力は変わりますもんね。
大室さん
そう。だからこそ、自分の仕事には「合理的な判断」と「情理的な判断」のどちらが求められているのか、というのをまず確認するべきだと思います。
基本的には、人と人との化学反応が必要な仕事はAIには代替できないと思いますけどね。
麻野さん
なるほど。なんか今回いい話だなあ。
大室さん
うん。いい話だね。
「AIに仕事が取られてしまうかも…と悩む病」に対する処方箋
麻野さん
今回は、「AIに仕事が取られてしまうかも病」に対して、大室先生から処方箋を出してもらいたいと思います。
大室さん
処方箋は、「安心して! ドラえもんが来るには、まだ時間がかかる」です。
麻野さん
(笑)
大室さん
AIがドラえもんのようなお節介まで焼いてくれるようなレベルまで進化したら、仕事を取られてしまう可能性はあると思います。
でも、そこまでにはまだまだ時間かかると思いますよ。
麻野さん
そうですね。「AIが囲碁の世界チャンピオンに買った」って話ありますけど、囲碁のルールは、人間の感情に比べるとシンプルじゃないですか。
人間の感情の動きのメカニズムは、まだ人間でも解明できていないくらい複雑ですからね。
大室さん
「同じものさしで比べる」というシンプルなルールにおける問題解決はAIの得意分野ですが、人間の感情は変数が多すぎるんですよね。
同じものさしで比べるなら、人間だって走りは車に負けているし、畑耕すのだって耕運機に負けてるわけですよ。
人間が機械に負けている仕事はすでに多くありますし、AIだって「正確性」「合理性」という点のみ人間より優れているだけです。
人間にしかできない仕事はまだまだたくさんありますので、あんまり強調しすぎたり、過度に心配したりしもしょうがないと思いますよ。
〈構成・文=小野瀬わかな(@wakana522)/編集=福田啄也(@fkd1111)〉
次回の放送は2019年3月14日(木)よる9時から!
「職場の治療室 大室正志×麻野耕司」はVoicyでも配信中!
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